第四十四話
「ふむ。家を借りたいと?」
「はい」
ゴブリン退治の仕事を終えて王都に帰った俺はナターシャ達魔女四人とダン、アルナを連れてノーマンさんの家を訪ねていた。
ギリアードから家を借りた冒険者の話を聞いた俺は、王都に帰るとすぐにどこか借りれる家がないか探してみたのだが、なんでも住民に登録していない者が家を借りるには長年王都に暮らしている住民の保証がいるらしい。俺が知っている人で長年王都で暮らしている人というとノーマンさんしかいなかったため、こうして相談にのってもらおうと家を訪ねたわけだ。
「今誰も住んでいない家か……。それだったらいくつか心当たりがあるがそれにしても……」
そこでノーマンさんは言葉を切るとどこか面白そうな視線を俺を向ける。
「初めて会ってからたった三ヶ月で新しい魔女と魔物使いの弟子を連れてきて、更には自分の家を手に入れたいとは……お主の成長には驚かされるわ。魔王ゴーマンよ」
「ちょっ! その名前で呼ぶのは止めてくださいよ!」
何でノーマンさんまで俺のことを「魔王」って呼ぶんだよ! 本当に止めてくださいよ! ただでさえ最近外を歩いていると小さな子供までが俺を指差して「あー、まおうゴーマンだー」って言ってくるんですよ!?
「はははっ! まあ、よいでわないか。人々から異名で呼ばれるのは冒険者にとって自慢の一つじゃぞ?」
そうは言いますけど異名の由来を考えると素直に喜べないんですよ。俺だってもっと格好いい異名がよかったよ。
「それでそこにいるのがお主の弟子の……確かダンと言ったか?」
「はい。狩谷弾っていいます。ダンって呼んでくださいっス。師匠にはお世話になっているっス」
ノーマンさんに見られて俺の隣に立っていたダンが姿勢を正して自己紹介をする。
「ほう、師匠とな? 随分とゴーマンを慕っておるんじゃな」
「はいっス! 師匠は俺の恩人っスし、それに師匠のお陰でアルナを仲間にできたっス」
「……そのアルナだけどな、何でそんな格好をしているんだ?」
ダンの後ろに控えているアルナを見れば、アルナは最初に会ったとき俺達が貸した水着姿ではなく、貴族の屋敷とかで働いている家政婦の制服を着ていた。
なんでもあのアルナの制服、俺やダンが着ている服と同じ種類の丈夫な布を使っているだけでなく、体の動きを阻害しないためのいくつもの工夫が施されていて、冒険にも戦闘にも対応できる一種の布鎧なんだとか。
当然そんな服が普通の店で売っているはずもなく、ダンが自ら設計したデザインを仕立て屋に作ってもらった特注品である。ダンの奴、あれ一着作るために今までの仕事で稼いだ金のほとんどを使ってしまったらしい。
……正直、感心するのと同時に呆れてしまった。
何でそこまでして家政婦の制服を着せたがる? 普通に革鎧とかを着せればそれでいいんじゃないのか?
「何を言っているんスか、師匠? クールビューティーなウサミミケモノ娘がメイド服を着て己の拳のみで戦う……最高じゃないっスか! 近接格闘型ウサミミメイド……! これはイケる! 大ブレイク間違いナシっスよ!」
……まいったな。ダンが何を言っているのかさっぱり分からない。コイツってば、たまにギリアード達とは違う意味での狂った発言をするから困るんだよな。
俺がどう言って答えたらいいか分からず悩んでいると、ノーマンさんがダンの顔を見ながら愉快そうに笑う。
「はははっ! 自らの僕にこだわりがあるのはいいことじゃ」
「オッス! 俺はもっとこだわるっスよ。いや、それだけじゃないっス。俺はもっと強くなったら他にもケモノ娘を仲間にして、そしていつの日か師匠のようなハーレム王に俺はナスッ!?」
…………………………………………ナス?
突然奇妙な声をあげたダンを見ると……うわ、アルナの足がダンの股間にめり込んでる。あれは痛い。
そしてアルナは股間を押さえてうずくまるダンの襟首をつかんで部屋の外へと連れていく。すると……、
ガッ! ゴッ! ガッ! ゴッ!
「痛い! 痛いっスよ、アルナ! ゴメンナサイ! マジすみませんっス!」
ガッ! ギギギ……!
「ちょっ!? あ、アルナ! その腕はそっちには曲がらないっス!」
………………ゴキッ。
「あんぎゃあああああーーーーーーーーっス!」
何やら打撃音や骨が外れたような危険な音や悲鳴が聞こえてきて、悲鳴が止んだと思ったら額に青筋を浮かべたアルナが右腕を押さえて泣いているダンを引き連れて部屋に戻ってきた。
「……魔女を仲間にするのはよいが、その前にまず今いる魔女を御せるようにならんとのう……」
「……オッス。ハーレム王への道は遠く険しいっス」
ノーマンさんの言葉にダンは力なく頷く。……何をやっているんだ、コイツは?




