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第四十二話

「おお~。ここが噂の王都っスか」


 ダンがあんぐりと口を開けて王都の建物を見上げる。


 ダンとアルナを仲間にしてから二日目。俺達は王都にと帰ってきていた。


 異世界からやって来たダンは目に見えるもの全てが珍しいのか、先程から視線を右へ左へと忙しなく動かしており、初めて王都に来た頃の俺達もアイツみたいだったのだろうか?


「そんなに王都が珍しいか? ダン?」


「あっ、ハイっス。建物はテレビや映画でたまに見るんスけど、実際にこの目で見ると何か違うっスね。それで師匠、これから一体どうするんスか?」


「とりあえず俺達の仲間に会わせる。ギリアード、アラン、ルークといってな、きっとお前と気が合うと思うぞ」


「本当っスか? それは会うのが楽しみっス。……それにしても」


 そこまで言ってダンが俺の後ろを歩くナターシャ、ルピー、ローラ、それに新しく仲間になったステラとアルナを加えた魔女五人組を見る。


「こんな白昼の大通りでアルナ達みたいな美人集団が揃って半裸で歩いているのに全く騒がれないなんて……さすが異世界、俺のいた世界とは常識から違うっスね」


 ダンの言う通り、今ナターシャ達五人は全員同じいつもの服装、水着に腰布という格好(アルナにはルピーとローラの水着を貸している)でいた。いや、ダンよ。この辺りの人達は普段からナターシャ達で見慣れているだけであって、彼女達の格好はこの世界でも変わっているんだからな? 変な誤解するなよ?


「あ~。これは、そのな……、ん?」


「おい、あれってゴーマンじゃないか?」「本当だ。帰ってきていたんだ」「ゴーマンがいるってことは……いた! やっぱりナターシャさん達もいた」


 ダンに一体どう説明しようかと考えていると、周りから話し声が聞こえてきた。すると通行人達の、主に若い男達の視線が集まってくる。


「それにしてもゴーマンの奴、あいかわらずナターシャ達を半裸でつれ回しているんだな」「ああ。あんなこと、並の心臓じゃできないぜ。どういう神経をしていやがるんだ?」「というかゴーマンが連れている魔女、数が増えていないか?」「何? じゃあ仕事に行っていたというのは嘘で、やっぱり新しい魔女を捕まえるために王都を離れていたのか?」


『うん。アイツだったらやりかねん』


 ……………………………………………………。


 今の通行人達の会話はもちろんダンも聞いており、ダンは真面目な顔で俺を見て頷く。


「理解したっス。凄いのはこの世界じゃなくて師匠なんスね」


「分かってもらえてなによりだよ……」


 説明する手間がはぶけたというのに、この納得できない気持ちは何だろう?


 ☆


「ここは熱の風亭といって、俺達がよく利用している店なんだ。それでアイツらは、と……ああ、いたいた」


 通行人の好奇の視線を振り切って大通りを歩き、もはや馴染みの店となった熱の風亭に入ると、予想通りそこで食事をとっているギリアード達三人の姿を見つけた。向こうも俺達の姿に気づいたらしく手を振って見せてくれて、彼らのテーブルに近づいていくと、ギリアードが笑顔で迎えてくれた。


 ……それにしても久しぶりに見て改めて思うんだけど、ギリアードってば本当に色っぽい笑顔を浮かべるよな。やっぱりコイツ、男じゃなくて女なんじゃねぇの?


「やあ、ゴーマン。久しぶりだね。……今失礼なことを考えていなかったかい?」


「気のせいだろ? それより調子はどうだった?」


「調子も何も最近仕事をしとらへんかったからな。退屈やけど平和な日々をおくっとったわ」


「うむ。……それよりゴーマンよ。後ろになにやら見知らぬ顔が見えるのだか、その者達は?」


 アランが肩をすくめて言った後、ルークが俺の後ろにいるステラ達三人に気づいて聞いてきたので早速紹介することにした。


「ああ。コイツらは新しく俺の僕になったステラと一応俺の弟子のダン。そしてダンの僕であるアルナだ。お前達、あいさつしておけ」


「はい~。皆さん初めまして~。私~先日旦那様の僕になったステラと申します~。種族はスキュラです~。よろしくお願いしますね~」


「初めましてっス。俺は師匠の弟子となった狩谷弾といいます。ダンと呼んでほしいっス。師匠の指導のおかげでアルナを僕にして魔物使いになれたっス」


「アルナト申シマス。ダン様ノ僕デ種族はワーラビットデス。ドウカヨロシク御願イシマス」


『…………………………………………………』


 ステラ、ダン、アルナの自己紹介にギリアード達三人が固まる。それからしばらくしてギリアードが口元を引きつらせながらぎこちなく口を開いた。


「ご、ゴーマン……。ぼ、ボク達の聞き間違えかな? 今彼らがキミの新しい僕に弟子、そして弟子の僕って聞こえたんだけど」


「それであってるぞ。ステラは俺の新しい僕でダンは一応だが俺の弟子。アルナはダンの僕だ」


『ふざっっっっっけるなぁぁぁぁぁぁーーー!!』


 ギリアード達の怒声ぎ熱の風亭の店内に響き渡った。


「一体どういうことだい!? こんな短期間で新しい魔女を僕にするだなんて! ボクなんてまだ一人もエルフの彼女できていないのに!」


「というか弟子ってなんやねん!? ワイかてまだ十二歳以下の弟子なんておらへんのに!」


「そんなことより魔女を仲間にする手伝いをしたとはどういうことであるか!? そんなことをする暇があるならば、まず拙僧がドワーフの女性を仲間にする手伝いをするのが先であろう!」


 ギリアード達の口から頭の狂った台詞か次から次へと飛び出してくる。うん、久しぶりにあったが三人とも絶好調のようだな。特に頭が。


「まあ、三人とも落ち着けって。とにかく俺はコイツらをパーティーに入れたいと思ってここに連れてきた。どうだろう? 魔女であるステラとアルナはもちろん、ダンの実力は俺が保証する」


 俺の言葉にギリアード達は一旦静かになってダン達の顔を観察する。その表情は初めて会う冒険者の力量を冷静に、そして正確に計ろうとする歴戦の冒険者のものだった。


「……ゴーマン。キミの言うことだから間違いはないと思うけど……信用できるのかい?」


「できるさ。というより、お前達だったらきっとコイツのことを気に入ると思うぜ」


 ギリアードにそう答えると、俺達は詳しい話をするためギリアード達と同じテーブルに加わった。


 ☆


「あっはっはっ! ダンくんだったっけ? キミ、話してみたら中々いい子じゃないか」


「せやな。それにゴーマンの助けがあったとはいえ、自分好みの魔女を僕にするなんてやるやんけ」


「うむ。情熱を胸に秘めた見所のある男であるな。これは拙僧らもうかうかしておれぬな」


「オッス! ありがとうございます。ギリアードさん、アランさん、ルークさん」


 結論から言うと、ダンは拍子抜けするくらいあっさりとギリアード達に受け入れられた。


 常人とは少しズレた価値観を持つ狂人同士、話が合うのだろう。話し合って一時間もしないうちに意気投合して、今では長年付き合ってきた友人同士のように話している。


 当然ダンが仲間になることは三人とも賛成。……それはいいのだが、ギリアード達四人を見ていると何だか凄い孤独感を感じるのは何故だろう?


「……はぁ。常識人の仲間がほしい」


 俺は誰にも聞こえないように小声で呟く。前にも思ったが、何で俺の周りにはこんなのしかいないんだ?

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