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第二話

 次の日。ノーマンさんの家を宿がわりにした俺は朝起きるとすぐに村中の家を全て巡り、まだ使えそうなものをかき集めた。……何だか泥棒をしているみたいだけどこれも生きるためである。


 こうして新しく集まった道具は少し錆びたナイフ、小さなヒビがはいった火打ち石、穴が開いた背負い袋、古い水筒、少しボロいが上下が揃った服三着の計七点。他人にとってはただのガラクタだろうが、今の俺にとってはこの上なく頼もしい装備ばかりだ。


 昼ぐらいになると流石に腹が減ってきたのだが、あいにく食糧類は見つからず、仕方なく俺は昨日見つけた植物辞典を片手に食べられる草やキノコを探してそれを食べた。……一応空腹は紛れたが、味は最悪だった。


 その後も薬草などを集めたりして旅の準備をしていると時間はあっという間に過ぎていき、気がつけばもう夕方となっていた。


「……さて、それじゃあやるか」


 一通りの作業を終え、村の外に出た俺は一人呟く。


 俺が今やると言ったのは、魔物を呼び出して契約する儀式だ。


 この廃村で生きていくという選択肢はまずない。だが正直な話、人がいる街を探して旅に出るとしても、俺一人では無事に街を探しだして辿り着くのは至難の技だろう。だから旅に出る前に魔物の仲間を作ろうと考えたのだ。


「広さは……コレくらいか?」


 ガリガリガリ……。


 魔物使いの書を開き、儀式の手順を再確認するとまずは木の棒で地面に一辺が十メートルほどの正四角形を描く。次に四角形の四つのカドに、昼間のうちに用意した髪の毛を埋め込んで呪文を書いた木の板をそれぞれ一つずつ埋める。……これで準備完了だ。


 魔物と契約する儀式は非常に簡単だ。


 最初に呪文を唱えて今描いた四角形、「陣」に魔力を与える。するとこの周辺にいる魔物の中で最も俺と相性が良い個体を呼び寄せられ、魔物が陣に入ったら一対一で戦い、それに勝てば魔物との契約が成立する。


 昨日初めてこの儀式を知った時は「何だよ、この乱暴な儀式は?」と思ったが、魔物という存在は基本的に自分より強い存在にしか従わないらしい。


 俺は陣の中心に立って一回深呼吸をすると儀式の呪文を唱えた。


「『聞ケ。コレヨリ行ウノハ、世界ガ定メシコノ世デ最モ古キ決闘。

 牙モナク、爪モナク、鱗モナイ弱者ノ我ハ、強者ノ汝ニ挑戦スル。

 我ガ敗レシ時ハ、コノ血肉ヲ汝ニ捧ゲヨウ。

 我ガ勝利シタ時ハ、汝ノ魂ヲ求メヨウ。

 繰リ返ス。コレヨリ行ウノハ、世界ガ定メシコノ世デ最モ古キ決闘。

 強者ノ汝、我ガ挑戦、拒ムコトアタワズ。

 我ガ挑戦ノ声ニ耳ヲ傾ケシ強者ノ汝、コノ光ノ闘技場ニ集エ』」


 呪文を唱えて陣に魔力を送ると、地面に引いた線が蒼白い光を放ち、光の闘技場が完成する。後は対戦相手を待つだけだ。


 それから五分後。魔力を送り続けるのって地味に疲れるな、と思っていた時、「そいつ」はやって来た。


 ズル、ズル、ズル……。


「ん? 何だ?」


 何処からか何かを引きずるような音が聞こえてきた。


 ズル、ズル、ズル……。


 引きずるような音は徐々に近づいてきて、音がする方を見てみると、這いつくばった体勢でこちらに向かってくる人影が見えた。人影は長くのびた髪や体型から恐らく女性だろう。


「女性? 何でほふく前進で近づいてき、て……」


 言葉は最後まで続かなかった。


 陣の手前まで近づいてきて姿がはっきりと見えるようになった女性の下半身。それは人ではなく、白い鱗におおわれた巨大な蛇だった。……うん。間違いなく魔物だよね、彼女?


「ラミア(蛇魔女)ってやつか……?」


 魔物使いの書に書いてあったな。「魔女」と呼ばれる雌体しかいない人間の女性にそっくりな魔物の種族の一つ。


 確かに上半身は人間の女性そのものだ。……あ、陣の中に入ってきた。やっぱり彼女が俺の対戦相手か。


「………」


 陣に入ってきたラミアは蛇の下半身立たせると、俺の目をじっと見つめてきた。俺も相手の目を見つめ返すと、ここで初めてラミアがかなりの美人であることに気づいた。


 外見の年齢は十代後半から二十代くらい。褐色の肌と銀色の髪が特徴的で、無表情だが無愛想という感じではなくどこか神秘的な感じだった。それに何より……、


「胸、でかいな……」


 ラミアの胸にはその細い体に不釣り合いなほど大きな果実が二つ、むき出しの状態でたわわに実っていた。俺の目はラミアの胸に釘付けになっていた。いや、仕方がないだろ? 俺だって若い男なんだし。


「………!」


「うわっ!? しまった!」


 ラミアは自分の胸に夢中となっていた俺を油断していると思ったようで予想以上に俊敏な動きで襲いかかってきた。ラミアの蛇の下半身が俺の胸から下を拘束し、人の上半身が俺の後ろへと回る。


 ギリギリギリ……!


 ラミアの締め付ける力の強さに思わず悲鳴をあげそうになった。何か骨がきしむ嫌な音が聞こえてきて、脳裏に口から内臓を吐いて死ぬ自分の姿が浮かんできた気がした。


「調子に……のるな!」


 だが俺だって負けてない。大体の見当をつけて後ろのラミアに左の肘を勢いよく叩き込む!


「………!?」


 どうやら俺の肘はラミアの額に命中したらしく、ラミアの拘束が若干ゆるんだ。この隙を逃さず俺はラミアに向き合うと腹に拳を打ち込み、ラミアは拳のダメージで地面に倒れる。


「うおおお!」


 俺は地面に倒れたラミアに馬乗りになると大きく振り上げた拳をラミアの顔……ではなく、その横にある石に向けて降り下ろした。


 ガコォッ!


「………!」


 俺の拳が石を砕いたのを見て、ラミアが一瞬怯えたように体を震わせる。流石に魔物とはいえ女の子の顔を殴るわけにはいかないからな。できたらこれで降参してくれたら嬉しいんだけどな……って、あれ?


 ポゥ……。


 突然ラミアの胸から小さな光の玉が出てきて、俺が「何だろ? これ?」と思っていたら、光の玉は俺の胸の中に入っていった。


「……もしかして今の光の玉って、ラミアの『魂』か?」


 この契約の儀式、というか決闘は相手を気絶させるか敗けを認めさせることで決着がつく。魔物使いが勝てば魔物の魂の一部が魔物使いに宿り、魔物は自分の魂の一部を宿す魔物使いに絶対服従となるのだ。


 見れば俺の下にいるラミアはもう戦う意思はないようで、ただ無表情で俺を見上げていた。


 どうやらこの勝負は俺の勝ちらしく、ラミアは敗けを認めて俺の仲間になったようだ。


「え~と、大丈夫? 俺の言葉、分かる?」


「………」


 とりあえずラミアの上から降りて聞いてみると、ラミアは体を起こして首を縦にふってくれた。よかった。話は通じるみたいだ。


「君、俺に従ってくれるんだよね? 俺についてきてくれるんだよね?」


「………? ………」


 俺の次の質問にラミアは「何を当たり前なことを聞くのだろう?」といった感じで首をかしげた後、また頷いてくれた。


「そっか……ありがとう。ずっと一人で心細かったんだ。これからよろしく……って、君の名前何て言うの? というか名前、あるの?」


「………」


 フルフルと首を横にふるラミア。仲間になった以上このまま「ラミア」と種族名で呼ぶのも何か違う気がするし、彼女の名前を考えたほうがいいだろう。


「そうだな……。ナターシャ。君の名前はナターシャだ」


 少し考えた後、俺はラミアを指差し今考えた名前を告げる。


「………ナター……シャ……?」


 ラミア、いやナターシャが自分を指差して俺がつけたばかりの名前を口にする。というかナターシャってしゃべれたんだ?


「そうだよ。今日から君の名前はナターシャだ」


「………アナタ……ハ?」


「…………………………え?」


 ナターシャの言葉に俺は一瞬固まってしまった。今の「あなたは?」って、「あなたの名前は何?」って意味だよな?


 そういえば俺って、記憶喪失で自分の名前すら分からない状態だったっけ? 駄目じゃん。仲間の名前より先に自分の名前を決めなきゃ駄目じゃん。


「お、俺か? 俺は……そう! ゴーマン! 俺の名前はゴーマン・バレムだ」


 俺はふと思いついた名前をナターシャに告げる。「ゴーマン」は今俺が持っている魔物の書の前の持ち主ノーマンさんから、「バレム」はバレム村からとらせてもらった。即興で考えた名前だがそんなに変ではないと思う。


「……ゴーマン……ナターシャ……。………」


 ナターシャは俺の名前と自分の名前を呟いた後、小さく頷く。なんというかこれでようやく契約の儀式が本当の意味で終わった気がした。


 ピロロン♪


「ん?」


 突然頭の中で軽快な音が聞こえた。辺りを見回してみるが特に変わったものは見られなかった。


「何だ今の音は? …………もしかして」


 ある考えが浮かんだ俺は心で念じて目の前に光の板、ステータスを呼び出しそこに記された情報に目を通してみる。



【名前】 ゴーマン・バレム

【種族】 ヒューマン

【性別】 男

【戦種】 魔物使い

【才能】 20/20

【生命】 1000/1000

【魔力】 195/200

【筋力】 100

【敏捷】 100

【器用】 100

【精神】 100

【幸運】 100

【装備】 錆びたナイフ、古びた服

【技能】 才能限界上昇、自己流習得、蛇魔女の主



 やっぱりステータスの情報が少し変わっている。さっきの音はこれを知らせる合図だったわけか。


【名前】が今考えた名前のゴーマン・バレムになっているし、ラミアを仲間にしたことで【戦種】も「魔物使い」となっている。【技能】に新しく加わった「蛇魔女の主」は多分ラミアを仲間にしたことを意味しているのだろう。


 それにしても自分でつけた名前とはいえ、やっぱり名前があるのはいいよな。……ああ、そうだ。


「そういえばナターシャ、君ってこの辺りの地理に詳しい? 街……俺のような人間がたくさんいる場所に心当たりはないか?」


「………」


 ステータスを消してナターシャに聞くと、ナターシャは少し考えるそぶりを見せた後頷いてくれた。


 よし! 人里がどこにあるか分かれば後はどうにでもなる。これで野垂れ死にをせずにすんだ!


 結局今日はもう遅いので俺とナターシャはバレム村で休んで明日旅立つことにした。ちなみに今日の夕食はナターシャが捕まえたネズミとカエル。……見た目はともかく、味は昼間食べた草とは天と地ほどの差があった。

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