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第三十七話

 俺の持つ技能の一つに「魔女難の相」という契約の儀式で魔女を呼び出す確率を大幅に上げる技能がある。契約の儀式以外では使うこともなかったから最近では存在さえも忘れかけていたのだが、この技能、それにめげることなく自分の仕事を全うしたみたいだ。


「……」


 アスル湖から現れて陣の中に入ってきたのは、上半身が若い女性で下半身が蛸の姿をした魔物。……俺達が予想した通り魔女だった。


「スキュラ(蛸魔女)か」


 スキュラは海で生活している魔物だが、昨日町長がアスル湖は海に繋がっていて時々海の魚が迷いこんでくると言っていたから、多分彼女もそれと同じなのだろう。


 珍しいはずのスキュラの出現を見逃さず、俺が契約の儀式を行ってすぐにスキュラを呼び寄せるとは……。魔女難の相、いい仕事をしすぎだろ?


「それにしても……」


 目の前のスキュラはウェーブのかかった金髪と眠たそうなタレ目からのんびりとした印象を受けた。体格は小柄で背の高さはルピーと同じくらいだろう。……しかし。


「……ナターシャよりもデカイ、だと……!?」


 俺はスキュラの胸を見て戦慄を覚えた。


 スキュラの乳房はルピーより大きいどころかナターシャのそれよりも一回り大きかった。その上、胸についている位置が下品にならないギリギリのバランスを保っていて……これが奇跡のプロポーションというやつか。


 ドォン! バァン! ゴォン!


「ん?」


「ゴ主人様! 惑ワサレナイデ! ソンナ胸、タダノ脂肪デス!」


「シッカリシテ、オ兄チャン! 大キイ胸ナンテ下品ナダケダヨ!」


「ゴーマン様! 胸ナンテタダノ飾リデス!」


 爆音みたいな音がしてきたからそちらを見ると、ローラ、ルピー、ナターシャが光の壁に「人間がくらったら一発でミンチになるんじゃねぇの?」と思うくらいの勢いのパンチやキックを叩き込みながら叫んでいた。


 ……うん。三人とも必死なのは分かったけど、お前達が言うな。


「アノ~。ソロソロ戦イマセンカ~?」


「え? ……あ」


 間延びた声がした方を見れば、のんびりとした表情をしたスキュラがわずかに首を傾けながら俺を見ていた。ヤバッ。彼女のことをすっかり忘れていた。


「あ、ああ、そうだな。だけど君、ずっと待っていてくれたのか?」


「ハイ~。私、真面目デスカラ~。不意討チナンカシマセンヨ~」


 たぷん♪


 スキュラが自慢げに胸を張ると、その巨大な乳房が揺れて小さな水音みたいな音が聞こえた。うわっ、やっぱり凄いボリューム……!


『………………!』


 ドゴォン! バゴォン! ゴガァン!


 思わずスキュラの胸を見ていると、ナターシャ達がさっきよりもずっと強く光の壁を叩く音が聞こえてきた。……うん、そろそろ俺も真面目になって戦おう。じゃないと後が恐いからな。


「待っていてくれてありがとな。それじゃあ戦おうか?」


「ハイ~。行キマスヨ~」


 スキュラがこちらに向かってきたのを見て、俺は槍を構えて彼女の動きを観察しながら待つ。さて、彼女は一体どんな戦い方をするのだろうか…………って、んん?


「ウンショ、ウンショ……」


 ウネウネ……。


「……」


「ウンショ、ウンショ……」


 ウネウネ……。


 ………………………………………………………遅っ。


 スキュラはめちゃくちゃ遅かった。本人は全速力で走っているつもりなんだろうけど、そのスピードは四つん這いの赤ん坊と同じか、下手をしたらそれよりも遅いくらいだった。


 ……まあ、下半身が蛸で地上を走るのに向いていないから、仕方がないと言ったら仕方がないのだが……。


「ハア~。ハア~」


 スキュラが立ち止まって荒い息をする。ちなみに俺と彼女の距離は全然縮まっていない。


「ア、アノ~。スミマセンケド~、コチラニ来テモラエマセンカ~」


「わ、分かった……」


 俺は申し訳なそうに言うスキュラに頷くと、彼女の所まで歩いていく。


 なんというかこのスキュラ、今までの敵と全くタイプが違うから調子が狂うな、と考えながらスキュラに近づいていき、彼女から十歩くらい離れた位置まで来たその時……、


「ハイ~。アリガトウゴザイマス~」


「……え?」



 俺は気がつけば、空中に浮かんで空を眺めていた。



「なっ!? 一体何が……が!」


 次の瞬間、背中に強い衝撃が襲いかかってきた。痛みをこらえながら足元を見ると右足にスキュラの蛸の足が一本絡み付いていた。これが俺を投げ飛ばしたのか?


 シュルルッ!


 なんとか立ち上がろうとしたが、それより早くスキュラの別の蛸の足が俺の両腕と左足を拘束してくる。しかもこの蛸の足、予想以上に力が強くて振りほどけない!


「くっ! なんて馬鹿力だよ!」


「近ヅイテクレテ助カリマシタ~。オカゲデ楽ニアナタヲ殺セマス~」


 スキュラは俺の顔に両手を当てて笑顔を、まるで虫を潰して遊ぶ子供のような表情を浮かべる。その残酷な笑顔を見たとき、脳裏に彼女の手によって首をねじ切られる光景が浮かび上がり、背中に悪寒が走った。


「ソレジャア~……ア、アレ~?」


「………っ!」


 スキュラの手が動く直前、俺は麻痺の魔眼を発動させて動きを止める。そして拘束が緩んだ蛸の足から抜け出すと、地面に落ちていた槍を拾って彼女の喉元に突きつける。


「今のはかなり危なかった。だけどこれで俺の勝ちだ」


「ハイ~。負ケテシマイマシタ~」


 喉元に突きつけられた槍を見たスキュラはあっさりと敗けを認め、彼女の胸から魂である光の玉が出てきて俺の胸に入っていく。それは俺がこの戦いに勝ち、彼女が俺の僕になったことを意味している。


 しかし今のは本当に危なかった。というより油断しすぎた。


 最近忘れがちだったけど、彼女達魔女は二十回クラスの冒険者、人間の中でも上位の戦闘力を持つ者達と互角に戦える強力な魔物なんだ。これからはもっと気をつけていこう。


「ウウ……。マタゴ主人様ノ回リニ女ガ増エタ……」


「ナターシャノ馬鹿! 全部ナターシャノセイダカラネ!」


「カ、返ス言葉モアリマセン……。コノナターシャ、一生ノ不覚……」


 うん。なにやら向こうで三人の魔女達が頭の悪い会話をしているが、それでも魔女は強力な魔物なんだ。それだけは忘れないでおこう。


 ☆


「さて……。仲間になったからにはまず名前を決めないとな」


 俺は僕となったスキュラの顔を見ながら彼女の名前を考える。僕となった魔女に名前をつけるのはこれで四度目だが、やっぱり名前を考えるのって難しいな。何で魔女は名前をつけないのだろうか? 話をするとき不便じゃないのか?


「そう、だな……。ステラ、って名前はどうだ?」


「ハイ~、分カリマシタ~。素敵ナオ名前ヲクダサッテアリガトウゴザイマス~。コレカラヨロシクオ願イシマスネ~、旦那様~」


「旦那様って……いや、まあいいか。こちらこそよろしくな。あと、コレ」


 このことが知られたらまた冒険者ギルドの連中に魔王扱いされるなと思いながら俺は、人化の指輪の一つをポケットから取りだしてステラの指にはめてやる。


「旦那様~。コレハ~? モシカシテ結婚指輪デスカ~?」


「けっこ……!? い、いや、そうじゃない。これは人化の指輪というマジックアイテムでな、いいからこれをつけた状態で『ビスト・ロク』と言ってくれないか?」


「ハイ~。ビスト・ロク~」


 カッ!


 ステラが合言葉を唱えると人化の指輪が光を放ち、光が収まるとそこには人間の姿となったステラが立っていた。


「おお~」


 人間の姿となったステラはわずかに目を見開いて興味深そうに自分の両足を観察する。右足や左足を上げたり下げたりする度に胸が「たぷん♪ たぷん♪」と揺れてつい目がいって…………ハッ!?


『…………』


 背後から凄まじい殺気を感じたので振り返ると、絶対零度の視線を放つナターシャ達と目があった。ヤヴァイ。これ以上ステラの胸に見とれていたら殺されてしまう。


「さ、さて、それじゃあそろそろ王都に帰ろうか? ステラもいいか?」


「はい~。私は旦那様の行くところでしたら~どこにでもついていきます~」


 俺が強引に話を終わらそうとすると、ステラはにこやかな微笑みを浮かべてのんびりとした口調で答えてくれる。こうして話してみるとステラってば、ちょっとつかみ所がないけど基本的に素直ないい子だよな。きっとナターシャ達ともすぐに仲良くなってくれるだろう。


 こうして俺達は新しい仲間を加えて王都へ帰ることにした。





























 ……あとこれは余談ではあるが、ステラの服はサイズの都合で上はナターシャの水着を、下はルピーの水着を貸すことになった。そしてそのことにルピーがマジギレして、彼女をなだめるのに一時間以上の時間と体力を消費したのは、また別の話である。

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