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第三十六話

「これがアスル湖か」


 俺は目の前に広がるファング王国で最も大きいとされる湖を見て呟いた。


 熱の風亭でギリアード達に王都を離れると話してから五日。俺達は今、冒険者ギルドの仕事でこのアスル湖の近くにある街に向かっている途中だった。


 仕事の内容は数日前から街の近くに現れるゴブリンの群れを退治するというよくあるもの。正直、今更ゴブリンの十匹や二十匹倒してもあまり経験値にならないのだが、討伐系の仕事がこれしかなかったから仕方がない。


「たまにはこんな観光みたいな仕事も悪くはないか」


「ハイ。ゴブリン共ノ始末ハ私達ニ任セテ、ゴーマン様ハゴユックリシテクダサイ」


 魔女の姿のナターシャが、発音はそのままだが人の姿の時の口調で話す。


「いや、そういうわけにはいかないだろ? それよりもその滑舌の首飾り、ちゃんと効果があるみたいだな」


 ナターシャに言って彼女の首にあるマジックアイテム、滑舌の首飾りを見る。


 ナターシャ達は街の外を移動する時、いつ敵が現れてもいいように魔女の姿で行動している。その間、ナターシャだけが俺を呼び捨てにすることを本人は非常に気にしていて、プレゼントに滑舌の首飾りを贈って本当によかったと思う。


 ……うん、本当によかった。だってナターシャってば、人の姿になる度に俺を呼び捨てにしたことを土下座で謝ろうとするんだぜ? この滑舌の首飾りがあるかぎり、ナターシャが俺を呼び捨てにして土下座することない。だからもう巡回中の衛兵に不審者に見られたり、捕まったりすることはない。……俺が!


「簡単な仕事なんだから全員でさっさと終わらせようぜ」


 ☆


「簡単な仕事……のはずだったんだけどな」


 目的の街に着いた俺は目の前にあるものを見ながら苦笑を漏らした。


 目の前にあるのは、三十匹以上のゴブリンと一匹のオーガの死体。ついさっきまで俺達が戦っていて、そして倒したものだ。


 いや、驚いたよ? 着いたら魔物が街を襲おうとしていて、しかもゴブリンの数が予想よりも多い上にオーガまでいるんだから。


 まあ、街に被害が出る前に全て倒せたし、俺も思ったより経験値がもらえたからよかったんだけどな?


 ☆


「さあ、どうぞ皆さん。遠慮なくお食べください」


「あ、ハイ」


 その日の夜。俺達四人は街の町長の家で夕食に呼ばれていた。街を救った礼ということでテーブルには、街の名物料理を始めとした多くの料理がところ狭しと置かれている。


「こんな沢山の料理、本当にいいんですか?」


「ええ、もちろんです。皆さんはこの街の恩人なのですから、これくらいのおもてなしをしないと」


 並べられた料理を見ながら聞くと町長はにこやかな笑みを浮かべて答えてくれた。そして俺の横ではナターシャ達三人がすでに料理を口にしていた。


 カチャカチャ。パクッ。……ゴクン☆(行儀よくナイフとフォークを使っているが、どんなものも一口で食べて噛まずに飲み込むナターシャ)


 ガツガツガツガツッ!(犬食いの状態で息をする間も惜しんで食べ物を口のなかに押し込むルピー)


 モグモグモグモグ……。(口の中の食べ物を百回近く噛んで食べるローラ)


 うん、コイツらどんな時でも個性を置き去りにしないんだな。なんか頭の中に餌を食べる蛇と鳥と馬の姿が浮かんできたよ。というかルピー、お前行儀悪すぎ。


 とりあえずナターシャ達がもう食べているのだから俺も料理を食べることにした。料理はどれも美味しかったが、その中でも特に美味しかったのが名物料理である海の魚を使った魚料理だった。


「この魚料理、美味しいですね。海が近いから魚の鮮度も王都とは比べ物にならない」


「ありがとうございます。ですがその魚は海ではなくアスル湖でとれたものなんです」


「え?」


 町長の言葉に俺は料理の魚を見る。これって湖の魚なの? 絶対に海の魚だと思ったのに。


「アスル湖は湖底に海に繋がっている大穴がありまして、時々海の魚がアスル湖にやって来るんですよ」


「なるほど、そうなんですか」


 それで湖で海の魚がとれたのかと納得しつつ、魚料理をもう一口食べる。うん、やっぱり美味しい。


 食事が終わると町長は気まずい表情で話し出した。


「あの、申し上げにくいのですが、実は報酬の件で……」


「ああ」


 この言葉で俺は町長が何を言いたいのか分かった。


 町長達、この街の人達は十匹程度のゴブリン達を退治してもらうでそれに見あった報酬しか用意していなかったのだろう。しかし実際に現れたのは、予想を越える数のゴブリンとそれを従えるオーガ。住民の被害は出ていなくても建物などの被害が出ている今の街の状態で、今日の戦いに見あった報酬を用意するのは難しいと町長は言いたいのだ。


「いえ、報酬は最初に決めてくれた額のままでいいですよ」


「え!? よろしいのですか?」


「はい。構いませんよ」


 元々この仕事を受けたのは報酬よりも経験値が目的だったし、オーガを倒したことでその目的も果たせた。ナターシャ達も報酬にはあまり興味ないし特に問題はないだろう。


「あ、ありがとうございます! 本当にありがとうございます。……ああ、そうだ」


 町長は何回も礼を言った後、せめてものお礼と言って首飾りを持ってきた。


「これは?」


「これは死んだ私の祖父が使っていたマジックアイテムです。祖父はあなたと同じ魔物使いでして、この首飾りにどんな力があるか分かりませんが、きっとあなたの力になると思いますよ」


「俺と同じ魔物使いが使っていたマジックアイテム……。いいんですか?」


「はい。是非貰って下さい」


 その日俺達は首飾りを受け取った後、町長の家に泊めてもらい、次の日街を出ることにした。


 ☆


「それしてもこの首飾り、どんな力があるんだろうな?」


 街を出てアスル湖のそばで休憩中、俺は昨日町長から貰った首飾りを見ながら呟いた。


 首飾りは小さな鎖に円形の金属板が繋がっていて、金属板には四角形の記号と小さな文字がいくつも刻まれていた。……なんかこの文字、どこかで見た気がするんだけど、何だったっけ?


「ゴーマン様。気ニナルノデシタラ、ソノ首飾リ、使ッテミタラドウデスカ? ココデシタラ私達シカイマセンカラ被害ハデナイト思イマス」


「……それもそうだな」


 俺がナターシャの言葉に頷き、首飾りに魔力を送るとその時、


「キャア!?」


「キィ!」


「クッ!」


「な、何だ!?」


 突然遠くからナターシャ、ルピー、ローラの悲鳴が聞こえてきた。そちらを見るとさっきまで俺のそばにいたナターシャ達三人が十メートルくらい先に吹き飛ばされていて、俺は四枚の光の壁に囲まれていた。


「これってもしかして陣か?」


 魔物使いが魔物を呼び寄せて戦うための結界。魔物使いはこの結界の中で魔物と戦い、勝つことでその魔物を従えることができる。この首飾りは契約の儀式を速やかに行うためのマジックアイテムだったのか?


「ゴーマン様! ソノマジックアイテムヲ止メテクダサイ! 早ク!」


「急イデ! オ兄チャン!」


「ゴ主人様! 早ク止メナイト、新タナライバル……イエ、魔女ガ!」


 ナターシャ達が光の壁の向こうから焦った声で叫ぶ。確かに彼女達の言う通りだ。幸い、周りには魔物の姿は見えないから、今のうちに何とかしてこの首飾りを……、


 バシャア!


 首飾りを止めないと、と思った丁度その時、アスル湖から人影が現れて陣の中に入ってきた。


「……そこからッスか?」

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