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第三十二話

「…………………………チッ」


 ん? 今どこかで誰かが舌打ちする音が聞こえなかったか?


「お、お前達! 何をぼさっと立っているの! さっさとアイツらを倒してきなさい!」


『…………』


 せっかく用意した罠が俺達に通用せず、頭に血がのぼったイメルダが残ったならず者達に怒声のような命令を飛ばすが、ならず者達はその場に立ったままだった。


「何をしているの! 私は行けって言ったの……」


 シャキン。


 命令を受けたはずなのに動こうとしないならず者達にイメルダが再び怒鳴ろうとした時、ならず者達が武器を取りだした。しかしならず者達が刃を向けたのは俺達ではなく……


「…………え?」


 ならず者達の刃の先にいたのは雇い主であるはずのイメルダだった。


「ちょっ……!? お前達、これは一体何のつもり? こんなことをしてただですむと思っているの?」


 イメルダはならず者達に威嚇するように言うが、ならず者達は全く耳を貸さず獲物を見るような目で彼女を見ていた。……段々と本性を表してきたな、アイツら。


「な、何よお前達……その目は? ……スコット! ランディ!」


 イメルダは自分を見る目が変わったならず者達に危険を感じ、二人の護衛も腰の剣を抜いて行動を起こそうとしたが……そうはさせるか!


「ローラ、頼む!」


「ハイ!」


 走り出してすぐに最高速度となったローラはならず者達を飛び越えてイメルダの元に駆けつけ、ローラの上から降りた俺はイメルダと長身の護衛、スコットの間に割り込んだ。


「っ! お前、何で……?」


「残念だったな。お前がこのならず者達の仲間だってことはバレていたんだよ。スコット」


「何っ!?」


 突然現れた俺の言葉にスコットは目を見開いて驚く。


「この仕事を受けた日にボク達はランディからの手紙を受け取っていてね。手紙にはこの仕事がイメルダの罠であることと、スコット……キミがそれを利用してイメルダを誘拐しようと企んでいるかもしれないという情報が書いてあったんだよ」


 ルピーに掴まり空を飛んでいるギリアードが上空から説明をする。あの日受け取った手紙には今ギリアードが言った情報だけでなく「もし本当にスコットがイメルダの誘拐を実行したら自分と一緒に守ってほしい」というランディからのメッセージが書いてあった。


 最初はこの手紙も俺達を油断させるための罠かと疑ったけど、手紙には雇ったならず者の数から配置、要するにイメルダの計画が細かく記してあったから信用することにしたが……まさか本当に誘拐を実行するとはな。


「そういうことや。残念やったな、スコット」


「スコットよ。誘拐など馬鹿なまねを諦めるなら今のうちであるぞ?」


「ま、待て! お前達、ちょっと待て!」


 アランとルークの言葉がスコットが大声で抗議する。何だ? 何を言う気だ?



「何を勘違いしているんだ!? 俺はスコットじゃない! 俺はランディだ!」



 ………………………………はい?


「な、何を言っているんだ? そんなすぐにばれる嘘を……」


「本当よ。彼がランディよ」


 俺の後ろからイメルダの酷く冷めた声が聞こえてきた。


「……マジで? だって初めて会った時、イメルダにスコットって呼ばれてお前返事しなかったか?」


「あれはスコットと同時に返事しただろ?」


 ……………………………………。


 俺達、間違えちゃった?


『…………………………』


 遺跡が気まずい沈黙に包まれた。


「きゃあ!」


「え?」


 突然背後から上がった悲鳴に振り返ると、そこには当て身をくらって気絶したイメルダを担ぎ逃げていくランディ……いや、スコットの姿が。ああっ! しまった!


「お嬢様!? くっ! この馬鹿野郎共が!」


『か、返す言葉もございません……!』


 ランディの怒声に俺達は頭を揃って下げて謝ることしかできなかった。今のような事態を避けるために俺達に手紙を出して協力を求めたのに、間違われたあげくに結局拐われたら、そりゃあ怒りたくなるだろう。


「ゴーマン! ここはボク達に任せて早くスコットを追って!」


 地面に降りたギリアードがならず者に向けて魔術を放ちながら言うと、アランとルーク、そしてランディも武器を構えてならず者と戦おうとする。確かに今はイメルダを助けにいくのが先決だ。


「分かった、ここは任せる! ナターシャ! ルピー! ローラ! 行くぞ!」


『ハイ!』


 ここにいるならず者達はギリアード達に任せることにして、俺はナターシャ達を連れてスコットが逃げていった遺跡の建物の部分へと向かった。


 ☆


「しかしまさかあいつの方がランディだったとは……」


 遺跡の中を走りながら俺はランディの顔を思い浮かべて思わず呟いた。


 考えてみたら俺達、イメルダと関わりたくなかったからランディともスコットともろくに話していなくて、名前の確認すらしていなかったな。ランディとまともに話したのって、昨日一緒に用を足した時ぐらいか?


 今思い返せばランディはずっと俺達と話す機会をうかがっていたのだろう。そしてあの時、ちゃんとランディと話し合っていればこんな事態にはならずにすんだかもしれないのに、ナターシャ達が現れたせいで話すどころじゃなくなって……、


 ……何だか、無性にランディに謝りたくなってきた。というよりイメルダを助け出したら謝ろう。超謝ろう。


「………ゴーマン。前」


「え? あっ、スコット!」


 ナターシャに言われて前を見るとイメルダを担いで走るスコットの背中が見えた。さすがの二十回クラスの冒険者でも人一人を担いで走るのは難しいらしく、このペースだったら追い付ける!


「見つけたぞスコット! そこを動くな!」


「はっ! 誰かと思ったらマヌケな魔王かよ! お前こそ動くなよ!」


 ランディは突然イメルダを下ろしたと思うと、彼女の首に剣を突きつける。


「っ! 人質かよ」


 いくら相手がイメルダとはいえ見捨てるわけにもいかない。ここは止まるしかな……い……?



「………動キガ止マッタ」


「行クヨ! ナターシャ! ローラ!」


「分カッテイル!」



『……はい?』


 人質を無視して突撃するナターシャ達の姿に俺とスコットの口から声が漏れた。


「ちよっ! ちょっと待て、お前達! 向こうには人質がいるんだぞ!?」


「そ、そうだ! 人質がどうなってもいいのか!?」


 俺とスコットが必死に止めるがナターシャ達は全く聞いていない! コイツら、人質が見えていないのか?


『死ネエエエエエ!!』


「う、うわあああ!?」


 ドゴォォン!


 魔女三人の必殺の雄叫び(いや、雌叫びか?)、スコットの悲鳴、そして遺跡を破壊する破壊音がほぼ同時に響き渡った。


 …………………………イメルダ、死んだかな?

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