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第二十六話

「やっぱり高いな……」


 あのイメルダという貴族にからまれた日から三日後。俺は以前に武器を買った武器屋で腕を組ながらあるものを見ていた。


 目の前にあるのは馬の木像に飾られた馬用の甲冑と鞍。この店で槍と剣を買った時、ローラが憧れの瞳で見ていた品物だ。


 あの時俺はローラに「甲冑は無理だけど鞍くらいならいつか買ってやる」と言い、今では鞍なら十分買える金を持っているのだが、できることなら鞍と一緒に甲冑も買って彼女を喜ばせたいと思う。しかし……


「金貨五枚って高すぎだろ」


 人間用の全身鎧でも値段は金貨二枚か三枚くらいなのに何で馬の鎧の方が値段が高いんだよ?


「それは作る側の事情もあるからね。仕方ないよ」


 背後から俺の心中を読んだような声が聞こえてきたので後ろを振り向くと、そこには色の薄い金髪を目元まで伸ばした男が立っていた。目が髪で隠れているため表情が読めず、これと言った特徴が全く見当たらないため、人混みに紛れ込んだらあっという間に見失ってしまうだろう。


 彼の名前はルイ・リードといい、この店の店長だ。年齢は三十半ばなのだが、華奢な体格のため二十代ぐらいに見える。昔はかなり優秀な冒険者だったらしく大陸の各地で活躍していたのだが、数年前に「ある事情」により冒険者を辞めて、今ではこのように冒険者時代に知り合った職人の作品や遺跡で発見した武器防具を売っている。


「ルイ店長。作る側の事情って何ですか?」


「全身鎧っていうのは基本的に着る人の寸法を測ってから作る特注品で作るのにてまがかかるものなんだ。馬用の場合はそれに加えて人が乗ることも考えなければいけないから鍛冶屋と馬具職人の合同製作になる。だから馬用の甲冑の方が人間のよりも値段が高いんだよ」


「そうなんですか」


 確かに作る職人が多ければかかる費用も増えるよな。馬用の甲冑の注文なんて滅多にないだろうからそれ専門の職人なんていそうにないし。


「それよりも。さっきからその甲冑を見ていたのはローラちゃんのプレゼントにするためかな?」


 この店にはすでに何回も来たことがあるのでルイ店長はローラ達に会ったことがあるし、魔女であることも知っている。だから俺が馬用の甲冑をローラにプレゼントしたいことを知っても驚いた顔をしなかった。


「ええ、そうです」


「ローラは幸福者だな。お前のような飼い主に出会えたのだから」


 ルイ店長と話していると店の奥から一人の女性が出てきて俺達の会話に加わってきた。


 会話に加わってきた女性はナターシャのような褐色の肌で、先端が尖っている長い耳をした正真正銘のエルフ。それも「ダークエルフ」と呼ばれるエルフの種族だった。


「ああ、セラさん。買い物お疲れ様」


 ルイ店長がダークエルフの女性の名前を呼ぶ。セラというのは愛称みたいなもので本名はセラディスといって、ルイ店長の奥さんだ。


 セラディスさんはルイ店長が冒険者だった頃からの付き合いで、一緒に大陸を旅した冒険者仲間だったそうだ。そして数年前にセラディスさんからルイ店長に告白し、今は夫婦となってこの武器屋を経営している。


 ちなみに自他ともに認めるエルフ好きのギリアードは、ダークエルフのセラディスさんを奥さんにしたルイ店長を神の如く崇拝していた。


「そういえば今日はゴーマン一人か? ナターシャ達はどうしたんだ?」


「ナターシャ達だったら、さっきまでのセラディスさんと同じく買い物に行っています。後でギルドで合流する予定なんですよ」


「……買い物? ナターシャちゃん達ってお金の計算とかできるの?」


 俺がセラディスさんの質問に答えるとルイ店長が少し驚いたように聞いてきた。


「ええ、できますよ。つい最近ですけどナターシャが人間の文字を、ルピーが計算を覚えたから、今では簡単なおつかいなら任せているんですよ」


「ナターシャはまだ分かるが……ルピーが計算だと?」


 ルピーが計算をマスターしている事実にセラディスさんが目を見開いて驚くが、その気持ちはよく分かる。こう言っては失礼だが、ルピーが計算をマスターしたことを知った時は、俺だけじゃなく彼女を知る全員が驚いた。


 しかし最近の俺って、戦闘だけでなく日常生活までもナターシャ達に支えられているよな。……ここらへんで何か一つ頼りになるところを見せないと本当にあいつらのヒモになりかねん。


「へぇ、ルピーちゃんって凄いんだね。まあ、その話はおいといて甲冑の費用ができたらいつでも言ってよ。すぐにローラちゃんによく似合う最高のものを用意するよ」


「はい。ありがとうございます。ルイ店長」


「それで? ローラへのプレゼントはこれでいいとして、ナターシャとルピーへのプレゼントは何を考えているんだ?」


「え? ナターシャとルピーにプレゼント? 何故?」


 セラディスさんの質問に首を傾げると呆れたような表情でため息をつかれた。


「ゴーマン……流石にそれはないだろう? ローラにだけはプレゼントを与えてナターシャとルピーには何も与えない、なんてことをしたら間違いなくあの二人は怒り狂うぞ? 私が同じ立場だとしても面白くは思わないだろうな」


「あ……」


 セラディスさんに言われての俺は初めて自分の浅はかさに気づいた。確かにあの魔女三人はお互いにライバル意識を持っていて、一人だけ特別扱いをしたら残った二人は怒り狂うとまではいかないだろうがまず確実に不機嫌になるだろうな。……主にナターシャが。


「でもナターシャとルピーにもプレゼントをするっていっても何をプレゼントしたら……?」


 ナターシャ達って普段は滅多に物を求めないから何をプレゼントしたらいいか全く分からないんだよな。あえていえば食べ物と……夜の順番、か?


「ゴーマンが自由に決めればいい。ナターシャ達は物の値段など特に気にしないのだから、お前が買った物だったらなんでも喜ぶだろうさ」


「そんなものですか?」


 それからしばらくルイ店長とセラディスさんと話した後、俺は武器屋を出てギルドに向かった。ローラだけでなくナターシャとルピーにも何かを買わないといけなくなったから、少しでも多く金を稼がないとな。


 ……それにしてもナターシャとルピーが喜ぶプレゼントって一体なんだろうか?

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