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第二十五話

 今日は最悪な一日だった。一年前に貴族の手下になってから気分が最悪でない日なんてなかったが、今日は特に最悪だ。


 俺はスコット・ダーティ。


 少し前まで多少は名前の知られた冒険者だったが今では成り上がりものの貴族の、それも本人ではなくその一人娘のお守りだ。


 お守りをしなくてはならないイメルダ・セネミーという女は親の金と権力をかさにきて他人のものを奪い取り、しかもそれを当然のことだと思っている最低のゴミだ。「仕事」のためとはいえ、あんなのの御機嫌をとらないといけないと思うとはらわたが煮えくり返る思いだ。


 ランディの奴もよくイメルダのワガママに耐えれるものだ。なんでも父親のセネミー男爵に借りがあるらしいが、俺に言わせれば金持ちに尻尾をふった犬でしかない。


 今日ゴミお嬢様様が狙いを定めたのはゴーマン・バレムという男。一ヶ月か二ヶ月くらい前に王都に来た冒険者で、魔女と呼ばれる魔物を従えているというキチガイだ。実際に大通りで魔女を連れている奴の姿を見たときは吐き気がした。


 ……ふざけるな! 魔物なんて殺すしかない化け物だ! そんなのを連れてへらへらしているゴーマンも、それを欲しがるイメルダも最悪のゴミ! 俺の周りはゴミばかりだ!


 ……だがまあいい。「仕事」が終わればあんな小娘の顔も見ないですむ。その時はこの国を出ることになるが、その前にあのゴーマンと魔女どもだけは殺してやりたい。


 魔物なんて全て殺さないといけないのだから……。


 ☆


「昼間は災難だったな、ゴーマン」


「ああ、まったくだ」


 夜。熱の風亭で夕食を食べていた俺は、ルークに話しかけてきたので相づちを打つ。ルークが言う「災難」とは言うまでもなく、大通りで「ナターシャ達を譲れ」と無茶な要求をしてきたイメルダとかいう貴族令嬢のことだ。


 あの後、要求を断られたイメルダは悔しそうに顔を歪めて「後悔することになるわよ!」と、いかにもな悪役の捨て台詞を言うと俺達の前から去っていった。それにしても初めてまともに話した人間の女性があんなのとは……俺って「魔女難の相」だけでなく普通の女難の相もあるのだろうか?


「できればもう二度と会いたくないんだけどな……」


「それは難しいやろな。あのイメルダって女、かなりしつこい性格してるみたいやから」


 俺のため息と一緒に出た呟きにアランが渋い顔をして口を開き、街で聞いたイメルダの父親であるセネミー男爵の情報を教えてくれた。


 セネミー男爵ってのは十年くらい前に現れた新興貴族で、父親から受け継いだ商会を自身の才能のみで大きくし、財力で貴族の位を買ったらしい。そのために並みの貴族よりも金を持っていて、この王都でもそれなりの影響力を持っているのだとか。


「イメルダはセネミー男爵が年を取ってから生まれた子供らしくてな、一人娘ということもあってそれはそれは大事に……というか甘やかされて育ったそうや。子供の頃から多少の無茶をしてもセネミー男爵がカネと貴族の力でもみ消してくれたらしくて、今では欲しいものがあったらそれが他人のものでもどんな手を使ってでも手に入れようとするワガママ娘や。昼間の要求なんてまだかわいい方らしいで?」


 あれでかわいいって……。子供のしつけくらいちゃんとやってくれよセネミー男爵。


「ゴーマン。イメルダだけじゃなく、護衛達にも気をつけた方がいいよ」


 アランの次はギリアードが心配そんな顔で口を開く。護衛達って、あのスコットとランディと呼ばれていた長身の男と中肉中背の男のことだよな?


「あの二人がどうかしたのか?」


「うん。スコットとランディ……どこかで聞いた名前だと思っていたんだけど、ようやく思い出した。あの二人、二十回クラスの冒険者だ。何年か前にどこかの貴族に雇われたって噂を聞いたことがある」


 二十回クラスの冒険者? それって力の神殿で二十回以上自分を強化した一流の冒険者だっけ? 何でそんなのがイメルダなんかの護衛をやってるんだよ?


「……それってつまり次イメルダに会ったら二十回クラスの冒険者二人と戦うかもしれないってことか?」


「……あの二人がどこまでイメルダの命令に従うかは分からないけど、小競り合いくらいはするかもしれないね。……はぁ、なんて迷惑な。これだからエルフじゃない女性は……」


「これだから十二歳以上のババアは……」


「これだからドワーフでない女は……」


 ギリアード、アラン、ルークがため息をつきながら微妙に狂った台詞を漏らす。


 ……エルフでもドワーフでもない十二歳以上の全ての女性達、本当にごめんなさい。でも今回ばかりは俺もこの狂人達の妄言を否定する材料がないのです……。

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