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第二十二話

「あ~、酷い目にあった……」


 夜になってギリアード達の王都の案内も終わり、ようやく宿屋の部屋に戻ると俺は大きくため息をついた。酷い目、というのは言うまでもなく昼間大通りで行われた「恥刑」のことである。……あれは本当にキツかった。本当に死ぬかと思った。


「すみませんでした。ご主人様」


「ゴメンね。お兄ちゃん」


「本当に申し訳ありません。ゴーマン様」


「ん? ああ。ローラ、ルピー、もう怒っていないからそんなに落ち込んだ顔はするな。ナターシャも許すから早く立て」


 うつむいて謝るローラとルピーの頭をなでて、すでに床に正座して土下座をしようとするナターシャを止める。どうやら三人とも反省してくれたようだ。


「そういえば三人とも、どうして昼間あんなに暴走したんだ?」


 ナターシャ達が俺に好意を持ってくれているのはナターシャ本人の口から聞いて知っているし、嬉しいと思う。昼間の暴走だってそれが原因だと理解しているが、今回は少しやりすぎだ。


 そう思って聞くと、立ち上がったナターシャが少し恥ずかしそうに答える。


「あれは……わたくし達個人の感情が爆発したのもありますが、魔女としての本能も働いたのです」


「魔女としての本能?」


「はい。わたくし達魔女は子供を産み、子孫を残すことが使命です。しかしゴーマン様は十分承知だと思いますが、魔女は肌を重ねるだけで相手の命を大量に吸いとってしまい、殺してしまうことが多いのです」


「ああ。それはもういやってほど知ってるよ」


 おかげで何回死にかけたことか。俺の自業自得なところもあるが、それでも時々ナターシャ達が男限定の死神に見えるぞ。


「ですからわたくし達魔女と肌を重ねても死なない強靭な生命力を持つ雄は大変貴重で、もしそのような雄を見つけたら独占して自分だけのものしようとする本能があるのです」


「なるほどな」


 ナターシャの説明を聞いてどうしてナターシャが昼間の「恥刑」のような俺の取り合いをしたのか納得できた。確かに俺はナターシャ達と何回も肌を重ねているがこうして生きている。そのため彼女達の「俺を自分のものにしたい」という本能が働いたわけだ。


 ……でもこれって男として素直に喜べないんだけど。


「でもそれだったら少し手加減したらいいんじゃないか? 一度くらいなら魔女の相手をしても生きている奴は結構いるだろ?」


「「「………」」」


 俺の言葉にナターシャ達は顔を赤くして視線をそらし、やがてローラが言い辛そうに口を開く。


「あの……ご主人様の言うことはもっともなんですけど、それは無理なのです。……これは凄く恥ずかしい話なんですけど、私達魔女は子供を産みやすくするために性欲がとても強いのです」


「だからルピー達魔女は一度でもヤっちゃうと最低でも二度か三度ヤらないと自分を抑えることができないの」


「あー……」


 ローラの言葉を引き継いだルピーの説明を聞いて俺は昨晩のナターシャ達の様子を思い出した。確かにあの時の三人は「底なし」というくらいの乱れっぷりだった。


 うん。これで確定した。やっぱりコイツら男限定の死神だ。付き合うにはそれ相応の覚悟が必要だということを再確認した。


「ちなみにこれは噂で聞いた話なんですけど、一人の魔女が一晩のうちに百匹のオークと交わって全てを干からびさせた、という話もあります」


「あ、その話ならルピーも知ってるよ」


「おいおい、それは流石に嘘だろ? 一晩でオーク百匹なんてどれだけ絶倫なんだよ?」


「………二百匹です」


 ローラが口にしたとんでもない内容の噂話にナターシャが蚊の鳴くような声で反応した。……って、今なんて言った?


「百匹ではなく二百匹です。……恐らくローラが言った魔女とはわたくしの母上のことです」


 …………母上? 誰の? ナターシャの?


「「「ははぁ!?」」」


 俺とルピーとローラが思わず同時に叫び、ナターシャがそれに頷いてみせる。……マジかいな?


「………今から三年くらい前になります。大規模なオークの集落ができたのを知った母上が興味をもって一人で見に行って……。『最初は偵察だけのつもりだったけど、気がついたら全部“食べ”ちゃった』と母上本人の口から聞かされました……他にもその時の詳しい状況やその中のオークの一匹がわたくしの父親であることも……」


「「「………」」」


 ナターシャの痛すぎる思い出話に俺達は思わず引いていた。子供からしたら親のそんな武勇伝聞きたくないだろう。しかもその上父親が……、


「ナターシャって、ブタの子供なんだ」


「シャアアッ!」


「おおわっ!?」


 ルピーの一言に激昂したナターシャが一瞬で蛇魔女の姿に戻って襲いかかってきた!? 待て、ナターシャ! 俺達は関係な………………、


 ☆


「……落ち着いたか?」


「………はい」


 蛇魔女の姿となって激昂したナターシャを落ち着かせた俺は足を組んだ状態でベットの上に腰掛けていた。右には腰に手を当てたルピーが、左には腕を組んだローラが立っており、俺達三人の視線の先には人間の姿になって床の上で土下座をしているナターシャの姿があった。


 いつもだったら止めるところだが、今回は仕方がない。怒り狂ったナターシャを止めるのは本当に大変だったのだから、これくらいの反省の姿勢は見せてもらわないと。


「反省したか?」


「………はい。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」


「まったく、ナターシャってばいい加減にしてよね」


「「ルピーは黙ってろ」」


 ルピーの言葉に俺とローラの声が思わず重なった。ルピー、分かってるのか? この騒ぎの原因はお前にもあるんだぞ?


「……それにしても早速やってしまったな」


 床に散らばるナターシャの下の水着とサンダルの残骸を見て呟く。人間の姿から魔女の姿になるときに服が破れるのは予想していたが、こんなにも早いとは思わなかった。


「………本当に申し訳ありません」


「いや、替えだったらまだあるからそんなに落ち込むな。だからナターシャもそろそろ立て。そのかわり、もう所持金がヤバイから明日から働いてもらうぞ?」


「え? もうお金ないの?」


 首をかしげて聞いてくるルピーに俺は頷いて答える。


「ああ。王都に来るまでは結構あったんだが、武器に服、それとポーションを買ったせいであと銀貨十枚くらいしかない」


「あの、そのことですけど。ポーションを二十本というのは買いすぎじゃないですか?」


 ローラがポーションが入っている袋を見ながら言う。ポーションは一本につき銀貨一枚だから全部で銀貨二十枚。この出費はかなり痛かった。


「わたくしもローラと同じ意見です。冒険者の仕事は危険なものもありますが、ゴーマン様にはわたくし達がいます。ですから危険な目には……」


「確かにナターシャ達がいたら戦闘であまり怪我はしないけど、他にも使う場面があるだろ?」


「………!?」


 俺は立ち上がって意見を言うナターシャの言葉を遮ると、ベットから立ち上がって彼女に近づき、自分の唇をナターシャの唇に押し付けた。


「奴隷に餌をやるのも主人の仕事……だったよな? 三人とも、早く『準備』をしろ」


「は、はい!」


 ここまで言えばナターシャ達も、俺が今ポーションをどの様に使おうとしているのか分かったみたいで、三人は大急ぎで服を脱いでいく。


 そうして現れた三人の裸体は男だったら思わず目を奪われ、全財産を失ってもいいから抱きたいと考えてしまう程に魅力的だった。昼間は騒動の種にしかならなかったが、今こうして見ると彼女達を仲間にして本当によかったと思う。


「こうして自分からお前達を求めたのは初めてだな」


 魔女と付き合っていくのは間違いなく命懸けだろう。


 だがナターシャ達は俺のことを「愛している」と言ってくれた上に居場所となってくれた。だったら俺もとことんコイツらと付き合っていこう。







 …………なんてことを俺は数時間前まで考えていました。


「ぐわっ!? なんだこのポーション!? メチャクチャ苦い上に口の中で嫌な臭いがする!」


「頑張ってくださいゴーマン様!」


「お兄ちゃん、一気に飲み干しちゃえ!」


「ご主人様、ポーションはまだ残っています!」


「いや、無理無理! こんなの飲めないって! お、お前ら、何を…………!?」


 初めて飲んだポーションの味はギリアードが言った通り凄まじく不味く、俺の決意をあっさりとへし折ってしまった。


 結局その夜の内に二十本のポーションを全て飲むハメになるし、やっぱりナターシャ達魔女との付き合いはほどほどにしておこう……。

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