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第二十一話

「人の体力や傷を回復できるなんて神聖魔術って凄いんだな」


 大通りを歩きながら俺は閉じたり開いたりする自分の手を見て心から感心して呟いた。ついさっきまで疲労で子指一本動かせなかったのが嘘みたいだ。


 死にかけていた俺がどうして動けているのかというと、それは熱の風亭で朝食を済ませた後、見るに見かねたルークが神聖魔術で体力を回復させてくれたからだ。お陰でまだ少し体が重い気がするが【生命】も半分くらいまで回復している。


 ……だけどまさか初めての仲間からの回復が、ナターシャ達と肌を重ねたせいで消費した【生命】を戻すためとは思わなかったな。正直、複雑な気分だ。


「……まさか戦闘ではなくあんな理由で神聖魔術を使うことになるとは拙僧、夢にも思わなかったぞ」


 隣を歩くルークが複雑な表情で俺が思ったこととほぼ同じことを言う。でもその気持ちはもっともである。ありがとうございます、ルークさん。


「まあ、ゴーマンも動けるようになったしいいじゃないか。それで今日はゴーマン達に街を案内する予定なんだけど…………見られているね」


「見られとるな。せやけどそれも仕方ないやろな」


 ギリアードが周囲を見回して呟き、アランが苦笑を漏らして後ろを見る。アランの視線の先には人間の姿となったナターシャ達が街の人々の視線を集めていた。


 人間の姿となったナターシャ達の服装は水着(ローラだけは水着によく似た軽鎧)と腰に巻いた腰布、足にはサンダルという超薄着。というか俺が言うのもなんだけど街を歩く格好じゃないって、アレ。


「ナターシャ達みたいな美人達があんな薄着をしていたら注目を集めるのも納得だけど……ゴーマン、何でキミはナターシャ達にあんな格好をさせているんだい? ……そんなに水着が好きなのかい?」


「水着姿の女性は素晴らしい。……って、理由はそれだけじゃないんだって。ほら、ナターシャ達って人間の姿から魔女の姿に戻ると服が破れるだろ? まさか戦闘中に服を脱がせるわけにもいかないから、値段の安い水着を与えるしかなかったんだよ」


 俺が事情を説明するとギリアード達は納得の表情を浮かべた。


「あー、なるほどな。三人分やから服代もばかにならんわな」


「他にも食費や色々な出費もあるだろうしな。……魔物使いも楽ではないのだな」


 アランとルークの言う通りナターシャ達がいると戦闘が楽になる反面、出費が凄いんだよ。もしかしたら魔物使いにとって一番の戦いは、魔物との戦いではなくこの家計のやりくりかもしれない。


 その後俺はギリアード達に、傷薬や解毒薬といった冒険者用のアイテムを扱っている店に案内してもらった。


「このお店はボク達もよく利用していてね。道具の種類も豊富で、特にここのポーションは店主が特別に調合したもので他の店よりも効能が高いんだ」


 ギリアードに言われて店内を見ると、店にある棚には中に薬が入っているいくつもの小瓶の他に様々なアイテムが置かれていた。


「ポーションってたまに冒険者が持っているのを見るけど、やっぱり飲む薬なのか?」


「確かに飲んだら失った体力を回復できるけど、傷口にかけて傷を治すのが主な使い方かな。……前に一回ポーションを飲んだことがあるけど凄く苦いし、口の中で嫌な臭いがするんだよね」


 ポーションを飲んだときのことを思い出したのかギリアードが顔をしかめる。良薬口に苦し、と言うがこの様子だと本当に不味いのだろう。


「そうか。ちなみにポーションって一ついくらするんだ?」


「銀貨一枚だね」


「それって高くないか?」


 銀貨一枚って、普通の傷薬の十倍近い値段だぞ? そんなことを考えていたらアランが笑って頷く。


「まあ、最初はそう思うやろな。でも実際ポーションは傷薬よりずっと効果があるし、ちょっとした怪我が生死を分けるという事態も冒険者にはよくある。自分の命を守るためと考えたら安いもんやろ」


「うむ。冒険者の仕事では拙僧のような神聖魔術が使える回復役が必ずいるとは限らんからな。予め用意しておいた方がよいな」


 アランに続いたルークの言葉に俺は頷いた。確かに万が一の備えはしておいた方がいいだろう。


「そうだな。じゃあいくつか買っておくか。……あれ? ナターシャ達は?」


 気がつけばナターシャ達は別の棚に飾られている商品を見ながらなにか話していた。ああいう姿を見るとナターシャ達も魔物なんだけど女の子なんだなと思う。


「お前達、何か欲しいものがあるのか?」


「え? ……ええ、はい。少し、いいかなと思う物がありまして……」


 俺が聞くと魔女達三人は俺と棚の商品を交互に見た後、代表してナターシャがためらいがちに答える。ナターシャ達がこんな風に何かを欲しがるのは珍しい。考えてみたら三人には色々と世話になっているし……あんまり高いやつじゃなかった買ってやってもいいかな?


「いいぜ。三人とも持ってこい」


「よ、よろしいのですか?」


「ああ。あんまり高いやつは駄目だが、それ以外だったらポーションと一緒に買ってやるよ」


 俺がそう答えると、ナターシャ達は表情を輝かせて棚にあった商品を持ってきた。そして魔女達三人が持ってきた商品は何かと言うと……、


「………………………………………………首輪?」


 三つの大型犬の首につけるような首輪だった。


「はい」


 俺の呟きをナターシャが肯定する。


 え、何で首輪? 何でお前達こんなの欲しいの? ていうか何に使う気なの? 俺、犬なんか飼ってないよ?


「わたくし達はゴーマン様の奴隷であり所有物です。ですからこの首輪をその証明としたいのです」


 胸を張って言うナターシャと彼女の後ろで頷くルピーとローラを見て、俺は視界が一気に暗くなった気がした。


 ☆


「見られているな」


「見られているね」


「見られとるな」


「見られておるな」


 買い物を済ませて店から出た俺達は大通りをいく大勢の通行人の視線を集めていた。店に行く前も通行人から注目されていたが、それとは比べ物にならないくらいの注目のされっぷりである。


 顔を赤くして目を見開く男。顔をひきつらせる女。珍しいものを見るような目でこちらを指さす子供と、子供を俺達から少しでも遠ざけようとする母親。彼ら全員の視線が俺達に向けられ、もう本当に視線が痛すぎる。


 何故俺達がこんなに注目されているのか?


 その理由はこの上なく明白で、俺は首を横に向けて歩きながら後ろにいる「理由」を見た。


 俺の後ろにいるのは先程店で買った首輪を首につけて上機嫌なナターシャ、ルピー、ローラの魔女三人組。三人ともよっぽど嬉しかったのか、しきりに自分の首輪を手で触れており、その行動が通行人達に首輪の存在を主張していた。あんなに喜んでくれると買ったかいがあったと思うのだが正直複雑な気分だ。


「……白昼堂々、半裸の女性三人を首に首輪をつけた状態で連れ回すって…………、奴隷商人かよ俺達?」


「……ゴーマン。奴隷商人なのはボク達、じゃなくてキミ一人だからね?」


「なっ!?」


 思わず呟いた呟きをギリアードが冷たく返す。そんな薄情な!


「ギリアード! いくらなんでもそれはないだろう!」


「だって事実じゃないか? ……ねえ、ナターシャ、ルピー、ローラ。キミ達はゴーマンの『モノ』なんだよね?」


「ええ、その通りですギリアードさん。わたくし達はゴーマン様の忠実な僕であり奴隷。そしてわたくしはゴーマン様に最も愛された第一奴隷です」


「ルピーもお兄ちゃんのものだよ。それでお兄ちゃんに一番大切にされてるんだから」


「私はご主人様の為ならば命を捨てる覚悟もできている。後、お仕えしてまだ日は浅いがご主人様の信頼は得ていると思っている」


「「「………………………」」」


 ギリアードの質問に胸を張って答えたかと思うと怖い顔でにらみあうナターシャ達魔女三人。


「お、おい。お前達何をにらみあって……え?」


 ナターシャ達はしばらく無言でにらみあった後、何を思ったのか突然三人同時に俺の首や腕や腰に抱きついてきた…………って! し、しまる! しまってるって!


 ギリギリ……!


 首と腕と腰から何やら嫌な音が聞こえてきた……! な、何この状況? 痛いし、苦しいし、周りの視線は恥ずかしいし……。


 これって新手の拷問!? それとも「恥刑」とかいう新種の刑罰!? いや、そんなことより誰か助けてくれよ!

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