第二十話
「ナターシャ、いい加減にしてくれ。もう俺限界だって。これ以上ヤったら死ぬから。干からびるから」
魔女であるナターシャ達と肌を重ねると【生命】を大量に消費してしまう。超人的な【生命】値を誇る俺でも九回にも及ぶ乱交のせいで限界寸前。ヤれたとしても精々後一回くらいで、それ以上ヤったら本当に干からびて死んでしまうだろう。
というか俺ってば、何でこんなところで命の危機に直面しているの? 成り行きとはいえ危険な仕事が多い冒険者になった時にいつ死んでもいい覚悟はしたつもりだが、仲間の魔女達と乱交をした末に腹上死という最後は全力で避けたい。
「お願いします、ゴーマン様。もう一度だけ、もう一度だけお願いします。どうかわたくしに愛しいゴーマン様の子供を孕ませてください」
「愛しい……って、少し大げさすぎないか? 確かに俺は契約の儀式でお前達に勝ったお前の言う強い雄かもしれないが、それ以外でお前達に好かれることはしていないと思うぞ?」
「いいえ、そんなことはありません。ゴーマン様は魔女であるわたくし達を恐れることなく家族として愛してくださいました。人間だけでなく魔物からも厄介者とされているわたくし達魔女にとってそれはとても嬉しいことなのです。……初めて交わった夜、ゴーマン様はわたくしのことを『家族だ』と言ってくださいましたよね? あの言葉を聞いた時、わたくし涙が出るほど嬉しかったのですよ?」
そういえばそんなこと言ったな。いや、それより厄介者ってなんだ?
「ナターシャ。魔女が魔物から厄介者扱いされてるって、どういうことだ?」
「……魔女から生まれるのはほとんどが魔女の雌です。更に魔女は一度か二度肌を重ねただけで相手の雄を殺してしまいます。そのことからわたくし達魔女は種族を滅ぼす厄介者として忌み嫌われており、人間だけでなく魔物からも狩られる対象とされているのです」
「魔女も大変なんだな」
確かに言われてみればそうだ。いくら魔女が美人揃いだからといって彼女達に溺れたらあっという間にその種族は雄がいなくなり滅んでしまうだろう。しかし魔女も雌しかいないから他種族から雄を誘惑して捕まえるしかないわけで……なるほど、厄介者扱いされるわけだ。
気がつけば俺は疲労も眠気もすっかり忘れてナターシャの言葉を聞いていた。
「ゴーマン様。わたくしは……いえ、ルピーとローラも、魔女であるわたくし達を受け止めてくださる強くて優しいあなた様を愛しております。あなた様の寵愛を得られるのでしたらわたくしはどんな事でもします。生まれ故郷の蛇魔女を倒せと言うのでしたらこの手で倒してみせますし、お金を得るために他の男に体を売れと言われたら…………その、抱かれます」
「い、いや、そんなこと言わないから」
ナターシャの口から発せられるあまりにも重すぎる愛の言葉。その自分の全てを捧げるという発言に思わず気圧された俺は一つあることが気になり聞いてみた。
「……ナターシャ、一つ聞いていいか? お前は俺が記憶喪失だということは知っているよな?」
「はい」
「もし記憶を取り戻した俺が魔物を嫌悪する人間だったらどうするんだ? お前を殺そうとしたり、自分で自分を殺せと命令したりしたら……」
「ゴーマン様のご意志に従います」
即答だった。しかも覚悟を胸に秘めた凄くいい笑顔で。
恐らく本当にナターシャは俺が刃を向けたら抵抗せずに刃を受け入れるだろうし、死ねと命じたら自分で自らの命を絶つだろう。俺はそんな彼女を少し恐ろしく感じるのと同時に、記憶のない自分の居場所を彼女の中に感じて、それが歪んだ考えだと理解しつつも嬉しく思った。
「……そうか。ナターシャが俺を愛してくれているのはよく分かった。ありがとう、本当に嬉しいよ。これからもよろしくな」
「はい、こちらこそ」
その後俺とナターシャは同時に自分の顔を相手の顔に近づけて口づけを交わしそして……、
☆
次の日の朝。俺とナターシャ達はギリアード達を含めた七人で熱の風亭に集まっていたのだが……俺はテーブルに突っ伏して指一本動かせない状態だった。
「……どうしてナターシャ達が人間の姿になっているのか聞きたいんだけど……。その前にゴーマン、一体キミはどうしたんだい?」
ギリアードは人間の姿となったナターシャ達を見た後、困惑した表情で俺に聞いてくる。俺はステータスを呼び出すと、震える手でステータスをギリアード達に渡した。
【名前】 ゴーマン・バレム
【種族】 ヒューマン
【性別】 男
【戦種】 魔物使い
【才能】 23/23
【生命】 45/1045
【魔力】 230/230
【筋力】 112
【敏捷】 112
【器用】 109
【精神】 109
【幸運】 109
【装備】 高品質な鋼の短槍、バトルナイフ、冒険者の服(白)、旅人のマフラー(紫)
【技能】 才能限界上昇、自己流習得、魔女難の相、蛇魔女の主、鳥魔女の主、馬魔女の主、蛇魔女流体術、鳥魔女の眼、弓矢系雷撃魔術(1)
「こ、これは……」
「なんというか……。勇者というか馬鹿というか……」
「羨ましいはずなのに哀れに思えるのは何故であろうな?」
俺のステータスと肌をつやつやさせているナターシャ達を見て事情を把握したギリアード、アラン、ルークが言葉を漏らす。声を出すことさえできないくらい衰弱した俺は、ギリアード達の生暖かい視線を受けることしかできなかった。




