プロローグ
「へへへ……。ここは通行止めだぜ。通してほしかったら通行料を払ってもらおうか?」
いきなりだが俺、ゴーマン・バレムは今、ありがちなセリフを恥ずかしげもなく言う明らかにガラの悪い男達……というか盗賊達に道を遮られていた。
盗賊達は七人。全員が剣や槍、斧といった武器を持っており、ニヤニヤと笑いながらこちらを見ている姿からは余裕が感じられる。多分ここら辺を縄張りにしていて、このような『仕事』は今回が始めてではないのだろう。
三日かけて山を越え、ようやく街が見えてきたなと思ったらこんな連中にからまれるなんて……運が悪いにもほどがある。
ていうかこの場合通行料って、俺の持ち物全部ってことだよね? でも大人しく渡したとしても無事通してくれる保証なんてどこにもないよね?
「へへっ、安心しろよ。持ち物全部と後ろの女達を置いていくなら命だけは見逃してやるぜ」
七人の盗賊の一人、大剣を持った大男(恐らくこいつが盗賊達の頭だろう)がイヤらしい笑みを浮かべて俺の後ろを見て言う。
盗賊の頭の視線の先にいるのは、俺の後ろから少し離れたところにいる三人の女性達だった。
俺から見て右にいるのは、長く伸ばした金髪を後ろで縛った少し気が強そうな雰囲気があるローラ。
次に真ん中にいるのが褐色の肌と腰まである銀色の髪が特徴的なナターシャ。
最後に左にいるのが夜の空のような黒い髪をしたどこか幼さを残す容姿のルピー。
彼女達三人は俺の仲間で、それぞれ好みは異なるが美少女ばかりであり、盗賊達は欲望で満ちた目で彼女達をなめるように見ている。これだけで盗賊達が今何を考えているのか容易に想像できる。
「いや……。彼女達はやめておいたほうが……」
「ああっ!? 何だお前逆らうつもりか?」
盗賊の頭がドスのきいた声で俺を脅そうとしてくる。
「けっ。おい、お前ら」
『へい』
盗賊の頭に言われて、手下の六人の盗賊達がナターシャ達を捕まえようと近づいていく。その姿を見て俺は思わず叫んだ。
「おい馬鹿やめろ! 早く『逃げろ』!」
「う、うわああ!?」
遅かったか……。
ナターシャ達の体に起こった『変化』を見て盗賊達の一人が悲鳴をあげる。
俺が見るとローラの下半身が馬の胴体となっており、ナターシャは下半身が蛇に、ルピーは両腕が翼そして両足が鳥の脚に変わっていた。
「あ、あ、あれはまさか……『魔女』なのか……?」
ナターシャ達の姿を見て盗賊の頭が震える声で呟く。
はい、正解。そのとおりです。
魔女とは人間の女性に似た姿をした魔物の総称である。
「ゴ主人様ノ敵……殺ス!」
ローラが両前足を高く持ち上げてから盗賊の一人の顔を踏み潰し、その後腰の剣を抜いて別の盗賊の首を一太刀ではねた。
「………」
ナターシャは蛇となった下半身で盗賊二人を締め付け、全身の骨を砕いていく。
「アハハハ! 一緒ニ遊ボウヨ!」
ルピーは両腕の翼を羽ばたかせて宙に飛び、急降下をして両足にある爪で二人の盗賊の顔を引き裂いた。
三人とも、相変わらず手加減ないよな……。
先に襲ってきたのは向こうだが、俺は盗賊達に同情を禁じ得なかった。だから俺は『盗賊達』に『逃げろ』って言ったのに……。
「ひ、ひいい!?」
部下をあっという間に殺された盗賊の頭が情けない悲鳴を上げて一目散に逃げていく。
しかし結局、盗賊の頭はこの後すぐにナターシャ達に追い付かれて殺されてしまう。そのあたりの描写はつまらないし残酷過ぎるから省略させてもらう。
☆
「みんな、ご苦労だったな」
盗賊達を倒した後、俺はナターシャ達に労いの言葉をかけて、ナターシャの頭を撫でる。
「………」
ナターシャは俺に撫でられて少しの間気持ち良さそうにした後、俺の手をとって小さく舌で舐め始めた。この時のナターシャはいつも以上に可愛らしく見えた。
『…………』
ローラとルピーが羨ましそうにこちらをこちらを見ていたので、空いている手で二人の頭を撫でると二人も気持ち良さそうに笑いかけてくれた。
俺の名前はゴーマン・バレム。
魔物を仲間にして共に戦う冒険者、「魔物使い」だ。