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第十七話

「ゴーマン様、これをナターシャ様達に」


 そう言ってセバスワンが差し出してくれたのは二枚の大きめの布! 流石執事! その気配りと用意のよさが涙が出るほど嬉しいぜ!


「ありがとう、助かった! ………………ふう、これでよし」


 セバスワンから受け取った布をナターシャとローラの腰に巻いて俺は安堵の息を吐いた。後ろの方で「チッ」とかいう老人が舌打ちする音や「バチンッ!」とかいう人の頭を叩く音が聞こえた気がしたが無視しておく。


「それで三人共大丈夫か? どこか変なところはないか?」


「はい。大丈夫です、ご主人様」


「ルピーも大丈夫だよ」


 ローラとルピーが頷いて返事をする。……ってアレ? 二人の発音が微妙に変わっているんだけど人間の姿になった影響か?


「ナターシャ。お前はどうだ」



「はい。わたくしも特にこれといった不調は感じられません。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」



 ……………………………………………………はい?


「な、ナターシャ? お前、本当にナターシャか?」


 なんか発音どころか口調までも変わっているんですけど? あっ、ルピーとローラも驚いた顔でナターシャを見てる。


「勿論ですゴーマン様。わたくしは貴方様の第一奴隷、ナターシャです」


 俺の質問にナターシャは自分の胸に手をあてて当たり前なことを再確認するかのように答える。


「第一奴隷って……、偉いのか偉くないのか分からない称号だな。それにしてもゴーマン様? 今まで呼び捨てにしていたのに何故急に様付けなんだ?」


「そ、それはその……わたくし達、蛇魔女は舌などの口の作りが人間とは異なっており、他の魔女と比べても人間の言葉を話すのが得意ではないのです……。ですから意識しながら話さないとすぐに意味不明な声になるので、自然とあのような話し方に……」


 あー、なるほどね。そういえば以前ナターシャとキスをしたときも彼女の舌、蛇のように「チロチロ」って動いていたな。だからあんな読み慣れない演劇の台本を読んだような固い口調だったのか。


 というかヤバい。普段無表情なナターシャが頬を赤く染め、目を泳がせながら話す姿がかなり可愛い。


「……しかし奴隷であるわたくしごときがゴーマン様を呼び捨てにして、あんな無礼な口調で話すなんて本当は許されないこと。……どうかお許しください」


「んなっ!?」


 突然ナターシャがその場で正座をして床に手をつき頭を下げる……いわゆる「土下座」と言われる体勢をとって俺に謝罪してきた。な、ナターシャさんいきなりどうしたの!?


「うおおっ!? ご、ゴーマンよ! ちょっとそこをどかんか、よく見え……んがふ!?」


 バギン!!


 背後からノーマンさんの声となんか危険な音が聞こえた気がしたが今はナターシャの方が重要だったので無視しておく。


「おい、ナターシャ。俺は別に怒っていないからいいかげん立ってくれ。じゃないと……え~と、逆に許さないぞ?」


「……は、はい! 分かりました、ゴーマン様!」


 俺の「許さない」という言葉を聞いた途端、慌てて立ち上がるナターシャ。……本当にこの下半身が人間のナターシャは、あの下半身が蛇のナターシャと同一人物なのだろうか? なんかキャラが違いすぎるんだけど?


 まあ、なんにせよナターシャが土下座を止めてくれたのは精神的に助かった。自分から命令したわけじゃないけど、女性を土下座で謝らせるなんてどんな鬼畜よ、俺? これが街の中だったら今頃捕まってるぞ?


「あの、ナターシャ達を元の姿に戻すことはできますか?」


「うむ。『ディス・ヒューム』と唱えれば魔物の姿に戻れるぞ。何じゃ? もう元に戻すのか?」


 聞くと何故か顔が真横になっていたノーマンさんが頷いて答えてくれた。というかその首、痛くないの?


「はい。もう十分です。お前達、今度は『ディス・ヒューム』と言ってくれ」


「「「ディス・ヒューム」」」


 カッ!


 ナターシャ達が再び指輪が放つ光に包まれ、元の魔物の姿に戻る。うん。人間の姿もよかったけど、本来の魔物の姿もいいな。


「指輪の使い方は分かったようじゃな?」


「使い方は分かりましたけど……。この指輪、本当に貰ってもいいんですか?」


 魔物を人間の姿にするマジックアイテムなんてかなりの値打ちものだろう。言っとくけど俺、そんなに金持ってないぞ?


「面白い話を聞かせてもらった礼みたいなものじゃ。金など取らんから安心せい。それにセバスワンとミュンヒワンゼンが『階級上昇』をして人化の術をおぼえてからは使わんかったしのう」


「階級上昇……? 何ですかそれ?」


「魔物のステータスに【階級】という儂らの【才能】のような項目があるのは知っておるじゃろ? 魔物は多くの戦いを経験することで階級が上がり、その際に外見や能力が変わるのじゃよ。これを階級上昇という。セバスワンもミュンヒワンゼンも仲間にしたばかりの頃は、どこにでもいるごく普通のコボルトだったのじゃよ」


 階級上昇。そんな現象があるだなんて知らなかった。でもそれが本当だったらナターシャ達もこれから次第でさらに強くなれるってことか。


「その指輪は魔女達と街の中を行動する時に重宝するはずじゃ。よいか、ゴーマン。儂ら魔物使いにとって魔物は敵であると同時に頼りになる仲間じゃが、それ以外のほとんどの人間にとっては恐ろしい敵であることを忘れてはいかんぞ」


「はい、分かりました。じゃあこの指輪はありがたくいただきます」


「うむ」


 十個の人化の指輪を受け取った俺達は、「時々でいいからまた顔を見せにこい」というノーマンさんと約束をしてノーマンさんの家を後にした。


「………ゴーマン、コレカラ何処ニ行クノ? 宿屋ニ帰ル?」


「いや、このまま買い物に行こうと思う」


 そろそろ新しい装備品とか欲しいし、人間の姿になったナターシャとローラの下にはくものとかも買わないといけないしね。


 ……それにしてもやっぱりナターシャって、人間の姿になる前と後の話し方が違いすぎるよな。


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