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第十六話

「ここがノーマンさんの家か」


 俺は今ナターシャ達を連れて昨日、力の神殿の神官に場所を教えてもらったノーマンさんの家に来ていた。


 ノーマンさんの家は王都の住宅街の中でもかなり大きな住宅だった。大工の趣味が出た凝った造りの建物や完璧に手入れされた庭から見て裕福な暮らしをしていると分かる。


 コン。コン。


「あの、すみません。こちら、ノーマン・イスターさんのお宅でしょうか? 俺はゴーマン・バレムという冒険者で、ノーマンさんに話したいことがあって来ました」


 ドアをノックして家の中にいる人に聞こえるように呼び掛ける。それからしばらくするとドアが開き家の中から一人の男が現れ、俺はその男の姿を見て少なからず驚いた。


「……え?」


「ようこそいらっしゃいました。確かにノーマン・イスター様は当家の主人ですが、一体とのようなご用件なのでしょうか?」


 家の中から現れたのは俺より頭一つ分背が高くて体格もいい執事服を着た大男だったが、首の上にのっていたのは人間の頭ではなく……犬の頭だった。


「コボルト?」


 コボルトはゴブリンの次くらいに有名で数が多い下級の魔物だ。犬の頭部に人の身体という外見で平均的な背丈は百センチ前後、知能はゴブリンより多少マシ程度のはずなんだけど……目の前にいるコボルトは平均的なコボルトの倍近くの背丈があって、丁寧に話す姿からは人と同じくらいの知能があるように見える。本当にコボルトか?


「ええ。私はノーマン様にお仕えする魔物で種族はコボルトです。いえ、正確には『元』コボルトですが。それで再びお訊ねしますがどのようなご用件なのでしょうか?」


「あ、ハイ。実は……」


 俺は記憶を失ったばかりで右も左も分からなかった時、偶然廃村となったバレム村にたどり着き、そこでノーマンさんの持ち物だった魔物使いの書を見つけ、それのお陰でナターシャと出会えた話をコボルトの執事に話した。


「あの時魔物使いの書を見つけなかったら俺は街への道を知っていたナターシャとは出会えず、ここにはいませんでした。ですから本の持ち主であるノーマンさんに一言お礼を言いたくてここに来ました」


「なるほど、そうでしたか」


 俺の話を聞いてコボルトの執事は頷く。気のせいか笑っているように見えた。


「分かりました。そういう理由であればノーマン様も会ってくださいますでしょう。申し遅れました。私、ノーマン様の使用人を勤めさせていただいておりますセバスワンと申します。どうかお見知りおきを」


 コボルトの執事、セバスワンがお辞儀をして名乗る。


 ……名前に関してはツッコまないことにしておこう。


 ☆


「よく着たの。儂がノーマン・イスターじゃ。よろしく頼むぞ、ゴーマンとやら」


「こちらこそ」


 ノーマン・イスターさんの第一印象は一言で言うと元気な老人だった。今年で六十二歳になるらしく髪も髭も白で染まっていたが、セバスワンと負けず劣らずがっしりとした身体には活力が満ちていて、五十代や四十代といっても通用するように見えた。


 俺達は今、セバスワンに案内されてノーマンさんの家の居間にいる。


 椅子に座っているノーマンさんの隣にはセバスワンとは別の執事服を着たコボルトが立ってこちらを見ていた。セバスワンが白の毛皮であるのに対してノーマンさんの隣のコボルトは黒の毛皮。名前はミュンヒワンゼンというらしい。……ツッコまないからな。


「それにしても儂があの村に残した魔物使いの書を見つけて魔物使いとなる者が現れるとは……人生とは分からんものじゃのう」


「そうですよね。これ、魔物使いの書です。今までありがとうございました」


 俺が魔物使いの書を返そうとするとノーマンさんはそれを笑いながら手で制した。


「いや、それはもうおぬしの物じゃ。おぬしが持っておくがよい。それよりもおぬしが今までどのような冒険をしてきたか聞かせてくれぬか?」


「はい。それくらいでしたら」


 俺が今までどんな冒険をして、どのような形でナターシャ達と出会ったかを話すと、話を聞き終えたノーマンさんは感心したように息を吐いた。


「なるほどのう。気がついた時には全ての記憶をなくしておったか……それは災難じゃったのう。しかし」


 ノーマンさんはそこで言葉を区切ると、俺の後ろにいるナターシャ達を見た。


「そのような美しい魔女達を仲間にできたのは記憶を失った不幸を上回る幸運ともいえるじゃろう。ゴーマンよ、失った記憶を探すのはよいが、彼女達と共にいる今を楽しむことを忘れてはいかんぞ。これは魔物使いとして、いや人生の先輩としての助言じゃ」


「はい、分かりました。ありがとうございます」


「うむ。…………それにしても魔女が三人も仲間とはうらやましいのう。儂も一人でいいから魔女の仲間が欲しかっ……アタッ!」


 バチンッ!


 いいことを言った直後に鼻の下をのばしかけたノーマンさんの頭を隣にいるミュンヒワンゼンが叩いた。


「ノーマン様。お客様の従者を見て鼻の下をのばすのは少々礼儀に欠いております」


「ミュンヒワンゼン、おぬしは本当に冗談が通じんのう……。まあよいわ、それよりセバスワンよ」


「はい。ゴーマン様、これを」


 セバスワンは返事をすると俺の前に一つの箱を持ってきた。


「何ですか? ……指輪?」


 箱の中に入っていたのは同じデザインをした十個の指輪だった。


「ノーマンさん、この指輪は?」


「なに、魔物使いの先輩から後輩へのちょっとした贈り物じゃよ。それはある魔術の力を宿したマジックアイテムでのう。使い方は……そうじゃのう、とりあえずその指輪をおぬしの魔女達の指にはめてくれんか?」


 ノーマンさんがイタズラを企む悪ガキのような笑みを浮かべているのが気になったが、指輪にどんな魔術の力が宿っているか興味があった俺は、言われるままセバスワンから指輪を三個受け取ってナターシャ達の指(ルピーは翼の羽)にはめた。


「はめましたよ?」


「うむ。では次に魔女達に『ビスト・ロク』と唱えさせよ」


「ナターシャ、ルピー、ローラ。聞いていたな? 『ビスト・ロク』って言ってみてくれ」


「「「ビスト・ロク」」」


 カッ!


「うわっ!?」


 ナターシャ達が「ビスト・ロク」と唱えた瞬間、彼女達の指にはめた指輪が強い光を放ち俺の視界を白く染める! 幸い指輪が光ったのは一瞬だけで視力はすぐに回復したが……何なんだよ今の光は?


「おい、お前達! 大丈夫……か……?」


 俺はナターシャ達に声をかけようとしたが目の前の女性達を見て思わず絶句した。そこにいたのはナターシャ達と同じ顔をした人間の女性達……いや、違う! 同じ顔じゃなくて間違いなく本人達だ! 目の前にいたのは人間の姿となったナターシャ達だった!


「な、ななななななな……!?」


「はははっ! 驚いたようじゃな。これは魔物を人間の姿にする『人化の指輪』といってな、儂が現役の冒険者だった時にとある遺跡で見つけたものなんじゃよ」


 ノーマンさんが子供のように笑いながら指輪の説明をしてくれるがそれどころじゃなかった! 確かにナターシャ達が人間の姿となったのには驚いたけど、俺が一番驚いたのはそこじゃない!


 何で! 何で! 何で!


「コイツら! 何で下半身ハダカ!?」


 俺はナターシャ達を指差し大声で叫んだ。ルピーは手足以外はいつもと同じ格好だったが、ナターシャとローラは下半身になにも身に付けていないという半裸状態だったのだ!


「何でって言われてものう……。その二人は最初から下をはいていなかったじゃろ? ……それにしても中々よい眺め……アタッ!」


 バチンッ!


 至極全うな正論を言いながら鼻の下をのばすノーマンさんの頭をミュンヒワンゼンが叩く。……ミュンヒワンゼン、ナイス!

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