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第十三話

「ワイの名前はアラン・ミクロや。見てのとおり冒険者をやっとる。よろしゅうな。あ、それでこれがワイのステータスや」


「拙僧の名はルーク・ドーン。大地母神イアス様に仕える僧侶だが冒険者もやっておる。一応拙僧のステータスも見せておこう」


 俺達と同じテーブルについたアランとルークは短く自己紹介をするとそれぞれ自分のステータスを呼び出して、こちらによこしてくれた。っていうか、ルークって僧侶だったんだ? 俺はてっきり戦士か格闘家だとばかり思っていたぞ?



【名前】 アラン・ミクロ

【種族】 ヒューマン

【性別】 男

【戦種】 斥候

【才能】 15/19

【生命】 308/308

【魔力】 110/110

【筋力】 53

【敏捷】 72

【器用】 71

【精神】 25

【幸運】 52

【装備】 ショートソード、投擲用ナイフ(10本)、革鎧、冒険者の服(緑)、風のバンダナ、幸運のお守り

【技能】 周囲警戒、罠感知、罠解除、鍵開け、隠密行動、奇襲攻撃



【名前】 ルーク・ドーン

【種族】 ヒューマン

【性別】 男

【戦種】 僧侶

【才能】 15/21

【生命】 272/272

【魔力】 200/200

【筋力】 59

【敏捷】 32

【器用】 39

【精神】 74

【幸運】 30

【装備】 メイス、鉄の胸当て、チェインメイル、バックラー、布の服、イアスの聖印

【技能】 神聖魔術、精神統一、霊体攻撃



 おおっ。二人とも【才能】が15で、他のステータスの数値も高い。これにギリアードが加わったらバランスがとれたパーティーになるだろう。


「こちらこそよろしく。俺の名前は……」


「ゴーマン・バレムやろ? あんたのことはギリアードの手紙で知っとる」


「うむ。手紙を読んだときはまさかと思ったが、本当に複数の魔女を仲間にしておるのだな」


 俺が名乗ろうとするとアランが手で制して、ルークが俺とナターシャ達を見て感心したように言う。


「ギリアード。お前、手紙なんて出していたのか?」


「うん。二、三回くらいね。アラン、ルーク、手紙に書いていた件なんだけど……」


「ああ、せやな。……なあ、ゴーマン。いきなりやけどあんた、ギリアードとパーティーを組んでいたんやろ? せやったらワイらともパーティーを組んでみんか?」


「え?」


「要するに拙僧ら四人で……いや、そこの魔女達を入れれば七人か。とにかく、この七人でパーティーを組まないかということだ」


 アランの言葉をルークが引き継ぐ。


「いや、それは分かるんだけど……いいのか?」


 ギリアードと初めて会ったときもそうだったけど、そんな簡単に初めて会った人間を信じていいのか?


「ん? ワイはかまへんで? 会って話してみた感じ、信頼できそうやからな」


「その魔女達の様子から見ても悪人ではないようだしな」


「……そうか。それだったら、改めてこれからよろしく頼む」


 俺がそう言うとアランが人懐っこそうな笑みを浮かべてきた。


「おう。普通の女には興味がない者同士、仲良くやろか」


 …………………………ん?


「今、何て言った?」


 俺は最初、アランが何て言ったのか理解できなかった。普通の女には興味がない者同士と言ったか? いや、ちょっと待てよ。俺は記憶喪失だけど人間の女に対する興味まで忘れたわけじゃないぞ?


「おい、アラン。俺は別に……」


 ポン。


「ゴーマン。隠さなくてもいいんだよ? ボク達は分かっているからさ」


 ギリアードが俺の肩に手を置いたかと思うと、あらゆる罪を許す女神のような(男なのに)慈愛に満ちた笑顔を向けてくる。……なあギリアード、その笑顔は止めてくれないか? その笑顔を見てると何故だか知らないけど不安になると同時にイラッとするんだ。


「分かっているって何をだよ?」


「それは当然、キミが普通の人間の女性に興味がなく、ナターシャ達、魔女だけを愛しているってことをさ」


「はあっ!?」


 ギリアードの言葉に俺は思わず大声を出してしまった。


「ギリアード! お前何勝手な事をいってるんだよ!? 俺はそんなこと……」


「キミはナターシャ達を愛していないというのかい?」


 ギリアードは真剣な表情になって言うと、目だけを動かして俺の隣を見る。ギリアードにつられて彼が見ている方を見てみると、ナターシャ達三人の魔女が悲しそうな顔で俺を見ていた。


『…………』


 ……おい、これは反則だろ? こんな悲しそうにしている女の視線を無視できるわけないだろ?


「いや……。愛しているといえば愛しているが……」


「………! ゴーマン!」


「オ兄チャン!」


「ゴ主人様!」


 俺が答えるのと同時にナターシャ達三人が抱きついてくる! おい、嬉しいが今は止めてくれ。さっきから店にいる人達の視線が痛いくらいに集中しているんだ。


「はははっ。やっぱり羨ましいくらい仲がいいね、キミ達は? ゴーマン。ボクもアランもルークもキミと似たようなものなんだ。だから大丈夫だよ?」


 何が大丈夫なんだよ? てゆーか、ギリアード。お前、俺のことをそんな目で見ていたのか?


 つまり何か? 初めて会った時から親切にしてくれたのは俺のことを自分の『同類』と思ったからで、俺が魔女の仲間を作る度に黒い顔を見せていたのも「俺ばかり好みの女を仲間にしてズルい」と嫉妬していたから……そういうことなのか?


「それで? 俺と似たようなものってことは、お前達も魔女のことが……」


 俺の質問にギリアードが手をふって答える。


「いや、違うよ。ボク達の好みはそれぞれ異なっているから」


「そういうことや。だから別にあんたの魔女達に色目なんか使わへんから安心してや。……なあ、ゴーマン。話は変わるんやけど、子供には無限の可能性があると思わへんか?」


 アランが突然に話題を変える。いや、それはいいんだが無限の可能性ってなんだよ?


「いきなりどうしたんだ?」


「いいから聞いてや。子供は長い時間をかけてその気になれば何にでもなれる。せやから世の大人達は子供の成長を楽しみに『早く育ってくれ』と見守るんやけど、ワイは無限の可能性を秘めた子供の頃の姿が一番輝いていると思うんや」


 …………なんか話の雲行きが怪しくなってきたな。というかすでにどしゃ降りになっている気がする。


「つまり、何が言いたいんだよ?」


 俺が嫌な予感を覚えつつ聞くと、アランは椅子から立ち上がり大声で叫ぶ。


「つ、ま、り、や! ワイが愛しとるのはまだ成長しておらん女の子! 具体的に言うと十二歳未満の幼女っちゅうことや! 十二歳以上の女なんぞババアやな!」


 うわ、言った! 言いやがったよコイツ! 店内にいる女達の殺意のこもった視線をものともせず、堂々と自分の性癖を暴露しやがった!


 アラン・ミクロ。コイツは勇者だ。でもカッコ悪い勇者だ。


「ふん! 何を愚かなことを言っておる」


 それまで黙って話を聞いていたルークが鼻をならしてアランの熱弁を一蹴する。


「アランよ。これは何度も言ったことだが幼女を邪な目で見て愛でるお主の歪んだ性癖は『自然な営み』を教えとするイアス様の御心に背いておる」


 おおっ! 流石は聖職者。いいことを言う。


 ………………っと、思ったところでルークは「カッ!」と目を見開き叫んだ。


「すなわち! この世で最も美しいのはいつまでも少女のような愛らしい姿を保つドワーフの女性! 合法ロリこそが至高である!」


 ………………ごーほうろり、って何だろう? 俺、記憶喪失だから分からないや。


「アホか! 合法ロリってなんやねん! あんた、聖職者のくせに煩悩が強すぎるんとちゃうか!? 『イエスロリータ、ノータッチ』が合言葉の紳士道こそが清らかな正しい愛情表現や!」


「寝言は寝てからほざけ! お主の紳士道など単なる一方的な欲望の押し付けにすぎんわ!」


 周囲がドン引きしているのを無視して熱すぎる議論を交わすアランとルーク。……こいつら死ねばいいのに。そんなに小さい女の子が好きなら死んで赤ん坊に生まれ変わればいいのに。


「ギリアード。そろそろアランとルーク、止めた方がよくないか?」


「必要ないさ。いつものことだからね」


 ギリアードが肩をすくめて答える。言われてみれば確かに店内にいる人間のほとんどが、引きながらも「またコイツらか」と言わんばかりの視線をアランとルークに向けていた。どうやら本当にコイツらのこのやり取りはいつものことなんだな。


 ……全く、なんて迷惑な。


「なるほどな。……ギリアード、もしかしてお前もその……アランとルークと『同じ』なのか?」


 俺が尋ねるとギリアードは慌てて椅子から立ち上がり叫んだ。


「ち、違うよ! ボクをこんなペド野郎共と一緒にしないでくれ!」


『ギリアード!?』


 アランとルークが抗議の声を上げるがギリアードはかまわずに言葉を続ける。


「ボクが愛しているのはエルフの女性だよ」


「エルフ?」


「そう、エルフさ。永遠の時を生きるこの世で最も美しい種族。ボクは子供の頃、森で魔物に襲われているところをエルフの女性に助けられたことがあってね。それ以来ボクの心はエルフの虜となったのさ。ボクが冒険者となったのはエルフを見つけるためなんだよ」


 ギリアードは、自分を助けてくれたというエルフの女性のことを思い出しているのか頬を赤くしながら話す。エルフは他種族との関わりを絶ち、森の奥深くに隠された自分達の集落の中で一生を過ごすと聞いた。確かにエルフを探すのなら各地を旅する冒険者になったほうが便利だろう。


「……まあ、一時期はエルフと同じ尖った耳をした魔女にも興味をもったこともあったけど、今のボクはエルフの女性一筋さ」


「それでナターシャ達のことについてあんなに詳しかったのか……」


 照れたように言うギリアードに俺は半眼になって呟いた。


 どうりで魔物使いや魔女についてよく知っているはずだ。でもそんな理由だったなんてあまり知りたくなかったな。


「と、とにかく! それでどうするんだい、ゴーマン? ボク達とパーティーを組む気はないかい?」


「そうだな……」


 今までパーティーを組んできたギリアードはもちろん、アランとルークも少し……いやかなり変わった面があるが、基本的に信用できそうだし魔女であるナターシャ達のことも受け入れてくれている。コイツら以外にもナターシャ達を受け入れてくれる冒険者の仲間ができるとは限らないし、ここはパーティーを組んだ方がよさそうだな。


「ああ、分かった。俺達でよかったらよろしく頼む。ナターシャ達もそれでいいよな?」


『………』


 俺がそう答えてナターシャ達に聞くと、三人とも頷いてくれた。


「よかった。これからもよろしくね。ゴーマン」


「頼りにさせてもらうで」


「うむ」


 こうして俺達七人はパーティーを組むことになったのだが……、


「おい、見ろよ。あのギリアード達に新しい仲間だってよ」「あの男が連れている女達って魔物だよな?」「エルフフェチの魔術師、ドワーフフェチの僧侶、ロリコン斥候、その仲間は魔女フェチの魔物使いかよ……」「どれだけ濃いんだよあのパーティー?」


 という店内にいる人達の声が耳に入り、早速ギリアード達とパーティーを組んだことを後悔したくなった……。

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