青の月の五日(5)「ドラゴンって、あのドラゴンか?」
新しく見つかった階段を降りるとそこは巨大な洞窟だった。岩肌がむき出しになっていて、ひんやりとしたわずかに湿った空気が漂っており、地面を見ると小川くらいの水流が流れている。
「ここは?」
「……恐らく地下水脈やろうな。人が住む居住地は水場の側に造るのが基本やからな。ここも昔は大きな水脈やったんやろうけど、少しずつ枯れていって今ではそこの小川だけとなったんやろな」
照明を灯して俺が辺りを見回しながら呟くとアランが少し考えてから答えてくれた。
なるほど地下水脈の跡か。どうりで上の遺跡と違って人の手が入っていないわけだ。
「なんだ、つまらん。せっかく遺跡にやって来たのだから遺跡を守る魔物でも出てくればいいのに。そしたらこのバリー様が即座に退治するものを」
『……………………………………』
つまらなそうに言うバリーの姿に俺達だけでなくレオンやランディ、護衛達も目をそらす。
(もしここに魔物がいたらお前なんて即座に食い殺されているって)
多分、バリーを除くこの場にいる全員がそう思っているはずだ。今、俺達の気持ちは一つになっていると断言できる。
ガタッ。
不意にどこからか何かが動いたような音がした。音がしたと思った方を見てみると、石の影から小さな影が出てきた。
「ん? 何だ?」
石の影から出てきたのは、十センチにも満たない大きさのトカゲのような生き物だった。体の表面は綺麗な緑色の鱗で覆われていて、目はルビーのような真紅。頭部には二本の小さな角が生えていた。とてもではないが、ただのトカゲには見えないな。
「ふむ。これはあれであるな。『ドラゴン』の類いであると思うぞ」
「知っているのか、ルーク? というかドラゴンって、『あの』ドラゴンか?」
ドラゴン。
それは「姿を持つ天災」、「魔物の王」といった異名を持つ最強の魔物の名前だ。ドラゴンは人が寄り付かない秘境や別の大陸で生きているらしく俺も伝承でしか知らないが、今目の前にいるドラゴン(?)の姿は俺の知っているドラゴンの姿とは全く違っていた。
俺が伝承で知ったドラゴンのイメージは、山のような巨体にそれを支える大樹のような四肢。背中には蝙蝠のような翼が生えていて首は蛇のように長く、頭部は角の生えた鰐のようである、というものだ。
目の前にいるドラゴンとは頭部に角が生えている点以外共通点はなかった。
俺の疑問にルークは一つ頷いて口を開く。
「うむ。拙僧も教会で読んだ写本で知るだけなのだがな。ドラゴンにも様々な種類があるらしく、伝承に出てくるドラゴンの姿をしたものもおればこの様な小さいドラゴンもいるらしいぞ」
「へぇ、そうなんだ」
「ドラゴンか……。いくらドラゴンといっても、こんな貧相なトカゲでは倒しても名誉にはならないな」
俺とルークが話しているとバリーがドラゴンを見下ろしながらそんなことを言ってきた。
もういい加減黙ってくれないかな、コイツ? というか倒すこと前提かよ。
「……そうだ! 面白いことを考えたぞ!」
いくら黙ってくれと心の中で願ってもバリーがそれを聞いてくれるはずもなく、何かを思い付いたようで口を開く。コイツが何か言うと、決まってろくなことが起こらないんだよな。
「おい! ゴーマン!」
って、俺かよ。
「………はい? 何か用ですか?」
バリーに名前を呼ばれた俺は、嫌々ながら返事をする。だがバリーは俺の態度を特に気にすることなく、思い付いた「面白いこと」を口にする。
「ランディから聞いたが、お前は元冒険者で魔物使いだったそうだな。だったらこのトカゲを使って魔物を仲間にする儀式とやらをやってみせろ」
………………………はぁ?
 




