青の月の五日(4)「あの薬か」
「全く失礼な奴やな!」
「本当である。イレーナは普段、小生らをどのような目で見ているのであるか?」
「いや、すまなかった。アラン、ミストン……」
「待ってください、イレーナさん。二人に謝る必要はありませんよ」
怒るアランとミストンにイレーナが謝罪をしようとした時、それまで黙って話を聞いていたギリアードが会話に入ってきた。
「謝る必要はない?」
「ええ。アランとミストンって、子供の事とゴーレムのマリアの事しか考えていない犯罪者候補ですからね。そんな二人が建物の構造や古代文明に詳しいだなんて、誰にも予測できませんって。だからイレーナさんは謝る必要はありませんよ」
『ちょっと待て!?』
ギリアードの意見にアランとミストンが再び同時に怒鳴る。二人が怒鳴りたくなる気持ちは分かるのだが、俺もギリアードの意見には全面的に賛成だ。
「というかミストン? 俺も聞きたいのだけど何でお前、古代文明についてそんなに詳しいんだ?」
「……む? それは決まっているのである。小生は我が花嫁であるマリアを完成させるために世界中の魔術を研究しているのである。そしてそれは現代のものであっても古代のものであっても同じことなのである」
「ああ、なるほど。そういうことか」
ミストンはこれでも優秀な魔術師なのだが、その魔術の知識でマリアという名前のゴーレムを造って自分の花嫁にしようと本気で考えている真性の変態である。ダンが言うにはこういう変態のことを「ドールマニア」と呼ぶのだとか。
要するにミストンは、マリアの開発に役立つものがないかと古代文明の魔術を調べているうちに古代文明そのものに詳しくなったということらしい。
うむ。実にミストンらしい理由だ。俺だけでなく他のパーティーの仲間達も納得した顔で頷いている。
「小生が知っている薬のほとんどは、ジーン文明が残した薬の記録を再現したものである。以前使用した『人の記憶を消去する薬』もそうであるぞ」
「人の記憶を消去する薬……あの薬か」
そういえば半月くらい前、ゾンビの群れを退治した時にその様子を偶然知り合った隊商に見られて、ナターシャ達の秘密を守るために使ったんだよな。人の記憶を消去する薬。
「おい。お前達」
半月前のことを思い出しているとランディが俺達のところにやって来た。
「ランディ、どうかしたか?」
「そこの部屋で下に続く階段が見つかったそうだ。とりあえずそこを調べるから全員来てくれないか」
「下に続く階段か。分かった。皆、行こうぜ」
俺は仲間達に声をかけると、階段がある部屋に向かうランディの後についていった。




