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青の月の一日(4)「さっきは助かったよ」

「なんだと!? お前はぼくに踊り子達を売らないと言うのか?」


 ランディの言葉にバリーは信じられないといった表情を浮かべる。どうやらコイツは自分の要求を断られるなんて夢にも思っていなかったようだ。どんだけおめでたい性格をしているんだよ?


「ええ、そうです」


「くうぅ! このぼくが、モブル伯爵家の次期当主がこうして頭を下げて頼んでいるのに断るなんて、なんて無礼な奴なんだ!」


「知らないって」


 頭を下げてって、お前頭下げてないだろ。もう色々と面倒くさくなったので、俺は怒りを露にするバリーに敬語は止めていつもの口調で答えることにする。


 あと、こんなのが次期当主になったらモブル伯爵家には暗い未来しか訪れないような気がするのは、俺の気のせいだろうか?


「お前……!」


「まあまあ。その辺でいいじゃないですか、バリーさん」


 俺の態度にバリーが顔を真っ赤にして何かを言おうとした時、彼の後ろから一人の男が現れて言葉を遮った。


 現れた男はバリーよりも年下のまだ少年と言えそうな年齢で、整った顔立ちに輝くような金髪、それに話している姿から見てとれる育ちの良さそうな雰囲気は正に貴公子と言えるだろう。……少なくともバリーよりはよっぽど貴族らしく見える。


 でも何で俺、こんなキラキラした少年に今まで気づかなか……ああ、バリーの体の影になっていたからか。


「バリーさん。人にはそれぞれ事情があります。それを無視していきなり仲間を売れと言っても聞いてくれるはずがないじゃないですか?」


「うぅ……そ、そうだな……」


 金髪の少年の大人な意見にバリーもしぶしぶとだが納得する。いいぞ。もっと言ってくれ。


「ランディ、彼は一体誰なんだ?」


「ああ、その方は……」


「ランディさん?」


 俺の質問にランディが答えようとする前に、金髪の少年は自分の口に人差し指を当てて言葉を遮り、こちらに顔を向けた。


「初めましてゴーマンさん。僕の名前はレオン・デュランと言います。今回はバリーさんの旅に同行させてもらってます。……それで僕もバリーさんも今はお忍びですから必要以上に詮索はしないでもらえますか?」


 最後の方の言葉を小さくしてにこやかな笑みを浮かべて挨拶をしてくる金髪の少年ことレオン。今の話だとやっぱり彼もファング王国の貴族ってことか。


 よく見ると少し離れた場所から鎧を着た八人の男達がこちらを、レオンと話している俺を注意深く観察していた。どうやら彼らもランディと同じバリーとレオンの護衛なのだろう。それが全員揃ってあのように緊張しているところからして、もしかするとレオンはバリーのモブル伯爵家より上の家の御曹司かも知れない。


「こちらこそよろしく。それとさっきは助かったよ」


 助かったというのは勿論バリーの件だ。あんなのでも一応は貴族だからな。レオンが諦めさせてくれて本当に助かった。


「いえ、そんな大したことはしていませんよ。……それにバリーさんのことですから僕が言ったくらいで諦めるとは思えませんよ?」


「そうだ! いいことを考えたぞ!」


 レオンが困った表情で言うのと同時に、今までうんうんと何かを考えていたらしいバリーが大声を出した。


「……何だ?」


「ふふん。ゴーマン、喜べ。今からお前とお前の一座をぼくが雇ってやる。だからぼく達の旅に同行しろ!」


 ビシッ!


 ソーセージのような人差し指で俺を指差し相変わらずの上から目線で言うバリーだが、俺は一瞬コイツの言っている意味が分からなかった。


 俺達を雇って旅に同行させる? 一体何をどう考えたらそんな発想に至るんだ?


 俺だけでなく仲間達も、ランディも、離れた場所で話を聞いていた八人の男達も理解できないといった表情となっている。


「……ね? だから言ったでしょう?」


 ただ一人、レオンだけが俺達とは違う表情を、苦笑を浮かべて俺にだけ聞こえる音量で呟いた。

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