青の月の一日(3)「一人につき金貨五千万枚」
「えっと、ランディ? 隣にいるのは?」
「ああ、この方は……」
「ふふん。ぼくはバリー・モブル。ファング王国の貴族、モブル伯爵家の嫡男さ」
俺がランディに説明を求めると答えようとしたランディの言葉を遮って太った若い男、バリーが胸を張って名乗りだした。ファング王国の貴族? そんなのがどうして他国のここにいるんだ?
「さっきの公演は中々素晴らしかったぞ。誉めてやろう」
俺が考えているとバリーは胸を張った体勢のままで俺達の公演を誉めてきた。公演を誉められたのは嬉しいが……こんな超上からの目線の話し方をする奴とはあまり関わりたくないな。こんな奴と関わり合いになったらロクなことにならないと俺の勘が言っている。
「あ~、つまりだな、ゴーマン? 昨日言った俺の仕事っていうのはこの方達の護衛なんだよ。モブル伯爵はセネミー男爵がまだただの商人だった頃からのお得意様でな。そのツテで今回の護衛の話がセネミー男爵を通して俺に来たんだ」
「そういうことだ。護衛とはいえぼくみたいな高貴な存在とお近づきになれたんだからな。感謝しろ」
「………ええ、そうですね。はい」
腕を組んで大威張りで言うバリーにランディはひきつった笑みを浮かべて答える。それを聞いた俺達は、
(うわっ。コイツメンドクセー)
と、思った。
このバリーって男、権力を傘に威張り散らす典型的な貴族で、以前関わったイメルダよりも態度がデカイ。
……こうして考えるとランディって本当にツイていないよな。前はイメルダに振り回されて今回はこのバリーに振り回されている。ランディのステータスは見たことないけれど、きっと【幸運】は低いんだろうな。……下手をしたら二桁もないのかも。
「それでお前、名前を何と言う?」
「え? 俺? ……ゴーマン・バレム」
「そうか。ではゴーマン。お前にいい話がある。お前、あの踊り子達をぼくに売る気はないか? 金だったらお前の言い値で払うぞ。どうだ? いい話だろう?」
「………」
どこかで聞いたような台詞を言うバリーに俺は呆れて何も言えなかった。後ろにいる仲間達も呆れたようなため息をつき、ランディも手で顔を隠していた。
「どうだ? 売ってくれるよな?」
「……………一人につき金貨五千万枚」
「ごひゅっ!?」
にたにたと得意そうな笑みを浮かべていたバリーだったが俺の言った金額を聞いた途端、顔を真っ青をした。
だがそれも当然だろう。一人につき金貨五千万枚だと五人で金貨二億五千万枚になる。金貨五千万枚でも爵位を買える金額だ。そんな額、いくら親が伯爵とはいえただの跡取り息子にすぎないバリーに払えるはずがない。
「ひ、一人につき金貨五千万枚だと!? そ、その踊り子達にはそれだけの価値があるのか?」
「いやいや、バリー様。今のは『売るつもりはない』という意思表示でしょう?」
狼狽えるバリーにランディが苦笑を浮かべながら言う。
あったりまえだ。何で俺がナターシャ達を売らないといけないんだ。ちなみにもし今言った金額を出されても売らないからな。
『…………………………』
……売らないからナターシャ達よ、そんな悲しそうで恨めしそうな目で見てくるな。
 




