第十一話
「着いたよ。あれが王都だ」
ローラを仲間にしてから五日目。俺達はついに目的の王都にたどり着いた。丘の上でギリアードが指差す先には、堅牢な城壁に囲まれた大都市が見えた。
「や、やっと着いたか……」
俺は全身ボロボロの状態で肩で息をしながら呟く。ギリアードがそんな俺を見て心配そうに聞いてくる。
「ゴーマン。キミ、大丈夫かい?」
「ああ、大丈夫だ。それにしても辛い旅だったな……」
ローラを仲間にしてからの四日間は苦難の連続だった。毎日のように魔物に襲われ、傷を負わない日なんてなかった。こうして目をつぶるとこの四日間の記憶が蘇ってくる……。
《一日目》
ローラと初めて会った時に倒したケンタウルスの仲間と思われるケンタウルス五匹に襲われる。だけど冒険者二人と魔女三人というパーティー構成の俺達には大した脅威ではなく、目立った損傷もなく撃退。
戦闘終了後、「自分が一番役に立った」と主張するルピーにナターシャが反発。そのまま大喧嘩になったので俺が体をはって止めることになる。
【生命】200減少。
《二日目》
ルピー、ローラの二人と一緒に狩りに出る。額に角が狼みたいな魔物の群れに襲われるが、魔術で数を減らした後で三人で残りを倒し、被害を出すことなく勝利する。
獲物を狩った帰りにルピーがローラの背中に乗ろうとして、それにローラが「私ノ背中ニト乗ッテイイノハ、ゴ主人様ダケダ!」と大激怒。二人の喧嘩に巻き込まれる。
【生命】200減少。
《三日目》
休憩中、散歩をしていると一匹のゴブリンと遭遇。いきなり襲い掛かってきたが、今さらゴブリンの攻撃なんか当たるわけなく、攻撃を全て避けた後でバトルナイフでゴブリンの首を切り落とす。
ゴブリンを倒した後、いつの間に近づいてきていたナターシャに押し倒される。そして服を脱がされたところでローラ登場。顔を真っ赤にしたローラと不機嫌顔になったナターシャが喧嘩をしてそれに巻き込まれる俺。
【生命】200減少。
《四日目》
この日は特に魔物に出会うこともなく順調に旅が進んだのだが、夜に色々と我慢ができなくなったナターシャにさらわれ、強制的に肌を重ねることになる。
【生命】100減少。
二回戦に突入するところで俺を探しにきたルピーとローラがやって来て、この時点で魔女三人による乱戦が始まり、結局三人を静めるのに一晩かかった。
【生命】200減少。
…………あれ? あれれ!?
俺、魔物との戦闘で傷一つ負っていないよ? 俺の怪我って全部、ナターシャ達の喧嘩に巻き込まれたものだよ?
「「「………」」」
それぞれ顔を明後日の方に向けて俺の視線を避ける魔女三人。
クッ! これが新しく得た技能「魔女難の相」の効果だというのか? もう絶対、これ以上魔女の仲間は作らないからな!
「それにしても流石王都。予想以上に大きいな」
「それはそうさ。あの王都『エキドポリス』は、この『ケントルム大陸』でも有数の国家『ファング王国』の中心なんだからね」
気をとりなおした俺が言うと、この国の出身であるギリアードが自慢気に答える。
ケントルム大陸とは俺達が暮らしているこの大陸の名前で、世界の中心に位置する巨大な大陸だという。ケントルム大陸の周辺にも別の大陸があるのだが、それらは「魔族」という種族が支配していて、人間が住むことができるのはこのケントルム大陸だけらしい。
ケントルム大陸にはいくつかの国家があり、大陸南部にある諸国はそれぞれ他国と友好的な関係を築いていて戦争などは起きていないが、北部はその逆で各地で国同士の小競り合いや戦争が絶えないという話だ。
ファング王国は大陸南部にある国の一つで、貿易の中心として豊かに発展しているのだとギリアードが教えてくれた。
「ファング王国には各国から様々な物資だけでなく人も集まってくる。ここでならゴーマン、キミのことを知っている人にも会えるかも知れないね?」
「確かに。ここでなら俺の記憶探しも期待できそうだな」
「それじゃあ行こうか?」
「ああ」
☆
「そこを動くな!」
早速王都に入ろうとした俺達だったが、城壁の門のすぐ近くまで行ったところで二十人近い人数の兵士に取り囲まれてしまった。……え? 何で?
「魔物を連れ歩いて貴様ら一体何者だ!? 何が目的だ!」
兵士達は皆、手に持った槍を俺達に向けており、恐れを抱いた目で俺の後ろにいるナターシャ達魔女三人を見ていた。
「……そうだった。ゴーマンと一緒に行動していて感覚がマヒしていたけど、これが一般的な反応だよね?」
ギリアードが両手を小さく上げて苦笑を浮かべる。
「俺、ギリアードと初めて会った時のことを思い出したよ」
そういえばギリアードと初めて会った時も、ナターシャを連れていたせいで街の人達に警戒されてたな。
「俺の名前はゴーマン・バレム。隣にいるのはギリアードで二人とも冒険者です。それで後ろの魔女達はナターシャ、ルピー、ローラといって俺の僕です。俺、魔物使いなんで」
「魔物使いだと? それは本当か?」
俺の言葉に兵士達の隊長らしき男が反応する。
「ええ、本当ですよ。ステータス」
「ステータス」
俺とギリアードはそれぞれ自分のステータスを呼び出して隊長に手渡す。隊長は俺のステータスを見て「確かに魔物使いと記されている……」と呟き、それを聞いた兵士達が戸惑いながらも緊張を緩める。
「なるほど……どうやら危険人物ではなさそうだな。驚かせてすまなかったな。それでそこのゴーマン・バレムだったか? 手間をとらせて悪いが、後ろにいる魔女達のステータスも見せてもらえないか?」
「ナターシャ達のステータス?」
え、何? ステータスってナターシャ達魔物も使えるの? 隣にいるギリアードを見てみるがギリアードも知らないらしく首を横に振っている。
「私も使えるかどうかは分からないが、それでももし彼女達がステータスを呼び出せるのなら見せてもらいたい」
隊長としてはナターシャ達が野生の魔女ではなく俺の僕で、人に危害を与えないという確証がほしいのだろう。その気持ちは分かるので俺はダメ元でナターシャ達に「ステータス」と言ってくれと頼んでみる。
『ステータス』
ブゥン……。
魔女達三人が言葉を放つと同時に空中に三枚の光の板、ステータスが現れる。これには呼び出したナターシャ達を初め、この場にいる全ての人間が驚いた。魔物でもステータスを使うことができるんだな。
【名前】 ナターシャ
【種族】 蛇魔女
【性別】 女
【異名】 ゴーマンの僕
【階級】 ☆☆☆☆☆★★★★★
【生命】 250/250
【魔力】 300/300
【筋力】 50
【敏捷】 70
【器用】 60
【精神】 120
【幸運】 50
【装備】 布のブラジャー(緑)、ネックレス、腕輪
【技能】 誘惑体質、高速回復、ゴーマンの寵愛、蛇魔女流体術、眠りの魔眼、麻痺の魔眼
【名前】 ルピー
【種族】 鳥魔女
【性別】 女
【異名】 ゴーマンの僕
【階級】 ☆☆☆☆☆★★★★★
【生命】 250/250
【魔力】 120/120
【筋力】 60
【敏捷】 150
【器用】 80
【精神】 70
【幸運】 120
【装備】 布のブラジャー(青)、布のパンツ(青)
【技能】 誘惑体質、鳥魔女の眼
【名前】 ローラ
【種族】 馬魔女
【性別】 女
【異名】 ゴーマンの僕
【階級】 ☆☆☆☆☆★★★★★
【生命】 320/320
【魔力】 140/140
【筋力】 70
【敏捷】 100
【器用】 100
【精神】 75
【幸運】 45
【装備】 錆びた長剣、革の鎧
【技能】 誘惑体質、馬魔女流剣術、馬魔女流槍術、馬魔女流弓術
これがナターシャ達のステータスか。俺達のステータスとは少し違うな。
「ナターシャ達のステータスって特徴がでているよな」
魔女三人のステータスを見た俺は素直な感想を口にする。
ローラは能力値のバランスがとれていて、技能もいくつか持っていることから技巧派の戦士といった感じだ。
ルピーはローラに比べてややアンバランスな能力値で技能の数も少ないが、【敏捷】の高さと回避率と命中率を上げる技能「鳥魔女の眼」でカバーしている軽業師といったところか。
そしてナターシャは先の二人より能力値が劣るが【魔力】と【精神】は高く、技能の多さは三人の中で一番でこれは魔術師に分類していいだろう。
「これは凄いね。三人とも『二十回』クラスの冒険者並のステータスだ」
俺と一緒にナターシャ達のステータスを見ていたギリアードが驚いた顔で言う。
今ギリアードが言った二十回クラスの冒険者とは、二十回以上自身を強化した冒険者という意味だ。一部の例外を除き、普通の人間が自身を強化できる回数は二十回前後。だから二十回以上自身を強化した冒険者は世間から一流の戦士、魔術師とされている。
「一流の冒険者と遜色がないステータスか。流石は魔女。……だけど、それより気になる点があるんだけど……」
気になる点。それはナターシャ達三人が共通して持つ技能「誘惑体質」とナターシャだけが持つ技能「ゴーマンの寵愛」だ。俺はどこか嫌な予感を覚えつつ、ナターシャのステータスに触れて技能の詳細な情報を呼び出した。
【誘惑体質】
レアリティ:☆☆☆☆☆★★★★★
修得条件 :???
「生まれつき優れた容姿を初めとする他者を誘惑しやすくする全ての魔女が共通して持つ才能。低確率で他者を魅了状態にすることができる」
【ゴーマンの寵愛】
レアリティ:☆☆☆☆☆☆☆★★★
修得条件 :ゴーマンと性交渉を行う
「魔物使いゴーマンと契約した後に性交渉を行った魔女に与えられる異能。この技能を持つ魔女はこれまでゴーマンと性交渉を行った回数分、各能力が上昇する(一回につき一分上昇)。これまでの性交渉回数『9』」
「な、なんじゃこりゃあ!?」
俺は思わず大声をあげた。何だよ、この「ゴーマンの寵愛」って技能は!? 何で俺がナターシャと寝た回数が正確に記録されているんだよ!?
『………………………』
気がつけばギリアードと兵士達が呆れたような、羨ましがるような視線で俺とナターシャを見ていた。
……あまりの恥ずかしさに死にたくなった。