聖王暦八百六十年 緑の月の十二日(2) 「やっぱり俺達への怨みでゾンビになったのか?」
「ワイらが殺した盗賊団ってアレかいな? ワイらの盗賊狩りで最初の獲物になったっちゅう、あの?」
「最初は随分と偉そうな物言いだったが、実際はたいして強くなかった賊徒どもか」
「自分達はこの辺りで一番強い、とか言ってたけどあまり金を持っていなかった、あのショボい盗賊達ッスよね?」
「ああ……。私達をイヤらしい目で見ていたあの下種共か」
「思い出したのである。ゴーマンが考えた、ナターシャ達をエサにしてならず者を誘い出して金品を奪い取る……確かダンが『ツツモタセ』と呼んでいた作戦に見事に引っ掛かった奴等であるな。すっかり忘れていたのである」
ゾンビ達の姿を確認した俺の言葉にアラン、ルーク、ダン、イレーナ、ミストンが口々に言う。
……お前ら。確かにその通りだけど、それは言い過ぎだろ。
「あの盗賊団って、前の街で死体を確認されたって聞いたけど、その後でゾンビになったのか? でもどうして急に? お前達、何か分からないか?」
仲間達に意見を聞いてみるとテレサが少し考えてから口を開いた。
「……私はゾンビにはあまり詳しくないけど、考えられる理由は二つあるわ。一つは魔術師が死体に魔術をかけてゾンビにする。もう一つは生前の怨みが強すぎて自然とゾンビになる」
「なるほどな。でも死体をゾンビにするような魔術師なんて知らないし、盗賊団と戦った時もそんな魔術師が仲間にいた気配はなかったし……。だとしたらやっぱり俺達への怨みでゾンビになったのか?」
テレサの説明に俺がそう漏らすと……、
「ルピー、貴女のせいではないのですか? 貴女が虫の手足をもぐように盗賊の指やら耳を少しずつ切り落として殺すなんて残酷な事をしたから怨まれたのです」
「えー? あれくらい普通だよ。それよりローラが原因じゃないの? ほら、あの時ローラってば盗賊がお兄ちゃんからもらった鎧に触ろうとしたら、剣でその手を切り落として、その後ズタズタに切り裂いたじゃない?」
「あっ、あれは当然の報いだ! そ、それよりギリアードが魔術の矢で盗賊を蜂の巣にしたのが原因だと思うぞ!」
「いやいや、何でそうなるのさ? イレーナさんに汚ならしい欲情の目を向けた犯罪者なんて、ああなって当然じゃないか? それよりアランが毒で動けなくなった盗賊の首をかき切ったから怨まれたんじゃないかな?」
「それはしょうがないやん? ワイ、ロクに魔術も使えん普通の人間やで? それであんな大勢の盗賊を相手にするならああするしかないやん? というよりメイスで頭をぶっ潰したルークの方が怨まれとるんちゃう?」
「あれは正当防衛である! 自身の命を守るために戦い、その結果として他者の奪うことはイアス様もお認めになられておる! それよりも拙僧はステラの盗賊の死体で遊ぶ行為にこそ問題があると思うぞ? 死体を折り曲げて花冠らしき輪っかを作るなど、正直肝が冷えたぞ」
「そうですか~? あの輪っか~可愛いと~思ったんですけど~。でも怖いと言ったら~ダンさんが~盗賊の人に変身して~変身した方と戦っていたのも~怖かったです~」
「え? そうッスか? いや、相手の意表をつくいい手だと思ったんスけどね。でも俺なんてまだ可愛い方だと思うッスよ? 俺、アルナが盗賊をサンドバッグにして文字通り死ぬまで殴っているのを見て寒気が走ったッスよ。……俺、いつもあんな風に殴られていたんスね」
「イエ、私ナド大シタコトハアリマセン。ソレヨリ私ハ、イレーナガ獲物ヲ狩ル狩人ノ目デ盗賊ヲ狩ルオ姿ニ背筋ガ凍リマシタ」
「いや、私はいつも通りに弓で戦っていただけなのだが何故そこまで言われないといけないのだ? 私はむしろ怨まれる原因はミストンにあると思うぞ? 盗賊を自作の毒薬の実験台にして殺すなど正気の沙汰ではない」
「実験に犠牲は付き物なのである。あの盗賊達も小生の実験に参加できて光栄だと思っているはずなのである。小生よりも、人間の女の姿で誘い出した後で魔女の姿で絞め殺すナターシャの方が怨まれるはずなのである」
と、仲間達が一斉に罪のなすりつけあいを始めやがった。
お前ら、あの時そんなことをやっていたンかい。それは怨まれても仕方ないな……。
「……あなた。あなた一人だけ関係ない、て顔をしているけど、あなただって毒の槍で盗賊団の団長を貫いたり酷いことをしているんだからね?」
「黙れよテレサ。そう言うお前だって盗賊を攻撃魔術の実験台にしていたのを俺知っているんだぞ?」
「……」
冷めた目で俺に指摘してきたテレサだったが、俺が言い返すと無言で目をそらしやがった。
まあ、要するにここにいる全員が盗賊団がゾンビ化するくらいの怨みを懐かれているってことか……。




