聖王暦八百六十年 緑の月の十一日(5)
インフルエンザで倒れた後に仕事の忙しい日々が続いて更新が遅れました。申し訳ありませんでした。
「はぁ……はぁ……。何とか……完食できたな……」
月が高く上った深夜。ナターシャ達が作った料理を何とか完食した俺は自然と震える声で呟いた。
ナターシャ達の料理。あれは強敵だった……。
味は勿論だが食感も独特すぎて、食べている途中で何回も気を失ってしまった。正直、あの料理のことはもう思い出したくもない。
「師匠、お疲れさまッス」
俺が魔動馬車に背中を預けて乱れた呼吸を整えていると、ダンが水の入ったコップを差し出してきた。
「すまないな、ダン。ありがとう」
礼を言ってダンからコップを受けとると一気に中身を飲み干す。……うん。口の中に残っていた料理のイヤな後味と匂いが消え去っていい感じだ。
「……それにしてもナターシャさん達があんな料理を作ってくるなんて意外だったッスね? 俺、ナターシャさん達はもっと料理が上手だと思っていたんスけど」
ダンはナターシャ達が作った料理を思い出したのか、顔をしかめながらそんなことを言い出す。
「いや、ナターシャ達はあれでも結構料理は上手だぞ? 料理をしたことがないのはテレサだけだな」
生前が人間の令嬢で今まで料理をしたことがなかったテレサはともかく、他の四人は慣れたもので前に人間の料理を作ってもらった時は中々旨かったのを思い出す。
ちなみに俺が食べた料理の中にあった消し炭のような物体。あれがテレサが作った料理で、本人が言うには「豚肉のステーキ」らしい。ふざけんな。あんな硬くて苦くて喉につまるステーキなんか俺は認めん。
「え? そうなんスか? でもだったらどうしてあんな料理に?」
「簡単だ。ナターシャ達は『自分達が最も旨いと思う料理』を作ったんだが、それが人間の味覚に合わなかっただけだよ」
ナターシャ達は人間とは違う種族だからな。人間とはいろいろ異なる点は当然あるし、このぐらいの違いはまだ可愛い方だろう。
「まあ、ようするに異種族と付き合うには苦労が多いということだ。お前も頑張れよ、ダン」
「師匠が言うと説得力が違うッスよね」
「伊達に魔女五人の主人をやってる訳じゃないからな。俺をナターシャ達に食われるだけの男だと思うな」
「………………ナターシャさん達が肉食系なのは知っていたッスけど、師匠もそれに負けないくらい肉食系ッスね。……男として尊敬したらいいか軽蔑したらいいか分からないくらい」
「そうじゃないとやっていけないからな。……さて、と。今日の分の日記を書かないとな」
今日は一体何を日記に書こうかな? やっぱりナターシャ達の料理の感想か?
「……って、アレ? なんか向こう騒がしくないッスか?」
「何?」
日記に何を書こうかと考えているとダンが別の方向を見て呟く。……言われてみたら、向こうにいるビト達の隊商がなにやら騒がしいな。一体どうしたんだ?




