聖王暦八百六十年 緑の月の十一日(2)
「ナターシャ、ルピー、ローラ、ステラ、テレサ。気持ちよく寝ているところを悪いが起きてくれ」
荷造りを仲間達に任せた俺は、部屋で眠っているナターシャ達の体を揺すって起こす。ナターシャ達は一糸纏わぬ全裸で眠っているため、体を揺する度に色んなところが「揺れて」思わず劣情が沸き起こりそうになったが、とりあえず今は我慢する。
「……ん。ゴーマン様、お早うございます」
「ふにゃ? もう朝なの……?」
「まだ日も昇っていないようですが……何かあったのですか?」
「んん~。まだ~眠たい~です~」
「あなたもう起きたの? 随分と早いのね……」
「五人とも起きたか。それじゃあ早速で悪いけど、準備をしてくれ」
ナターシャ達が起きたのを確認すると、彼女達に今日外に出ていたギリアード達が街で大騒ぎを起こしたせいでこの街にいられなくなり、急いで別の街に旅立たないといけなくなったこと手短に説明した。すると説明を聞き終えたナターシャ達は揃って呆れたようにため息をつく。
「はぁ……。あの人達は一体何をしているのでしょうか? ギリアード、アラン、ルーク、ダンの四人は仕方がないとしても、まさかアルナとイレーナさんまで騒ぎを起こすだなんて……」
ナターシャの意見には俺も同じ気持ちだ。男四人はある程度覚悟していたのだが、アルナとイレーナの二人の常識人までもが、だなんて想像すらしていなかった。
「とにかくそういう訳だから早く着替えてくれ。ギリアード達の準備が整い次第この街を出るぞ」
『はーい』
☆
ナターシャ達が着替えを終えてギリアード達が旅立ちの準備を整えるころにはすでに日が昇って朝になっていたが、幸いにもまだ通行人の姿はなく俺達は誰にも気づかれることなく街の門まで行くことができた。門には流石に警備の門番が数人いたが、いつも以上に愛想を振りまくナターシャ達のお陰で門番達の集中力が鈍り、適当な検査をするだけであっさりと街の外に出ることに成功。
ギリアード達から聞いた騒ぎの大きさから、街の人間も本腰を入れて騒ぎを起こしたギリアード達を探しているはずなのだが、こうも簡単に街を抜け出せるとは……。ナターシャ達の外見というか誘惑体質って便利すぎない? というか……、
技能でステータス情報を改竄してから旅芸人と偽って街に侵入。侵入をしたら二十回クラスに近い冒険者数名と魔女を使って街の各地に同時で大騒動を起こす。そして捕まる前に速やかに街から脱出する。
……………この数日の出来事を冷静に振り返ってみると、俺達ってば冒険者や旅芸人より潜入工作員とかの方が向いていたんじゃないだろうか? もしくは盗賊団とか暗殺団とか……。
まあ、潜入工作員も暗殺団もよっぽど大きな後ろ盾がない限り「仕事」をしても割に合わなさそうだし、すぐに捕まりそうだからやらないけどね。大きな後ろ盾なんてそうそう簡単には見つからないだろうし、やっぱり金はこれからも地道に旅芸人の公演と盗賊団狩りで稼ぐことにしよう。
 




