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第十話

「……デ、デモ、私ト戦ウノガソンナニ怖イナラ、許シテアゲテモイイ」


「どういうことだ?」


 ナターシャとルピーの絶対零度の視線を背中に受けて冷や汗を流していた俺は、サントールの突然の言葉に首をかしげた。


「オ前、確カニ私ニ乗ッタケド、ソノ前ニケンタウルスカラ助ケテクレタ。サントールハ、受ケタ恩ヲ忘レナイ。ダカラオ前ガ私ノ主ニナレバ、戦ワナイデスム」


 横目でこちらをちらちらと見ながら徐々に小さくなっていく声で話すサントール。……これってつまり、遠回しに「私の主になれ」って言われているってこと? もしそうだとしたら随分と気に入られたものだと思う。


 バサバサッ!


 シュルルッ!


「おわっ!?」


 サントールの話を聞いた途端、ルピーが俺の前に舞い降り、ナターシャが体に絡みついてきた。そしてそのまま二人は敵意がこもった目でサントールを睨み付ける。お前ら、普段は仲が悪いくせに何故こういうときだけ抜群のコンビネーションを見せる?


「本当にゴーマンは人気者だね? ここまでくると流石に妬ましくなってくるよ。…………………………うん、妬ましいよ」


 ぎ、ギリアード? 一体どうしたんだ? 最後あたり、黒いオーラを出していてめちゃくちゃ怖かったんだけど!?


「ラミアニ、ハーピー……? オ前、モシカシテ魔物使イカ?」


 ここでようやくナターシャとルピーに気づいたサントールが眉を寄せて聞いてくる。


「ああ、そうだ。魔物使いを知っているのか?」


「知ッテル。魔術ニ頼ラズ、自分ノチカラダケデ私達魔物ト戦イ、倒シタ魔物ヲ従エル、珍シイ人間ノ種族」


 どうやら魔物使いは魔物達からも珍しいものとされているみたいだ。


「オ前ガ魔物使イナラ、話ハ早イ。オ前ガ勝テバ、私ハオ前ノ仲間ニナル。私ガ勝ッタトシテモ、私ハオ前ヲ殺サナイ。サントールニトッテ、掟ハ絶対。私ハオ前ヲ主ニスルカ、勝タナイト群ニ帰レナイ。ドウカ戦ッテホシイ」


 そこまで言ってサントールは俺に頭を下げる。このように頼まれた以上、俺の答えは一つしかなかった。


 ☆


「それじゃあ準備はいいか?」


「……」


 俺が契約の儀式を行う陣の中に立ち、同じく陣の中に立つサントールに聞くと、サントールは真剣な表情で小さく頷いた。陣の外にはナターシャ達が待機しており、彼女達は陣の外から応援をしてくれて……、


「オ兄チャンナンカ負ケチマエー」


「………負ケチマエ」


 応援をしてくれてない!? 何だよお前ら、そんなに俺が魔物と契約するのが嫌なンかい!


「ふふっ。ここは空気を読んで、負けてしまえ、と言うべきだろうね?」


 ギリアード、お前まで!? チックショウ! 味方はどこだ! 味方は!


 思わず叫びたくなる衝動をこらえて、俺は目の前のサントールに意識を集中する。サントールは出会った時のような裸ではなく、胸のあたりに木片を縫い付けた皮の服を着ていて、腰に錆び付いた長剣を下げていた。


 ……ちっ。あ、いやいや! 舌打ちなんかしていませんよ!? サントールの装備は俺が旅を始めた頃の装備のような貧相なものだったが、それでも俺はサントールがかなりの実力を持っていることを直感で理解する。


「始めるぞ」


「アアッ!」


 サントールは腰の剣を抜くと、一旦距離を取り、助走をつけて俺に向かって飛び込んできた。そしてサントールは両前足を槍のように前に突き出した。


「くっ!」


 ズドン!


 右に飛んで攻撃を避けると、サントールは一瞬前まで俺がいた場所を通り過ぎ、両前足から着地する。いや待て、着地するだけで「ズドン」って音がするなんておかしいだろ? あんなのマトモにくらったらただじゃすまないって。サントールの奴、俺を殺さないって、言ってなかったっけ?


 その後もサントールは飛び込み攻撃を繰り返してきて、俺はそれに苦戦を強いられることになる。左右に逃げたら剣や体当たりの追撃が、後ろに回り込もうとしたら両後ろ足の蹴りが飛んでくる。クソッ! 隙がない!


 このサントール、昼間戦ったケンタウルスよりずっと強いぞ。それでもケンタウルスに追い回されていたのは、武器を持っていない時に隙をつかれたってところだろうか?


「あのサントール、すごい本気だね。ゴーマンの仲間になりたそうにしていたから、手加減をすると思っていたんだけど?」


「………違ウ。仲間ニナリタイカラ本気デ戦ッテイル」


 外野にいるギリアードの呟きに答えたのはナターシャだった。


「私達魔物ハ、チカラガ全テ。他者ニ従ウトキハ、相手ガ自分ノチカラヲ越エテ、イザトイウトキニ自分ヤ自分ノ子ヲ守レルチカラガアルカヲ見ル。アノサントールハ、本当ニゴーマンノ仲間ニナリタイト思ッテイル。ダカラ本気デ戦ッテ、自分ヲ越エルチカラヲゴーマンガ持ッテイルカ確カメヨウトシテイル」


 ギリアードとナターシャの会話は俺の耳にも届いていた。なるほどな。サントールがそんなふうに俺に期待しているのだったら、俺も弱音をはいていないで本気で相手をしてやらないとな。


 現金なものでナターシャの話を聞いてやる気が出ると身体中に力が入ってきた。気合いを入れ直した俺は目の前のサントールを見て、どうやって攻略しようかと考えているとその時……、


 ピロロン♪


 頭の中でステータスが更新される音が聞こえ、同時に今までは大体予測できる程度だったサントールの動きがはっきりと分かり予測できるようになった。


 サントールが体のどの部分を動かすのか、攻撃がどのような軌道を描いてどこまで届くのか。例えるならば空中に見えない線があって、サントールの動きがその線をなぞっているような感じ。恐らくさっきのステータス更新の音は新しい技能を得たことを意味していて、サントールの動きを見切れるようになったのは新しい技能のおかげなのだろう。


「これならいけるか?」


 サントールは飛び込み攻撃を仕掛けようとしていたが、攻撃の軌道を読めるようになった俺はバックステップを三回行い、サントールの攻撃が届きそうでギリギリ届かない距離を取った。


 ズドンッ!


 飛び込み攻撃が失敗したサントールは、俺の目の前に着地すると同時に剣を降り下ろすが右に飛んで回避。そのまま俺は「蛇魔女流体術」の動きでサントールの馬の下半身に乗って背後に回り、バトルナイフの刃をサントールの首に当てた。


「勝負アリ、だな」


「……ハイ。私ノ負ケデス。……ゴ主人様」


 サントールは最初、強張った表情でバトルナイフを見ていたが、すぐに敗北を認めると微笑を浮かべて答える。それと同時にサントールの胸から光の玉、彼女の魂が出てきて俺の胸の中に入っていった。


 ☆


「お前の名前はローラだ。これからよろしくな、ローラ」


「コチラコソ、ヨロシクオ願イシマス。ゴ主人様」


 契約の儀式が終わった後、新しく仲間になったサントール、ローラに名前をつけると彼女は丁寧な口調で挨拶を返す。その姿はまるで主君を前にした騎士のようだった。


「「………」」


 そんな俺とローラの姿を面白くなさそうな表情で見るナターシャとルピー。あの二人、完全に怒っているな。これは機嫌を取るのが大変そうだ…………ん?


 ピロロン♪


 頭の中に本日二度目のステータス更新を知らせる音が流れる。更新内容はローラを仲間にしたことだと思うが、さっきの戦闘で得た技能が気になるのでとりあえずステータスを呼び出してみることに。



【名前】 ゴーマン・バレム

【種族】 ヒューマン

【性別】 男

【戦種】 魔物使い

【才能】 20/23

【生命】 1000/1000

【魔力】 200/200

【筋力】 100

【敏捷】 100

【器用】 100

【精神】 100

【幸運】 100

【装備】 バトルナイフ、冒険者の服(白)、旅人のマフラー(紫)

【技能】 才能限界上昇、自己流習得、魔女難の相、蛇魔女の主、鳥魔女の主、馬魔女の主、蛇魔女流体術、鳥魔女の眼、弓矢系雷撃魔術(1)



 んん? 三つ新しい技能が増えているけど、何だこの技能は?


 まず最初に「馬魔女の主」は分かる。ローラを仲間にしたことで得た技能だ。


 次に「鳥魔女の眼」もまだ分かる。多分これがさっきの戦闘で得た技能だろう。


 でも「魔女難の相」という技能。これは何だ?


「ギリアード。この技能、何だと思う?」


「……さあ? どれも初めて見る技能ばかりだ。『馬魔女の主』と『鳥魔女の眼』は大体想像がつくけど、『魔女難の相』というのはどんな技能なのかまったく想像がつかないな」


 ギリアードに聞いてみても分からないと言うので、ステータスの文字に触れて技能の詳しい情報を見てみる。



【馬魔女の主】

レアリティ:☆☆☆☆☆★★★★★

修得条件 :馬魔女族の魔物を仲間にする。

「《契約の儀式》によって力を示し、馬魔女を従えた者に与えられる異能。自分の視界に仲間にした馬魔女族の魔物がいた場合、その馬魔女族の魔物の全能力を1割上げる。」


【鳥魔女の眼】

レアリティ:☆☆☆☆☆★★★★★

修得条件 :《自己流習得》がある状態で鳥魔女の戦いを目撃する。

「鳥魔女の相手の動きを予測する戦いを観察することで得られる見切りの戦闘技術。この技能を持つ者は常時回避成功率と攻撃成功率が3割上がる」


【魔女難の相】

レアリティ:☆☆☆☆☆☆☆☆★★

修得条件 :《契約の儀式》で魔女を三回連続で呼び出して仲間にする。

「《契約の儀式》で現れる確率が低いとされる魔女を三回連続で呼び出して仲間にした、実力と強運を兼ね備えた者に与えられる才能。《契約の儀式》で魔女を呼び出せる確率が大幅に上がり、逆に魔女以外の魔物を呼び出せる確率が大幅に下がる」



「……」


 俺はステータスに記された新しい技能「魔女難の相」の情報を無言で見ていた。契約の儀式で魔女を呼び出す確率を上げる技能だと……!


「これはすごいね。ゴーマンにとっては夢のような技能なんじゃないかな?」


 隣にいたギリアードがステータスを見ながら寝言をほざく。夢のような技能? 逆だ。むしろ悪夢のような技能だよ!


 俺は今、ナターシャ、ルピー、ローラと三人の魔女を仲間にしている。この上さらに新しい魔女を仲間にしたらどうなると思う?


 ローラはまだよく分からないが、ナターシャとルピーの機嫌はまず間違いなく悪くなり、二人の機嫌を直すために俺が多大な労力を支払うのは火を見るより明らか。それに仲間が増えるということは食費や宿代、服代といった出費が増えるということで、ただでさえ金欠ぎみな俺の財布には辛すぎる。


 要するにこれ以上魔女の仲間を増やすことは、体力的に、精神的に、経済的に、俺が破滅することを意味している。


「……………………もう絶対、契約の儀式はしない」


 俺は絞り出すような声で言うと、契約の儀式を封印することを心に固く誓った。

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