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聖王暦八百六十年 緑の月の九日(1)

「よし。今日は俺達六人でこの街を見て回るぞ」


 初公演が大成功で終わった次の日。俺が宿屋の部屋で昨日の踊り子役だった魔女五人に言うと、ナターシャが手をあげて聞いてきた。


「あの……。今日は公演をしなくてよろしいのですか? 予定でしたら二日か三日は続けて公演をするはずだったのでは?」


「ああ、構わない。昨日の公演で予想以上の収入が入って、当面の生活費と旅費が確保できたからな。それにアラン、ルーク、ダンの三人が昨日の護衛役で疲れきっていて使い物にならないんだ」


 ナターシャに答えて俺は首を横に向けて壁を見る。この壁の向こう、隣の部屋ではアラン達三人が泥のように眠っているだろう。


 実は昨日の公演、演奏中に観客達の一部が舞台に上がろうとする出来事が何度もあったのだ。それも一人や二人ではなく十数人もの観客達がだ。


 舞台に上がろうとする観客達をアラン達が必死で押し止めていたあの時の光景はまさに激戦といった感じだった。アラン達も冒険者として高い実力を持っていたが、それでもあの人数を止めるのは大変だったようで「モンスターとの戦いの方がまだマシだ」と三人共口を揃えて言っていた。


 俺の説明にナターシャ達も昨日の舞台の様子を思い出したみたいで納得した表情で頷く。ただ一人だけ、


「あら~? 皆さん~そんなに~私達と~踊りたかったのでしょうか~?」


 と、首を傾げながら言うステラはある意味大物だと思う。


「まあ、とにかく。ミストンは魔動馬車の整備と研究でいない。ギリアード、アルナ、イレーナの三人も今日はアラン達の看病をしながら留守番だ。だから今日は買い出しを兼ねて街を見て回る。それでいいな?」


『はい』


 俺はナターシャ達五人が頷いてくれたのを確認すると、彼女達を連れて街に出ることにした。


 ☆


「…………………………………………………まいったな」


 宿屋を出てしばらくして、俺は自分の失敗に内心で頭を抱えていた。


 俺達は今、この壁の大通りを歩いていた。……そう、昨日旅芸人の格好をして宣伝をしながら練り歩いた大通りを、だ。


 今日のナターシャ達は踊り子の服ではなく普段の服を来ているが、それでも普通の人から見れば踊り子の服と大差無い水着(テレサを除く)なわけで……。つまり何が言いたいかというと……凄く目立っていた。

 

「おい、あれって昨日の踊り子達じゃないか?」「ああ、間違いない」「今日は公演をしないのか?」


 どうやら昨日の公演の評判は街中に広まっているらしく、大通りで店を開いている店員だけでなく通行人のほとんどが俺達に注目しており、俺達を見ながら話す声が聞こえてくる。だがそれはどうでもいいとして問題は……、


「あの男、確か一座の座長だよな?」「まさかアイツ、いつも踊り子達をあんな格好で連れ回しているのか?」「なん……だと……!?」「それは羨まし……いや、許せん!」


 問題はこの、通行人の男達が俺に向ける嫉妬の視線だ。俺のことを知らないせいか、何だかファング王国の男達よりもキッツイ視線を向けてきている。


 もしかして俺ってば、この先ずっと旅先でこんな視線にさらされなければいけないのか? そう思うと凄く憂鬱な気持ちになるのだが……。


 ……………………………………旅を止めてファング王国に帰ろうかな?

男には殺される寸前まで妬まれ、

魔女には死ぬ寸前まで吸いとられる。

これが魔王(?)の宿命。(by作者)

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