聖王暦八百六十年 緑の月の八日(3)
着替えを済ませた俺達は、宿屋の従業員に公演ができそうな場所を聞くと、早速初公演をするべくその場所に向かうことにした。
街の大通りは魔動馬車で通ってもまだ余裕があるほど広く、俺とミストンは魔動馬車に乗って他の仲間達は馬車を取り囲むように宣伝をしながら大通りを練り歩く。すると歩き始めてすぐに周囲の視線が俺達に集まった。
「見られておるな」
「見られているな」
御者席に座って魔動馬車を運転しているミストンに隣に座りながら答える。
そういえばファング王国にいた時も、最初はナターシャ達のお陰でこんな風に注目を集めていたな。まあ、今回はあの時と違ってこちらから注目を集めようとしているのだがな。
「やっぱり綺麗な女性が派手な格好をしていると人の目の集まりも違うな」
俺はそう言うと馬車の側を歩く踊り子の格好をしたナターシャ達、俺に従う魔女五人の姿を見た。
まずナターシャは、身に付けているのは下半身の水着(それも普段の水着よりも布地がはるかに少なく股間を最低限隠せているだけ)で、上半身は裸。塗料で描いた蛇で乳首を隠しているという格好。
ルピーは色とりどりの石を繋ぎ会わせたヒモで乳首と股間を隠し、手足と背中に鳥の羽根の飾りをつけている。
ローラは両腕両足に銀色に輝く甲冑を着けて、胸と股間を同じく銀色に輝く極小の金属片で最低限隠すというビキニアーマー姿。
ステラは基本的には普段と同じく水着姿なのだが、ちなみに布地は普段のよりずっと少なく、ヒモの部分も彼女の超乳に食い込むようにキツめにされている。
最後にテレサは、乳首と股間をシールで隠しただけの裸の上に、前が大きく開いた向こう側が透けて見える布地のドレスを着ていた。
ちなみ彼女達の衣装のデザインはノーマンさんだ。案を出してくれたのはありがたいし眼福だが、あのエロジジイめ、と思う俺は悪くないと思う。
「うん。やっぱり五人とも綺麗だな。これなら初公演成功、間違いなしだ」
「それは自分の魔女達の自慢であるか? ……だがしかし若干集めすぎではないか?」
「? どういうことだ?」
「後ろを見てみるのである」
ミストンに言われて馬車の後ろを見てみると、そこには予想以上に大勢の人達……それも男ばかりがナターシャ達の姿を近くで見ようと俺達の後をついてきていた。しかも俺達の後についてくる人達はまるで強い酒に酔っ払ったように顔を赤くし、目はナターシャ達踊り子役の五人しか見ていなかった。
……というか何アレ? 明らかに目がヤバいんですけど?
「ど、どうしたんだあの人達?」
「確か……。魔女には自然に人を誘惑する技能があると聞いたことがあるのであるが……そのせいではないか?」
誘惑体質だったか? 俺でも存在を忘れていた技能だったのによく知っていたなミストン?
今まで効果が発揮される所は見たことなかったが、それがここで発揮されたってことか? にしても効果がありすぎないか?
「ふむ……。ゴーマンよ? ふと思ったのであるが、あの後ろについてくる男共に『お前達が欲情しているナターシャ達はゴーマンの所有物である』と言ったらどうなるであろうな? ……試してもいいであるか?」
「いいわけあるか!? お前、それ絶対あの人達に言うんじゃないぞ!!」
ミストンの奴、何恐ろしいこと言っているんだ!? そんなことをしたらファング王国にいた時と同じ……いや、それ以上の嫉妬を向けられるに決まっているだろ!?
この街を俺の最後の地にするつもりか!?
 




