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聖王暦八百六十年 緑の月の八日(2)

 無事に街に入ることができた俺達は、それなりに大きな宿屋を見つけると、そこで個室を三つ借りることにした。


「流石に個室を三つも借りると宿泊費も馬鹿にならないッスね」


「……ああ、全くだ。盗賊団から奪った金がなかったらキツかったな」


 俺は若干軽くなった財布の重さを確かめながらダンに答える。


 宿屋には十人以上の大人数が一緒になって雑魚寝する大部屋と、三人か四人くらいの少人数だけで泊まる個室があり、当然のことながら大部屋よりも個室の方が宿泊費が高い。俺達のような大人数の集団だったら、個室を三つ借りるより大部屋を一つ借りた方が宿泊費の節約になるのだが、俺達には高くついても個室を借りる必要があるのだから仕方がない。


「俺達のパーティーは半分が女で、しかもその正体が人間じゃないからな。秘密を守るには個室を借りるしかない」


 大部屋を借りた場合、他の宿泊客と泊まることになってナターシャ達の正体が知られる危険がある。前にいたファング王国の人達は、魔女の姿をしたナターシャ達を割りと簡単に受け入れてくれたが、ここの人達はどうなのか分からないので、出来る限りナターシャ達の正体は隠しておくべきだろう。


 こうなると臨時収入となってくれた昨日の盗賊団には少しくらい感謝してもいいかもしれないな?


「でもそれだけじゃないんやろ? 大部屋やったら夜の『お楽しみ』もできんしな?」


 俺とダンの話を聞いていたアランが意地の悪い笑みを浮かべて話に入ってくる。


 ふざけんな。俺が「それ」目的で個室を借りたみたいな言い方するな。


「そんなわけないだろ。部屋の人数ギリギリなんだから、ナターシャ達にもしばらくは我慢してもらうさ」


「しかしその我慢もいつまで続くか分からんぞ? 現にさっきもナターシャ達が個室をもう一つ借りようとしていたからな。イレーナとアルナに止められたが」


「マジかよルーク? ……ナターシャ達、何勝手なことをやっているんだよ?」


 それを止めてくれたイレーナとアルナ、本当にありがとう。お前達だけだよこのパーティーの良心は。


「まあいい。とにかく皆、早く着替えてくれ。これから『仕事』なんだから」


 俺は部屋にいる皆に言うと早速用意していた服に着替える。今から着替えるのは旅芸人用の派手な意匠の服で、これを着たらいよいよ旅芸人としての初公演だ。


 旅芸人の役割はまず俺が座長役。


 ナターシャ、ルピー、ローラ、ステラ、テレサが踊り子。


 ギリアード、アルナ、イレーナが演奏役。


 アラン、ルーク、ダンが護衛役。


 最後にミストンが「舞台」の調整役となっている。


「ミストン。『舞台』の準備は大丈夫なのか?」


「うむ。このミストン、抜かりはないのである。今日の公演は大船に乗ったつもりでいるのである」


「それよりゴーマン? やっぱりボクのこの衣装、何とかならないかな?」


 俺がミストンと話しているとギリアードが不満そうな顔で自分の衣装を見ながら口を開く。


 ギリアードの衣装は見映えのするローブで「女用」の衣装だ。つまり彼は女装して演奏役に入るということで、それが不満なのだ。


「ギリアード、女装のことはもう散々話しただろ? 演奏役になるとナターシャ達踊り子と同じ舞台の上に上がるんだから、一人だけ男を混ぜるより全員女の方が客も食いつくんだって」


 ちなみにこれは俺だけの意見ではない。ギリアードが女装した方がいいというのは、本人以外の全員の意見である。


「お前だってイレーナの隣で演奏するってことで納得しただろ?」


「……分かっているよ。言ってみただけさ。でもイレーナさんの隣で演奏することだけは譲らないよ。分かっているよね?」


「ああ、分かったよ」


 そんな事を話している内に着替えを終えると、俺達は女性陣が着替えている隣の部屋に訪れた。


「俺だ。もう着替えは終わったか?」


『はい。大丈夫です』


「開けるぞ………………おお、これは」


 ナターシャからの返事が来たので俺がドアを開けるとそこには桃源郷が広がっており、思わず声を漏らしてしまった。


 旅芸人用の衣装に着替えた女性陣の姿を見た俺は、今日の公演が成功することを確信した。

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