聖王暦八百六十年 緑の月の七日(2)
「……随分と簡単に終わったな」
俺、ゴーマン・バレムは足元に転がっている盗賊団のリーダーの死体を見下ろしながら呟いた。他の盗賊団は俺の仲間達が倒していて、生き残っている奴はいないだろう。
「彼らはボク達をただの旅芸人だと油断していたからね。それにナターシャ達が魔女だと知って驚いていたし、浮足立った敵を倒すのはそう難しくないよ」
俺の独り言に傍まで来たギリアードが返事をしてくれたのはいいが……何か怒ってないか、コイツ?
「ギリアード? 何を怒っているんだ?」
「別に大したことじゃないさ。たださっきまで盗賊団にいやらしい顔でみられていてね。それが少し不快だっただけさ」
そういうことか。確かにギリアードは頭に超が付くくらいの女顔の美形だからな。初対面の盗賊団に女として見られてもしかたないか。
「まったく……ボクは人間の男に見られて喜ぶ趣味なんか持っていないんだよね。これがエルフだったら女性でも男性でも、ボクは喜んで全てさらけ出して……」
「そこで止めろ、ギリアード。お前がそれ以上言うとシャレにならない。……ローラ。悪いけど盗賊団の装備品で高く売れそうなものだけ集めてくれ。他の皆は盗賊団が持っている所持金を回収してくれ」
「ハイ」
俺が指示を出すとこの中で一番目利きがきくローラが盗賊団の武器や防具を鑑定し、他の仲間達が盗賊達の死体から財布を抜き取っていく。
「なんというか……。ゲームでは何度も倒した盗賊から金をもらっていたんスけど、リアルでやると罪悪感がハンパないッスね?」
盗賊の死体の懐をあさりながらダンが苦笑を浮かべながら文句をこぼす。
「先に殺そうとしてきたのはコイツらだ。自業自得だよ。それに旅費は少しでも多いほうがいいだろう?」
旅の準備でかなり散財して懐も寂しくなっていたからな。いい臨時収入ができたと思うことにしよう。
「その通りですゴーマン様。勝者が倒した獲物から糧をを得るのは正しいことです。それにしても無害な旅芸人を装って襲ってきた盗賊達を逆に狩るとは流石はゴーマン様。見事なお考えです」
「いや、違うんだナターシャ。これはダンの話を聞いていて思いついたことなんだ」
「えっ!? 俺ッスか?」
俺とナターシャの話を聞いていたダンが自分を指さして叫ぶ。そんなに意外だったか?
「ほら、前にお前が話してくれただろ? 女性の魔術師が旅先の盗賊団はかたっぱしから倒して、そいつらの財宝を自分のものしている話。それを聞いて思いついたんだ」
「あー……。そういえばそんな話もしたッスね。でもいくら思いついたからって、本当にやることはないんじゃないッスか? か弱い女性だと思って襲ったら実は魔物だった、だなんて質の悪い逆盗賊……というより人を襲う妖怪みたいッスよ?」
「妖怪って魔物のことか? だったらそんなに間違ってないだろ? 俺はその魔物を従える魔物使い、魔王ゴーマンだぜ?」
「師匠……実はそのアダ名、気に言っていたんスか?」
飽きれ顔で聞いてくるダンに俺は軽く肩をすくめるだけで答えた。
前にファング王国にいた時は嫌で仕方なかったアダ名だったが、こうしてファング王国を離れるとこのアダ名も懐かしく感じられる。
目的の街までもう少しだ。俺達は倒した盗賊団から戦利品を回収すると旅を再開した。
 




