第九十八話
「旅芸人となって旅をするのはいいが、それならば門番を誤魔化す術も考えないとな」
旅芸人としてどんな芸を見せるのか決まると、イレーナが次の問題をあげる。
しかし門番を誤魔化す術? 確かに王都や大きな街は入り口に門番がいて、中に入るにはステータスを見せないといけないのだが……。
「門番を誤魔化すって、俺達が?」
「そうだ」
俺が聞くとイレーナは短く答えて頷く。
え? 何で? エルフのイレーナは種族を隠すためにステータス情報を改変する魔術で門番を誤魔化す必要はあるだろうが、何で俺達まで?
俺だけでなく仲間達も訳が分からないという顔をしていると、それを見たイレーナはため息をついて説明してくれた。
「いいか? このパーティーは私を含めて半数以上が人間ではない。しかも全員が高い戦闘能力を持っている。こんな集団が『私達は旅芸人だ』と言って誰が信じる?」
あー……、なるほど。
イレーナに言われて、旅芸人となった俺達が旅先の街で門番にステータスを見せる状況を想像してみる。
門番が突然やって来た旅芸人の集団のステータスを確認してみると、半分は人間に変身あるいは変装した魔女。残りは下手な冒険者よりも強力な能力値と技能を持った戦士達。
…………………………うん。俺だったら絶対に旅芸人だとは思わないね。旅芸人ではなくて街に破壊工作をしに来たどこかの国の工作員の方がまだ信じられる。
まあでも、その点についての解決策はすでにあるんだけどね?
「私はステータス情報を改変する魔術は使えるが、私の魔力では四人のステータスを変えるので精一杯だぞ?」
「ふっふっふ。安心してくれ、イレーナ。それだったら大丈夫だ」
「大丈夫だと? 何か考えでもあるのか?」
「ああ、これを見てくれたら分かる。ステータス」
ブゥン。
俺はイレーナに不敵な笑みを浮かべて答えると、自分のステータスを呼び出して彼女に見せた。
【名前】 ゴーマン・バレム
【種族】 ヒューマン
【性別】 男
【戦種】 魔物使い
【才能】 26/29
【生命】 1090/1090
【魔力】 260/260
【筋力】 124
【敏捷】 124
【器用】 118
【精神】 118
【幸運】 118
【装備】 蛇骨槍・双頭の毒蛇(呪)、バトルナイフ、冒険者の服(白)、旅人のマフラー(紫)、契約の首飾り、呪われた低品質な指輪
【技能】 才能限界上昇、自己流習得、魔女難の相、蛇魔女の主、鳥魔女の主、馬魔女の主、蛸魔女の主、告死霊女の主、蛇魔女流体術、馬魔女流剣術、馬魔女流槍術、馬魔女流弓術、蛸魔女流極技、兎魔女流格闘術、鳥魔女の眼、眠りの魔眼、麻痺の魔眼、畏怖の魔眼、複色に妖しく輝く魔眼、弓矢系疾風魔術(1)、弓矢系雷撃魔術(2)、発光系回復魔術(1)、周囲警戒、隠密行動、奇襲攻撃、完全模倣(技)、ステータス情報改変
「お前のステータス? これが一体何……何だこれは!?」
イレーナは俺のステータスに自分にしか使えないはずの「ステータス情報改変」の文字を見つけて思わず椅子から立ち上がって声を荒らげる。
「な、な、何でお前がステータス情報改変を使えるようになっているんだ!?」
「いやな? 俺も狙ってやったわけじゃないんだが『あの技能、使えたら便利そうだな』と思いながらイレーナが使っているのを見ていたらいつの間にか使えるようになっていたんだ」
どうやら俺の他人の技能を自分にも使えるようにする技能、自己流習得は俺が興味を持った技能に関しては習得するスピードが異常に早いようだ。
「とにかく門番を誤魔化す方法についてはこれで解決だろ?」
「うう……。その技能は私達エルフの秘術の一つなのに……」
「エルフ? どういうことであるか?」
うつむきながら呟かれたイレーナの言葉にミストンが反応する。あっ、しまった。そういえばミストンって、イレーナがエルフであることを知らないんだった。
「あ、いや、ミストン? これはな……」
「私の正体がエルフであるということだ」
「おい! イレーナ!?」
イレーナの奴、俺がどうやってミストンを誤魔化そうか考えていたのに自分から正体をバラしやがった!?
「イレーナ、いいのかよ?」
「構わないさ。流石に他の人間の前では言うつもりはないが、ミストンはもう私達の仲間だからな。彼だけに秘密を作っていたら旅もしずらいだろう?」
「それはそうだが……」
「それでミストン、お前は私をエルフと知ってどうする? 異種族と差別するか? それとも私を売ってお前のゴーレムの開発の資金にするか?」
「ふん! くだらんであるな」
わざと挑発するような口調で言うイレーナに対し、ミストンはつまらなそうに鼻を鳴らすだけだった。
「このミストン。確かにマリアの開発に人生を捧げているであるが、婦女子を売り払った金を開発資金にあてるほど落ちぶれてはおらんのである。加えて言うのなら小生はお前がエルフであっても蔑んだりはしないであるぞ。何しろ小生にとってはマリア以外、人間であろうとエルフであろうと等しく無価値であるからにして……」
「ミストン、ちょっと待ってくれないかな?」
ミストンの言葉を遮ってギリアードが椅子から立ち上がり、目が全く笑っていない笑顔でミストンを睨みつける。
「エルフが無価値ってどういう意味だい? 神が創造した至高の芸術であるエルフの価値が分からないだなんて、その分だとキミが造っているゴーレムの程度もたかが知れるね」
「………なんであると?」
『………………………………………………………』
ギリアードとミストンはしばし無言で睨み合いそして……、
『死ねやぁぁぁ!』
「うわっ!? お前らちょっと待……」
俺が止める間もなくほぼ同時に拳を繰り出すギリアードとミストン!
あー、もう! こんなメンバーで無事に旅なんてできるのかよ!? 物凄く不安になってきたぞ、おい!