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第八話

 王都へ行くことに決めた俺達は、善は急げとばかりに今日一日を使って旅の支度を整え、明日旅立つことにした。


 そしてこの街で過ごす最後の夜。俺達は明日の旅に備えて早めに休むことにしたのだが……。


「………………ん?」


「………」


 不意にのしかかってきた重量に目を覚ますと、馬乗りの体勢で俺の上に乗るナターシャと目があった。表情はいつも通りの無表情だったが、何やら思い詰めた目をしていて、明らかにいつもと様子が違っていた。


「ナターシャ?」


「………ゴーマンハ、ナターシャ、必要?」


 ナターシャは俺の隣で寝ているルピーを目だけを動かして見た後、ポツリと呟く。


「え?」


「………ナターシャハ、ゴーマンノ僕。ナターシャ、ゴーマンノチカラトナッテ、必要トサレルノガ一番ウレシイ。デモ最近ノゴーマン、ギリアードヤルピーバカリ必要トシテ、ナターシャヲアマリ必要トシテイナイ……」


 ナターシャはその精巧に作られた人形のようなポーカーフェイスを悲しみと不安に歪めながら言葉を続ける。


「………王都トイウトコロニ行ッタラ、マタ仲間ガ増エル。ナターシャ、マタ必要トサレナクナル。……ゴーマン、モウナターシャ、必要ナイ?」


 …………なるほど。そういうことか。


 要するにナターシャは、俺が仲間を増やす度に「自分はもう必要とされないんじゃないか?」と不安になっていたわけだ。昼間ギリアードが俺に「仲間に会わせたい」と言ってきた時、ナターシャが不安そうにしていたのもこれで納得がいった。


 ……そういえばルピーを仲間にした時も、俺が契約の儀式をするのを嫌がっていたな。


「……ナターシャ。俺はいつだってお前を必要としているぞ?」


「………エ?」


「ナターシャは記憶のない俺が初めて会った仲間で、友人で、家族だ。出会ってまだ一月と少ししか経っていないけど、一緒にいてくれないと落ち着かないんだ。だからこれからもいつも一緒にいろ。いいな?」


 ナターシャが本音を正直に話したのだからこちらも本音で話すのが筋だろう。そう考えた俺は、自分の気持ちをそのまま吐き出してナターシャに伝えた。


「………ッ! ………ワカッタ!」


 俺の言葉にナターシャは初めて見せる満面の笑みを浮かべて頷く。その笑顔は満月のように輝いて見えた。


「それじゃあナターシャ、そろそろ上からどいて……んん!?」


 言葉の途中でナターシャが急に顔を近づけ、俺の唇に自分の唇を重ねてきた。突然の出来事に目を白黒させていると、口の中に細長くて湿った「何か」が侵入してきて、俺の舌に絡みついたり口内の至るところをなめたりするなど、縦横無尽に暴れまわる。


 え? 俺って今、ナターシャとキスしているの? じゃあ口の中にあるのってナターシャの舌? なんか気持ちいいような、気持ち悪いような不思議な感覚……っていうか息ができない……!


「………………………………………ぶはっ!」


 ようやくキスから解放されて、貪るように空気を吸いながらナターシャを見ると、彼女は蛇のように細長い舌を「チロチロッ」と動かしながら(やっぱり蛇だ、コイツ)いまだに眠っているルピーを見ていた。そして……、


 べしっ!


 と、ナターシャが蛇の下半身でルピーをベッドから叩き落とし、「びたん!」と痛そうな音をたててルピーが床に激突する。


「なっ!? おい、ルピー! 大丈夫か!?」


「……スー、スー」


 体を動かせないため、首だけを動かしてルピーに呼びかけるが、返ってきたのは悲鳴でも泣き声でもなく穏やかな寝息。ルピーが一度寝たら朝になるまで起きないのは知っていたが、ここまできたら逆に感心する。


「ナターシャ。どういうつもりだ? イタズラにしても度が過ぎているぞ?」


「………イタズラ違ウ。ルピー、邪魔ダカラシカタガナカッタ」


「邪魔? 邪魔ってなにのだ?」


「………交尾」


 ぶふぅっ☆


 予想のはるか上をいくナターシャの発言に思わず吹いてしまった。


「こ、交尾!? お前が俺と? どうして?」


「………ゴーマンサッキナターシャ二、イツモ一緒ニイロトイッタ。ソレハツマリナターシャ、ゴーマンノ雌トイウコト。雌ハ、自分ノ雄ノ卵ヲ産ムノガ一番ノ仕事」


 ナターシャは床で寝ているルピーを横目で見た後、視線を再び俺に戻す。


「………ゴーマンノ最初ノ雌ハナターシャ。ダカラ、卵ヲ最初ニ産ムノモナターシャ」


 ……おかしい。何でさっきの会話からこんな展開に繋がるんだ? 俺ってばいつの間にナターシャの好感度をここまで上げていたのだろう?


 部屋が暗いから分かりづらいが、よく見たらナターシャの頬が赤くなっていて呼吸も荒くなっている。……どうやら完全に発情しているみたいだ。


 ☆


「……………………もう朝か……」


 俺は窓から差し込んでくる太陽の光を眺めながらぼんやりと呟いた。……気のせいか太陽が黄色く見える。


「……はぁ。まいったな」


 隣で寝ているナターシャを一目見て、俺は額に手を当ててため息をついた。


 一切の詳細を省いて端的に説明すると、俺は昨晩、ナターシャと「ヤって」しまった。というより「ヤリまくって」しまった……。


 待ってくれ。「魔物とヤるなんて、どれだけマニアックなんだよ」と言いたくなるのは分かるが、俺の言い分も聞いてくれ。


 最初は断ったんデスヨ? 「馬鹿なマネは止めろ」とか「種族が違う」とか言って。でもナターシャの方も「嫌ダ。ゴーマンノ卵、産ミタイ」とか「種族ナンテ関係ナイ」とか言って一歩も引かなくてさ……。


 それにナターシャって、下半身は蛇だけど上半身は極上の美女だろ? そんなのがブラジャーを外して胸を揺らしながら熱烈に口説いてきたら、男として「ヤる気」になっても仕方がないだろ? なぁ!?


「ナターシャの言う『卵』って、もしかしなくても俺の子供って意味だよな? …………本当にできたらどうしよう?」


 ☆


「あ~。体が重たい……」


 昼頃。俺は足を引きずるように歩きながら呟いた。何だろう? 朝から体が鉛のように重たいんだけど?


 今俺達は、一ヶ月以上拠点としていた街を出て、王都への道中を歩いていた。先頭はギリアードで、俺の隣には無表情だがどことなく上機嫌なナターシャ、後ろには何故ナターシャが上機嫌なのか首をかしげているルピーがいる。


「……ねえ、ゴーマン」


「ん? どうした、ギリアード?」


「キミ……。昨日、ナターシャと『寝た』でしょ?」


 …………………………………!?


 こちらを振り向いて言ったギリアードの言葉に俺は息をのんだ。な、何で知っているんだ!?


「ぎ、ギリアード。お前、どうしてそれを……」


「どうしてそれを知っているのかって? そんなの、ナターシャを見たら一目瞭然だよ」


 ギリアードが苦笑しながらナターシャを指差す。ナターシャは俺の左腕に抱きつけながら歩いていて、朝からずっとこの状態だった。なるほど。確かにこのナターシャを見たら、何かあったと思われても不思議じゃないな。


「それで? その……何回『シた』んだい?」


「え~と。八回?」


「はちかっ……!?」


 絶句するギリアード。うん、驚くのは無理はない。てゆーか俺自身、自分の絶倫っぷりに驚いてる。


「それは体が重たくなるはずだよ……。というか、よく死ななかったね?」


「え? 死ぬって?」


「ステータスを見てみなよ?」


 ギリアードに苦笑いをされながら言われ、俺は歩きながらステータスを呼び出した。



【名前】 ゴーマン・バレム

【種族】 ヒューマン

【性別】 男

【戦種】 魔物使い

【才能】 20/23

【生命】 200/1000

【魔力】 200/200

【筋力】 100

【敏捷】 100

【器用】 100

【精神】 100

【幸運】 100

【装備】 バトルナイフ、冒険者の服(白)、旅人のマフラー(紫)

【技能】 才能限界上昇、自己流習得、蛇魔女の主、鳥魔女の主、蛇魔女流体術、弓矢系雷撃魔術(1)



 あれ? 【生命】の数値が五分の一まで減っているけど、どういうこと?


「え? 何で【生命】が200まで減っているんだ?」


「魔女との行為では人間の時とは比べ物にならないくらいの体力と生命力を消費するからさ。冒険者ではない普通の人や下級の魔物だったら、一回魔女と肌を重ねただけでほとんどの生命力を吸いとられ、最悪死んでしまう。……ボクでも二回くらいならなんとかなると思うけど、三回目は確実に干からびて死ぬだろうね」


 俺の疑問に丁寧かつ細かく答えてくれるギリアード。でもマジで? 確かギリアードの【生命】って250とちょっとだったよな? それが三回目で干からびるって……。つまりナターシャと一回ヤるだけで【生命】を100消費するってこと?


「キミの場合はその超人的な【生命】のお陰で疲労程度ですんでいるんだろうね。普通、八回も魔女と肌を重ねたらミイラになって死んでいるハズだよ?」


 ギリアードの説明に背筋が寒くなった。何? 昨夜の出来事って実は命を懸けた死闘だったの?


「……流石は『魔女』といったところか。楽しむだけでも命懸けとは魔物の女性は危険な存在だな」


 ナターシャを見ながら呻くように言葉を漏らすと、ギリアードが俺の方を見て何かを考えるような表情で言う。


「……もしかしたらゴーマンって、人間と魔女のハーフなんじゃないかな?」


「……………………………………はい?」


 ギリアードの奴、今なんて言った? 俺が人間と魔女、つまりは魔物との間に産まれたハーフだって?


「どういう意味だ?」


「魔女から産まれるのはそのほとんどが母親と同じ種族の雌なんだけど、ごくまれに父親と同じ種族の雄が産まれることがあるのさ。そして魔女から産まれた雄は決まって身体能力が高く、特別な力を持っているって話だよ。過去の伝説に登場する英雄や強力な魔物だって、その多くは母親が魔女だって言われている」


「身体能力が高く、特別な力を持つ……」


 言われてみたら思い当たる点がいくつもある。超人的といえる生命力に「才能限界上昇」、「自己流習得」といった強力な技能。ギリアードの話が本当なら全て説明がつく。


「……もし俺が本当に人間と魔女のハーフだったとしたら、このまま魔物使いを続けることで自分の出生に近づけるかもしれないな」

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