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畏怖に出会い、自、闇に転ず

この物語は、魔法世界ではなく、本当に現代社会を舞台としておりますので、魔法などをお求めの方は、他の作品をお探しください



 少女が一人、T字路の突き当たりの壁にもたれかけ、座っている。目の前の非現実的な光景から目を逸らすことができず、脳内で、目の前の惨劇を否定し続けている。唇はわなわなと震え、目蓋は全開まで開いている。その瞳に映るものは、地面に転がる数体のひからびた死体と、道の真ん中にたつ青年だった。

「生き血なんて、久しぶりだな。まだまだ足りないな……まだまだ」

 そう嬉々とした声色で言うと、青年はゆっくりと振り返り、その視界に少女を収める。少女は青年と視線が合うと、体をビクッと跳ねらせ、顔の恐怖の色を濃くした。次は私。少女は恐怖のあまり、声すらまともに出せなかった。

 青年がゆっくりと歩み寄る。少女は後ろに下がろうとしたが、もうすでに背は壁に付いている。手足が不様に動くのみ。ああ、どうしてこうなったんだろう。友達と別れたあと、家に向かってる途中、何かが倒れるような落ちるような音が聞こえたから、そっちに振り返ったら……。少女の回想は、そこで途切れた。青年がすぐ目の前まで迫っていた。

「ぁ、いや……」

 擦れた小さな声しか出なかった。それが、彼女が大声で助けを呼ぼうとしたが、首を絞められているかのような感覚を覚え、やっと絞りだした声だった。青年はしゃがみこみ、彼女と視線をあわせる。

「痛いのは噛んだ瞬間だけ。あとは、体の力が抜けて気持ち良いよ」

 青年は柔らかく微笑む。少女は、青年の藍眼とその微笑みに、一瞬ドクンと強く脈打った。恐怖からではなく、綺麗だ、と思ったからだ。少女の動きが止まった瞬間、青年はすばやく、右手を彼女の顎に添え、左手で彼女の右腕を掴み、左右の手を逆方向に開く。丁度、少女の右側の首筋が伸ばされる形になる。

「あ……ぁ……」

 彼女は抵抗らしい抵抗をしなかった。精々、足を軽く動かしたり、頬に涙を伝わせ、祈るように目を瞑る程度だ。その様子を楽しむように見た青年は、彼女の首筋に口付けをした。少女は体を一瞬震わせる。

「痛いのは、一瞬さ。本当に一瞬。あとは快楽だけ」

 そう彼女の耳元で囁き、鋭く伸びた犬歯を首筋に添える。彼女は、針が刺さるような痛感を感じたあと、体全体の力が抜けていくのを感じた。彼の言った通り、痛みは一瞬で、あとには快楽にさえ思える脱力感があった。

 ああ、私、死ぬんだ。そう思ったが、不思議と悲しみは沸き上がらなかった。むしろ、現実を生きることに疲れ始めていた彼女にとって、感謝の念すら浮かんだ。

「ありがとう……」

 無意識の彼女は、そう口走った。彼女の体から力が抜けると、青年は口を、彼女の首筋から放した。不適に微笑むと、彼女を抱えて、近くの住宅の屋根の上へと消えていった。

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