六話 過去と研究
大志は片手剣を突きの状態で狙った。しかし、遼一は横によけて、大志のMWを持っている手を背中にまわして抑え込んだ。
「危ないですね。スタンモードじゃないみたいですけど、殺す気ですか?」
「い、今どうやって?全然見えなかったんだけど?」大志は自分が何をされたのか分かっていないらしく戸惑うような表情で遼一を見つめた。
「相手の攻撃を利用したまでです。一連の動作を極めたら何をされたか分からないくらいになりますよ」
パンッと銃が放たれる音がした。
「…明らかにそちらも通常モードですね」遼一の横ギリギリを通り過ぎて行ったエネルギー弾を見ながら言った。
「攻撃が当たらないなら通常モードでも構わないでしょ?それとも死ぬのが怖いの?」ニヤッとしながら言った。
「…死ぬのは怖いですか。それはないですね。…でも自分はいつ死んでもおかしくないですよ」
「は?」麗華は訳が分からないと言った表情をした。
「とりあえず、大志さんを離しますね」そう言って大志を離した。すぐに大志は遼一との距離をとった。しかし、彼は同年代にしか見えない少年に初めて攻撃を素手で止められて驚いていた。
「いつでもどうぞ、頭狙って撃ってもかましませんよ?」
「生憎この年で犯罪者になりたくないの」麗華は遼一を睨みながら言った。
「委員長、万が一自分を殺しても彼女には罪がないようにしてください」無表情で雄帆にそう言った。
「構わないよ」雄帆は笑顔で答えた。
「…何を考えているの?人を殺して罪悪感とか感じないとでも?」嫌悪感あふれた表情で遼一を見ながら言った。
「…何を言っているんです?第一印象最悪、態度も最悪、今日会ったばかりの赤の他人。罪悪感と言うものを感じるのですか?」訳が分からないと言った表情をした。
「あなたこそ何を言ってるの?赤の他人だからこそ印象が薄いから罪悪感があるわよ」
「…まさか中学生になったばかりで、そのような考えを持っているなんて思いませんでしたよ」
「そこらへんの中学生と同じにしてもらったら困るわ」
「そうですか。でも僕は同じだと思いますがね」
「挑発に乗る気はないわ。いい加減自分のことをしゃべって」MWをスタンモードに変えながら言った。
すると遼一はちらっと雄帆の方を見た。すると雄帆は軽く頷いた。
「自分の名前は立花遼一、麗華さん、あなたと同じ年齢です。そして、国家技術師です」
「…嘘でしょ?」
「…な、何を言っているんだい?」
麗華と大志は茫然と遼一を見ながらそう言った。
「別に信じようが信じまいがお二人の勝手ですが、事実です」
「そ、それじゃあ、なぜメディアが騒がない。情報規制をしているのか?」大志は食いつくように遼一に言った。
「それは違います。正式に国家技術師になってしまえば自分のことは確実に広まります。ですので、秘匿の国家技術師と思っていてだいて結構です」
「そ、そんなの聞いたことない」
「その通りです。前例がありませんでした。しかし、一ノ瀬委員長のおかげでなることができました」
「…ということは君は学生で最強なのか?」
「…そうとは言い切れませんよ」
「でも、君を倒したら確実に強いって証明だろ?なんせ国家技術師なんだから」
「さあ、それは分かりませんが少なくともあなたより強いですよ。…まだ戦う気でいたんですか?」
「当たり前だよ。目の前にそのような人がいて諦めないはずがないよ」
「そうですか」興味なさそうにそう答えた。
「本気で行くよ!」大志の片手剣に大規模の炎が集まり始めた。
遼一は片手剣のMWを取り出して剣に水を纏わせた。
「くらえ!ファイアーストーム!」炎を纏わせた渦が遼一を目がけて向かっていく。この魔法の威力はDランクだ。下手をしたら死ぬ可能性がある魔法だ。
遼一は剣を縦に振ったと思ったら渦は真っ二つになって消え去った。
「…終わりですか?」何とも思っていない表情でそう言った。
「ウィンド!」麗華が目で追えないほどの速さの弾で銃を乱射したが遼一は無傷だ。
「…嘘でしょ?」
遼一は銃弾を剣で斬るという芸当をやってのけた。剣で全て斬って受け止めた。
「威力でダメならスピードと思ったでしょうが効きませんよ」
「…学生の技じゃないわ」呆れた表情を浮かべながら言った。
「確かにそうです。しかし、これができるのは自分一人ではありませんよ」
「学生でいるの?」
「いますよ。そして自分より強いです。…一分も持たない自信があります」
「あはは、冗談だろ?君より強くて一分も持たないだって?」大志が乾いた笑みをしながらそう言った。
「…上には上がいるんです。それをわかってもらうために今日はこのような場を用意してくれたんですよ」
「…あなたが強いって言う人はどんな人なの?」
「尊敬できる人です。そして間違った道にはいかない意志の強い人ですよ。麗華さんと同じ女性の方なんですがね」
ここで言っているのは菜々子のことであるが、あくまで能力に頼らなかったの話ではある。しかし、能力を持ってしても確実に勝つというのは難しいだろう。
「…その人が学生で最強なのかい?」
「そうですよ」
「その人に君は勝ちたいと思わないのかい?」
「思わないですね。どう足掻いたって勝てませんよ。絶対って言葉が相応しい位です」
「その人はどこの学校に居るんだい?」
「関東国立魔法大学付属高等学校です。現在は高校一年生ですよ」
「…僕はそこの学校に行くよ。そしてその学校に入るまでには君を抜かせるように」そう言ってMWをなおしながら遼一を見つめた。
「そうですか。頑張ってください」そう言って軽く笑みを浮かべた。
「ああ、それじゃあね遼一くん…そして、今日はどうもありがとう」そう言って大志は訓練所を出ていった。
「それじゃあ、僕も戻るよ」そういって委員長はどこか嬉しげにそう言って出て行った。
「遼一君でいいかしら?」
「ええ、構いませんよ。麗華さん」
「それじゃあ、私のことを麗華って呼んで、それと敬語もなしにして同じ年でしょ?…あと一つ頼みたいことがあるの」
「…わかった麗華、それで頼みたいことって?」
「私を鍛えて欲しいの」真剣な表情で遼一を見ながら言った。
「…別にいいけど、俺は手とり足とり教えることはしないぞ?」
「いいわ。それの方がやり易いから」
「わかった。そこまで言うなら引き受ける」
「ありがとう。これからよろしくね」
「…ああ」
こうして遼一と麗華は知り合い、師弟の関係になった。
ピリリリとッと麗華の部屋に音が響いた。
「もしもし遼一君?」麗華は携帯端末を耳に当てて言った。
『何か用か?』抑揚のない声でそう言った。
「ほんと、変わらないわね」少し笑みをこぼしながらそう言った。
『いったい、何の話をしているんだ。用がないなら切るぞ』
「用はあるわよ。暇だからデートしてほしいの」ニヤッと笑いながらそう言った。
『…生憎、俺は暇ではない。だから無理だ』淡々とそう答えた。
普通の男の子なら悔しがる素振りとか、慌てる素振りを見せるけどね…。まあ、遼一君をからかうのは無理ね。麗華は少し苦笑いをしながら思った。
「う~ん、そうなんだ。何か用事でもあるの?」
「ああ、今から委員会本部に―――そうだ、麗華にも手伝ってほしい」
「手伝う?一体何を?」
「MWのテスターだ。新作のMWのテスターをやってもらいたい」
「新作のMW?遼一君が作ったの?まあ、国家技術師だしね当たり前か」
「作ったというより携わっただな」
「そうなんだ…。それでいつ行くの?」
「今からだ、だから現地で会おう。とりあえず、麗華の名前を使って中まで入ってきてくれ」
「わかったわ。それじゃあ」そう言って電話を切った。
「きたか…ってなんだその格好は?まだ着替えてなかったのか?」遼一は呆れながらそう言った。
「何か問題でもあった?」そう言って首を傾げた。
「俺はMWのテスターになってほしいと言ったはずだが」
「そうだったわね。でも問題ないわよ」そう言ってスカートをつまみあげながら言った。
麗華の恰好は赤と茶色のチェックのスカートに黒のロングブーツ、赤のブラウスと黒の上着と言ったなんとも動きやすいと言った感じではなかった。
「もしかしたら、スカートの中が見えちゃうかも」ちらちらスカートをギリギリ見えるか見えないかというくらいで持ち上げながらそう言った。
「だったら見えないように下にアーマーを着ればいいだろう?着ないのか?」そう言って訳が分からないといった表情で麗華を見た。
「はぁ…毎回思うんだけどさ、普通、こういう仕草されたら顔を赤くしながら下を向くとか、目を逸らすとかないの?」呆れた表情でそう言った。
「しないな…する必要があるのか?」若干真剣な表情でそう言った。
「そんなんじゃモテないよ?でもな…意外と多いんだよね~遼一君に惚れている人」
「…誰だ?」本気で考えているようだったが分からないといった表情をした。
「私とか」そう言いながら自分を指差した。
「…嘘だな」じっと麗華を見ながら言った。
「…何でわかったの?」
「お前は嘘をつくときに癖であることをするからだ」
「…もしかして遼一君、私のことを変態的な目で見ていたの?え?もしかして、ストーカー?」少し引いた目でそう言った。
「癖と言うのは冗談だが…毎回のごとく麗華が嘘をつくから分かるんだよ。何年一緒にいると思う」
「かれこれ四年だよね」
「そうだな…それよりも、研究所入るぞ。待たせているからな」
「そうね」そう言って研究所に入った。
研究室に入るとそこには十数名の技術スタッフがいた。
「やあ、やっとおでましかい?」そう言って三十代くらいの優男がにやにやしながら遼一達に向かってきた。
「遅れて申し訳ございません、有野技術長」麗華はそう言って頭を下げた。
そうこの男が有野 蓮志技術長、静香の父親でここの技術班のチーフを務めている。無論、国家技術師の資格は取得済みだ。
「いいよ、まだこっちは機材の準備中だしね。遼一君と痴話げんかってやつでしょ?」依然、にやにやを続けて遼一を見た。
「生憎そのような関係ではないので、そういうのではないですね」遼一は相変わらずの無表情で言った。
「つれないね~。そんなことは分かっているよ。冗談だよ冗談」そう言いながら軽く笑った。
「遼一君こういう時は、“うちのハニーは本当にかわいいですよ”っていうのが相場だよ?」麗華は小馬鹿にするように笑いながら言った。
「お前は俺に何を求めているんだ…」呆れ顔で麗華を見た。
「それは遼一君が見せるギャグセンスかな?」
「ふふふっ、見てみたいのものだね。遼一君が冗談ばっかり言うのを」
「それって天然記念物に指定されるんじゃないですか?」
「そうだね。この時期に雪が降るってくらい珍しいんじゃないかな?」
「そんなことより、麗華MWを装着してくれ、一応、麗華用に設定したが微調整が必要かもしれないからな」
「わかったわ」そう言って研究室の中央に鎮座しているMWを装着した。
「よし、起動してくれ」遼一はそう言って麗華に指示をとばした。
麗華は言われた通り起動をした。するとMWに繋がれている端末に膨大な量のデータが流れる。
遼一はそれを全て読み取り、微調整を開始した。
今回、遼一達が作ったMWは演算処理機能付きのMWだ。
演算処理ができるMWとは、元々MWは魔法を出すとき、頭でイメージしながら魔法の大きさを自分で設定しながら詠唱をして魔法を放つ。
しかし、遼一はこれでは遅いと考えたのだ。これでは、魔法に慣れていない人は魔法を出すのに時間が掛かってしまうだろう。
それで遼一はMWに演算処理させて、最適な大きさの魔法を無詠唱で瞬時に出せるようにしようと考えたのだ。いわば、速攻型のMWを作り出そうとしていた。
MWはプログラミングで設定している。そのMWの大元となるのがハードウェアで保存されており、ここのプログラミングを変えるとソフトウェアにも影響を及ぼしてしまう。そのため、ハードウェアは慎重に行わないといけない。
対するソフトウェアは、エネルギーの出力や熱伝導率、エネルギー効率などデータを多く保存、変化、応用させる場所でもある。だから、今回は簡単に言うと、ハードウェアに演算処理機能を追加して、ソフトウェアにエネルギーの効率化を図る演算と魔法の演算処理を行うプログラミングを入れる作業となる。
しかし、今回はすでに入れているため問題ないが実証実験でやるのは今回が初めてだ。最終的な微調整を含めてやっている。
「問題ないか?」
「ええ、スムーズにいっているわ」
「そうか、それでは頭に思い浮かべている魔法をあそこの標的に当ててくれ。途中で気分が悪くなったりしたらすぐに言ってくれ。暴走する可能性はほとんどないが万が一に備えて俺が強制シャットダウンをする」
「わかったわ」
今回のMWは無詠唱をおこなうため脳波とリンクしている。そのため調整が少しでも狂うと体調不良をおこしたり、膨大な魔力量を持っていかれたりする。万が一に備えて強制システムダウンの準備もできているのだ。
「いつでもいいぞ」
その合図とともに麗華がもっている片手銃から赤色の炎を纏った銃弾が的を貫通した。
「脳波正常、心拍数正常、乱れはありません」
「MW正常を確認、魔粒子の出力も予想範囲以内です」
「エネルギー量も正常、正確な出力で安定していました」技術スタッフ達がそう言って伝えた。
それから何度も色々なシチュエーションでやったが問題はなかった。
「実験は成功だ。みんなお疲れさん。これでまた魔法社会にあらたな歴史が刻まれたよ。それに立ち会えた僕たちは光栄だよ」蓮志がそう言って技術スタッフに言った。
技術スタッフは肩を抱き寄せて喜んだり、はしゃいだりなど、ここの研究室は喜びに満ち溢れていた。
「お疲れ様です。しかし、すごいですね。無詠唱で色々な魔法ができるなんてね」麗華はそう言って蓮志を見た。
「ああ、そうだね。これができたのはファースト・ブルームのおかげかな?」
「理論の提唱はそうかもしれませんがみんなで頑張ったのは変わりないですよ」
「それもそうだね。みんなで力を合わせて頑張ったからね」
「…そういえばファースト・ブルームって出てきたけどどういうこと?」
「そういえば、言うのを忘れていたな。ここはファースト・ブルームの製品の開発を行うところだ」
「…う、嘘でしょ?そこの班に遼一君が組み込まれているの?」目を大きく開いてそう言った。
「その通りだ、秘匿とはいえ、研究者だからな」
「あ、あきらかにエリートじゃない…ファーストの研究に関われるなんて」
「それもそうだな。なんせスタンモードを開発して社会貢献した人だからな」
ファースト・ブルームは現在主要のE系統のMWにもっとも貢献した人である。スタンモードのほかにエネルギー効率の向上や魔法持続時間の向上など様々な功績を残していてもっとも有名な技術師といっても過言ではない。
「ここにいるんですか?一度話してみたいんですけど」麗華はそう言ってあたりを見渡した。
「それは無理だよ。公に晒すことを拒んでいるし、それに、簡単に会える人でもないよ」
「そうですか…残念です」麗華は少し落ち込みながら言った。
「仕方ないよ。それとお疲れ様、報酬は後日送っておくから」
「報酬ですか?別に私はいいんですけど」
「気持ちだよ。それに危険を冒したんだから、それなりの対価は支払わないとね」
「……わかりました。受け取らせていただきます」しぶしぶと言った感じだったか受け取った。
「うん、素直が一番だよ」蓮志はそう笑顔で言った。
「それじゃあ、失礼します」
「ああ、ご苦労様でした」蓮志は笑顔で手を振りながら麗華を見送った。
麗華は研究室から出て行った。
「しかし、びっくりしたよ。まさか、麗華ちゃんを連れてくるなんてね。僕はてっきり美希ちゃんとばかり思っていたけど?」
「美希にはいつも手伝って貰っていますし、何より今回は都合がつきませんでしたので」
「それにしても言わなかったね。自分がファースト・ブルームだってことを」
「…必要ないですよ」
「まあ、それもそうだね。でも…いつになったら僕に君が完成させようとしている研究内容を教えてくれるんだい?」
「…今は言えません、もちろんここに居る研究者たちのみなさんにも…申し訳ないです」そう言いながら技術スタッフを見渡した。
「いえ、構いません!私達はついて行くことを決めましたんで!」
「そうです!行くあてのない私達を引き取ってくださったことにも感謝しています!」
「家庭優先というのにも僕は感動しているくらいです!」
「ファーストさん、いえ、遼一さんに会えたことに本当に感謝しています」
ここにいる技術スタッフは全員が何らかの事情で仕事をクビになった人間だ。それを遼一は蓮志とともに引き抜いた。
前までは残業と言うのが多く、不眠不休を訴えるものが多かったが、遼一達の仕事に変わって優遇して家庭優先という手段を取り、平日だけ働くと言うものになった。
ただでさえ自分たちを引き抜いて働かしてくれて、優遇され、さらにファーストの開発に関われるという研究者の人達にとっても嬉しいことばかりだった。
「…別に感謝されることではないですよ」
「素直じゃないね~遼一君」蓮志はにやにやしながら、遼一を見た。遼一が横を見るとスタッフの人達も遼一を微笑ましい様子で見ているような気が遼一にはした。
「気のせいですよ」
「あの…もしよろしかったら、遼一君と技術長も一緒に飲みにいきませんか?」女性スタッフがそう言ってきた
「嬉しい誘いだけど遠慮しておくよ、僕らにはやることがあるからね」
「申し訳ございません」遼一はそう言って頭をさげた。
「い、いえ、いいんです。お二人が忙しいことはみんな知っていますから」
「それでは私達はこれで失礼します」みんなそう言って頭を下げた。
「ああ、お疲れ様、残業代のほうはちゃんと出しておくから、悪いね休日に呼び出して」
「い、いえ、別に二時間ほどですし…」
「そうですよ」
「俺なんか暇してましたよ?」
みんなそう言って断ろうとした。
「二時間でも出すよ。仕事は仕事なんだしね」
「その通りです。受け取ってください」
「わ、わかりました。ありがたく受け取らせていただきます」
「まったく、みんな素直じゃないね~」蓮志は笑いながらそう言った。
「遼一君ほどではないですよ」女性スタッフは微笑みながらそう言った。
「待ってください、何で自分が素直じゃないみたいになっているんです?」
「さあ?どうしてだろう?」
「どうしてでしょうね?みなさんわかります?」女性スタッフがそう言ってみんなに聞いたが首を振った。
その場の雰囲気が実に温かいものになった。遼一が温かい視線を感じるのは間違いではないだろう。
やれやれ、大変だな研究の仕事も…。遼一はその様子を見ながらそう思った。
スタッフ達が帰って、研究室には遼一と蓮志だけが残った。
「有野技術長、今日は帰ってください」
「おや?いきなりどうしたんだい?」端末に向かっていたが、モニターから目を離して遼一の方を向いた。
「帰ってください、聞いた話によると家にあまり帰っていないみたいじゃないですか」
「…まさか、娘から聞いたのかい?」
「ええ、聞きましたよ。家に帰ってきてないって」
「やれやれ、バレたか。それにしても、どうやって知り合ったの?同じクラスとか?」
「話をまったく聞いていないんですか?」驚くような表情で蓮志を見た。
「ああ、そうだね。ここ最近まともに話した記憶なんてないしな~」そう言いながら天井を見上げた。
「娘さん寂しそうでしたよ。このようになったのは小学校の頃からって言ってましたし」
「…そうだね。君が小学四年でスタンモードを開発して持ってきた頃からかな?」
「何故帰ってないんです?時間はありますよね?」
「ああ、そうだよ。でもさ、研究魂に火がついたっていうのかな。若い子には負けたくないっていうやつかな?」苦笑いでそう言った。
「…そうですか、ですが帰ってください。研究よりも優先されることですよ」
「あはは、君の言う通りだよ。そうだね、おとなしく帰らせていただくよ。それじゃあ」そう言って立ち上がって荷物をまとめて研究室から出て行った。
やれやれ、ほどほどにしてほしいものだな。遼一は端末の電源を落として、荷物をまとめて研究室を後にした。
明日もこの午後六時あたりに投稿したいと思います。