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魔力がない魔法生  作者: とんび
1章 入学編
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五話 能力の秘密

早朝、遼一と美希はとある家の前に居た。


「来てよかったの?」美希はそう言って遼一に聞いた。


「問題ない、美希は俺の全部を知っているって言ってもいいくらいだしな」


遼一は黒のジャージの上下を着てとても動きやすい恰好だった。対する美希も白で黒のラインが入った動きやすい服装だった。


遼一はインターホンを押した。


「いらっしゃい、待っていたわ」そう言って黒髪のロングの20代前半の女性が出てきた。若々しく、黒のワンピースを着て、妖艶で大人の雰囲気を出していた。


「ええ、お久しぶりです優子さん。一か月ぶりですよね」


「そのくらいになるわね。さあ、入って美希ちゃんも」


「お邪魔します」

「お邪魔します」


そう言って二人は家に入った。












「副作用でも出たんですか?」遼一はそう言って優子に言った。


「いえ、そんなことはないわ。あなたの能力は完璧よ?それよりもどのくらい操れるようになったの?」


「三つです。なので高校入る前と変わりませんよ」


「三つか…。前よりも魔力量が増えた感じはある?」


「さあ、どうでしょう…、自分には分かりません。毎回、魔力量は自分の中では同じですから」


「あなたの【速度操作】も難儀ね。私の予想は間違っていたかしら?」


「いえ、確証はないですが間違っていないと自分は思います。優子さんの言うとおり魔力量が増える度に操れる数も増えると思います。実際、小学校卒業してから一つ増えましたし」


「そう…研究の面では何かわかったの?」


「報告書の通りですよ。何も分かっていません」


「そう、天才の最年少国家技術師のあなたでも分からないことだなんて本当に難儀よね」


「能力のおかげでここまでなっただけで自分の実力ではありませんよ」


「それでもあなたの能力には変わりないわよ」


「まあ、そうですが…」


国家技術師とは、国家魔法師でありながら研究が出来るという人だ。MWの開発や改善などを合法的に行うことができる。さらに普通の研究員とは違いレジテスの個人保有も認められており、MWの常時携帯も認められている。MWの研究者になるには必要なものだ。

国家技術師は言わばオールラウンダー。レジテスの保有を認められていると言うことは狙われると言うことだ。そのため、ある程度の実力は必要となる。だから、研究者は頭が良くてさらに戦えるエリートなのだ。つまり、国家魔法師でありながら研究が出来る人ということになる。そしていきなり国家技術師は無条件でランクCが与えられる。


技術師は研究だけをしてればいいのだ。魔法委員会で研究をしてもいいし、自分の専用の研究室でしてもいい。つまり、魔法委員会に所属しているが、全く違う部門、委員会と考えていい。

毎年、研究成果を提出しないといけないが、よっぽどのことがない限り、資格を取り上げられることはない。また、国に貢献しているので、収入もAランク国家魔法師に匹敵する。そう言った意味では技術師は楽である。



だが遼一名前は公に出されることはない。遼一は秘匿の国家技術師、つまり委員会の上層部の数人しか知らないほどの存在なのだ。


「まあ、いいわ。それよりも久々に組手をしましょう?もちろん、あなたの能力を使ってもいいわ」


「了解しました」遼一はそう言って立ち上がった。















三人はエレベーターを使って地下に降りた。そして、廊下を進んで突き当たったところに大きな扉があった。

そこに入ると全体が真っ白に覆われた縦横200メートル四方の空間が現れた。


「相変わらず、広いですね」


「何言っているの?私達にとっては十分に狭いでしょ?」優子はそう言って苦笑いをした。


「それもそうですね。美希は審判を頼むよ」


「そうね、ごめんね美希ちゃんお願いするわ」


「いいえ、構いません。もともと私が我が儘言ったんですから」そう言って黒いラインが二本ひかれている間に立つ。


遼一と優子も黒いラインのところにそれぞれ立った。


優子は双剣のMW、遼一は双銃剣のMWを構えた。


「スタンモード、殺傷ランクはE以下を使用をお願いします。制限時間は無制限、相手が降参するまでとします」


「はじめ!」


そういった瞬間に二人の姿が消えた。


空中で火花が散ったり、剣同士がぶつかる音などが聞こえるが、戦っている本人の姿が見えない。

すると急に二人が姿を現した。


「能力あって、この実力じゃお姉さん越えられないわよ?」優子はそう言って遼一を見た。


「姉は越えられませんよ。たぶん世界最強です。事実、魔力の波長を見分ける技術を習得したでしょう?」


「あれは驚いたわ、私でも5年近くかかったのに本当にすごいわねあなたのお姉さん…いや、家系が凄まじいって言った方がいいかしら?」


「まあ、確かに父と母が【UNKNOWN】だなんて恐ろしいですね。それなら美希にも言えますけど」


「まあ、その恐ろしい人達を育てたのは私なんだけどね」そう言いながら微笑んだ。


【UNKNOWN】とは今から30年前の2080年、日本はアメリカに戦争を仕掛けられた。理由は簡単、日本が魔法鉱石のレジテスを独占していたからだ。

日本が一番多く発掘しており、たくさん持っているので研究が進むのに対しアメリカはそこまでの発掘は望めず、少ないことから研究が進めずにいた。

そこで起こしたのが戦争だ。平等という名の偽りの正義で。

日本とアメリカの戦いは分かり切っていた。いくら魔法が進んでいるとはいえ、軍備がアメリカよりも少ない。

魔法を軍に組み込んでいるとはいえ、魔法師が軍に組み込まれている数は少ないのだ、勝てるはずがない。


絶望的と言われている状況でとある集団が現れた。それが【UNKNOWN】だ。UNKNOWNは全部で五人全員が黒のローブを着ていたため、全員の性別や人相がわからなかったためそう言う名前がついた。

UNKNOWNは圧倒的だった。すべての軍艦、戦闘機、兵器を一つ残らず大規模魔法で殲滅をしてこう宣言した。

“次はアメリカの本土の州を一日一つ潰していく”と。

UNKNOWNの実力を知ったアメリカ政府は降伏、そして、日本には全面的支援を約束した。これにより、日本は世界全てから恐れるようになり、また魔法の偉大さを見せつけられた。


日本も交戦権の放棄の見直し案が提示され、それが可決され軍備の拡張を広めた。


「ですが…優子さんの作戦のおかげで日本は救われたんですよ」


「そうね…あの子たちには悪いことをしたと思うけど」


「父と母はいまだに優子さんを尊敬していますよ」


「そうですよ。私の両親と叔父もそうです」


「…でも、魔法中心の世界になって恵まれない人たちも生まれたわ。…あなたみたいに」悲しそうな表情をしながらそう言った。


「恵まれていないのは確かですが、優子さんを恨むことがないですよ」


「…それはあなたに感情が―――ごめんなんさい、言いすぎたわ」ばつ悪そうに俯きながら言った。


「構いません事実ですから。それにこの能力とも今までずっと一緒ですから相棒みたいなものですよ」


「ごめんなさいね。まだ、その能力の原因がわからないの。私自身がその能力を受けているんだけどね」


「構いません。寧ろ積極的にそのようなことをしていただいて光栄です」そう言って一礼した。


「…ふう、もうやめましょうか。もう乗り気がしないわ」


「…そうですね」そう言ってMWを下ろした。















【速度操作】これは遼一が使える能力だ。

この能力は対象のあらゆる速度をかえることができる。たとえば、植物の成長速度をかえたり、人間の反射速度をかえたりなどができる。

しかし、この能力は視界に常に入れておかなければ能力は発動しない。視界の中に入れておけば、人数は関係なく能力は発動するし、取捨選択もできる。これは相手の場合においてなので自分自身に使う場合には関係ない。

そして、今のところ遼一は三つの演算しかできない。つまり、“人間の速度を止める”と言う演算をしたら視界に入れれば何人でも止められるが、“人間の速度を速める”と言うものは別の演算、つまり二個目の演算となる。


遼一の魔力量はない。しかし、魔法を使えるのにはある理由がある。魔法によって魔粒子の波長、魔力は変わる。それを利用して魔法を擬似的に操っている。つまり、自分の体内を循環している魔粒子の速さを操って人工的に魔粒子の波を作って無理やり魔法を出しているのだ。

体外に出れば魔力を感じるのではないかと思われるが、到底感じることが出来ない魔力の大きさで、それを連続的にかつ高速で体外に出しているため魔力が感じることはないのだ。

しかしこれには角度、速さ、波の大きさなど色々な計算が必要になるし、魔粒子の波を確認をするために

小さな魔力を感じるようにしなければならない。

つまり、遼一が魔法を使うのには二つの演算が必要なのだ。しかし、脳の演算の使用は大きな負担がかかるため規模が大きい魔法や複雑な演算、長時間の使用の場合は無理をしなければ出来ない。

遼一のこの能力は意識下の中で発動するし、感情の起伏によっても発動する。


これは遼一が幼い時に自分自身で気づいて演算の一つを使って常に感情をコントロールした。もともとから幼い時の遼一は頭もよく判断力も優れていた。これも速度操作の賜物であろう。

しかし、感情をほとんどゼロにしたのだ。当然だが心の底から笑うこともなければ、怒ることもない、泣くこともない、喜ぶこともない。全ての感情が失われたのだ。

そうなれば欲求というものなくなってくるため、女性を見て興奮すると言ったものもなくなる。

小学校に通っていたころは二つの演算しか使えなかったが魔法を使うのは一瞬、威力も小さい魔法だったので感情による速度操作の影響はなかった。


当然だが両親は悲しんだ。自分の子供がなぜこのようなことになったのか分からなかったのだ。普通の親であれば気味悪くなって捨ててしまっているだろう。しかし、遼一の両親はUNKNOWNだ。普通の親とは違う。

そして、遼一の両親はある人のもとを訪ねた。それが遼一の剣の師匠である平野優子だ。遼一達の両親が幼い頃、孤児だった二人をここまで育てたのは彼女だった。なので、二人は優子にとって子供のようだし、遼一は孫みたいなものだ。両親は遼一に起こったことを全て話した。そして、彼女は両親を助けるため一つの提案を出した。

“速度操作で自分の若さを取り戻したい”そう言ったのだ。無論、遼一の両親は反対した。得体のしれない能力に対してそのような危険を冒すことはできないと言った。

しかし、優子は“あなたたちの子供の能力が危ないわけがないじゃない”と言ったのだ。そして、遼一の速度操作で優子は若返った。


これにより遼一の能力は人間に対しても危険ではないと証明された。若さを取り戻した優子は無論喜んだ。そしてお礼として遼一が危険な目にあわないためにも小さいころから遼一を優子が鍛えた。これにより、魔法にあまり頼らなくてもいいくらいの強さを遼一は手に入れたのだ。














遼一と美希が優子の家から帰っている頃、とある家では朝から魔法の練習をしている少女達がいた。


「梓ちゃん、そのくらいにしておきなさい。まだ、私には勝てないよ」白色の道着に身を包んだ縁がそう言った。


「はぁ、はぁ―――まだまだ!」そう言って片手剣から炎の渦を縁に放った。


ここは鳳凰家ではあるが分家みたいなものだ。本家は別のところにあるが、梓と縁、そして二人の母親はここで暮らしている。


縁はそのまま片手剣を炎の渦に向けたら、その倍の大きさの渦を出して梓の炎を飲み込んでそのまま梓に向かっていった。


「くっ!」そう言って梓は目を瞑った。


しかし、炎は梓の目の前で消えた。


「ほら、さっきの魔法でほとんど魔力量がなくなったんでしょ?無理したらダメだよ」縁はそう笑顔で言った。


「う、うるさい!お姉ちゃん何で手加減したの!?」梓はそう言って縁に怒った。


「だって…梓ちゃんがケガしちゃうでしょ?」そう言って首を傾げた。


「で、でも、手加減なしって言ったよ!」


「それでも可愛い妹が傷つくのは見たくないわ。それにさっきの目を瞑ったのとっても可愛かったわよ?」片手を頬に当てながらそう言った。


「お、お姉ちゃんの馬鹿!」顔を真っ赤にしながらそう言って訓練所を飛び出した。


「あっ…いっちゃった」縁は一人でそう呟いた。


縁と梓は昔に比べれば良好な関係だ。しかし昔はそうではなかった。それは天才と謳われる姉と梓は常に比べられるからであった。梓は小学校の頃は元当主である祖父に認められて貰えなかった。

しかし、梓が小学校六年で行われた魔法武闘大会の時に一変した。そう、梓の魔力量が爆発的に上がったのだ。見に来ていた祖父はその場で立ち上がったほどだった。


そして梓は対戦相手に対していきすぎた魔法を出した。縁は止めようとしたが遠くにいるため無理だった。しかし、対戦相手の目の前で炎が止まったのだ。

そしてとある少年が何かを叫ぶと梓は少年に向けて先程よりも大きい炎の塊を放った。危ないと縁はその場で思ったがその少年は遠くからでも分かるくらいの水の塊を発生させてその炎の塊をかき消した。


会場全体が静まり返った。少年はこちらを見たかと思うとその場から立ち去った。ガタッと音が聞こえ、叫び声が聞こえたので振り向くと祖父が倒れていた。よく見ると胸からは赤く血が出ていた。

意味が分からない。それにあの少年は一体なんだったの?縁は頭で考えながらもその答えが出ることがなかった。


祖父の死は心臓の付近の細胞死滅による出血死だった。最先端の医療での結果だった。確かに70歳と言われれば老人だろう。しかし、あの元気だった祖父が何の前触れもなく死んだのだ。当然だが家族は信じられるはずがなかった。


祖父が死んでから、父親が当主になった。そして、梓が小学校を卒業してから家に呼びもどした。しかし、どうやら梓は父親に好感が持てなかったらしい。

それもそうだ。自分の娘を助けなかったのだ。好きになれるはずがない。しかし、母親だけは違った。母親は梓が小学校に入る前に毎日祖父に抗議したが認められずとうとう梓は小学校に行ってしまったのだ。梓が小学校の頃病弱だった母親はいつも泣いていた。

梓の通っている学校は全寮制で会えるはずもなく、そして会うことも許されなかった。


そして、卒業して梓に母が初めて会った時、母親は泣き崩れて泣いて梓に謝り続けた。梓は最初驚いていたが安心したのか梓も泣いた。


梓が小学校に入ってから、縁は自分の力を恨んだ。自分の力のせいで妹は無能と蔑まされたのだ。自分のせいで家族はバラバラになったのだと思い込んでいた。卒業して家に来ても恨まれて、嫌われているだろうなと思っていた。

しかし、母親に泣きつき終わってすぐ梓は急に頭を下げたのだ。“魔法を教えて欲しい”と。

縁は驚いてその理由を聞いた。梓は恥ずかしそうに“私が勝手に恨んでお姉ちゃんを苦しめたから謝りたかった”と言ったのだ。

この言葉を聴いた縁は人生で初めて泣いた。自分のせいだと思っていたことが妹である梓も悪いと言ってきたのだ。

その日から姉妹不仲は解消し、二人で楽しそうに笑うようになった。















「お母さん、また勝てなかった」梓はそう言って朝食の準備をしている母親の奈緒なおに言った。


「縁は強いのよ?お姉ちゃんなんだからそう簡単に負けるはずがないでしょ?」そう言って優しく梓に微笑んだ。


梓の母親は今年で40代前半になるのだが、病的と言って良いほど肌は白く、腕が細い。しかし、それに似合うきれいな黒髪で優しい顔立ちをしている。30代と言っても全然通用するくらいのレベルだ。


「お、奥様!いつもいいとおっしゃっているではありませんか!」大きな赤い花が特徴な桃色の着物を着た女性がそう梓の母親に言った。


「あら?もう病気は治っているのよ?何か問題でもあったかしら?」首をかしげながらそう言った。


「奥様!私はここに仕える女中です!仕事を奪ってどうするんですか!」


「う~ん、でも今は掃除や洗濯はロボットがしてくれるし…やること言ったら料理くらいじゃない?」


「だから、その仕事を奪わないように先程から申し上げてるではありませんか…」がくと項垂れながらそう言った。


「ほらお母さん、そう言っているんだし向こうでお話しようよ」そう言って母親の腕を引っ張った。


「でも…」困った表情を浮かべていった。


「お嬢様の言うとおりです。そうしてください」


祖父祖母を亡くして、母親は病弱だったため料理をしてくれる人がいなかったために雇った女中だ。毎日女中は変わるのだが、毎回このように言われる。今は元気にしているがいつまた病気にかかるか分からない。そのためにも体力を少しでも残しておいたほうが良いだろう。


「わかったわ。でも、大変なときは呼んでね?手伝うから」


「お気遣い感謝します」そう言って女中は頭を下げた。













とある和室の一間に梓と梓の母親の奈緒がしゃべっていた。

いくら分家と言っても、敷地は二人が戦っていた道場ができるほど広い。家は二階建てで今時の感じではなく、武家屋敷を連想させるような感じの家だ。



「それで?梓に魔法を教えた男の子…遼一君はどうだったの?」


「うん、変わっていなかったけど…新しい女の子の友達がいた」そう若干不機嫌になりながら言った。


「あらら、遼一君はモテるのね」


「も、モテないって言ったら嘘になるけど…少なくともあいつの優しさや強さが分かったら確実に惚れるかもね」


「それじゃあ、梓も惚れた理由がそれなのね?」


「ち、違うわよ!あいつの事なんて全然好きじゃないわ!」顔を真っ赤にして否定した。


「ふふふっ、そうなの?でも、もし好きなら告白すればいいじゃない?」否定されたにもかかわらずそう言った。


「…それはできないわ」若干俯きながらそう言った。


「あらどうして?梓ちゃんなら可愛いから大丈夫なはずよ?」


「いや、そうじゃないの、あいつは――――深く関わろうとしたら離れていく人だから無理だよ」悲しそうにそう言った。


「どういうこと?」じっと梓を見ながら言った。


「簡単に言ったら、あいつに近づいたら巻き込まれるから…」


「…助けてやれないの?お友達なんでしょ?」


「…助けたいけど無理、あいつはまず人に頼ろうとしないし。あいつが出来ないことがあっても私にも出来ないよ」


「それは違うわよ梓」そう言ってポンッと手を梓に置いた。


「もしかしたら、一人で出来ないことかもしれないでしょ?二人なら出来ることかもしれない、もしかしたら三人で出来るかもしれない。意外と分からないものよ?」


「そうかな?」そう言って見上げた。


「そうよ。それに私が思うにその子、距離の測り方が分からない子だと思うわ」


「距離が分からない?」


「そうよ、つまり相手の感情が読めないのよ。ふふふっ、まるで純粋な子供のようね」


「なんでそんなことが分かるの?」


「だってその子、梓の話を聞くに恋愛感情知らないようだもの」


「…あ~、それは当てはまるかも、あいつ妙なところで鈍いから」ふーっとため息をつきながら言った。


「ふふふっ、どんな子なのかしら?そう言えば写真とかないの?」


「集合写真ならあるわ。でもクラスが違うから…そうだ!メールで送ってもらおう」そう言って携帯端末を取り出してメールを打ち出した。


「どんな子か楽しみだわ」


「奥様、お嬢様、朝食の支度が出来ました」そう言って女中が障子をあけてそう言った。


「わかったわ。それじゃあ、食べましょうか。梓、縁を呼んできて」


「うん」そういって梓は和室から出た。













現在の時刻は午前九時、このくらいの時間帯だと土曜でも起きている人がほとんどだろう。事実、現在五木家では朝食を摂っていた。


「麗華、学校はどんな感じ?」肩にかかるくらいでカールがかかったブラウン色の上品な髪で、明るい雰囲気の女性がそう言った。


「どんな感じって言われても…魔法がいっぱいって感じかな?」


「まあ、そのまんまね」そう言って笑った。


「そんなもんよ学校って」麗華はそう言った。


朝食は毎朝だいたい母親の香織かおりと二人だ。日曜になると父親である高貴こうきも一緒なのだが生憎今日は仕事だ。


五木家の家は普通の一般家庭と同じ家の大きさで祖父母と一緒に住むことはない。つまり、親戚の五木と言う家が色々なところに点在しているというわけだ。

これは、数持ちのメンバーも共通のことである。簡単な話で言うとしがらみを持ちたくないからだ。権力と言うものは争いごとを持つのだ。なので親戚などは離れて住んでいる。当主の決め方はそれぞれだが、大体は前当主の子供が当主を継ぐ。


「ごちそうさま」


「あら、もういいの?」


「いいよ、そんなにお腹すいていないし」そう言いながら椅子から立ち上がって二階の自室に向かった。


麗華は自室に戻ると携帯端末を動かし始めた。


『お掛けになったお電話は現在電波の―――』


「何で出ないの…遼一君」麗華は何回も掛けながらそう思った。


とりあえずメールを入れて様子を見ることにした。


暇すぎる…。遼一君なら暇を解消してくれるだろうし…。そう思いながらベットに寝転んだ。

そう言えば、昔から変わっていないな~。ぼんやりとそう思いながら出会ったころのことを思い出した。















五木麗華、彼女は生まれながらエリートだった。

小学生の頃それは思い知らされた。麗華に対しての先生たちの態度、上辺だけの友達。それは別にどうでもよかった。当時の彼女は一人のほうが良かったし、頭や魔法の才能も良かったので周りに気を使う必要もなかった。


そして、中学生になったときにとある人物に出会った、いや、会わされたというのが正しい。父親である高貴が委員会内にある訓練所に麗華を連れて行った。そこで出会った少年が立花遼一だった。そして、もう一人が現在、上層部委員長の一ノ瀬 雄帆ゆうほの息子、大志だった。


「二人にはそこにいる遼一君と戦って貰いたい」大志に良く似た中世的な顔の雄帆がそう言った。


「と、父さん、いきなりどういうこと!?聞いてないよ」突然のことでびっくりした様子でそう言った。


「それは言っていなかったからね。軽々しく話せることではなかったからだよ」


「お、お父さん?」麗華もそういって高貴を見た。


「ああ、その通りだ、彼と戦って貰う。身の程を知ってもらうために」高貴は軽く笑いながら麗華と目線を合わせて優しく言った。


「と、父さん、いくらなんでも二人がかりじゃ…」大志が麗華の方をちらっと見ながら言った。


「…委員長早くしてください、こんなくだらないことで呼び出されてこちらは辟易していますのに」白衣の衣装に身を包んだ状態の遼一がそう言った。


「なっ!?」

「は?」


麗華と大志がポカンと口を開けて言った。


「すまない、というわけで早く準備をしてくれ」そう言って二人にそれぞれ更衣室のキーを渡した。


ありえない。麗華はそう思った。

実質トップである雄帆にそのような口答えをしたのだ。そんなことは絶対に普通はありえない。


二人は更衣室で着替えた後、訓練場に戻る途中に話し合った。


「えっと、僕の名前は一ノ瀬大志、一ノ瀬だったら父親と区別付かないから大志でいいよ。君は?」


「私は五木麗華です。私も麗華で構いません。確か中学二年生でしたっけ?」


「うん、そうだね。麗華ちゃんも同じ年かな?」


「いえ、私は一年生です」


「あ、そうだったんだ。一個上だけど敬語とか使わなくていいよ」笑顔でそう言った。


「いえ、私はこのままでいいです」やんわりと断った。


二人は現在、黒の耐久性の高い全身アーマースーツと黒の防弾シャツを着こんでいる。ぴったりとした感じになるが上から青いが基調の高性能ジャージをきているので体のラインは見えない。


少しの間沈黙が流れたが大志がすぐに口を開いた。


「麗華ちゃんどう思う?このような武装をするほどの相手に見えた?」


「わからないって言った方がいいかもしれませんが、少なくともそんなに脅威には見えませんでしたよ」


「だよね…。一体何を考えているんだろう」そう言って考え込む素振りを見せた。


「とりあえず、戦って確かめましょう」そう言って訓練所に向かった。















「やっと来たか」そう言って白衣のままの状態で佇んでいた。


「え?武装してないの?」大志がそう言って遼一を見た。


「…必要ないんですよ。あなたたちの攻撃は当たりませんので」


「…ずいぶんな自信があるみたいだね」そう言って片手剣のMWを構えた。


「…過剰な自信は自分を苦しめるわよ」麗華もそう言って片手銃を構えた。


「それはあなたたちに言えますよ。そうですよね全国中学剣術大会覇者の一ノ瀬大志さん、全国中学対人射撃大会覇者八針麗華さん」


「…それが関係あるのかい?」

「そうよ」


「自信をつけるのは構いませんがそれが慢心となって練習をさぼったりするのはいけないと思いますよ」


「…休息はある程度必要だと思うけど?」

「私はさぼったつもりなんかないわ」


「休息で二週間練習をしない。さぼったつもりがないと言うのに練習が一時間未満なんですがね。あなたたちの親が知らないとでも思っていたんですか?」


二人とも無言で俯いた。


「確かに大志さんはと麗華さん高校生レベルでも十分通用します」


しかし、と続ける。


「―――所詮そのレベルです」


「なっ!」

「は?」


二人とも睨みつけるようにして遼一を見た。


「そう言う君は何か実績があるのかい?僕たち以上の実績が!」


「そこまで言うくらいだったら一つくらいあるわよね?」


「大会成績ですか?ありませんよ?ただ―――」


「あははは!なんだい?ただのほら吹きだったのかい?恐れ入った―――よ?」


な、なにこれ…麗華はそう思いながら遼一を見つめた。


威圧感そういったプレッシャーが麗華と大志を縛りつけて動けない。


「あなたたちよりは強いですから、いつでもどうぞ」そう言った瞬間、威圧感がなくなった。


「・・・いくよ!」そう言って大志が遼一に斬りかかって戦いが幕を開けた。



明日も午後六時に出します

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