三話 普段の生活
生徒会の騒動が終わって家に帰った晩、遼一と美希が家に帰ると一本の電話が入った。
『遼一様、電話です』お手伝いロボットのHome Help Robot 通称HHRが遼一にそう伝えた。
現在、ロボットは家庭に一台と言っていいほど普及をしている。ロボットは洗濯、掃除など身の回りの世話をしてくれる。料理となるとパンを焼いたりなど、簡単なものしかできないが、仕事をしている人達にとっては十分ありがたいのである。
そのおかげもあり、孤独死というものがなくなった。その他にも、防犯対策にもなり、今ではなくてはならない存在にまでなっている。
容姿も人間とそんなに変わらないため、親しみも持ちやすい。
「ルイ、誰だ?」遼一はそう言いながらHHRのルイの方を向いた。
『五木副委員長様からです』
「…今、出る」そう言って電話をとった。
『やあ、遼一君』そう言って30代の男性が画面に映った。やはり、麗華とどこか似ていて親しみやすそうな雰囲気が滲み出ている。
現在、固定電話は全てTV電話になった。無論サウンドオンリーにもできる。他にも家であればどこでも話すことができるように腕取り付け型もある。それは防水加工もできているので、例え風呂に入っていたとしても問題ない。
「仕事ですか?」遼一はそう言って画面の五木を見つめる。
『その通りなんだけど…君は了承していいのかい?』少し困った表情で言った。
「問題ありませんよ。試してみたいものありますし」
『また開発したのかい?』
「ええ、今度は広範囲殲滅型を開発しました」
『本当に君の技術力には感服するよ』やや笑いながらそう言った。
「ありがとうございます」そう言って頭を下げた。
『それで、今回の仕事だけど…反魔法組織の麻薬取引だよ』
「よくそんな情報が入りましたね」
『ガセかもしれないんだよ。だから、君に行ってほしいんだよ。組織は動くのは遅いからね』
「なるほどですね。わかりました」
『…敵の生死は問わないよ。君の命の方が大切だからね?』
「了解しました」
『それじゃあ、話は以上だよ。詳細はデータを送るから』
そう言って画面が黒く染まった。
レジスタンスの行動が活発になってきたな。遼一はそう思いながら準備に取り掛かった。
やはり、魔法に対してよく思わない連中はいる。誰しも魔粒子は操れるがそこにはやはり才能というのもあるだろう。現在、魔法が着々と社会進出している中で、魔法に才能がない人は冷遇されている感じる人がほとんどだろう。魔法師は給料が平均サラリーマンに比べ、高すぎるとか、あいつらは何もしていないと言う人がいるがそれは間違いだ。
魔法師はある一定の任務をこなさなければならない。魔法委員会に所属していればそんなことをしなくてもいいのだが魔法委員会は警察と同じ仕事だ。そのかわり給料は国家公務員より多いか同じだ。
そうではない魔法師はある一定の任務をこなさなければならない。魔法師のランクに合わせて任務が違うがランクが上がれば上がるほど命の危険が高まる。
それに合わせて給料が上がるのだ。ちなみにAランクのフリーになったら遊んで暮らせるほどのお金がもらえる。
命のリスクを減らして国家公務員と同じにするか、命の危険を増やしてでもお金を得るのか選択できる。
命を失うリスクを増やしたら、お金も増えるのだ。
サラリーマンなど命を失うリスクなどないに等しい人たちより多いのは当たり前のことであり、国家資格を持っている人達が給料が多いのは当然だ。
「美希、すまないが仕事が入った」そう言ってキッチンで準備に取り掛かっている美希に言った。
「仕事?…また危険な仕事?」心配そうな表情でそう言った。
「まあ、危険ではないとは否定できないな」
「…ケガするのだけは私は嫌だよ」上目遣いで心配そうに言った。
「しないよ。相手が気づく前に全部終わらせるつもりだから」
「うん、気をつけてね」
「ああ、夕飯楽しみにしているよ」遼一はそう言ってリビングを出た。
遼一は自分の部屋に戻るとすぐに着替えた。
黒の防弾アーマースーツ、黒のマスク、黒のバイザー、フード付きの黒のロングコートを身につけて外に出た。
場所は港か…ここからは30キロと言ったところか問題ないな。遼一はそう思った瞬間姿を消した。
港、コンテナがいっぱい積んである陰で何かをしている者たちがいた。
意外と多いな…普通は小規模で行われるはずだが…一体なんだ?遼一はコンテナの陰に隠れながら様子をうかがった。
数にして40人、護衛にしては多すぎる人数だ。しかも持っている武器が一人、一人恐ろしいほど攻撃能力の高い重火器である。
麻薬にしては多すぎるな…レジテスか俺が罠にはめられたかのどっちかだろうな遼一はそう思いながら新作の双銃型のMWを構えた。
現在、魔法鉱石であるレジテスは輸入と輸出は禁止されている。それは、テロリストなどの手に渡ると厄介なことこの上ないためである。
レジテスは魔法委員会が扱うことになっている。現在確認されている発掘場はすべて委員会によって管理されているため、悠々と侵入できない。
レジテスだとしたら内部に協力者がいるってことだな…。とりあえず、敵を殺すのは却下だな。先に全て気絶させるか。遼一はそう思いながら空に向かって銃で四方にエネルギーを留まらせた。
「何だ!―――ってうああ!!」そのような声が聞こえてきたが、いきなり全ての人物が倒れた。
遼一はMWの銃弾から雷の魔法を通して全ての敵を気絶させた。これは銃弾を空に留まらせて、その銃弾に魔法を通して相手に攻撃をしたのである。このMWは広範囲に銃弾を飛ばすことができるので広範囲の攻撃に向いている。
しかし、この空中に留まらせる技術は誰にでもできる技ではない。なので、遼一は開発して誰でも使えるようにした。
気絶させた奴ら全員の意識レベルを確認して武器を破棄して拘束した後、遼一は調べ始めた。
ぴったり40人だが…威力が思ったよりも出せなかったな。とりあえず魔力高そうな奴を片っ端から探すか遼一はそう思って調べていった。
ビンゴだな。遼一は車に積まれていた黒のケースの中を見ながら思った。
ケースの中には透明の色をした魔法鉱石のレジテスがギッシリ詰まっていた。
さて、あとは連絡するだけか遼一はそう思って通信機から連絡を入れた。
『やあ、終わったのかい?』そう言う声が耳に入ってきた。
『終了しました。犯人である魔法委員会所属の人も一緒に』無機質な機械声でそう言った。これもばれないようにするため変声機を入れている。
『内部のだったのか…。はあ、また洗い流すのさすがに疲れるな』声からでも分かるような疲れた声だった。
『そちらの方は頑張ってください。それと早くこちらに人員をよこしてください』
『いや、もう行っているはずだよ。君のよく知っている人物さ。その人にレジテスの方は渡して』
『…了解しました』そう言って通信を切った。
「魔法委員会所属の立花 菜々子です。持ち物の預かりに来ました」魔法師であるIDカードを見せながらそう言った。
魔法師のIDカードは本人の魔力を感知しないと表示をしてくれない。表示されると真っ黒のかーどから白い文字が浮かび出て、委員会のマークである翼が浮き出てくる。
菜々子のカードにはAランクの表示がされていた。
いつもの雰囲気とは違うな。いつもこのくらいあってくれても構わないんだがな。遼一はそう思いながら自分の姉である人を見た。
青を基調としたスカートタイプの委員会の制服に身にまとっていた。
綺麗な亜麻色でロングの髪が風に乗って空中に舞っている姿が非常に絵になっている。超絶美女と評されることだけはあり、誰もが振り向くであろう綺麗な顔立ちにプロポーションも完璧である。
『ああ、この荷物だ頼む』無機質な機械声でそう言って遼一は手渡しをした。
「かしこまりました。お仕事お疲れさまでした」菜々子はそう言ったらすぐに下がった。
久しぶりの再会だったな。元気そうで何よりだ。遼一はそう思いながら家に帰った。
「りょーちゃん、お帰り!ケガはない?」家に帰るとエプロンを着けた美希が出てきた。
「ああ、ない。それよりもお腹が空いたんだが…」マスクとフードを取りながら言った。
「ちゃんとできてるよ。今夜は煮込みハンバーグを作ったんだよ?」
「ずいぶん手の込んだ料理だな」そう言いながらコートを脱いでリビングに行きテーブルに着いた。
「さあ、召し上がれ!」美希は笑顔でそう言った。
「ああ、いただきます」そう言って料理を口に運んだ。
「ど、どうかな?」覗き込むようにしながら遼一の様子を覗った。
「…心配しなくてもおいしいよ」そう言いながら淡々と口に運んでいく。
「よかった~。おいしくなかったらどうしようかと思っていたよ~」胸を撫で下ろしながらそう言った。
「いつも思うが美希はいいお嫁さんになれるよ。普通に家事上手いし」
「えっ…な、なれるかな?お嫁さん」顔を赤くしながらそう言った。
「ああ、なれるよ。なれない方がおかしいと思うよ」
「あ、ありがとう…りょ、りょーちゃんはお嫁さんほしいと思ったりしないのかな?」
「俺?いや、ないよ。その前に好きな人できたことないし…。自分のことが手一杯で」
「え?…あっ、その…ごめん」俯きながらそう言った。
「いや、謝ることはないよ。実際、言い訳みたいなものだし」
「でも…りょーちゃんは十分に頑張っていると思うよ」
「だが、実際は何も進展がない。何一つ分かっていないと言ってもいいくらいにだ」
「・・・」美希は優しい表情で遼一を見ていた。
「すまない、美希に言っても何も変わらないのに…」首を横に振りながらそう言った。
「りょーちゃんが焦っているのは分かっているよでも――」そう言って立ち上がって遼一の両手を包んだ。
「愚痴は言ってほしいかな?もう少し頼ってほしいよ。私ってそんなに頼りないかな?」そう言って首を傾げた。
「…いや、そんなことはない」そう言って首を横に振った。
「じゃあ、遠慮なく頼ってね?」
「ああ、わかった」
「じゃあ、私そろそろ帰るね?」
「送っていくよ」そう言って遼一は立ち上がった。
現在の時刻は9時、遼一は美希を家まで送った後、家に帰って風呂に入って自分の部屋に戻って窓を開けてベランダに出た。
なんで俺は人と違うんだ?魔力がない。それなのに魔法を使える。ただの化け物じゃないか…遼一は夜風に当たりながらそう思った。
もう何回このことを思っただろうか…。遼一はそう思いながら空を見上げていたら何かが近づいてくるのが分かった。
遼一はすぐさま戦闘態勢に入った。
「りょーーーーちゃーーーーーん!!!!」その声とともに遼一に突っ込んできた。
その声が聞こえたと思ったら遼一は柔らかいものを受け止めていた。
「姉さん、どうやってここの居場所がわかったの?」
そう、遼一の親戚でもある立花菜々子であった。
「そんなこといいじゃん!それにしてもやっと見つけたよ!全然、家教えてくれないもん」遼一に抱きついた状態でそう言った。
空を飛ぶのは現段階では不可能と言われている。それは、魔力量の消費が尋常じゃないからだ。空中に浮かび続ける魔力量、空中を移動するための魔力量、体勢を維持し続けるための魔力量など、消費が尋常じゃない。
だから、魔法師はそんな魔法など使わないのだ。
「姉さんに家を教えたら毎日来るでしょう?」
「え?来ないよ?」
「え?本当?それなら―――」
「だって、りょーちゃんの家に住むから」
「…それはやめて」呆れた表情を浮かべながらそう言った。
「え~どうして~、こんなにもりょーちゃんのこと愛しているのに~」そう言いながら遼一に頬ずりをする。
女性特有の甘い香りが遼一の鼻をくすぐるが、本人は興奮の色を見せる様子がない。
「…行きすぎる愛情は嫌われるものだよ」離れようと手で菜々子を払おうする。
「え?そうかな?りょーちゃん嬉しくないの?」
「嬉しくないというのはないと思うけど少し――――」
「だったら問題ないじゃん!」そう言いながらベットに遼一を押し倒した。
遼一が抑えてください、と言う前に菜々子の言葉に遮られた。
「どうしたの?」遼一は菜々子を見つめながらそう言った。
どこかねっとりとした目で遼一は菜々子に見つめられた。
「あれあれ?りょーちゃんそこまで鈍感なのかな?ここまでされたら分かるでしょ?」妖艶な笑みを浮かべながら遼一に言った。
大抵の男がこんなことをされれば、完全に惚れてしまうだろう。しかし、遼一は冷静に姉を見つめていた。
「…血のつながりのある本当の姉とそのようなことはしないよ」
「大丈夫だよ。世間では私たち親戚だし、慣れれば案外―――って何でりょーちゃんの家、女の子の匂いがするのかな?」そう言いって立ち上がって遼一の部屋を見渡しながら出て行った。
なんでそんなことが分かるんだよ…。遼一はそう思いながら部屋を出た。
「…この匂いは女の子で間違いないんだけど誰?彼女かな?」笑顔で言っているが目が笑っていなかった。
「美希だよ。今日用事で出かけていたんで―――」
「ああ、『死神』のことだよね?今日直接会ったからね~。まさか本当にりょーちゃんとは思わなかったけど」
『死神』とは魔法委員会の中で有名な犯罪者狩りだ。黒いローブに包まれていて年齢、性別も分からなく、さらにありえない速さで犯罪者を狩って行く。
さらに、犯罪者の一部が死神みたいだったと言うこともあり、そのような名前が委員会の中で広まっている。
死神は委員会と協力関係にあることから結構、好感度が高かったりする。
ハッタリではなさそうだな…。遼一は菜々子を見ながらそう思った。
「…どうしてわかったの?」
「無意識レベルの魔力を全く感じなかったからって言ったら分かるかな?」
「…それで狙いをつけられたのか。けど、無意識レベルの魔力をいつの間に感知できるように?」
「優子さんのところで修行してたんだよ?う~ん、半年くらいかな」
「優子さんのところか…」
しかも、半年だけで魔力の波長を…相変わらず、すごいな姉さんは。遼一は菜々子の言った言葉を心の中でそう思った。
優子とは遼一と菜々子の剣の師匠である。さらにSランクの有名な魔法師だ。
「…それよりもりょーちゃん、いつになったら家に帰ってくるの?」
「…わからないけどが自分に区切りがついたら戻るよ。それにこっちのほうが研究しやすいから」
「そ、それでもさ、戻ってくるとか…ほら、戸籍を戻すとか」
「しないよ。それも必要ないから」無表情でそう言った。
「それもそうだね…。それと、お父さんとお母さんが死ぬほど心配してたよ?」
「そうなんだ…電話で見る限り元気に見えるんだけど…実際のところどうなの?」
「元気だよ。でも、りょーちゃんに会えなくて毎日悲しんでいるけど」
「そうなんだ。でも電話はしているんだけど…」
「それでも、寂しいと思うよ?今度の休みに会いに行ったら?」
「それもそうだね…でも、一週間前にも会いにいったんだけどな…」
「あの時は…うん、お母さんに殺意が沸いたかな~。りょーちゃんにキスするとかありえないんだけどな~」笑いながらそう言うが目が笑っていなかった。
「高校生になる記念とか言ってたけど、高校生になるから逆にしてほしくなかったかな」苦笑いでそういった。
「今度は大丈夫だよ。お母さんがキスする前に私がするから」
「…意味が分からないから」
「もう、冗談だよ一割くらい」そう笑顔で言った。
それってほとんど本気ってことじゃないか?遼一はそう思いながらため息をついた。
「じゃあ、私そろそろ帰るね?明日も仕事あるから」
「わかった。気をつけて」
「うん、それじゃあね」そう言って玄関から出て行った。
まったく、相変わらずだな姉さんは遼一は去っていった菜々子に対してそう思いながら自分の部屋に戻っていった。
次の日、美希と一緒に登校して、教室に入ったら遼一はクラスメイトに一斉の拍手で出迎えられた。
「おめでとう立花君」
「おめでとう立花!」
「すごいよな!風紀委員だぜ?」
「Fクラスとしても鼻が高いよ」
そう言って遼一を褒め称えた。
「ああ、ありがとう。選ばれたからには一生懸命に頑張るよ」そう笑顔で答えた。
もう、広まっているのか…まったく、情報がまわるのが早いな。遼一はそう思いながら席に着いた。
「立花っていう奴はいるか!」
そのような声が教室のドアから聞こえてきた。
突然の出来事でクラスがシーンっと静まり返った。
遼一は其方のほうに目をやると、男子生徒達が四人立っていた。遼一は立ち上がって廊下に出た。
「俺が立花だけど…どうかしたのかい?」嫌な予感がしながらも、相手の気に触らない話し方で言った。
「どうかしたのかいじゃねえんだよ!なんでBクラスの俺達を差し置いてFクラスのお前が風紀委員に選出されるんだよ!」
Bクラスの奴らだったのか、面倒な連中だな。そう思いながら男子達のほうに目をやった。
「文句なら俺ではなく選んだ委員長に言ってくれ、俺じゃ無理だ」
「じゃあ何で辞退しなかったんだよ!」別の男子がそう言って突っかかった。
「断る理由がないからだよ。それにあの状況だったら、誰だって引き受けるしかないよ」
「だったら、その力を証明してみろよ強いんだろ?風紀委員さんよ」にやにやしながら片手剣のMWを構えた。
他の三人もそれぞれのMWを構えて、遼一を見た。
本当に面倒な連中だな…。遼一は自然体のままで男子生徒を見つめた。
「ほう、貴様ら風紀委員長の目の前でケンカとはいい度胸だな」
「二瀬先輩…おはようございます」遼一はそう言って頭を下げた。
「ふ、風紀委員長!?お、おはようございます。こ、これには少々訳がありまして」男子生徒の一人がそう言って言い訳をした。
「ほう、言ってみろ」腕を組んだままの状態で男子生徒をみる。
その場の雰囲気が重苦しいものに変わる。明らかに二瀬からにじみ出る威圧感のせいだ。
「え、そ、そのた、立花君に、風紀委員になれる位の実力だから戦闘術を教えて欲しいなとおもいまして」
「なるほどな、それなら私が教えてやろう。お前達もその方がいいだろう。どうだ?」意地の悪い笑みを浮かべながらそう言った。
「い、いえ、結構です。そ、それではこれで失礼します」そう言って四人はすぐに帰って行った。
「朝から人気者だな。立花」にやっと笑いながらそう言った。
「そのようですね…でも、迷惑極まりないですよ。それと、助けてくれてありがとうございました」
「別にいい。まあ、Fクラスから選ばれたんだ。そのような僻みはあるだろう。まさか、予想していなかったということはあるまいな?」
「予想はしていましたが、ここまで過激とは思いませんでしたよ」
「ふふふっ、私も来てみたがさすがにここまでとは思わなかったな。でも、なかなか退屈しないでいいかもしれん」じつに楽しそうな顔でそう言った。
「自分にとってはいい迷惑なんですが…」
「いいじゃないか、四六時中ケンカを吹っかけられるんだぞ?喜ばしい限りじゃないか。私も毎日のようにお前の後を追いかけていたいな。そしたら、ケンカが起きそうだしな」ニヤッと嬉しそうに笑みを浮かべながら言った。
「…あの、二瀬先輩って風紀委員に入ったのって」
「ああ、ケンカを公正にとめられるからな。楽しそうだったから入りたいと思ったんだよ」
「そうでしたか…」
ただのケンカ狂じゃないか…遼一は目の前にいる加奈に対してそう思った。
「それよりも、授業でないんですか?…もう、始まっていますけど」
「特権だ。生徒会所属及び委員会所属は授業は受けなくてもいい」
「それは分かっていますが…」
「まったく、堅いな立花。そんなんじゃ世の中歩いていけないぞ?」
「はあ、もういいです。それよりも自分はもう戻りますよ」
「ああ、戻っていいぞ。それよりもケンカ起きたら私を呼べよ?」
「自分で対処するので呼びません」
「立花のケチ」頬を膨らませながら少女らしい行動を見せる。
「ケチではなく、当たり前です」
意外と子供らしいんだな二瀬先輩って。遼一はそう思いながら教室に入った。