二十七話 大会一日目午後の部3
対人射撃は波乱の戦いだった。中部の生徒相手に全勝を決めるのは難しく、引き分けに持ち込まれたり、負けてしまったりなどをして、最後には引き分けで大将戦に持ち込まれて負けてしまうというものだった。
そして関東も順調に駒を進め、現在は三対一で関東がリードしている。ここの大将戦で中部が二回勝てば同校優勝になる。
「よう、お前が孝也の奴をたおしたってのは」当麻が対峙している暁にそう言った。
「・・・」暁は何も言わず黙って試合を開始されるのを待っている様子だった。
「オイオイ、俺は眼中にないってか手厳しいね。麒麟って言えば麒麟瞳だよな。お前の姉ちゃんだろ?すごいよなあんな優秀な姉がいるなんてよ」
「姉は関係ないですよ。それに、だからなんです?」
「お~、初めて反応示したな。別にいいじゃねえかよ。あの若さでよ、あんなところまで上り詰める姉なんだぜ?それにあんな―――」
「姉は関係ない。つべこべ言わずに来いよ先輩」
「ほう、先輩には敬語は使おうぜ?それが社会のルールだろ?」
「・・・」
「こりゃ、しかたねえな」肩をすくめながらそう言った。
ビーっと試合開始のブザーが鳴り響いた瞬間に二人の姿が一瞬ぶれた。
お互いの死角を狙い合い、エネルギー弾が様々な色が飛び交いながら二人の戦闘は続いていく。さきに動いたのは当麻だった。彼はバックステップをしながら銃を撃ち続け、更に左手にもう一つの銃を取り出して撃った。丁度、暁の死角になるように体を横にしていたため、不意打ちとなった。暁は空中でうつ伏せ状態になりエネルギー弾を避け、そのまま銃を空中で撃った。
当麻は半身をずらして最小限でよけ炎を纏わせたエネルギー弾が連続して暁を襲った。暁は電気を纏わせたエネルギー弾を撃ち相殺させたあと、高速で縦横無尽に移動しながら電気を纏わせたエネルギー弾を撃っていた。
当麻はさすがに全てを避け切ることは出来なかったがダメージポイントを取られる箇所だけは避けた。当麻は怯む事なく、先読みして避けられてもダメージポイントが取れる頭と胸を避けれる範囲を全て双銃で埋め尽くした。双銃ならではの攻撃だった。
暁は避ける事は不可能と思ったのか半円の電気のバリアを張った。そしてそのままバリアを膨張させて爆発させた。爆発させた後、煙を上げながらその余波が当麻の方にも届き、当麻は思わず炎のバリアを張った。
「しまった!」当麻は思わずそう呟いたがもう遅かった。
当麻は煙のせいで暁の姿が見えなかったが、暁はそれを利用して当麻の後ろに回りこんだのだ。暁はそのまま、バリアを貫通させて背中のちょうど心臓部に当たるところを撃たれた。
当麻は連続して取られないように暁との距離をとって、体制を立て直した。
『関東男子、ダメージポイント』アナウンスで審判が静かに告げた。
暁は当麻に考える暇を与えさせなかった。いつの間にか当麻の後ろをとっていて、銃を放つ瞬間だった。当麻は反射的といってもいいほどの行動で思わず身を下に屈めながら、銃を暁の心臓部を目掛けて撃った。
暁は驚愕表情を浮かべ、暁の放ったエネルギー弾は誰もいないところに放たれた。そのまま吸い込まれるように暁の胸に当麻の放ったエネルギー弾は進んでいくと思ったが、暁はその場にいなかった。
彼は身を屈めている、当麻の後ろに立っており、そのまま彼の銃からエネルギー弾が放たれて当麻の背中に当たった。
『関東男子、ダメージポイント。勝者、中部男子』アナウンスがそう告げて男子の試合が終わった。
「いや~、つええなお前」当麻は立ち上がりながらそう言った。
「…さすがに最後のはビックリしましたよ」
「いや、最後のは、ガムシャラにやったんだよ。実力とは、言いがたいものだ。それにしても、お前恐ろしくつええな。現役の魔法師でも勝てるか、どうか、わからねえぞ?」息を整えながらそう言った。
当麻は息を乱すほど疲れているの対して、暁は息を一つも乱すことなく立っていた。
「…そうですね。一つ質問してもいいですか?」
「あん?なんだ?」息が整ったのかいつもの調子でそう言った。
「あなたの学校に居る、立花遼一と言う選手は強いですか?」
「…どうだろうな。俺が直接戦ったことはないから分からないが、二年のAクラス相手に瞬殺と言っていいほどの実力だってことは知ってるぜ?」
「そうですか…分かりました。では失礼します」そう言いながらフィールドから去って行った。
やれやれ、今年の一年生は化け物ばっかだな。そう思いながら当麻は空を見上げた。
「あ~、本当に面倒くせえな」彼は無意識にそう呟いたかどうかは本人にも分からなかった。
対人射撃は関東の女子の大将が勝ったため、関東が優勝を決め、大型電子ディスプレイが表示された。
対人射撃部の部門
一位 関東
二位 中部
三位 北海道
四位 九州
五位 近畿
六位 東北
七位 四国・中国
総合の部門
一位 関東 39pt
二位 北海道 34pt
三位 近畿 31pt
四位 九州 30pt
五位 中部 20pt
六位 東北 15pt
七位 四国・中国 11pt
「強すぎるな。…あんな奴と遼一は戦うかもしれないんだろ?信じられないぜ」照吾は試合を見終わった後にそう言った。
「そうだな。俺の可能性もあるが、美希と戦う可能性もあるからな」
「そうだね。油断できない相手には間違いないと思うよ」美希は真剣な表情で頷いた。
「それにしても、今年は波乱を極めそうね。次の総合格闘なんてどこも優勝可能性があるんだから」梓はそう言った。
「去年は確か東北だったよな。シード権を獲得して、更に敵の不意をついた武器で勝利を収めていたからな」遼一はそう言った。
「あれは驚いたよね。映像を見ていて思ったけど、何でもありだなって感じだったしね」美希はそう言った。
「強いって言われている人でも以外にあっさり負けたりするからな。実際の現場魔法師が事件で犯人と対峙したときみたいでとても実践的でいいとは思うけどな~」照吾はそう言った。
「そして怪我も多いのも事実ね。ジャージの衝撃吸収アーマーでもダメージが通ることがあるくらいだしね」
ありとあらゆる武器を扱うために、通常の魔法にさらに攻撃力の高い武器などが加わるとダメージが通ってしまう。バリアを介さないとケガに繋がる可能性があるのだ。
「ある程度は仕方ないものもあるな。実際の現場なんて命のやり取りをするものだからな」遼一はそう言った。
「それを高校生に求めるのにはさすがに酷じゃないかな?」美希はそう言った。
「…確かにそうだな」遼一はそう言った。
「いわば練習って奴なんだろう?」照吾はそう言った。
「ああ、その通りだな」遼一はそう言って頷いた。
『これより総合格闘の試合を開始します。第一試合の選手は準備をしてください』
「中部と東北か…どっちが勝ってもおかしくないな」照吾がそう言った。
「確かにそうだな。勢いがあるのは中部だろうがな」遼一はそう言った。
「確かにそうね。今年はどのような作戦で来るのかしら」梓はそう言った。
「気になるよね。確か玄武家の人が三年生でいるんでしょ?」
玄武家は現存している。防御の魔法の基礎を構築、理論提唱をした魔法歴史に名を連ねる大魔法家である。得意な魔法は土属性で、鉄壁の防御の前になす術がなく、土魔法の攻撃魔法の爆発で相手を吹き飛されてしまうというのが有名だ。
「でも、確か玄武家の人は風紀委員でしょ?この試合にはでないんじゃない?」梓がそう言いながら美希を見た。
「う~ん、考えすぎかな~。さすがに防御の魔法を指導するって言うのは…」難しい顔をしながらそう言った。
ビーッというブザーの音とともに試合が始まった。
東北が銃を周りに撃って、エネルギー弾を空中に待機させた。数十のエネルギー弾が空中に止まっている状態だった。東北の生徒が電気を纏ったのエネルギー弾に空中にある内の一つに当てた瞬間にフィールドにいる中部の生徒に目掛けて雷が落ちた。しかし、中部の生徒は平然として立っていた。
「男女とも平然としているな…。土の魔法で防いだのか?」照吾はそう言った。
「そうだろうな。でも、あの落ち着きようは男女とも異常だな」遼一は試合を見ながらそう言った。
「…まさか、この試合のためだけに」梓がそういいながら驚いた。
「梓ちゃんどうかしたの?」美希がそう言って首を傾げた。
「中部は多分、勝者が一番曖昧な総合格闘に土魔法が得意な生徒を中心に集めて防御魔法を徹底して叩き込んだと思うわ。あの異常な落ち着きようは、相当な訓練をつんだ証拠よ」
「おいおい、それじゃあ、風紀委員にいる玄武さんがこれを指示したのか?」
「…多分違うわ。それをやったのはたぶん生徒会長よ。賛成した玄武さんは手伝っただけに過ぎないわ。さすがに風紀委員一人では出来ることではないわ。…これは推論で確定じゃないけど」
「生徒会長が?…中部の生徒会長って誰だっけ?」
「服部孝蔵って言う人よ」
「…聞いたことないな。まったく印象にないんだけど」
「当たり前よ…試合にすら出ていないわ。だから実力も未知数、そして、どんな魔法を使ってくるのかさえ分からないわ」
「男女ともに苦戦しているみたいだな。やられるのは時間の問題だな」遼一はそう言った。
「いや、もう負けるぞ」照吾はそう言った。
男女ともに中部の生徒が爆発の魔法を起こしてその爆風に巻き込まれて東北の生徒が場外に落ちて負けた。
「…どんな対策をとるのかな。これは厳しいと思うよ」美希は試合を真剣な表情で見ながらそう言った。
「そうだな」遼一はそう言った。
東北と中部の戦いは中部がそのまま勝った。東北の生徒は、なす術なく負けてしまった。関東はシード権を獲得しているので戦わずに次ぎは中部と戦うことになった。
「厳しい戦いになりそうだな。あの堅い防御魔法をどうするかになるが…」照吾はそう言い淀んだ。
「ああ、あの堅い防御になると強力な魔法で突破するしかないな。スピードで撹乱させるのはあまり得策ではないな。向こうは一歩も動いていないからな。だからと言って近接になりすぎたり、慎重になりすぎたら一気に攻められるしな。結構難しいぞ」遼一はそう言った。
「だからと言って、黙って負けるにはいかないでしょ」
「うん、そうだよね。今はこっちにも勢いがあるから勝ってほしいね」
『ただいまより二回戦第一試合、関東と中部の試合を開始したします。選手は準備を開始してください』
関東の生徒と中部の生徒は男女それぞれ、フィールドに立った。
ブザー音とともに関東の男女はともに中部の生徒を肉薄した。男子生徒は大剣、女子は槍で攻撃を加えるが中部の生徒はびくともせず、一歩も動いていない状況だった。
「堅過ぎるな…。並大抵のレベルじゃないぞあの防御は」照吾が試合を見ながらそう言った。
「学生生活の三年間は徹底して防御魔法に費やしたに違いないわ。そうじゃなければこんな防御魔法は無理よ」梓がそう言った。
「ああ、そうだな。魔法で崩そうにも難しいだろうな」遼一がそう言った。
七校大会では殺傷能力の高いCランク以上の魔法が禁止されている。対人射撃で麒麟暁相手に使われた源孝也の氷の魔法がギリギリCランクにいかないレベルだ。殺傷能力の高い魔法のCランクなので防御魔法は入る事はない。しかし、防御魔法もCランクまでと制限が掛けられている。
中部の生徒が使っている防御の魔法はCランク以上の魔法でなければ傷をつけることは難しいだろう。
「あっ!…負けちゃった」美希がそう言った。
男子の方は爆発の魔法で吹き飛ばされながら場外に落ち、女子の方は隙を突かれてダメージポイントを取られて負けてしまった。
「隙もなければ、攻撃手段もない。…まったくどうすればいいんだ?」照吾はそう言いながら遼一の方を向いた。
「……あるんだが、残念ながら多分無理だな」
「おっ?つまり作戦はあるんだな?」
「相手の魔法を邪魔するために魔力を乱すしかない。防御魔法の穴を突くだが…無理だろ」
「おう、それはお前くらいしかできないだろ?アホか」照吾は呆れながらそう言った。
「遼一みたいにホイホイ出来たら魔法師はみんな苦労しないわよ」
「別に出来ないことはないと思うが…」
防御の魔法を展開している時に瞬時にどのような魔法かを判断して的確にその魔法のほころびのある部分を突くと言うものである。その魔法はどのような系統構成でどのような魔法式で構成されているのか、エネルギー比率はどのくらいか、どのくらいの規模なのかなど、あらゆる状況、パターンなどを計算して魔法を壊す方法だ。
「…演算処理できるわけないでしょ。どんな人間よ」梓は呆れながら言った。
「まあ、常人には無理だな。演算処理用のMWは作れないことはないが、通常の魔法は全て捨てることになるから意味がないな」遼一は苦笑いをしながらそう言った。
「魔法が使えねえ時点でMWじゃないよね…」美希がそう言った。
「確かにそうだな。でもまあ、不可能ではないっていう話なんだろ?実際、使いこなせたら『魔法師殺し』の異名がつきそうだな」
「いや、もう使っている部隊がある」
「え!?どこ?」梓が驚いたようにそう言った。
「対魔法特殊部隊、MSMだ。あそこの部隊は完全に魔法殺しの異名がつく部隊だ。日本軍の特殊部隊のエリート部隊だな」
対魔法特殊部隊は日本の特殊部隊の小隊と同様、四人編成で小隊が組まれる。魔法が使える人たちではないが、たとえ一人であっても現場の魔法師が負けるレベルだ。
「彼らは魔法は使えないが、魔法に対してどのように相手をするか徹底的に訓練されたエキスパートだな。名前すら聞いたことないだろ?」
「…初めて聞いたわ。そんな部隊もあるのね」梓は感心するように頷いた。
「それはすげえな。魔法が使えないのにそんな部隊があるのか」
「(りょーちゃん、それ言って大丈夫なの?)」美希が遼一にこっそりと言った。
「(問題ない。これは軍が公開している情報だ。まあ、どのくらいの強さか分からないが…)」
「まったく、あなた達応援する気はあるの?」
四人はそのような声が聞こえて後ろを振り向くと麗華が呆れながら立っていた。
「れ、麗華、戻って来てたのか」照吾が驚きながらそう言った。
「ええ、ちょっと呼び出されたのもあるけど…。それよりも、関東は負けてしまったわよ」
「は?」照吾はそう言われて試合を見るとすでに別の試合が始まっていた。
「あんた気づいてなかったの?」梓が呆れながらそう言った。
「えっ!?お前ら気づいていたのかよ!?」驚いたようにそう言った。
三人は一瞬お互いを目を合わせて頷いた。
「早く言えよ…」ガクッと肩を落としながらそう言った。
「…それより麗華、中部の対策はどうなっているか分かるか?」
「ええ、もちろん。今から私達も含めてミーティングを開くらしいわ」
「そう…。そしたら早く戻った方がいいわね」梓がそう言った
「わかった。…照吾悪いが俺たちはもう行くぞ」
「ああ、俺もそろそろ帰るわ。明日も頑張れよ応援しに来るからな」ニカッと笑いながらそう言った。
「ああ、頑張るよ」
「ありがとうね、照吾君」
「…頑張るわ」
「当たり前でしょ」
総合格闘部の部門
一位 中部
二位 九州
三位 近畿
四位 関東
五位 北海道
六位 東北
七位 四国・中国
総合の部門
一位 関東 43pt
二位 九州 38pt
三位 近畿、北海道 37pt
五位 中部 30pt
六位 東北 17pt
七位 四国・中国 12pt
遼一、美希、麗華、梓は大型電子電子ディスプレイを見ながらそう言って観客席を後にした。
四人は関東の控え室に戻ると、明日の試合に出場する選手や技術部の生徒達も含め、それぞれ椅子に腰をかけて座っていた。
「…あなたたちも席についてちょうだい」一番前で立っている縁が真剣な表情でそう言った。
四人は返事をして、並ぶようにして椅子に座った。
「まずは、技術部のみんな今日一日お疲れ様、あなた達が頑張ってくれたおかげで大きな事態にならずに今日一日試合をすることが出来たわ。この場を借りてお礼を言います」そう言って縁は頭を下げた。
「今から話し合うのは中部の生徒についての対策です。最初に今現在、私達が把握している中部の生徒について説明をします」そう言った瞬間に証明が落とされ、みんなの目の前に大きな電子ディスプレイが映し出された。
「これは、今日の対人射撃で行われた試合です。見て分かる通り、中部の生徒はここの範囲から一歩も出ていません」そう言うと約1mの円が示された。
「これについては技術部の代表としてMW研究部の柊さんと脇田君にお願いします」
はいっと二人は返事をすると前に立った。
「では、説明をしていきます。この1mの範囲はエネルギーの供給が最も濃く効果が出る範囲です。そのおかげで通常の土の魔法の防御力の底上げを行っています。この効果無しでも防御に関してはCランクいかないと断定づけることは難しいですが…。エネルギー供給を行っているせいで通常の1.5倍の防御力つまりBランクに相当するわけです」亜里沙がそう言った瞬間にざわっと周りが騒いだ。
パンパンッと手を叩く音が控え室に響いた。
「静かにしてくれ、今は説明中だ最後まで話は聞こう」真樹はそう言って皆を静かにさせた。
「このエネルギー供給は試合の時間だけじゃ尽きることはありません。例としてあげるなら片手剣であるなら、通常の二倍のエネルギー消費を相手は行っています。その分エネルギーパックもかなり多めに持っていることでしょう。しかし、たとえエネルギーが尽きても次の武器を取り出して、防御している間にエネルギーパックを換えれば半永久的に防御は持続できます」
「更に厄介なのは、つい最近発売された脳波と直接リンクして魔法を発動させるMWを中部の生徒は使ってきます。今現在他の高校の生徒が使ってきている学校は四国・中国と東北の両校だけです」
まだ発売されて三ヶ月しか経っていないのもあり、使ってくるものはほとんどいなかった。その中でも、技術校でもない中部が使ってくるのは予想外だろう。
「しかし、相手の魔力量はそうではないんです。これを見てください」そういったら画面が切り替わりグラフが映った。
「これが平均的な魔法大学付属高等部生徒の魔力量の総量を表したものです。防御魔法の持続時間は約二分です。それから張りなおすにはまた同じ量の魔力量を使用します。しかし、このグラフを見てください。彼らの大半は三年生ですが、魔力の量はCランクつまり、三回Cランクの魔法を使えばそこを尽きます」
そう言いながら一呼吸を置いた。
「つまり彼らの限界はもって三回、つまり8分間しか持たないと言うことです。次の競技であるストライクターゲットは試合時間は十分間。残りの二分間をどうするかと言うことになります」
みんなシンと静まって誰も話せない状況になった。その悲壮感漂う雰囲気はただ事ではないだろう。
「…そして風紀委員戦のことですが、玄武さんは委員長でも副委員長でもありません。つまり、立花君か円城寺さんのどちらかに戦って貰うことになります」
亜里沙がそう言うと皆一斉に遼一と美希の方を振り向いた。どこか諦めたような悲痛な表情をみんな浮かべていた。
…このような状況になるのも無理はないな。遼一はそう思いながらその視線を受け止めていた。
魔法師として将来有望の対人射撃のエースである当麻、更にそのライバルであった孝也も負けたのだ。玄武ではなく暁に。麒麟の天敵でもある玄武となれば更に強いのは予想できるだろう。
「立花、円城寺、お前たちはもう諦めているか?」腕を組んで壁に寄りかかりながら加奈はそう言った。
「いえ、それはありません。戦っていない相手ですし、それに本番は何が起こるかわかりませんから」
「私もです。戦ってもいないのに諦めるのは違うと思います」
遼一と美希は真剣な表情をしながら加奈の言葉に答えた。
「だそうだが、先輩のお前達はどうなんだ?」
一瞬シーンとした空気に変わるが、一気にその空気を打ち壊した。
「諦めるつもりはない!」
「そうだ。俺達がやるしかないんだ」
「絶対に諦めるもんか!」
「私も負けたくない!」
「勝ちたいです中部に!そして全校に!」
みんなそれぞれの声をあげた。先程の雰囲気とはうって変わり、明るい雰囲気が出てきた。
「よし、決まりね。みんなで少しずつ案を出していきましょう」縁が笑顔でそう言って改めてミーティングが始まった。