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魔力がない魔法生  作者: とんび
3章 七校大会編
24/29

二十二話 大会前日

投稿しないとか言いつつも投稿……。

受験終わってから多分書き直します。…しかも導入部分だけと言う中途半端なものになっています。

選考会からあっという間に二か月が過ぎた。雲居正平はいまだに行方不明で休学扱いになっている。遼一は正平から貰ったビデオデータを見ると家の中で正平の父、幻燈と誰かが話している姿が映し出されていて正平を殺そうとしたことなど決定的な証拠が残されていた。

これを警察や委員会に提出でもすれば雲居家は一瞬で地に落ち汚名がつくだろう。どうやって仕込んだのかも良く分からないが、さすがに幻燈一人のために家族を巻き込めないと思ったのだろう。遼一に渡してきたのは些か疑問に残るが、遼一自身も正平に言われたとおり、これを提出する気にはなれなかった。


「さあ、みんな早く乗ってー」縁がバスの前でそう言いながら生徒達に乗るように促していた。


「おはようございます会長」遼一はそう言いながら挨拶をした。


「あら、遼一君おはよう。色々大変だろうけど一緒に優勝目指して頑張りましょうね?」笑顔でそう言いった。


「ええ、頑張りましょう」遼一はそう言いながらバスに乗り込んだ。


現在、七校大会の会場に向けて三台のバスを用いて試合会場に向かおうとしていた。七校大会は東京のとあるセントラルアリーナで行われることになっているため、関東のチームは飛行機ではなく直接バスで向かう事になっていた。


七校大会は全日程三日で行われるようになっている。初日は移動などが行われた後、二日目に開会式が行われ、そして最後の夜に豪華な夕食会行われる二泊三日の大イベントだ。


「りょーちゃん、ここ空いてるよ~」美希が手招きをしながら隣に座るように促した。


「ああ」遼一はそう言いながら美希の隣に座った。


遼一の斜め前から加奈がにやにやしながら遼一を見ていた。


「相変わらずお前たちは仲が良いな。いっそ付き合えばいいんじゃないか?」


「えっ!?ふ、二瀬先輩何を言っているんですか!?わ、私たちは別にそんな…」顔を赤くしながら美希は手をブンブンと振った。


「そうですよ…あまりそうやってからかわないでください。美希は自分のことは好きじゃないのは知っていますから」呆れながら遼一はそう言った。


すると加奈は呆れた表情とともにため息をついた。


「お前さ…。逆にそこまでいくと誤魔化しているんじゃないかって思われるぞ?」


「誤魔化している…ですか?」真剣な表情でそう言って考察を始めた。


「いや、もういい。ここまで来ると逆に哀れだな。あの夏の特訓もダメだったしな」


「…夏の特訓って、模擬戦をしたことですか?」


「……私が思っていたのは肝試しの方だったんだがな」苦い表情をしながらそう言った。


夏休み、風紀委員の選ばれた四人と生徒会のメンバーの縁、梓、麗華、真由子の合計八人で特訓と言う名の三泊三日の加奈の私有地の別荘に宿泊をしていた。真樹と恭介はそれぞれ家での特訓がある理由で来なかった。

女性が六人に対して男性が二人と言うなんとも言えない状況だったが、その男子が大志と遼一だったため間違いは起こるわけがなかった。

特訓と言っても別荘が海にあるため女性陣は完全に夏を満喫している様子だった。対する遼一と大志は模擬戦をしたりして、しのぎを削り合っていた。

休憩のときに、大志が当たり障りのない程度に海で遊んでいる女性陣に特訓をしようという風に言ったら、そこから何故か遼一に女性を意識させようと言う名目の特訓に切り替わり、あらゆる特訓?を遼一は無理やりやらされた。そのうちの一つが肝試しで腕を組んで美希と梓のそれぞれ二人きりにさせたのだが、効果はどれも出なかった。


「…あれ、本当に意味があったんですか?『どんな状況でも冷静に判断する能力を身に着ける』という話だったんですが、自分には本当に効果があったかどうか怪しいんですが…」怪訝な表情をしながらそう言った。


遼一は特訓をするために行ったので遊びというのはまったく参加しなかった。皆が海で遊んでいるときは一人で静かにパラソルの下で読書をしていたくらいだ。確かに誘えば来るが、嫌々という感じが強かった。

なので遊びに誘うときは嘘の特訓を教え、どういう効果があるなどと如何にも信憑性があるような嘘をついた。すると、さすがに遊びにも真剣に取り組むようになり、どこか充実した表情をしていた。みんなはこれをよしとして、段々とエスカレートしていったのだ。


すると遼一の言葉に加奈とその後ろに居る大志が思わず吹き出した。


「お、お前まだ信じていたのか?くくっ」そう笑いながら顔を隠していた。


「ま、まったくの不意打ちだね。まさか、信じていたとはね」大志もそう言いながら肩を震わせていた。


「そ、そうだったんですか…」遼一はがくっとしながらそう言った。


「ふふっ、りょーちゃんらしいね」美希は笑いながらそう言った。


「みんな来たわね?それじゃあ、出発するわよ?」縁が先頭でそう言ってバスが発進した。















バスは自動運転のため、運転手はいない。現在は高速道路に乗って目的に向かって進んでいる。遼一は加奈や加奈の隣りに座る縁にからかわれながら話をしていた。


「あら?遼一君は好きな人はいないなんて…寂しいわ~。でも、遼一君が好きな人がいるかもしれないのよ?」にこにことしながら縁はそう言った。


「この間も話したと思いますが…。それはないと思いますが…?」


「これはやっぱり重傷よね~」ちらちらと美希と遼一の後ろに座っている梓を見た。


「重傷ですか?特に怪我などはしたつもりはないんですが…?」困った表情を浮かべながらそう言った。


「これじゃあ、好きになった二人は浮かばれないわね~。そうよね、梓ちゃんに円城寺さん」


「ええっ!?あっ…、そ、そうよね!おねえちゃ―――縁先輩の言うとおりですね」梓は顔を真っ赤にしながらそう言った。


「そ、そうですよね。ほ、本当にその通りです」美希も若干慌てながらそう言った。


「なんで、二人とも慌てる必要があるんだ?」遼一はそう言って首を傾げた。


「べ、べつに慌ててなんかいないわよ!」


「そ、そうだよ、りょーちゃん慌ててなんかいないよ~」


二人はそう言ったが、その様子は誰から見ても慌てているようにしか見えなかった。


「ほう、それならばお前たちが立花のことを―――」


「な、なにいっているんですかー!」

「ダメですよ!二瀬先輩!」


加奈は梓と美希に口を押さえられた。窓側に美希が居たため、遼一は美希にちょうど押し倒される形になった。美希の胸が遼一の顔に当たって遼一は喋ろうにも喋れない状況にあった。


「乗り出して止めたのはいいけど、円城寺さん大胆よね~」縁がクスッと笑いながらそう言った。


「えっ?りょりょりょ、りょーちゃんゴメン!」慌てて遼一の上から退いた。


「いや、大丈夫だ。…なんでニヤニヤしているんですか?」遼一はそう言いながら加奈、大志、縁の方を見た。


「いや、役得だな~と思っただけだ。男としては嬉しかっただろう?」加奈はニヤニヤしながらそう言った。


美希は加奈の言葉に顔を真っ赤にして俯き無言になった。


「…嬉しいですか?いや、よく分からないんですが…他の男性は喜ぶものなんですか?」遼一は困惑した表情でそう言った。


そう言った瞬間に加奈、大志、縁は固まった。


「えっと、何かまずいことでもいいましたか?」遼一は三人の様子がおかしいと思ってそう言った。


「あ~、言うの忘れていたんですけど、遼一は昔からこういう話にはまったくダメなんですよ。私も昔から一緒にいるから分かることなんですけどね」梓は付け加えるようにそう言った。


「え?っていうことは完全に異性に興味ないの?ただの鈍感だけだと思っていたけど…」縁はそう言って梓の方を向いた。


「そうですね…。女の子を見てドキドキするとかそういうのは一度もないし、初恋もないと思いますよ。逆にそう言う場面を見てみたいというのが私からしたらあるんですけどね。そうでしょ?遼一」


「梓の言うとおりですね。…はっきりいってどういう感情かも分からないです」


「思っていたよりも重傷だな。まさか、初恋と言うものまだだったなんてな…どんだけ純情少年なんだ。よし、こうなったら異性の魅力について私たちが教えてやろう」加奈はそう言いながら頷いた。


「…また合宿みたいな感じになりそうなんで出来れば遠慮したいんですが」


「大丈夫よ。今回は真剣に取り組むつもりだから。合宿のことは忘れなさい」縁はそう言いながら遼一を見た。


ということはあの合宿の特訓は面白がってやったことなのか?遼一はそう思いながら内心でため息をついた。


さすがに遼一はこのままじゃマズイと思って大志の方を見た。大志は頷いたため遼一はこれで事態は収束したなと思った。


「遼一君、これは君の将来のためにも、そして他の人の将来のためにも必要なことなんだ。だから、今回は悪いけど僕はこっち側につくよ」


まさか大志さんまで…遼一はそう思いながら他に助けてくれる人を探した。遼一はあたりを見渡した。美希はいまだに再起不能の状態で無理、生徒会の真樹は一人で座って静かに目を閉じているため近寄れない。恭介は、ぼーっとしながら外を眺めているがさっきから話しかけている人がいるが無反応のため無理、真由子は後ろにいるMW研究部の連中と話している。一応助けを求めてみるが、目で『こっちを巻き込むな』と牽制してきた。麗華は音楽を聴いているため無理だった。


「……お手柔らかにお願いします」渋々そう言った。















「あっ、見えてきたわ」縁はそう言って窓の外を見た。


窓の外には高層ビルに匹敵するような高さで、大きさも学校が一体何個分入るだろうかと言う大きさのドームが見えた。


「ここが私たちが戦うセントラルドームよ。全ての競技が行えるようになっているわよ?」


「やはり、すごいですね。初めてここを見ましたよ」


「あれ?あそこに来たことないの?」縁は意外そうな表情でそう言った。


「ええ、多分美希もそうですよ」


「そうなの?」


「ええ、そうです。画像でしか見たことないので…。でも、実際にこう見てみると壮大って感じがしますね」感動した様子でそう言った。


「そうだったのか…。まあ、ここに来るとしたら試合の観戦か全国大会に来るくらいだからな。特に用事がなくても訪れるという所ではないな」加奈は納得した表情でそう言った。


「確かにそうですね。娯楽と言ってもショッピングモールくらいですからね。わざわざここまで来る人はいないでしょうね」大志はそう言って窓の外を見た。


ここまで来るのに約二時間。セントラルドームと言っても山の方に立てられているため高速道路を使っても時間がかかる。一般道路となればその倍かかるのでショッピングモールに訪れるにしても時間の無駄だろう。


「リニアで来れば話は別だろう?他の学校のやつらはリニアか飛行機で来るんだろう?」加奈はそう言って大志の意見を制した。


リニアモーターカー。磁気の反発や吸引力などを応用して車輪なしで走行することが出来る電車、新幹線である。2030年あたりに営業されたが、現代のようなエネルギー粒子を使ったものではなかった。現代ではエネルギー粒子を使って円筒状の中を走るような仕組みで最高時速1000km/hを出すことが出来る。現代では完全に個室のような空間を作り出しており、同乗者が許可をしない限り部屋に入ることが出来ないため、痴漢などの被害はない。


飛行機も2030年代に比べて最高時速が3倍近くまで上がっている。Gシートという重力緩和シートを用いられているためGの衝撃はない。音速を超えると極端にエネルギー消費が悪くなるが、それは2030年代の話であって、エネルギー粒子を用いている現代ではそのようなことはない。


「まあ、確かにそうですけどね。でも、ここよりも大きなところは近くにあるじゃないですか」大志は肩をすくめながらそう言った。


「そうだな。おっ、着いたみたいだな」加奈はそう言って降りる準備をした。















でかいな…遼一はそう思いながら見上げていた。


遼一達が泊まるのはセントラルドームのすぐ横にあるグランドホテルだ。最大宿泊人数8000名五十階建のホテルで七校大会に参加する生徒、またはスタッフはここに宿泊する事になっている。

遼一は近くから見上げていることもあり、最上階が見えていない。


「部屋割りはこの間メールで添付した通りの部屋割りだからみんな間違いないようにしてくださいね」縁はそう言って生徒達に伝えた。


生徒は元気よく返事をすると縁は満足そうに頷いた。


「では、部屋の鍵を取ったあと、それぞれの部屋で荷物の整理した後夕食が始まるまで自由時間です。夕食が始まる前には指定された場所に学校のジャージに着替えて集合しておいてください。では、解散です」


生徒たちはそう言われるとぞろぞろと動き出した。遼一もそれに合わせて動いた。















「おっと、どうやらここのようだね」大志はそう言って電子キーをかざし、中に入った。


「そうですね」遼一はそう言いながら大志の後に続いた。


中に入ると目の前にテーブルと一人用のソファが二つそして電子テレビが置かれていた。奥には更に部屋がある。冷蔵庫も配備されておりビジネスホテルに更にもう一部屋のイメージだろう。


「広いですね。奥にもう一部屋あるみたいですね。ベットルームですかね」


「ああ、そうみたいだよ。ここはリビングって言ったところかな。二泊三日だし、ちょうどいいね」


「そうですね。大志さんのことだから狭いと言うと思いましたよ」


「おいおい、それは酷いな。言っとくけど僕の家は一般家庭と変わらないからね?ここは僕の部屋よりも広いよ」


「そうでしたか。自分はてっきり豪邸に住んでいると思ったんですがね」


「まあ、父親が委員長っていう理由からそう思っただろうけど、残念ながらはずれだよ」隣の部屋を空けて荷物をクローゼットにしまい、学校のジャージを取り出しながら言った。


「……まあ、その代わりセキュリティが尋常じゃないんだけどね。サーマルガンやレールガンなんて普通だよ」


レールガンは電流とレールの電流に発生する磁場の相互作用によって、弾体を加速して発射するもので、サーマルガンは単純にプラズマ膨張圧のみを弾体加速に用いる。簡単に言うとレールガンの劣化版みたいなものだ。

どちらも高威力な質量兵器である。一般家庭に防犯として配備するのは些かおかしいものがある。


「……ちょっと家には行きたくないですね」遼一もクローゼットに荷物をしまいながら、学校のジャージを取り出した。


「……そういえば、友達も僕の家には行きたくないような顔をしてたな」苦い顔をしながらそう言った。


遼一はその様子に苦笑しながらジャージに着替えた。















夕食時、遼一は関東魔法学校と書かれている円テーブルの指定席に適当に座った。


「あっ、りょーちゃん隣に座ってもいい?」


「私もいい?」


美希と梓がそう言ってきた。


「ああ、いいぞ」


「ありがとう」美希はそう言いながら遼一の隣に座った。


梓も遼一の隣に座った。


「あら、相変わらずモテモテね。ハーレムでも形成するつもり?」麗華がそういいながら美希の隣に座った。にやにやしながら言ってきているように見えるのは気のせいではないだろうなと遼一は思った。


「ちょ!麗華あなた、何言ってるのよ!」梓が麗華に対して怒った。


「そうだぞ麗華、それはさすがに二人に失礼だろ?二人は俺のことが好きではないくらい、お前も分かるだろう?」呆れた表情で遼一はそう言った。


「多分…いや、絶対私よりもあなたの方が分かっていないと思うけど?」麗華も何言っているんだ?と言う表情をしながらそう言った。


「何を言っているんだ?…ほら麗華、どう見ても美希と梓は怒っているだろう。分が悪いのはそっちだろう?」


「あなたこそ何寝ぼけたことを言っているのよ。どう考えてもあなたに対して怒っているのよ」


「…えっ?」遼一はそう言いながら二人を交互に見た。


「…別に怒ってなんかないわよ。ちょっと遼一にムカツクだけよ」


「……りょーちゃんのバカ」


梓と美希を見るとどちらも不機嫌になっており、遼一はなんとも言えない様な心地になった。


「…理由はよく分からないが、すまなかった」遼一はそう言いながら謝った。


「また、遼一君は何かしたのかい?」

「大体予想つくだろう?」

「ふふっ、青春してるわね~。遼一君は罪な男よね~」

「立花君、もう少し考えて行動した方がいいわ。いつか後ろから刺されるわよ?」

「……ねむい」

「朱雀、お前は先程まで寝ていたのにまだ眠いのか」


大志、加奈、縁、真由子、恭介、真樹がそう言って席に座った。円テーブルは満席状態になった。


「…何、変なこといているんですか。四清先輩」


「あなた自分のことがとことん分かっていないみたいね。本当に私が言っていることになりそうわね」ため息をつきながらそう言った。


「立花、相手を理解してやることは大切なことだぞ?」


「あら?三嶋君が言えたことかしら?」縁がクスクス笑いながらそう言った。


「鳳凰、俺をからかっているのか?」若干、睨みつけながらそう言った。


「だってあなたもそうじゃない?あなたのファンも結構いるものよ?ちゃんと答えてあげないと」


「悪いな俺には答える気はさらさらない。興味がないからな」


「あらあら、それじゃ皆が可哀想ね。でもそのせいで男性にしか興味がないと思われているわよ?」


真樹はツンツンな黒髪に鋭利がかった目に、つき過ぎず、しなやかな肉体を持ち、クールな性格をしているため、学校の女子生徒には人気が高い。しかし、恋愛事に興味を示さず、告白しても必ず断られることから、男性にしか興味がないのでは?という噂が立ち、腐の方々からも人気がある。


「……そんなことがあるわけないだろう。…そしてお前は何故笑う二瀬」くだらないといった表情した後加奈を睨みつけてそう言った。


「ぷくくっ、だ、だってお前が男と―――あはははっ!」腹を抱えながらテーブルをダンダンっと叩きながら言った。


余程、我慢できなかったのだろうな。遼一はそう思いながら周りを見渡した。美希、真由子、梓、麗華はすでに肩を震わせているし、大志は表面上はニコニコしているように見えるが口元が若干歪んでいた。恭介は興味がないのかテーブルに突っ伏して寝ていた。言い出した縁はとても楽しそうな様子で眺めていた。


「…二瀬、貴様、沈んで貰うぞ?」加奈を睨みつけながらガタッと席から立ち上がりそう言った。


「ほう、やれるものならやってみるがいい」ガタッと加奈も席から立ち上がった。


両者からピリピリした威圧感が漏れ出した。


「こらこら、二人ともそこまでにして、もう食べましょうよ」縁はそう言って二人を宥めた。


「ふん、命拾いしたな二瀬」


「それはこっちの台詞」


二人はそっぽを向きながら席を離れた。













遼一、美希、梓、麗華の四人は料理が置いてある場所まで移動して料理を選んでいた。


「すみません、もしかして鳳凰梓さんだったりします?」


「えっ?ああ、はい、そうですけど」梓はそう言いながら横を向いた。


「初めまして、私は九州魔法学校所属二年A組の神埼かんざきしゅんと申します」


緑目でサラサラで流れるような黒髪でいかにも優男な男子生徒が梓に声をかけた。


「えっと…何か私に用ですか?」梓は警戒するような声でそう言った。


「はい、婚約者である梓さんに挨拶をと思いまして」笑顔でそう言った。


「はぁあ!?婚約者!?そんなの知らないわよ!…じゃなくて知りません」驚いた表情をしながら言った。


「ああ、梓さん言いづらいなら敬語はいいですよ。…そう申されましても梓さんのお祖父様と約束していた話ですが…」困惑した表情でそう言った。


「……そういうことね」そう言いながら嫌悪感を露にした。


その様子を見た瞬はどうすればいいのか困惑した様子をしていたので、見かねた遼一が助け舟を出した。


「神埼ですか…そういえば九州に神埼グループがありましたね…。もしかして関係があったりします?」


「ええ、そうです。神埼グループの跡取り息子と考えていただいて結構ですよ」微笑みながら遼一に言った。


「へぇ~、すごいですね。神埼グループは有名ですからね」美希はそう言いながら頷いた。


神埼グループは他所から寄せられるMWを大量生産できるような工場を持っている。どんなものでも大量生産でき、不良品がまったくでないので他社から絶大の信頼を寄せられている会社の一つだ。


「ええ、世界にも神埼が作ったMW使われていますからね。本当に喜ばしいことですよ」嬉しそうにそう言いながら頷いた。


「…でも、あなたも知っているでしょう?家の祖父はもうこの世にいないのよ。婚約者の話は無効になるはずよ。そもそも、私が知らされていない時点でその話を進めるのもどうかと思うわ」呆れ半分、怒り半分といった感じでそう言った。


「…確かにそうかもしれません、でも自分は諦め切れないんです。…僕が風紀委員戦で優勝したら考えてくれませんか?」


「あのね…考えてくれって言われてもね―――ってどうしたの麗華?」麗華が突然梓の肩を叩いた。


「ちょっと耳貸して」


麗華は梓に何か耳打ちをした瞬間に、梓が満足そうに頷いた。


「そうね…さすがに優勝となると個人の力じゃどうしようもないものが出てくるわ。だからね―――」


「この立花遼一に勝てば婚約を考えてもいいわ」遼一を指差しながら言った。


「おい待て、勝手に巻き込むな」遼一が呆れながらそう言った。


「彼にですか?…失礼ですが学年と組は?」


「ええ、一年F組ですが?」


すると瞬は驚いた表情した。


「なるほど、今年の関東は一年生の手を借りないといけないほど弱いということですか」


「ちょっとあんた馬鹿にしているわけ?」梓が怒気を含んだ声でそう言った。


「いえいえ、そう思われてもおかしくないと言う事ですよ。一年生でさらにF組の人が風紀委員戦を出ているのを見たことがないもので。あくまで客観的に判断をしたまでですよ。…もし気に触ったのであれば謝りますよ」瞬は遼一の方を見ながら言った。


「いえ、必要ありませんよ」遼一はそう言って断った。


「…しかし、彼は本当に私の実力にたる人物なんですか?」


「そこらへんは問題ないわ。だって彼の親戚は立花菜々子さんですもの」


完璧な女王パーフェクトクイーンの親戚だったんですか。それならF組で風紀委員に入っていてもおかしくはないですね」


完璧な女王パーフェクトクイーン?」遼一はその言葉を聞いて首を傾げた。


「知らないんですか?彼女の容姿、能力、人格のどれをとってもすばらしいことからこのような名で呼ばれているんですよ。…生きる伝説ですね」苦笑しながらそう言った。


いつの間にそんな名が…遼一は驚き半分、呆れ半分と言った感じでそう思った。


「初耳でしたね。聞いたことありませんでしたよ」


「驚きですね。この学校に所属していれば話を聞いたことはあるはずなんですけどね」


「…どういうことです?」


「私は入っていませんが…男女問わずこの学校の生徒のほとんどは彼女のファンクラブに入っています。そのファンクラブでの二つ名と言ったものですよ。この学校の生徒にとっては憧れの存在ですからね」苦笑いをしながらそう言った。


……人気過ぎるだろう。遼一はそう思いながら、内心でため息をついた。


「……そうですか。私の周りの生徒は入っていなかったもので、親戚とはいえ、そう言う話は疎いんですよ」遼一はなんともいえない表情でそう言った。


「あはは、そうですか。私も前々から誘われているんですが…あまりそういうのに興味がないもので…。ああ、すみません、決してあなたの親戚のことは馬鹿にしていませんので。彼女の魔法師としての実力は尊敬に値しますよ」


「ええ、わかっていますよ」


「…そうですか。それでは、私はこれで失礼します。…楽しみにしていますよ」笑顔でそう言いながら帰って行った。













瞬が去った後、食堂では目立つので食後に人気のない場所で話しをしていた。


「梓、なんであんなことを言ったんだ?」遼一は呆れながらそう言った。


「別に、あんたなら問題ないでしょ?」プイッとそっぽを向きながらそう言った。


「あのな…」遼一はそう言いながら言葉に詰まった。


「私が提案したことしたことなのよ」麗華がそう言いながら遼一を見た。


「麗華が?…あの耳打ちか」遼一は納得したようにそう言った。


「遼一君ならあの程度の人なら負けることはないし。しかも、“婚約を考えてあげる”と言っただけであって婚約をするなんて一言も言ってないわよ?」ニヤッとしながらそう言った。


…悪女め。遼一はそう思いながら内心毒吐いた。


「それに神埼グループの名だったら梓に取り巻くゴミを掃除できるわ」


「どういうことだ?」


「あら、簡単よ。梓には素敵なナイ―――」と言い掛けたところで梓に口を塞がれた。


「…梓どうしたんだ?」怪訝な表情をしながらそう言った。


「あ、あはは、何でもないわよ!うん、本当に何でもないわ!」顔を赤くして慌てながらそう言った。


「あ、ああ」遼一はやや押されるようにそう言った。


「じゃ、じゃあ、私たちはこれで!」梓は麗華を引っ張りながらそう言って帰って行った。


「美希…梓には何があったんだ?」


「さあ~、何だろうね~」ニヤニヤと微笑ましい様なものを見るようにそう言った。


聞かないほうが良さそうだな。遼一はそう思いながら肩をすくめた。

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