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魔力がない魔法生  作者: とんび
2章 選考会編
18/29

十八話 病院での出会い

誘拐事件から夜が明けて次の日の昼、遼一はとある病院の一室で寝ていた。一人部屋だ。病室の全てに防音が施してあるためどんなに大声出しても、暴れても漏れることはない。完全にプライバシーが保護されている個室になっている。

六人部屋もあるがそれは軽傷のものだけだ。遼一は委員会が関わったこともあるので軽傷でも個室になっている。


ここまでするのは大袈裟すぎるだろう。遼一はそう思いながらベットから起き上がりながらため息をついた。


あの後、遼一と菜々子が遼一のマンションに着いた時、美希が遼一の家から飛び出してそのまま泣きながら抱きつかれた。菜々子にも色々と触りながらケガはないか、などと聞いていた。その様子に遼一と菜々子は終始苦笑いを浮かべ、心配させたことを謝った。


家に入った後、遼一は涼子に抱きつかれて体を触られてケガはないかと聞いてきたが必要以上に体を触るせいで菜々子が怒りながら引き剥がした。その後で委員会の方に連絡を入れて念のための検査入院と療養を兼ねて入院することになった。

事件に関する事情聴取は菜々子が全てを話し、遼一が委員会の目の前で攫われたこと、またその犯人が魔法師襲撃事件の主犯であること、他にも仲間がいたことを話した。


遼一自身の事情聴取は同じことも話すことも時間の無駄なのでなくなった。しかし遼一は一つだけ誰にも言っていないことがあった。


魔術セイズ、奴は確かそう言ったはずだ。遼一はそう思いながら男の言葉を思い出していた。


調べたから意味は分かる。だが、それはどう考えてもオカルトという部類もしくは霊能者部類だろうか?聞いたことがないし、いくら調べても出てこないから秘匿とされているのだろうな。…もしかしたら、四月に起こった俺を狙った事件は奴らが関係しているかもしれない。遼一はそう考えながら色々と考えを廻らすが答えが出てこない。


考えても仕方がないということだろうな。今考えなくてもいいか。遼一はそう思って思考を破棄した。


しかし、暇なもんだな。病院というものは。遼一はそう思いながらベットから降りた。緑色の病院服のまま病室を出て曲がり角を曲がって自動販売機に向かっている途中、車いすに乗った少女がじーっと遼一の方を見ているのが分かった。


「どうかしたのかい?」


「ひゃい!?」少女はびくっとした感じで背筋がピンッと伸びた。


「いや、驚かせてすまない。君がずっと俺の方を見ていたみたいだから何か用があるのかなって思ったんだ」


「えっと…いや、おたくは立花さんですよね~」なんともぎこちない笑みを浮かべながらそう言った。


「ああ、俺は立花遼一だ。入院ってほどじゃないけどあと一日ここにいるよ。まあ、検査入院だな」


「おお!立花遼一君って言うともしかして水木哲也って知ってますか?」


「ああ、それはもちろんクラスメイトで友達だからな。もしかして哲也の知り合いなのかい?」


「知り合いも何も私は妹です!」胸を張りながら右手でトンっと胸を叩いた。その姿はとても微笑ましいものだった。


「そうだったのか…名前は何て言うの?」遼一は微笑みながらそう言った。


「私は莉子りこ、現在中学二年生で彼氏募集中です!」


「そうかい、でも莉子ちゃんだったらすぐに彼氏なんて出来そうなもんだけど」


「え?そうですか~?」満更でもない様子でそう言った。


莉子は茶色のショートヘアーに右上に髪留めをしており、顔立ちも整って目がパッチリしているとても可愛らしい女の子だ。

哲也は確かに顔立ちは整っているほうで黙っていればモテるのだが、性格が性格のためモテない。


「そうだよ。誰から見ても可愛いと思うよ」遼一は微笑みながら言った。


「あれ?やっぱり話を聞いた通りの人じゃない…」キョトンとしながらそう言った。


「…ん?待て待て、哲也からなんて聞いているんだ?」


「無愛想で鉄仮面で鈍感な遼一さんです」


「……そうか、あいつとは色々と話すことがあるな」遼一は拳を握りしめながら笑顔で言った。


「あはは…。でも私が言っただなんて言わないでくださいよ?」


「言わないよ。でも言ったとしても笑って許しそうだけど」


「……普通にありえますね」うんうんと頷きながら言った。


「それにしても莉子ちゃんはここにいるってことは今日は足の検査かい?」私服で車椅子に乗っているので遼一はそう思ってそう言った。


「いえ、私はここに入院していますよ」


「え?入院しているのかい?」


「はい、私は高濃度魔粒子汚染という病気でその反動で足が動かなくて、不定期に発作を起こすんですよ」


高濃度魔粒子汚染とは体が通常では考えられない量の魔粒子が蓄積され、体の機能に障害をもたらす病気だ。人それぞれによって症状や度合いが違う。現在の医療では自然治癒に任せるしかないのが現状だ。


現在の医療制度は100年前に比べかなり高度になっている。癌という病気はどんな状態でも完全に回復することが出来るようになった。肥満からくる生活習慣病もなくなった。

肥満も脂肪細胞が4℃で凍り、それが老廃物として体から排出されることが分かっていたのでその技術を応用して最初は一部を凍らせることから始まり、今現在では格安で全身の脂肪細胞を凍らせて簡単に痩せることが出来るようになった。脂肪細胞を壊すのでリバウンドを起こすことはない。現在は肥満というのは死語になっている。

他にも100年前までは難病や原因不明と言われていた病気も今では治すことが出来るようになった。


「…まさか魔粒子圧縮事件の被害者なのかい?」


「はい、そうです」


魔粒子圧縮事件とは今から三年前に行われていた。魔粒子を圧縮するという実験をしていたとき突如実験機器が暴走を起こし魔粒子を急速に圧縮させ一気に研究所全体にばら撒かせた。研究所のガラスは全て割れ、実験場にいた研究員は全員死亡、絶対防御と言われていたガラスも割れて見学をしていた人達まで被害を受けた。魔粒子の量としては一般人一万人分と言われていて被害者は全員で200名そのうち高濃度魔粒子汚染を受けたのが50名だった。


この事件により魔粒子の圧縮は禁止され、高濃度汚染を受けている人は今もなお苦しんでいる。


「私の父と母は研究者で特に魔粒子の専門でした。私はその時たまたま両親の研究の見学をしていたんです。急にピカッと光ったら意識を失って気づいた時は病院でした。私の両親はその事故に巻き込まれて死んでしまって私はこんな状態に…」複雑そうな表情でそう言った。


「そうだったのか……すまない、嫌なことを思い出させてしまったな」ばつ悪そうにそう言った。


「いえ、兄もいますし寂しくないですよ。毎日五時に来て七時に帰るを繰り返しています。毎日無理して来なくていいんですけどね」複雑そうに、しかし、嬉しそうにそう言った。


ということはあいつは部活入っていないんだな。まあ、両親がいないから当たり前と言ったら当たり前だな。遼一はそう思った。


「そうか…」遼一は微笑みながらそう言った。


「それにいつも楽しそうに学校のことについて話すんですよ。あんなに楽しそうに話す兄を久しぶりに見たような気がしますよ。…いつもありがとうございますね」


「いや、友達だからな。そのくらいは普通だよ」


「友達ですか…いいな~私もそんな友達がほしいです」莉子は羨ましそうに言った。


「友達はいないのか?」


「いえ、居ますよ。中学校には行っていないからチャットで知り合った友達が居るんですよ。今その子とTV電話したりしています」


「友達いるじゃないか。何でそんなことを言うんだい?」


「やっぱり、遊んだり面と向かって話したいじゃないですか。私もそんなことをしてみたいです。…だから不安なんですよ。私の病気が治るまで友達でいてくれるかどうか…」複雑な表情でそう言った。


「…その子とは何年前から友達なんだい?」


「えっと二年前からです」


「だったら、その心配はないんじゃないか?だって二年も続いているんだろう?」


「…やっぱり兄さんと同じこと言うんですね」


「哲也と?」


「はい、兄さんも遼一さんと同じことを言いましたよ。…私思うんですよ遼一さんは兄さんと似ているなって」


「似ている?だが、さっきのことは誰でもそう言うだろう?」


「はい、確かにそうかもしれません。でも、根本的なところで似ている気がするんです」


「根本的?」


「優しいところやいつも悲しい表情をしているところとか」


「悲しい表情?俺と哲也が?」遼一は手で自分の顔を触りながら言った。


「分かるんですよ。私は結構、人を見る目があるんですよ。…一種の才能ですかね?」クスクスと笑いながらそう言った。


「確かにそうだろうな。だが、俺はともかく哲也が悲しい表情っていうのがピンッとこないんだが…」


「悲しいと言うよりも無理やり笑っていると言うのが正しい感じです。心当たりとかないですか?」


「……すまない、思い当たることがない」


「いえ、謝らないでください。…頼ってくれないのが少し悲しいですけどね」無理やり笑顔を作りながらそう言った。その様子はとても痛々しく無力な自分に悔んでいるように遼一は見えた。


「…それを言うなら俺もだよ。友達なのに頼ってくれない。友達失格だな」遼一は思わず少女の頭にポンッと手を乗せながらそう言った。


「…そしたら私も家族なのに頼ってくれないんですよ?家族失格ですよ」上目遣いで今にも泣きそうな表情でそう言った。


「迷惑を掛けたくないと思っているんだよ。確かに家族や友人に頼ると言うのがあるがそれでは巻き込んでしまう。それに妹の莉子ちゃんなら巻き込むのは特に嫌なんだろうな」


「私は別に構いません!兄さんの役に立ちたいんです!」真剣な表情でそう言った。


「……もう一つ言えるとすれば意地かもしれないな」


「意地…ですか?」


「そうだ、昔から『男は意地を見せろ』っていうのがあるんだ。もしかしたら、そんな理由で言わないのかもしれないよ」


「…なんですかその理由」ジト目でそう言った。


「まあ、気にしないで。女の子には分かりにくいものだからさ」微笑みながらそう言った。


「……なんですかそれ~、女の秘密みたいな感じで…ってまさか!」


「これが男同士の秘密というやつですか!?」目をキラキラさせながらそう言った。


「ん?…そういうことになるのかな?」若干疑問に思いつつも遼一は頷いた。


(と、ということは…兄さんと遼一さんは…!!)


「ん?何か言ったかい?」


「い、いえ!何でもありませんよ!そ、それよりも遼一さん!」そう言って遼一の方にぐいっと体を近づけて手を取った。


「な、なんだい?」その行動に若干驚きつつもそう返した。


「す、末永く兄のことをよろしくお願いします!」そう言って頭を下げた。


そ、そんなに勢いよく頭を下げることなんだろうか?遼一はそう疑問に思いつつも


「ああ、もちろん」そう言った。


「りょーちゃんここに居たの?も~、探したよ~」菜々子がそう言って頬を膨らませながら歩いてきた。


菜々子は昨日のこともあり今日の仕事は休んでいる。なので病院には私服で来ており、白のワンピースで清楚な感じを出しているファッションだった。優雅に歩いてくる様子はモデルと間違えられてもおかしくないだろう。


「…あっ、こんにちわ」ぼーっとした表情でそう言った。


姉さんに見とれているな…。遼一はぼーっとしている莉子の様子を見ながらそう思った。


「こんにちわ~、…りょーちゃんいくらなんでも年下にナンパはダメだよ!」


「え!?ナンパ!?」莉子がそう言って驚いた表情をした。


「…姉さん、どう見ても絶対違うから冗談はやめてよ」ジト目でそう言った。


「あはは、ごめんごめんそんな目で見ないでよ~。お姉ちゃん泣いちゃうよ~」泣き真似をしながらそう言った。


「えっと…あの…」おどおどしながら莉子が言った。


「あ~、ごめんね~、私はりょーちゃんの姉の菜々子だよ~。よろしくね~」そういいながら頭を優しく撫でた。


「いや、親戚だから…」遼一はそう言って否定した。


「細かいことは気にしないの!」


「あっ…わ、私は水木莉子といいます」そう言いながら頬を赤くしながら莉子は撫でられていた。


「か、かわいい…お持ち帰りしていいかな?」ぎゅっと莉子を抱きしめながら菜々子は遼一に聞いた。


抱きしめられている莉子は丁度菜々子の胸に顔をうずめる形になっていた。


「ダメに決まってるよ。姉さんも離してあげなよ。苦しそうだよ」困ったような表情でそう言った。


「う~ん、仕方ないかな」そう言いながら離した。


莉子はぷはっと言いながら顔を上げた。


「ごめんよ莉子ちゃんビックリしたし苦しかっただろう?」


「い、いえ、いいですよ。もし、私に姉がいたらこうされていただろうなって思ったくらいですし」恥ずかしそうにそう言った。


「ふふっ、そしたら私のことをお姉ちゃんって呼んでもいいよ?」


「いいんですか…そ、それでは―――お、お姉ちゃん」上目遣いで恥ずかしそうに頬を赤くしながら言った。


「はうっ!」そう言いながら菜々子はその場で固まった。


「あの…お姉ちゃ―――きゃっ!」


菜々子は莉子に抱きついた。莉子は軽く驚きながら声を出した。


「うん、やっぱりいいね可愛いよ。やっぱりお持ち帰りで」


「…姉さん、だからダメだって」ハァ~っとため息をつきながら言った。


「でもさ~莉子ちゃんが可愛すぎるのがいけないんだよ?これはもう犯罪だよ!」うんうんと頷きながらもしっかりと莉子を抱きしめていた。


「意味分からないよ姉さん、ほら姉さん早く離さないと―――莉子ちゃん?」


莉子は菜々子の胸に顔をうずめた状態で頭からプスプスっと煙を出しながら目を回していた。


「わわっ!ごめん莉子ちゃん!」そう言いながら慌てて菜々子は莉子を離した。


「……姉さん」ジト目で遼一は菜々子を見た。


「あはは…」乾いた笑みを浮かべながらそう言った。














目を回していた莉子をとりあえず遼一の個室まで運んでベットに寝かしていた。今現在は目を覚まして再び車いすに戻っている。


「ごめんね~莉子ちゃん」菜々子は手を合わせながらそう言った。


「あはは、大丈夫ですよ。気にしてませんから」乾いた笑みを浮かべながらそう言った。


「それにしても…もう五時か…そう言えば哲也が来るんじゃないか?」


「あっ!忘れていました。行かないと!」そう言って慌てて部屋を出ようとした。


「危ないよ。そんなに慌てなくても間に合うから…それに俺も哲也に会いに行くよ」


「えっ!?そ、そうなんですか?そ、そしたら私が邪魔になりません?」


「邪魔になる?寧ろ俺が邪魔になるんだと思うけど?」


「そ、そんなことないですよ。それよりも早く行きましょう!遼一さん、お姉ちゃん!」


「あっ、私はいいよ。ここに居るから二人で行っておいで」


「わ、わかりました。では行きましょう遼一さん」


「ああ」


そう言って二人は部屋を出た。

脂肪細胞を壊す技術は今でもあるらしいですね。科学技術はすばらしいものです。

明日は12時に投稿をしたいと思います。

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