十七話 突然の襲撃2
深夜、遼一の携帯端末の位置情報が消えたことに不審に思ったHHRのルイは電話をして、遼一の家族、そして優子、更に円城寺家を遼一の家に呼んだ。
「ルイ、遼一の携帯端末の情報が消えたのはいつだい?」祐一がそう言った
『はい、昨日の夜九時をちょうど過ぎた頃です。委員会本部前で突然消えたので驚きました』
「電源が切れたという可能性は消えたということね。あの子は絶対にそんな真似はしないし、この時間になっても連絡がないのはおかしいわよ」涼子がそう言って神妙な顔をする。
「りょ、りょーちゃん大丈夫だよね?…ゆ、誘拐とかないよね?」美希がそう言って不安そうな表情をする。
「大丈夫よ。遼一君に限ってそんなことはないわ。もしそうだとしても、大丈夫よ。あの子なら」美鈴は優しく美希を抱きしめて諭した。
「…ルイ、昨日の午後九時の委員会本部前だよね?」
『はい、そうです。菜々子様』
「だったら、昨日の霊力結界事件と関係あるかも」
「なんだいそれは?」祐一がそう言った。
「うん、その様子じゃまだ連絡来てないから分からないかもしれないけど、昨日の九時に委員会本部前に突如、霊力結界が張られたんだ。直接私はいたわけじゃないけど」
「本部前?…まさか遼一君が巻き込まれのかい?」浩二がそう言って菜々子を見た。
「可能性的には高いと思うよ。その犯人はいまだに捕まっていないから…。でも、もしそうだとしたらりょーちゃんを攫ったくらいの相手だから相当な相手だよ」
「そうだね…。優子さんはどう思います?」浩二はそう言って優子に聞いた。
「そうね。この事件で一番濃厚なのは魔法師襲撃事件と関係あるかもしれないわ」
「関係ですか?新たな事件としか考えようがないのですが?」浩二はそう言って眉を寄せた。
「まあ、そう考えるのは普通だわ。でも最近の事件と絡ませるのもおかしくはないはずよ。私の考えとしては襲撃事件の犯人は何らかの方法で菜々子ちゃんの情報を手に入れてそこから遼一君にたどり着いて誘拐したという考えよ。…そう、菜々子ちゃんをおびき寄せる餌と言った方がいいかしら?」
ダンッ!とテーブルを叩いた音が部屋を制圧した。みんなはその叩いた本人の方を向いた。
「餌?りょーちゃんがそのために攫われたの?」菜々子の瞳には光がなく見る者によっては恐怖を抱くだろう様子だった。
「まだ決まったわけではないわよ菜々子ちゃん。もしそうだとしても、違ったとしても何らかのアクションはあるはずよ。確実にありえるのは遼一君を狙っていたということだから」冷静にそう言った。
「もし優子さんの言う通りだったら、委員会に言うのは得策じゃないね。誘拐された可能性が高いから犯人が行動を起こすまでそれぞれの家で待機しておこう。もしかしたら連絡があるかもしれないから。そしてここら近辺で隠れやすい場所探そう。…今の状態では情報が少なすぎる」祐一がそう言った。
「それもそうね。それぞれの家に戻った方がいいわね。確かに優子さんの言うとおりだったら家に連絡があるかもしれないから」涼子がそう言った。
「私はりょーちゃんの家に残るよ。ここにも連絡があるかもしれないから」菜々子はそう言った。
「わ、私もここに残る。少しでも役に立ちたいから」美希も決意した表情でそう言った。
「わかったわ。それじゃあ、私達は家に帰るから」
祐一、涼子、浩二、美鈴、優子の五人は遼一の家から出て行った。
「…ななちゃん」不安そうに美希はそういって菜々子の名前を呼んだ。
「大丈夫よ美希、りょーちゃんを私は絶対に助けるよ。…取りあえずりょーちゃんに部屋行って手掛かり探してくるね?」
「あっ、私も探すよ!」
「ふふっ、じゃあ二人で探そうか。でもその前に少し休憩しよう。りょーちゃんの家にココアとかあったかな?」
「うんあるよ!ちょっと先に部屋に入って待ってて!入れてくるから!」パタパタと台所に行って向かった。
「ふふっ、絶対助けるよ」菜々子はそう言って遼一の部屋に入って行った。
「ななちゃん!ココア持ってきたよ」そう言って遼一の部屋の中に入ったが口元にテープを張られ、霊力の拘束でぐるぐる巻きにされたルイが遼一のベットの上に転がされていた。
美希は慌てて二つのカップを置いてルイの口に張り付けられているテープを取った。
「な、何があったの?それにななちゃんはどこ!?」美希は周りを警戒しながらそう言った。
『も、申し訳ありません美希様。先程、菜々子様よりこのようなことをした後あちらの窓からお出掛けになられました』
「ななちゃんが?一体どうして?」
『分かりません。しかし、あれほどの怒りに満ち溢れている菜々子様は初めて見ました。おそらく何かに巻き込まれたのかもしれません』
「もしかして犯人に呼び出された!?こうしちゃいられないよ!」
『お待ちください!…もしかしたらお一人で向かわれるように言われたかもしれません。とりあえずご両親にだけ連絡を入れましょう。菜々子様の携帯端末にも連絡がいかないのでおそらく居場所の特定は難しいです。ご両親に連絡を入れて準備が整って委員会に連絡を入れた方が得策です。みなさん比べることが出来ないほどご優秀ですから』
「そうだね。委員会に連絡して闇雲に探して騒ぎ立てるよりもお父さん達に連絡して色々と作戦を立てた方がいいね」美希もルイの言葉に賛成を評した。
『はい、ではさっそく連絡を入れます』
闇色の空に無数の星たちが瞬いている上空。現在、菜々子はとある場所に空を飛びながら一直線に向かっていた。それも一瞬で目の前を通り過ぎる速さで。
魔法を使って空を飛ぶこと現段階で無理と言われているのに目の前を一瞬で通り過ぎる速さで飛び続けている。菜々子がどのくらい凄いか一目で分かる。
しかし、菜々子は現在、冷静に物事を判断していた。美希が取り乱していて逆に自分を落ち着かせることが出来たと言うものもあるが別の理由もあった。
りょーちゃんに酷いことしていたらどうしようかな~?いや、する前にこんなことしている時点で楽に死なせないけど。まあ、犯人は殺さなくても生きていることがイヤになるくらいでもいいかな?精神崩壊させるのなんて簡単だし…。まあ、とりあえずりょーちゃんにこんな目にあわせたんだからそれ相応の対応が必要だよね。美希を心配させるのはよくないし、さっさと終わらしてしまおう。菜々子はそう思いながら空を飛び続ける。
「待っててよりょーちゃん。お姉ちゃんが惚れ惚れするくらいの助け方するからさ」笑顔でそう言ったがどこかその笑顔は歪だった。
チッ!ダメだ。能力でも解析できない。ということは考えれるのは霊力の縛りだな。遼一はそう思いながら体を動かそうとするが動かすことが出来なかった。
周りは暗く月明かりが照らしている明るさだ。どこかの廃工場のようだがさすがに場所の特定までは遼一は出来なかった。
「おっ、目が覚めたみてぇだなァ」フードを被った男がそう言った。
「……っ」
「おうおう、予想通りってなわけだなァ。お前には霊力がからっきしだから喋ることも出来ねえだろォ?その今着けられている奴は霊力による縛りだ。金縛りみてェなモンだなァ。まあ、変なスキルみてェだったがァ。…外れたときはそのときだなっと思ってたがどうやら無理みてェだなァ」
やはり霊力による縛りか…どうやら俺の能力には気付いていないみたいだな。遼一はそう思いながら男を睨みつけた。
「ふん、なかなか強気な奴だな。まあ、もう少ししたらお前の親戚が来るんじゃねェか?まあ、来なかったら見せしめに殺すけどなァ」
多分、姉さんのことだから来るだろう。しかし、万が一来なかったらこいつを一瞬で細胞を腐食させて殺すくらいしかないだろうな。遼一はそう思いながら様々な作戦を立てた。
「そういや、テメェ、スキル何個持っているんだ?最低でも二つはあるだろ?物質の動きを止める奴と傷を一瞬で回復させる奴。…回復の奴はまだしも俺の能力を止める奴は見たことも聞いたこともねェぞォ?」
ネイチャースキルは何個持ちであっても決して珍しいものではない。傷を回復させるというもの多くの人が持っている。人それぞれ回復量は違って個人差というのは確かに存在するが保持している人数は多いのだ。物質を止めるというのも同様だ。
「まあ、しゃべれねェから無駄か。テメェの能力は―――おっときやがったか」男はそう言うと入り口の方を向いた。
「―――りょーちゃんはどこにいるの?」菜々子は抑揚のない声でそう言った。
遼一はコンテナの後ろに隠されるように転がされているので菜々子の位置からは死角になっていて丁度見えなかった。遼一に魔力と言うものがあれば場所がすぐに分かっただろう。
「よう、待っていたぜェ?噂では日本最高レベルの強さなんだろォ?」
「あなたがりょーちゃんを誘拐したの?」
「あァ?まあ、そうだが―――」
ヒュンッ!と言う音とともに男の横に何かが通り過ぎてドカーン!と言う音とともに、後ろの壁が大きな穴を開けて破壊されていた。
「そう、なら全力で壊してあげる」静かにそう告げた。
「ふん、なかなか言うなァオイ。粋な真似してくれるじゃねェかよォ…全力って言うからには本気を見せてくれるんだろ?」
二人は対峙した状態でお互いを睨みあい牽制をし合っていた。
「忠告しておいてあげる。逃げるなら逃げてもいいよ?本当は今すぐ殺してあげたいほど憎いけど一応は委員会に務めているからね。確認はしておくよ。―――人質を解放して大人しく連行されてください」
「あァ?何言っているのお前?何様のつもり?」怒気の籠った声でそう言った。
「交渉決裂、犯人は交渉に応じる気がないようなのでこれより武力攻撃に入ります」そう言い終わると耳に手を当てた。ピッと言う音がした後、手を下ろした。
「これで犯人が応じる気がないというのが通信機のレコーダーに記録されたから、あなたが死んでもこちらの正当防衛は成り立つよ。まあ、あなたが誘拐をしている時点でこんなこともしなくてもいいんだけど、念のための保険は必要だよね」
「…めんどくせェし、俺を殺す気満々でいるのがかなりムカつくんだがァ。そこんとこはどうおもってやがるンだァ?」
「すぐに分かるよ」
ドンッ!という音とともに地震でも起こったのではないかという揺れ一瞬した。
「ふん、やるなァ」
「―――それはどうも」両手剣のMWを構えながら笑顔でそう言った。
久々に見たな…姉さんの戦闘。遼一はあまりにも凄まじい魔法と霊力の攻撃を見ていた。連続に射出される霊力の剣や槍、更には高位魔法の豪炎や鋭氷、暴風が次々と相手に襲いかかる。相手も霊力による剣や槍で対抗しているが圧倒的に数が足りていない。
「クソがァ!」激昂して男はそう叫ぶが状況は変わらなかった。
次々と男の体を確実に削っていっていた。菜々子は無機質と言ってもいいほどの目で男が削られていく姿を見ていた。
「A seal is released The spear which gives pain Grasioa!!(封印を解放、苦痛を与える槍、灰色の脇!!)」
灰色をした槍から目で見て分かるほどの霊力が溢れていた。キラキラと輝く槍は幻想的な印象を抱かせる。遼一が見た時よりも力が溢れていた。
ドンッ!と言う音とともに菜々子が放っていた霊力の剣と槍が霧散した。
「―――完全解放だ。こいつには生半可な霊力じゃきかねえぞォ?」
「だったらそれ以上の質で攻撃をするまでだよ。―――消えて」
ジャキンッ!と言う音とともに菜々子の頭上に百を超える霊力の剣と槍が現れ、射出された。
男は目にもとまらぬ速さで次々に斬って剣と槍を消していく踊っているように次々に落していく姿はとても美しいものだった。
「―――オーバーファイア」菜々子がそう言った瞬間にドンッ!と全長5mの炎の塊が男に向かって高速射出された。
しかし、男が槍を縦に振った瞬間に真っ二つに両断され、炎は霧散した。
「めんどくせェ攻撃してくるよなァ、テメェ」
「あなたもやるね。ホントは広範囲で思いっきりぶちかましたいけど、りょーちゃんがどこにいるか分からないしそんなことは出来ないよ」
くそっ!俺はここまで来てまた姉さんの足を引っ張るのか。遼一は心の中で自分の愚かさを呪った。自分が能力で相手ではなく槍の速度を止めるという考えで誘拐されるという失態を招き、更に霊力がないせいで拘束から逃れれず自分の位置が特定できないため姉が本気を出せず消耗戦が続いている。
―――自分が迷惑をかけている。
遼一の頭の中でその言葉が流れた。
そんなことを考えている暇はない。今は自分が出来ることを考えないと。遼一は必死で考えて一つの考えを出した。
相手の動きを止める。今の遼一に出来ることはそれくらいだろう。だが、これには問題がある。相手の動きを一瞬止めている時こちらの異変に気づいてあの槍で攻撃してきたら止める術がない。それは先程の戦闘で分かっている。
相手を止めている間に姉が戦闘不能に追い込んでくれたら成功だ。姉のことだ。不自然に止まった瞬間に狙うだろう。それがダメだったら相手の細胞を一瞬で破壊するまでだ。
―――抜かりは絶対にない。
遼一はそう思った。
「あれ~?もしかして何かしようとしてた?」可愛らしい声で誰かがそう言った。
「ッ!!」遼一は自分の首に刃物が当てられていることに気がついた。
「ふふふっ、ダメだよ~。余計なことしたらお兄ちゃんの首がポーンって飛んじゃうよ?」クスクスと笑いながらそう言った。
遼一は内心動揺していた。相手の気配が一切なかったのだ。気配遮断と言うのはあるが魔力や霊力を完全に遮断するというのは聞いたこともなかったのだ。そんなのものを持っている奴は限りなく暗殺において最強に近いだろう。
「あ~、もしかしてその驚いている表情は気配がしなかったら驚いた?多分今でも気配しないと思うけどな~?」
そう今でも気配がしないのだ。聞こえてくる声だけでまったくどこにいるのか見当もつかないのだ。普通の気配遮断は見つかったら意味をなさなくなるのに相手が使っている気配遮断は声だけがどこからか聞こえてくる。これは恐怖心というものが支配するだろう。
「でもお兄ちゃん凄いよね~?驚いただけで怖がっていないもんね~。初めて見たよ~。みんな怖がるのにさ~」明るい声でそう言いながら刃物を更に押しつけて、遼一の首に少し食い込ませて血を少し流させた。
「う~ん、これでもダメか~。まあいっか、怖がらせることが目的じゃないし…。―――おっ?なるほどね。じゃあ、お兄ちゃんちょっと連れて行くね」そう言うと姿を現して遼一を担いだ。男と同様フード付きの外套をしていたので人相は分からないが背は小さく女の子であることは遼一は分かった。
霊力で念話でもしたのか?遼一はそう思いながら担がれていた。
遼一を軽々と持ち上げるところから霊力で強化しているのだろう。魔力を感知できないので遼一は霊力で強化していることが分かった。
遼一はそのまま担がれた状態で戦闘をしている二人の目の前まで来た。
「ほら、お前の探しものはコイツだろ?」男はそう言って遼一を指差した。
「りょーちゃん!」菜々子はそう言って遼一に向かって駆け出そうとした。
「おっと動くなよ?こいつがどうなってもいいのか?」
遼一を抱えている少女は刃物を遼一の首に当てた。
「くっ!」菜々子はキッと睨みつけながら留まった。
「コイツがこの中に居るから本気出せないんだろォ?だったらコイツを外に連れ出すまでだァ。―――連れて行け」
男がそう言った瞬間に遼一を連れて少女は外に出た。
「まあ、ここまで来れば影響はないんじゃなかな~?とりあえず話せるようにはしてあげるよ。…舌噛まないでね?」遼一は頷くと、口だけ拘束を外して貰った。
丁度、工場から300mくらい離れたとあるビルの屋上に身を置いた。
「あの男は多分死ぬよ」遼一はそう言った。
「開口いきなりそれってどういうこと?おもしろいね~」クスクスと笑いながらそう言った。
「事実だ。姉さんは常日頃リミッターを着けている。それも普通の人間では考えられない負荷だ。作ったのが自分だから尚更分かる」
「…へぇ~、お兄ちゃん技術者でもあったんだ~。もしかしてそのリミッターって霊力制御装置?」
「ああ、そうだ」
「ふ~ん、でも確かあれって――――」
ドーン!!っという音が工場の方角から聞こえ、更にゴゴゴゴゴッ!!っという音とともに地震みたいな揺れが続く。
「え?え?なにこれ!?」
「これが姉さんの現時点での本気だ。また霊力が増えているみたいだ」遼一は工場の方角を見ながらそう言った。
「お、お兄ちゃんなんで冷静にいられるの!?おかしいでしょ!?」
「何回も見てるし姉さんが普通じゃないのは今に始まったことじゃない。それよりも君は仲間の心配をしなくていいのか?」
「そうだよ!ランス大丈夫かな~。―――来た!」少女はそう言うと工場の方に駆け出した。
少女はすぐに肉眼で確認することが不可能になり闇の中に消えた。もう一人の敵の方も全く見えないため遼一は大人しく待っていた。
するとしばらくして遼一は菜々子が遼一の方に向かってきたのが見えた。
「りょーちゃん大丈夫!?ケガしていない!?」そう言いながら遼一の霊力の拘束を解いた。
「大丈夫だよ姉さん心配しないで…それよりも迷惑かけてごめん。それで敵は?」
「迷惑なんてかけてないよ。それよりも良かった~。りょーちゃんにケガがなくて。敵なら深手を負って逃げたよ…」悔しそうにそう言いながら遼一はギュッと抱きしめた。
「姉さん俺があいつを殺していたら―――」
「りょーちゃん!人殺しなんてしなくていいよ。そんなことはりょーちゃんはしなくていいよ!」涙声で菜々子はそう言った。
「…うん」遼一はそう頷いた。
「それよりも早く帰ろう。一応、病院にも行って検査しなくちゃ」ニコッと笑いながらそう言った。しかし、涙の跡が目には残っていた。
「わかったよ姉さん…でも抱えなくてもちゃんと歩けるけど?」
「だ~め、りょーちゃんはこのままで決定」頬を膨らませながらそう言った。
「わかったよ」苦笑いをしながらそう言った。
遼一は菜々子に抱えられながら家へと向かった。
明日はもしかしたら、20時前には投稿できるかもしれません。