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魔力がない魔法生  作者: とんび
1章 入学編
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十話 同情の余地

次の日の昼休み、遼一はある場所に向かっていた。


風紀委員の端末から生徒IDにアクセスしようと遼一はそう思いながら風紀委員室に入ったが誰もいなかった。遼一はそのまま、机の上に置いてある端末にIDをかざして、端末を起動させた。


いけるみたいだな、まあ、風紀委員だから当たりまえか。遼一はそう思いながら目当ての人物の名前をうった。


雲居くもい正平しょうへい。その名前が来たところで遼一の目が止まった。すぐにクリックをして人物の写真が出てきた。紫がかった髪に少し目が細くやや釣り目。クールといった印象が強い少年の写真が出てきた。


こいつがそうか…。遼一はそう思いながら自身の携帯端末に繋いで写真のデータを取った。


Aクラスか…しかしこれはお目にかかれそうにないかもな。遼一はそう思いながら端末をポケットに入れた。俺の監視をしているなら、学校にはいそうだが、はたして接触できるかどうか分からない。

それは相手が人を騙すのが得意だからだ。

雲居家は代々隠密として働いていたため、認識を阻害させたり、気配を感じさせないと言った魔法が得意だ。代々あるネイチャースキルを持った人物が当主に就くらしいが、詳しいところまでは分からない。


はたしてこの正平という人物が次期当主に当たるのか知りたいものだな。遼一は端末の電源を切りながらそう思った。

そして、彼は風紀委員室をあとにした。















「遼一!どこに行っていたのよ!探したわよ!」梓は腰に手を当てて眉を寄せながら遼一に詰め寄った。


「ああ、悪い。少し用事があった」


「まったく、そうならそうと言えばいいだろう?」照吾はそういいながら苦笑いした。


「まあ、とりあえず行きましょ?遼一君のせいでお腹すいたから何か奢ってもらうわ」麗華はそういいながらニヤッとしながら遼一の方を見た。


「マジで!?遼一何か奢ってくれるんか?」わくわくしながら哲也は遼一に言った。


「私はパフェがいいな~」にこにこしながら静香は遼一に言った。


「…今回だけだからな」遼一は苦笑いしながらそう言った。


「よし!そうと決まればさっさと行きましょう!」梓はそう言って食堂へ向かった。


哲也、静香、照吾、麗華、梓につられるようにして食堂に行った。


「…どうかしたのか美希?」遼一は不審に止まっている美希にそう言った。


「え?ううん、何でもないよ。それよりもりょーちゃん、何かあったでしょ?」


「何がって?」遼一は不安そうに見つめてくる美希にそう言った。


「ううん、やっぱり何でもないよ。それよりも早く行こう、みんな待ってるよ?」ごまかすように笑いながら食堂の方に歩き始めた。


「…そうだな」遼一もそう言って食堂の方に歩き始めた。


美希にはかなわないな。遼一は苦笑いしつつそう思った。















食堂で遼一はみんなに奢ってあげた後、みんなと教室に戻っている。おかげでIDカードのお金は中はスッカラカンだ。普段はあまり持ち歩いていないのでたかがしれているが普通の高校生の一か月のお小遣いは軽く消えた。


「すまん、ちょっと席を外す」


「おっ?大きいのかなんか―――ふぎゃ!」哲也は静香に頭を叩かれた。


「なんで女の子の前で下品なこと言うの?」静香は哲也を睨みつけながらそう言った。


「ちゃんと俺はオブラートに包んだで!?誰もうん―――ぎゃ!」次は思いっきりグーで顔を殴られて撃沈した。


「なんでそれを出すのかな~。あっ、もしかして女として見られていないとか?」ふふふっと不気味な笑みを浮かべながら静かに哲也に近づいていった。


「まてまて!静香さん、みなさんが見ておりますで?大注目ですよ?」冷や汗を流しながらそう言った。


「えっ?…何嘘ついてるのかな?」一瞬周りを見渡したがその様子はなかった。嘘を突かれて腹が立ったのか、笑顔で怒っていた。


「えっ!?さっきまでは本当に―――ぎゃあ!」哲也は殴られて沈んだ。


「まったく、いい加減学べよ」やれやれといった表情で哲也を見ながらそう言って教室を出た。















Aクラスにきたのはいいがどこに居るんだ?遼一はそう思いながら教室を見渡したがそれらしき人物が見当たらなかった。

学校には来ていないのか?遼一はそう思いながらAクラスから離れようとした。


「おや?Aクラスに何か用があったのかい?」そう言った声が後ろから聞こえたので振り返った。


「いや、まあそうだったんだが、その人物がいなくてな」


「そうなのかい。一体誰を探していたんだい?」黒髪でいかにも好青年の雰囲気を出している少年がそう言った。


「ああ、雲居っていう人なんだが今日は学校に来ているか?」


「いや、今日は見ていないよ。もしかして何か伝言でもあったのかい?」


「いや、そう言うわけではないんだが雲居家っていったら結構有名だからな」


「そうかい?僕は聞いたことはないけどな~」


「まあ、表立って活躍する家ではないからな、知らなくて当然だろう」


「君は詳しいのかい?」どこか観察するような目で遼一を見た。


「詳しいってわけではないな、ただ雲居家が興味深い能力を使っているというのをきいたから気になっただけだ」


「ふ~ん、好奇心旺盛ってやつ?」


「まあ、そうだろうな」


「そうなんだ。でも今日はいないからまた後日にした方がいいよ」


「そうだな。わざわざありがとう」


「いやいいよ。親切心ってやつさ」笑顔を浮かべながらそう言った。


遼一はこれ以上ここにいても情報は望めないと思ってその場から離れた。















昼休み後、午後からは実技の授業だ。今回は模擬戦闘をするため、G、F、E、Dクラスが集まっていた。模擬戦闘は男女別で行われる。なので、男子と女子に分かれるため基本的に人数が少なくなるため、四クラスが集まることになった。

服装は学校指定のものだ。黒色の半袖の衝撃吸収の上下のアーマーにその上から青と白の長そでのジャージを着てえいる。適温になるように常に調節される優れものなので夏でも問題なく着れる。


「模擬戦闘を行って貰う。こちらが指示を出す。名前を呼ばれた奴から前に出て来てくれ」男の教師がそう言って男子生徒に指示をだした。


男子生徒は全員で約50人だ。一回に二試合ずつ実技の授業は二時間行われるので、一組に与えられる時間は約四分だ。


「ではまずEクラスの―――」そう言って先生は呼び始めた。


しばらく遼一は哲也と試合を見ていた。


「では次はFクラスの立花、Dクラスの新橋しんばし


はい、と二人は返事をして中央にたった。


「おたがい、全力を出し合おうね」新橋は笑顔を浮かべながらそう言った。


「あ、ああ」遼一は一瞬戸惑いながらそう言った。


遼一は他のクラスから評判はそんなには良くない。事実、他のクラスからはしょっちゅう絡まれている。初対面で好意的に接してきた人など同じ学年であればAクラス以外いなかった。


新橋は小双剣型のMWを構えたら真剣な表情になった。

なんだ?この異様な殺気は?そう思いながら遼一も真剣な表情で双銃剣を構えた。


「はじめ!」


そう言った声が聞こえた瞬間に二人が一瞬ぶれた。ガキンッという音が響いた瞬間に二人はさっきとは逆の位置に姿を現した。


その試合を見ていた先生と生徒達はポカンと間の抜けた表情をしていた。


「あれ?今ので決まったと思ったのにな」新橋は微笑みながら遼一に言った。


「…油断していたら確実にやられていたな」そう言いながら片方の剣を銃に変形した。


「次は外さないよ」そう言いながら上段に小双剣を構えた。


「そうか」そう言いながら銃を新橋に放った。しかし、横によけた瞬間に直角にスピードを落とさないまま遼一に襲いかかった。

遼一は片手剣で受け止めたが、衝撃が強くて後ろにのけ反った。新橋はそのすきをついて胸に攻撃を当てようとしたが、剣を遼一の足に蹴られて逸らされた。蹴った遼一は銃で新橋を牽制しながら背中から地面についてすぐに新橋から距離をとって銃を撃った。

新橋はジグザグに交わしながら遼一の射程に入らないようにしながら徐々に遼一に近づいていった。


「ウィンドカッター」遼一がそう呟いて剣を連続で振った瞬間に風の刃が新橋に襲いかかった。実際は呟く必要は全くないが相手の様子を見るためそう言った。


新橋は剣を振っただけで風の刃が飛び出し相殺した。


風が得意なのか…遼一はそう思いながら剣にと銃に炎を溜めた。


「ファイアバースト」連続で放たれる炎のエネルギー弾と先程の風の刃の倍の大きさの炎の刃が新橋に襲いかかった。


新橋は一瞬溜めて剣を振ったと思ったら竜巻が現れ、遼一の攻撃を全て消した。


これもダメか…。遼一はそう思いながら双銃に変形してエネルギー弾を周りにまき散らした。


そして次の瞬間に電流が流れた。放ったエネルギー弾全てを電流は通って行ったので新橋には逃げ場がなく当たった。

そして電流をはなった遼一は急に後ろに剣を突きたてた。すると、遼一の後ろから新橋が現れた。遼一はちょうど新橋の首元に剣先を、新橋は遼一の後頭部に剣先を突き立てていた。


「そこまで!」先生はそう言って試合を止めた。


「なんでわかったの?」新橋はMWを下ろしながらそう言った。


「床を見ろ」遼一はそう言いながら床を指さした。


すると床には新橋のあとを追いかけるように血が数滴ずつ床に落ちていた。新橋はハッとしながら自分の指を見たら指先からポタポタと血が垂れていた。


「そう言うことだったのか、油断したな~」苦笑いをしながらそう言った。


「そんなことはいいから早く保健室に行ったらどうだ?」


「それもそうだな、先生、保健室に行きますね」


「あっ、ああ、わかった」先生は少々慌てて言いながら頷いた。


「じゃあ、そういうことで」新橋はそう言いながら生徒の間を通るようにしながら訓練室から出て行った。

遼一は冷静になって周りを見渡したらたくさんの人だかりが出来ていた。女子もいるということはこの試合は目立っていたのだろう。


「遼一!お前すげえな!」哲也はそう言いながら遼一の背中を叩いた。


「すごすぎだよ!本当に高校生って感じだったよ!」静香は興奮した様子でそう言った。


「本当にすごいぜ!ここまでとは思わなかった!」

「さすが風紀委員ってことか?かっこよすぎだろ!」

「Fクラスの代表だな!立花様様ってやつだろう?」

「立花君かっこよかったよ~」

「カリスマ性が半端なかったよ!なんこうキリッって感じで」

「そうそう!いつもと雰囲気違ったよね~」


Fクラスのみんなが思い思いの感想を述べていた。


「はは、それはどうも」遼一は曖昧な笑みを浮かべながらそう言った。


ちょうど反対側にいたDクラスの連中は少し違った。どうやら戸惑っている様子だった。様子から察するに新橋はあまりクラスで目立っていないんだろうなと思った。確かに平凡な容姿だったので普段からおとなしいのであればあまり目立たないだろう。遼一はそう結論づけてしばらくしたら新橋が帰ってきたがどこか様子がおかしかった。


挙動不審なのだ。まるで何故自分がこんな風な扱いを受けているのか分からないような様子だった。遼一は気になって授業が終わってから新橋を訪ねようとしたら新橋の方から寄ってきた。


「えっと、立花君でよかったかな?」新橋はどこか覗うようにしてそう言った。


「ああ、そうだが…どうかしたのか?さっきのケガ大丈夫だったか?」


「え?ああ、うん大丈夫だよ。すぐに治癒の魔法をかけてもらったみたいだから」


「みたい?」怪訝な表情をしながらそう言った。


「えっと…よく分からないんだけど僕が君と戦ったっていうのは覚えていないんだ。気づいた時は保健室のベットの上だったし」


「誰かに運ばれたのか?」


「多分そうだと思うよ。僕が起きた時に君宛に手紙があったから、ほら」そう言って一枚の紙を遼一に渡した。


遼一はその手紙を受け取り見た。手紙には“今日の試合は楽しかったよ”と書かれていた。


「保健室の先生はこの手紙の人物は見ていないのか?」


「見たっては言っていたけど、名前までは分からないって言っていたよ。特徴は黒髪黒目で優しそうな雰囲気を持った人って話だったけど…分かるかい?」


…あいつか。遼一は昼休みに会った人物を思い出した。


「ああ、見当がついたよ。ありがとう」


「どういたしまして、それと今日のことは…その…」俯きながらそう言った。


「分かっている。誰にも言わないよ」遼一は不安そうな新橋を見ながら言った。


「あ、ありがとう。僕はクラスでもあまり目立たないからこれで孤立でもしたら辛いから」


「そうか…でもこれから注目度が上がるんじゃないか?」


「そうかもしれないね…。でも、自分が伸びるチャンスだと思って頑張るよ」真剣な表情でそう言った。


すごく前向きな奴だな…。遼一は新橋の様子を見ながらそう思った。


「お~い、遼一早くしないとお前風紀委員だったろ~」哲也がそう言って訓練室の出口から遼一に呼びかけた。


「悪い、もう行くよ」


「あっ、うんそれじゃあね」


遼一は出口で待っている哲也のところに走って行った。















遼一はすぐに着替えた後、風紀委員の見回りに行く前にあるところに寄った。


「来ると思っていたよ」誰もいない教室に机の上に腰掛けて遼一の方を見ながら笑っている生徒がいた。今朝遼一が会ったAクラスの少年だった。


「だったら話す内容も検討つくだろ?」


「そうだね、どうしてあんな真似したか聞きたいんだろう?」


「それもそうだが、いい加減姿を見せろ。人を騙すのも大概にしろよ。雲居正平」キッと睨みつけるようにしながらそう言った。


「おっと、その様子じゃバレていたか」そう言った瞬間に黒髪黒目の好青年から紫がかった髪に少しつり目の少年が姿を現した。


「いつからわかっていた?」どうやら声も変わったらしく少し声が低くなっていた。


「最初に会った時だ。風紀委員の権限で生徒の顔写真付きの名簿を見れるからな。その顔写真は載っていなかったことに気がついた。Aクラスは学校に来ない奴がいるからな。そいつに化けていてうっかり出くわしたら最悪だからAクラスにはいない人物に化けていたんだろう?」


「ああ、その通りだ。下手な面倒ごとは避けたかったんだ。そこで問題でも起こしたら家に迷惑がかかるからな」憮然とした態度でそう言った。


「まあ、戦ったときは幻術じゃバレるから特殊メイクで新橋に化けていたんだろう?体格もだいたい同じくらいだからな」


実際は五センチくらいは雲井の方が高いが、始まって一ヶ月も経っていない学校でそこまではわからないだろう。


「だが、それでなんで俺が犯人だと分かった?それで結びつけるにしては些か情報が足りないだろう?」


「簡単だ。俺は人の魔力の識別ができる。さっき戦った奴と今朝あった奴が同一人物位わかるさ」


「厄介なネイチャースキルだな。それにあの実力だったらお前強いな。その通りさ、先生の名簿を見てお前と戦う奴を見つけてあとは幻術で騙すだけさ。さすが死神に認められただけある」


「何が言いたい?」


「俺は知っているぞ?お前が死神の連絡先を知っている奴だと」


「死神だと?なんのことだ?」


「この間、お前の監視をされている奴がいるらしいから倒してほしいと依頼したそうじゃないか」


「どこで手に入れたかどうか知らないがどうでもいいだろう?俺に何の関係がある?」


「隠しても無駄さ、それと手に入れた情報によるとお前は立花菜々子さんの親戚らしいな」


「ああ、そうだがそれがどうかしたのか?」


「嫌いなんだろう?親戚であることが、比べられることが、だから家に一度も招き入れたことがないじゃないか。それに親はいるらしいが比べられるのが嫌だから一人暮らしをしているんだろう?」


「違う」遼一は何食わぬ顔で否定した。


「違うことはないさ、才能がありすぎる菜々子さんと才能が無いように扱われる自分が気に食わないんだろう?」


「才能が無い様に扱われるというよりも俺には才能はないよ。魔力判定がGの時点で」


正平は少し目を大きく広げながら遼一を見つめた。


「姉さんに追いつくためには姉さんの倍以上のことをしなければならない。だが俺にはそれをしても追いつけないよ。だから、俺は別の道を行くよ。―――国家技術師になってMWを作るって道にさ」


嘘だ。確かに才能というところでは姉には追いつくことは出来ないだろう。しかし、遼一は姉以上の力を持っている。


「お前とは違うんだよ。雲居」遼一は真剣な表情をしながらそう言った。


「何が言いたい」ピクッと正平は少し反応しながら遼一を睨みつけるようにしてそう言った。


「お前に才能のある兄弟がいるんだろう?しかも次期当主候補、いや、確定と言ったほうがいいか?」


遼一のその言葉に正平は目を少し開いて遼一を睨みつけた。


「雲居家は代々あるネイチャースキルを持った人が当主につくはずだ。お前の兄弟がそうなんだろう?」


「・・・だったらなんだ?お前に関係あるのか?」吐き捨てるようにしながら言った。


「確かに俺には関係ないな。まあ、話を戻すが、なぜ新橋にあんな真似をした真意はなんだ?」


「・・・お前の実力を図るためだ。どのくらいの実力かを知りたいだろう?」雲居は真剣な表情をしながらそう言った。


「どういうことだ?」


「お前に頼み事がある。死神と会わせてくれ」そう言って急に頭を下げてきた。


「なぜ俺に頼む?」


「もともとはお前と死神の接触を確信的な証拠として手に入れるために監視していた」


「それを勝手に喋っていのか?それが確かなら捕まるぞ?」


「問題無いこれはガセだ。本当は死神との接触のための偽依頼を流しただけだ。実際は監視などしていない。今まで話した内容も独自の情報ルートで手に入れたものだ。これで繋がりがあったら何らかの行動をしてくるからな。まあ、現れなかったけど」


一枚噛まされたか・・・。遼一は優子から聞いた情報がガセだということが分かった。


「悪事でも働けば会えるんじゃないのか?」


「それじゃダメだ。だがどうしても会いたい」なお真剣な表情をしながらそう言った。


「俺は死神なんて知らないぞ?そんなに喋っていいのか?」


「少しでも、少しでも可能性のあるやつにしゃべらないと意味がない。もう、手当たりしだいでお前で12人目なんだがな」


「お前一人で俺みたいに戦ってきたのか?」


「そうだ。そして毎回のごとく負けた。勝てる奴がいなくて困る。そこでお前という話だったがまさかの引き分けだったからな」


「・・・それでその死神と接触してお前はどうしたいんだ?」


「勝負して勝つ。そして、現当主である父親に次期当主として認めてもらうことだ」


「それでお前の親父さんは何て?」


「それだったらいいだろうって話だ。だが、お前では絶対勝てないとも言われた」悔しそうな表情をしながらそう言った。


「このチャンスを逃したら俺は家に完全に見放されるだろうな」自嘲気味にそう呟いたが目は闘志で揺らめいていた。


「もし死神を知っているならここの場所に何日でも構わないから深夜一時に来てほしいと伝えてくれ。…それじゃあな」開いた携帯端末を閉じながらそう言って教室から出て行った。















「驚いた、まさか本当に来るとは思わなかった。本当に立花君が知っているなんて」正平はそう言いながら驚いた表情を浮かべていた。


それもそのはず、正平は自信がなかったのだ。少しでも可能性をある奴を当たっていたため一番情報が怪しいと思った遼一が死神の連絡先を知っているが当たったのだ。驚かないはずがない。


「親戚の菜々子さんから連絡先を聞いたのかな?あはは、なんて過保護な人なんだ。確か機密情報だろ?」乾いた笑みを浮かべながらそう言った。


『どうやら私のことを嗅ぎまわっている奴がいると立花から聞いてな。まさか子供とは思わなかったが』相変わらずの機械声で死神の遼一はそう言った。


「だったら俺と勝負しろ。話は聞いているはずだ」双小剣のMWを構えて睨みつけながらそう言った。


『断ると言いたいが、どうしてもやるんだろう?…かかってこい』何も構えず自然体のままでそう言った。


「じゃあ、遠慮なく」そう言って何もしないまま正平は固まったままだが突如遼一の体が横に吹っ飛んだ。そのまま壁にぶち当たり砂埃が舞う。


「油断大敵だろう?」正平は愉悦の笑みを浮かべながら、壁にぶち当たった遼一に対していくつもの風の刃を飛ばしていく。


『それは君のほうだ』


「は?がぁは!」正平は肺から空気が無理やり出される感覚に襲われそのまま地面を転がった。


「が…ぐうっ!その技は雲居の…!」


『鏡写しだったか?お前の父親の幻燈げんとうの技とそっくりだろ?』


「あいつは…!あいつは父親じゃねえ!その名前を呼ぶな!虫唾が走る!」激昂した様子でそう叫びながら双小剣を死神に振る。


『君の父親だ。紛れもなくそうだろう?』それを避けながらそう言った。


「違う!才能のない奴を蔑んで、そこらへんのゴミと変わらない扱いをする奴だ」


『そうやって君が決めつけているだけじゃないのか?』


「違う!妹が!才能のある妹が生まれてから俺の人生は変わった。自分が苦労して覚えた技をあっさり習得していく優秀な妹、それに比べ技覚えの悪い自分…あいつが変わったのはその後だ!」思いっきり双小剣を振ったが遼一は大きく後ろに下がった。


「自分を見る目が変わったんだよ、自分を出来損ないの様に見る目にな!毎日毎日優秀な妹と比べられ、蔑んだ目で俺を見てくる目にな!そしてついに技も教えてこなくなった!」怒りで顔を歪ませながらそう言った。


「もう俺には後がねえんだよ。引き下がれねえ。…お前に勝つ為ならどんな手段でも使ってでもな!」そう言った瞬間に遼一の耳に不快音が鳴り響く。


『ぐうう!』遼一はあまりのノイズに床に片膝をついた。


「さすがのお前でもこれは聞くだろう?人間で言う不快な音階だからな。まったく、その場所に誘導するのに苦労したぜ」リモコンを持ってそう言いながらだんだんと遼一に近づいて行く。


オートノイズ、正平が使ったのはそれだ。これは人間で言うもっとも嫌な音を作り出す機械だ。この機械は耳栓をしていても聞こえてしまう。


「ああ、ここに近づくだけで気持ち悪い。だがお前すげえよな、ここまでしないと片膝つかないなんてどんな訓練受けてんだ?」そう言いながら、ぴったり遼一の一メートル前で止まった。


オートノイズは効果範囲はある。効果範囲を指定というのは速攻気絶レベルの範囲だ。それ以外の範囲でも不快感はかなりあり長時間いると気絶する。実際正平の指先は小刻みに揺れている。

もし戦場でこんなものを使ってしまったら敵味方関係なく銃の標準が定まらず撃ってしまうだろう。


「はやく気絶してくれ、こっちも辛いんだよ。じゃなきゃもっと音量を上げないいけないからな」苦い表情を浮かべながらそう言った。


『がっ…ぐうう!』遼一は苦しみながらも能力を使おうとするが集中できない。


「ちっ!まったく、はやく気絶しろって!」そう言いながら音量を最大にする。


「くっ!俺もきついぜこれは…!」大量に汗を流しながら正平はそう呟いた。


『あっ…ぐっ』遼一はそのままバタンと倒れた。


「ふう…、やった…やったぞ!」オートノイズを止めながら正平はそう呟いた。


「こ、ここまできたんだ。てめぇの正体を見てやらないとな」そう言いながらフラフラと遼一に近づいてフードを取ろうとした。


しかし、直後肺に衝撃が走った。


「があ…」正平は霞む目の端で何かを捉えたがすぐに意識は落ちた。

















『しっかりしてください、ご主人様』遼一が被っているフードをとってそう言った。


「…ルイか」頭を押さえながらそう言って起き上がろうとした。遼一はあたりを見渡すとどうやら自分の家のようだった。


『まだ起き上がらないでください、体はまだ治っていませんので、多分二、三日は動けませんよ』


「すまない助かった」べットで寝ながらそう答えた。


『いえ、任務を遂行したまでです』


「そうか…」


実を言うと遼一はわざと負けた。そもそもそういう作戦だったのだ。しかし、ただ単に負けるのでは相手には悪いだろう。なのでワザと誘導されている振りをして罠に引っ掛かって相手がギリギリのところまで耐えるというものだった。


「あの音はさすがに死ぬかと思った。ルイの言うとおり速度操作で音を止めて演技をすればよかったな。くらっている間は集中できなくて能力が発動できなかった」自嘲気味にそう答えながら笑った。


『本当にやるからこそ意味があると言ったのはご主人様ではなかったですか?」少し怒った表情をしながらそう言った。


「ははっ、そうだったな」苦笑いをしながらそう言った。


『これで少しは変わるといいですね』


「どうやら一人見張りもいたみたいだし変わるだろう。まあ、偽物と断定されることはないだろう。どうせ俺が言いふらすし」


『そうですか…』優しい表情を浮かべながらそう言った。


「さすがに疲れた」


『はい、お疲れ様でしたご主人様。おやすみなさいませ』そういいながらルイは扉を閉めた。


遼一はルイが扉を閉めたあと携帯端末を取り出してある人物に電話をかけた。


『あら、お疲れ様、遼一君』


「ということは全部わかっていたんですね」


『もちろんよ。・・・でも声だけでも分かるくらい疲れているわね』


「ええ、直接オートノイズをくらいましたから」


『ふふふっ、すぐに気絶はしなかったでしょ?』


「そうですね。修行の成果かもしれませんよ」


『それは嬉しいことだわ~。でも、良かったわ遼一君がそのような選択をしてくれて』


「雲居を助けたことですか?」


『ええそうよ。何も利益がないから見捨てるかもって思ったわ』


「流石に今回は同情しましたから・・・」


『そう・・・でも、あなたも十分才能あるわ』


「ありがとうございます」


『じゃあ、二、三日は十分休みなさい。いい休暇よ』


「はい、失礼します」そう言って電話をきった。


休ませるまでお見通しだったのか?・・・もしかしたらそうかもな。遼一はそう思いながら深い眠りについた。

今回で一章は終わりです。

次回からは二章となりますが、今年から受験生のため書き上がるのがいつになるか分かりません。二章が完成してから載せようと思いますのでご了承ください。

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