一話 魔力がない少年
三月中に絶対載せるといいながら有言実行できなくて申し訳ございませんでした。
2015年、魔法を発動させるための鉱石、レジテスを日本の海底の奥で発見された。しかし、当時は、魔法と言うもの存在しなかったので科学、いわば工業系の分野で解析された。加工するにも折れやすく、科学の分野では使い物にならずに市場価値はさがり、“鉄クズよりも使えない”とそう評価された。
2016年、日本各地で異常現象が起きる。政府は原因を調べるためにあらゆる物を調べた。そして、共通するもの、レジテスが捜査の中で浮上した。日本政府はあらゆる手を使ってレジテスの解明を急いだ。そして、あるところにたどり着いた。
“レジテスを物に取りつけ言葉を発すると炎などが出てきて超常現象が起きる”これにより、2年後日本政府は魔法委員会を設立、レジテスの輸出禁止や採掘の禁止の法律ができ、日本は混乱を招いた。
世界各地でもレジテスの採掘が始まり、世界を襲う大混乱を招いた。日本は元々調べていたこともあり、魔法を国に浸透させるのにはどこの世界よりも早かった。
ここで魔法の説明をしよう。
魔法を使うには魔粒子というものを媒介する。魔粒子の存在は科学的には証明されている前から指摘されていたが、発見されたのが今から1年前なので魔粒子は今だ解明が進んでいない。
魔粒子は絶対量が決まっている。つまり、魔法を使うと魔粒子が一時的に減るのだ。しかし、魔法を放つと数が元に戻る。この減ったり元の数に戻ったりする時に感じる魔粒子の波長を【魔力】と言う。
魔粒子は魔粒子が不足しているところを補おうとする。そうなると全体的な魔粒子が薄まる。そうしたら、複数の人が近くの場所で同時に使うと魔粒子の量が足りなくなり、一人が魔法が発動しなかったり、威力が弱いなどといったことになる。
複数と言っても何千人と言った人々が同時に使うといったことがない限りそんなことにはならない。
魔粒子を操れる量は個人差がある。この魔粒子の操れる量のことを【魔力量】と言う。魔力量は魔法を使うたびに減るが、休んだりすれば元に戻る。魔力量は完全に無くなったりすると倦怠感やめまい等の症状を起こす。これは精神的な疲れであると証明された。魔粒子を絶対に操ることができないということではなく、個人差はあるが練習をすれば誰でも魔法を使える。
“才能の差”というのは確かに存在する。遺伝子的にも魔力量は作用するということにも証明されている。それを嫉み、羨むものや、蔑み、嘲笑するものもいる。
だが、魔力量というものは練習や努力というもので少しずつだが増えていくということも証明されている。しかし、魔法を極めることは難しいだろう。
魔粒子は肉眼で確認することができなく、最新の大型な電子顕微鏡を使ってやっと見ることができる。魔粒子は物を媒介にしないと扱うことができない。この物のことを魔具(magic weapon)通称MWという。
MWは今のところ二つの種類に分けられている。E系統とB(実弾)系統だ。
分類的には第一世代がB系統で第二世代がE系統だ。
B系統は銃は実弾、剣は鉄などといった金属系の物を使うのに対し、E系統はエネルギー刃を使った剣、エネルギー弾を使う銃といったエネルギー系を使う。
今では第二世代を使うのが主流となっている。しかし、E系統はここ5年の間に作られたため、まだ、効率良く作用しているとは言い難い。
MWはレジテスをはめなければいけないがそれには精密な微調整が必要である。レジテスが大き過ぎたり、小さすぎても魔法が発動しない。
つまり、丁度いい大きさが物によってあるのだ。人によってもレジテスの大きさが微妙に変わるのだが、それをするとなると完全なオーダーメイド製になるため、お金がかなり掛かる。
魔法を使うとその魔粒子が作用して、火、水、風、土、雷、光、闇の基本の七つの元素を出す。これをMWを使って、身体強化やバリア、治癒などといったものに応用、変化させることができる。他にも無系統と言った人間を操ったり、心を壊したりなど精神系の魔法などがあり、魔法の種類は様々ある。
魔法はランクによって分けられている。G、E、Fが初級、D、Cが中級、B、Aが上級がある。Dからは殺傷能力があるので一般人は法律で禁止されている。
魔法を使うときはイメージを大抵使う。しかし、魔法の仕組みや構造などといった魔法理論を習得していればより効率に働くことが証明されているが、いまだ魔法については研究中なのでもっと効率のいい方法があるかもしれないというのが現状だ。
人にも得意な魔法と不得意な魔法と言うものがある。ある人は、一つのものに特化したり、ある人は全てを一通り使えるようにしたりなど様々な人々がいる。
要するに自分の好きなように出来るが魔法を極めることは難しいのだ。
そして、2028年、国際魔法委員会を設立、本部は世界最大レジテス保有国である日本になった。それから数年後の2032年、世界初の魔法学校が日本に設立され、定員400名に対して、受験者数400万人にもおよび倍率一万倍と異例の受験者数となった。これにより、一般人にも魔法が浸透するようになった。
ちなみに魔法委員会とはその国の魔法を取り纏めるところだ。魔法に関する犯罪者を捕まえたり、犯罪の防止を促したり、などもう一つ警察の役割をしている。
魔法委員会は国家魔法師しか所属することができない。国家魔法師はMWの常時携帯、使用が許可されている。ちなみに一般人は杖型のMWしか携帯は許されていない。
国家魔法師になるには国家試験を受けなければならない。国家試験は年齢制限がない。つまり、実力さえあれば国家魔法師になれるということだ。その国家魔法師の中でもランクがある。
ランクはG、F、E、D、C、B、A、Sがある。Dは国家魔法師としてベテラン、それより上はまた強さが別になる。Cは単体で日本軍の特殊部隊の小隊と同じ位の強さ、Bはその中隊、Aはその大隊、Sは大隊以上となる。ちなみに特殊部隊の小隊は他国軍の中隊と同じくらいだ。
そんな世界の中で生きる少年がいた。
「りょーちゃん、お久しぶりだね!」そう言って近づいてくる青系の制服を着た黒髪の美少女を少年は見つめた。
「お久しぶりって言っても2週間ぶりだろ?」
「それってお久しぶりじゃないの?」
「…さあな」少年は前を見ながら言った。
少年の名前は立花 遼一黒髪黒目をしていて容姿はやや中世的な顔立ちで髪の毛が長かったら女の子と間違えられるだろうと言ったところだ。
そしてその彼の隣りを歩くのは円城寺美希容姿は黒髪のセミロングでパッチリ開いた目と人懐っこそうな笑みを浮かべている表情が目にとまるかなりの美少女だ。彼女は遼一の小さいころからの知り合い所謂、幼馴染みだ。
「ふふふっ、でも夢みたいだよ。りょーちゃんとまた学校に行けるなんて。本当に嬉しいよ」嬉しそうな表情を浮かべながら言った。
「…泣く奴があるかよ」
「え?」美希はそう言いながら立ち止まった。
「ほら…」遼一はそう言って彼女の涙を拭いてあげた。
「えへへ、ありがとうりょーちゃん」そう言いながら笑った。
「いいよ別に…」そう言って前を見る。
傍から見ればカップルだろう。しかし、ここは遼一の住むマンションの廊下なので関係ない。
遼一達はマンションを出て、すぐ目の前にある自操車乗り場に着くとすぐに車が来た。二人はその自操車に乗った。
自操車とは自動操縦運転走行車のことだ。現在ではバスや電車と言ったものはなくなり、二人から四人用の車に変わった。この車は目的地を設定するとその場所まで連れて行ってくれるものだ。自動運転なので何もする必要もなければ、信号で渋滞といったのもない。極たまに事故が起こったりするが大体はエンジントラブルと言った事故だ。なので人が運転していた時代に比べたら格段に事故の数は違うだろう。しかも、一回に乗る料金が格安なので利用する人が多い。
「梓ちゃんや、照吾君も元気にしているかな?」
「知らないよ。あれ以来会っていないからな」
「うん…りょーちゃんがいなくなったら自然と集まらなくなったし…」俯きながらそう言った。
「あれは仕方がなかったんだ。それに今気にすることじゃないだろう」
「それもそうだね。もうすぐ会えるんだし」
ピリリリッと音が車内に響く。
「麗華か…」そう言って端末を取り出した。
現在携帯は小型型パソコン化しており、電子ディスプレイや電子キーボードなど中身もすごい高性能になっており、大きさは携帯と変わらない。
「麗華ちゃんから?」
「なんだ?」
電子ディスプレイにしてTV電話状態にして言った。
『いつになったら学校つくの?』クールな表情を見せた黒髪ロングでやや猫目の少女は言った。
彼女の名前は五木麗華。遼一とは彼女の父親から知り合った。彼女の父親は日本魔法委員会上層部の副委員長だ。魔法委員会上層部は五席で構成されている。席が与えられる席の数字は1~5あるが、数字に優劣はない。その中から委員長、副委員長の二人選ぶ。
委員会上層部はやる家が決まっている。それゆえに変わることがほとんどないのだが、あまりにもひどい場合には変わることがある。
つまり、彼女の父親はエリートでもあり、日本の魔法を取り仕切っているといっても過言ではない。
「いや、まだだ、どうかしたのか?」
『別に、ただ学校来てるかなって思っただけよ。それと後で伝言、話すからそれじゃあね』そう言って電話を切った。
「あっ、おい―――」
伝言?一体なんだ?遼一は疑問に思いながら端末をポケットにしまった。
「麗華ちゃんからの伝言って何だろう?」
「いや、分からん。まったく何のために電話をしてきたのやら」呆れた表情を浮かべながらそう言った。
「そうなんだ。麗華ちゃんと一緒に行ければいいけど、家が逆方向だからね」
「そうだな…だが麗華とは教室であえるだろう?」
「それはそうだけど…」
麗華と美希は遼一を介して知り合った。二人が中学一年生の時に知り合ったので二年と少しになる。
「もう着くぞ…」そう言って車の窓の外を見ると今日から通う学校が見えた。
まさかここに通うことになるなんてな。遼一はそう思いながら学校を見つめていた。
関東国立魔法大学付属高等学校、今日から遼一達が通う学校だ。
関東国立魔法大学付属高等学校とは、九州、四国中国、近畿、中部、関東、東北、北海道地方の国立魔法大学付属の高校であり、そこに入れば将来、魔法師になることができる。つまり、高校で三年間学べば魔法師に卒業生の約七分の三の人がなれる。
もし、魔法師の試験に受からなくても大学で四年間学んでいる間に受けることができる。過去のデータによると七年間学んで受からなかった人は0人。要するに魔法師になることは確約されているのだ。
定員は210名でG、F、E、D、C、B、A組に分けられて1クラス30名で構成される。クラス分けにも優劣が決められている。Aが一番良くてGが一番悪い。カリキュラム自体に差異はないが、やはりそこには劣等感や優越感といったものが生まれる。
クラス分けは1年に一度行われるがほとんど変わらない。
それと、生徒はMWの常備携帯及び使用が認められている。使用する際は自分の身を守る時のみだけだ。これは国立魔法学校というだけで襲ってくる輩から身を守るための措置だ。
「Fか…。階はAと違うみたいだな」
「うん、そうだね。それでも遊びに行けるね。梓ちゃんと照吾君もAだから一緒に遊びに行くね?」遼一を見ながら笑顔で言った。
「エリート集団がいきなりFにきたら驚くんじゃないか?」
「関係ないよ。それにりょーちゃんは本当のエリートじゃん」少し怒ったような表情をしながら言った。
「…さあな。じゃあ、また」
「うん、またあとでね」そう言って別れた。
教室に入るとぽつぽつと人がいるがほとんどいなかった。現在の時刻は8時50分みんな入学式のため体育館に行っている。
俺もそろそろ行くかそう思って遼一が教室を出て階段を下りると麗華と美希がいた。
「いたいた。早く行こう。遅れたらさすがにマズイから」美希が言った。
「それもそうだな」
「言うとおりね。それにしても何で遼一君は置いといてと美希の家が逆方向にあるのかしら?そうじゃなかったら一緒に行けるのに…」やや残念そうな顔をしながらそう言った。
「あはは、仕方ないよ。でも、学校で会えるからいいんじゃない?」
「それもそうね。あら?どうして遼一君は悲しそうな表情をしているの?」にやにやとしながらそう言って来た。
「おい、それはいいから、前に座ったらどうだ?」
「自由席だからどこでもいいでしょ?」麗華はそう言って遼一の横に座った。
この学校は入学式に親が来るというようなことがない。それは学校に所属しているもの以外立ち入り禁止だからだ。それは秘密資料など、魔法に関する資料がたくさん置いており、万が一の場合に備えている。
それゆえ、式に参加するのは一年生だけだ。だから自由席という形をとっていた。
遼一が選んだ場所は男子が比較的多いところだ。前方には女子が多く座っている。3人は座っているわけだが明らかに周りからの視線を集めている。
最悪だ…絶対麗華のやつ狙って座っているな。遼一がそう思っていたら入学式が始まった。
「新入生代表、鳳凰梓」
「はい」透き通るような声で返事をして壇上に上がった。
変わったな…いや、それは当り前か。遼一はそう思いながら壇上に上がった彼女を見た。
遠くからでも分かる美少女で綺麗な茶色の長い髪で燃えるような赤い釣り目をしている。
彼女は遼一と美希の幼馴染みであり、小学校の時からの親友だ。訳あって中学時代は疎遠になったが親友であることに変わりはない。
「私達総勢210名はこの学校で魔法をしっかり学び、将来魔法を使って世のため人のために貢献していきたいと思います―――」
そう当たり障りのない言葉を言いながら代表のあいさつは終わった。
「生徒会長あいさつ」そう言うと一人の女子生徒が立ち上がると壇上に上がった。
「みなさん、ご入学おめでとうございます。私はこの学校の生徒会長を務めさせていただいています鳳凰縁です」
あれが噂の鳳凰家のお嬢様で梓の姉か…遼一はそう思いながら彼女を観察するように見た。
彼女は梓と言うところで容姿は似ているが釣り目ではなくいつも笑顔を浮かべていそうなどこか優しさが滲み出ていた。
見た目だけでは分からないな…それにしても、姉妹揃って優秀だな。遼一はそう思いながら会長の言う話を聞き流していた。
この学校はかなり難易度が高く、生まれつき才能が左右すると言われても過言ではないところだ。絶対に魔法師になれるので人気も高く競争が激しい。
俺が入れるのも奇跡みたいなものだしな…。遼一はそう思いながら入学式終わるのを黙って待った。
入学式が終わると、ぞろぞろと生徒は戻り始めた。
「戻るか」遼一は席から立ち上がってそう言った。
「え?梓ちゃんと照吾君は待たないの?」美希は不思議そうな表情を浮かべながらそう言った。
「どこに居るかわからない状態で探すのも面倒だ。放課後に会えばいいだろう?」
「う~ん…それもそうだね。わかったそれじゃ行こうか」
「そうね…それにしても、小学校からの親友なんでしょ?やっぱり仲良い?」
「まあな…」
「そうだね。いつもりょーちゃんに魔法を教えてもらっていたよね」
「え?あの、鳳凰のお嬢様に?」麗華がそう言った。
鳳凰家は昔からS級の魔法師を代々選出している大魔法家だ。魔法委員会も一目を置くほどの存在である。得意な魔法は火で初級でも使ったら一面が焼け野原に変わると言われている。
「別に…教えたと言ったほど教えてない」
「まあ、りょーちゃんらしいね」美希は苦笑いをしながら言った。
「ふ~ん、さすが遼一君って言ったところね」
「それよりも、会長が梓の姉っていうのが驚きなんだが…」
「あれ?知らなかったの?私は知っていたんだけど?」
「…おい、なんでお前が知っているんだ?」
「もちろんそれはお父さんからって――あっ…伝言忘れていたよ。えっとね…今年は化け物の巣窟だよって笑顔で言っていたわよ?」素敵な笑顔でそう言った。だが、その笑顔がにやにやしているのに見えたのは気のせいではないだろう。
「もう、嫌な予感しかしないんだが…」
嫌な予感しかしなかったのは気のせいではないだろう。
遼一が教室に戻ると、HRが始まって担任の挨拶が始まってすぐに終わった。普通はクラスの代表などを決めたりするものだが、現代はそんなことはしない。それは机に設置されている端末を使うからだ。
学校の実技以外の授業は全て端末で受ける。分からないところは質問をメールで送ったり、個人的なメールや相談などはブロックが掛けられて特定の人物しか見れないなど、セキュリティも万全だ。
こうすることによって普段から質問をしない生徒も気軽に質問ができるなど、非常に効率の良い働きをしている。
授業は決められたカリキュラム通りに進めていくもので、映像授業だ。
これが終わると、最後に確認テストを受けて合格するまで次の単元に行けないという仕組みになっている。
自分のペースで進めるので一気にやったり、少しずつやったりなど好きなようにできるが、最低限のカリキュラムはこなさないといけないため、さぼったりすることはできない。
学校のカリキュラムは家でもできるので、学校で習ったことをもう一度復習するということもできれば、先に進めるということもできる。
この学校では普通の学校とは違い魔法の専門の課程が主要科目だ。なので国、数と言った科目は存在しない。あるのは英語と言った世界共通語の科目だけだ。
学校の連絡も電子掲示板に書き込まれているので毎朝のHRと帰りのHRもカットできる。そのため、担任というものはよっぽどの重要な時以外来なくなった。
授業も終わり、放課後になり、帰る人がぞろぞろと出てきた。
「遼一いる!?」
「遼一いるか!?」
あいつら何を考えていやがる…遼一は内心でため息をつきながらそう思った。
ドアには先程代表の挨拶をした鳳凰梓とツンツンなやや茶髪で爽やかな印象の男子生徒が立っていた。
教室内は当たり前だがざわついてあちらこちらで遼一と言うのを探し始めた。
自己紹介をしなかったのが不幸中の幸いだな。遼一はそう思いながら教室の後ろから出ようとした。
「遼一君ここにいたの?返事がないから帰ったと思ったわ」麗華が教室の後ろから現れて遼一の前を防いだ。
どこか不敵な笑みを浮かべて遼一を返すまいとしているのは気のせいではないだろう。
「ご、ごめんねりょーちゃん。私は今はやめた方がいいって言ったけど…」美希は申し訳なさそうに言った。
教室の視線を一気に集めた。当たり前だろう。四人の胸元にはAクラスのバッチが輝いている。しかも四人とも驚くほど美形だ。視線を集めない方がおかしいだろう。
「…帰りたいんだが」悪あがきを試みてみた。
「遼一久しぶりね!」笑顔でそう言った
「遼一!俺はこの日を待ち望んでいたぜ!」ニカッと笑って遼一を見た。
二人はそう言いながら遼一に近づいてきた。どうやら悪あがきは不発で終わってしまったようだった。
「…外で話そうか」そう言いながら遼一は教室を出た。
「ちょ、ちょっと置いていかないでよ!」
「おい待てって遼一!」
二人はそう言いながら遼一を追いかけた。
遼一達はバルコニーに移動して話すことにした。
「久しぶりね遼一、黒髪黒目になっているなんて気がつかなかったわ」
「そうだぜ。小学生のころは髪は少し茶色がかって青い瞳だったのにな」
「ああそうだな。それよりも梓、照吾」
「なによ?」
「どうした?」
「目立つという言葉を知っているか?」
「知っているけどそれがどうかしたの?」
「訳分からないぜ。美希は分かるか?」
二人は遼一を見ながら何を言っているんだという表情をした。
「私は分かるかな~」美希はそう苦笑いで答えた。
鳳凰梓と照吾のこと竹下照吾は小学校のときからの幼馴染だがある日をきっかけに会うことが難しくなった。
「あの日からもう三年以上たつのね」
「そうだな…あのときは大変だったよな」
「…ああ」
「そうだね…」
それは四人が小学六年生の時に行われた魔法武術大会の時の話だ。遼一達は次々と予選を突破して、準決勝で遼一は照吾とあたった。美希と梓は別々だが遼一達が試合をするときに行われる。
「俺、今すごく嬉しいぜ!遼一と戦えるからな!」
「…そうか」
「ああ、だから早く始まらないかな~」
『第三試合、準決勝を開始します。出場する選手は速やかに移動をしてください』
「よっしゃ!行くぜ!」
「・・・」
二人は控え室を出て会場に入った。
遼一と照吾が入ってくると同時に梓が入ってきた。
「あっ、あんたたちも今から試合?」
「ああ、そうだぜ!」照吾は笑顔で言った。
「…そうだ」遼一は静かにそう言った。
「お互い頑張ろうね」笑顔で梓はそう言った。
「へっ?…あ、ああ」照吾は少し驚いたように言う。
なんだ?遼一は疑問に思った。いつもの梓と違うのだ。どこか浮ついているような、高揚しているような感じだ。
もう、始まっているのか?…いや、考えすぎだ。そうタイミング良く―――
「おい、遼一!急げって!」照吾がいつの間にかフィールドの上に立っていた。
ハッとした遼一はいそいでフィールドに向かった。
「…すまん」遼一はそう言ってフィールドにたった。
梓に注意を向けつつ戦うしかないな。遼一はそう思った。
「それでは準決勝を開始します。―――試合開始!」
「ファイアボール!」照吾はそう言って魔法を放つ。
照吾が放った炎の球は遼一に向かっていくが、遼一の目の前に現れた炎の壁に阻まれた。
「なっ!」照吾は目を大きく開く。
それもそのはず、魔法を使って壁を作るのは小学校で教えられるものではない。照吾は習得しているがまさか目立つのが嫌いな遼一が使うとは思わなかったのだ。
何だこのバカでかい魔力は。遼一は魔力の感じる方向を向くと梓から肉眼で確認出来るほどの魔粒子が溢れていた。
「ファイアボール!」梓は躊躇なく魔法を放った。
プロ野球選手が投げるようなスピードで飛び出した2m大の大きさの炎の球が梓の対戦相手を襲う。
「きゃーーーー!!!」と対戦者は言ったが炎の球は目の前で消えた。
魔法を射った梓は不安の色に満ちていてどこか苦しそうにしていた。
「え?何で?こんなに大きいの?…なんか苦しい」梓はそう言いながら座り込む。
「梓!俺に思いっきり魔法を撃て!」
そう、今は一刻も早く体内から魔粒子を出さなければいけない。扱いなれていない大きすぎる魔力は人体に影響を及ぼすのだ。しかし、空に放とうにもここはドーム、今は天井が閉まっているためできない。
「で、…でも」苦しそうにそう言いながら遼一を見た。
「早くしろ!死にたいか!」
「くっ…!ファイアボール!!」
梓から放たれた炎の球は5m大にも及び先程のスピードと変わらない。
遼一はあらかじめ10mの水の壁をだしてそれを受けとめた。
魔法を放った梓はそのまま気絶した。
会場はざわついた。当たり前だ、10m級の魔法を出せるのはSランクの魔法師にしかできない芸当だ。そんなものを小学生の子どもが出して疲れた様子をみせないのだ。驚かないはずはない。
梓がこのような現象が起こったのは先天性魔力量遅延症だ。
魔力量遅延症とは魔力量は練習、鍛錬を繰り返すたび段々と増えていく、しかし、遅延症は一般の人の約倍以上をこなさないと増えない。この症状は今のところ1000万人に一人の割合と言われている。
遅延症は完治することができる。
遅延症を抱える人々は微々たるものだが、魔粒子を取り込んでいく、それがある一定のところに差し掛かると魔粒子が開放されて、その衝撃で魔力量が爆発的に増えると言われている。
これは実際に体内の魔粒子を確認していないため証明はされていないが、今までの人から魔法を使っていないのに魔力を感じたところから、そう判断されている。だが、いつ魔力量が増えるのかは個人差があるためいつになるかは分からない。
その後遼一が色々と疑われたが特に問題はなかった。梓は遅延症が改善され、中学は有名なところに行った。照吾も実力認められて有名な中学校に行ったが梓とは違うところに行った。美希はもともと頭もよかったが彼女は地元の中学校に行った。
こうして四人はバラバラになってしまったが再び高校で会う約束を果たすためにここに集まった。
「も~う良い雰囲気なところ悪いんだけどさ~。仲間外れはやめてほしいな~」そっぽを向きながらいった。
「あはは、ごめんね麗華ちゃん」
「そういえば麗華さんだっけ?遼一とどういう関係なんだ?」
「そ、そうよ。なんで遼一を知っているのよ」梓はどこか不安げな様子で言った。
「簡単だ。お前たちの知らない三年間で知り合ったと考えればいいことだろう」
「ああ、なるほどお友達って奴か」
「お友達なのね」
「まあ、そんな感じには間違いないかな」麗華はそう言って遼一を見た。
「さあな」そう言ってそっぽを向いた。