祈りの傍で - 3
森の奥は、礼拝堂とは違う匂いがする。
「フィオ、こっちになにがあるの?」
フィオの歩調は少し早い。
まるで、立ち止まるのが怖いかのようだった。
セラはそれ以上フィオに何も言えなかった。
今朝早くセラの部屋へ訪れたフィオは、久しぶりに秘密基地へ行こうと誘い出していた。
(イリスさま、怒ってるかな)
胸の奥がちくりと痛む。
「ねぇ、フィオ?フィオってば……」
「なに?」
「もし、間違ってたらごめんなさーー」
言い終わる前に、フィオは足を止めた。
振り返ったその顔は、苛立ちと焦りが混ざっているようだった。
「あそこはさ……守られてるふりして、閉じ込められてるだけじゃん」
その言葉にセラは驚いたように目を見開いた。
「そんなこと……」
「あるよ……!」
フィオの声が、少しだけ荒くなる。
「説教ばっかりで、外のこと何も教えてくれなくて“危ない”“ダメ”“信仰が”って……!」
「フィオ……」
「私は選びたいの。誰かに決められるんじゃなくてさ……」
セラはしばらく黙って、そっとフィオの袖を掴む。
「でも私は、フィオが危ない目に遭うのは嫌だよ?」
その言葉にフィオの表情が一瞬揺れたが、すぐに視線を逸らす。
その瞬間ーー
背後からの枝が踏まれる音にセラが身を縮める。
森の影から、黒い外套を纏った人影が現れた。
顔は白い仮面で完全に覆われ、感情は一切読み取れない。
「約束の時間だ」
落ち着いた低い男の声。
フィオは、ほっと息をついた。
セラはフィオを見つめ、その人影を見る。
「この子も一緒でいいんだよね?」
フィオの問いに、仮面の人物は少しだけ間を置いて答えた。
「あぁ」
セラの指先が震えた。
フィオは不安で泣きそうなセラの顔を見ることなく、前だけを見ていた。
「行こう、セラ。ここから先が自由なんだから」




