母の遺したもの - 3
仮面屋は、割れた仮面を指先でなぞった。
「……双子って、どういうことだ」
イリスが低く問いかける。
「そのままの意味さ。なに、15年以上も前の話だ。君が覚えていなくても無理はない」
仮面屋は、遠い記憶をなぞるように語り出す。
「15年ほど前にとある美女が、この店を突然訪ねてきた。君と同じ、深い緑の長い髪。純粋でどこか危うい瞳をしていたよ」
仮面屋は、低く息を吐いて続ける。
「彼女はひどく息を荒らしていてね。ワタシに言ったんだ。『この子たちを守る仮面を作ってほしい』と」
イリスの指先がピクリと反応する。
「彼女は小さな赤子を抱いていた。男の子だったよ」
「でも、この子たちと言ったんだよな?」
「ああ、子はもう1人いると言っていた。名はイリス。君と同じ名の女の子だと」
「……」
「ワタシは売り物の仮面を2つ渡した。彼女はそれを抱きしめるように受け取って……嵐のように去っていったよ」
仮面屋は、淡々と続ける。
「まさかその女が、亡命直後の妃様だったとは……その時は、思いもしなかったがね」
「……その後、お母様とその子は?」
「さあな。噂では……死んだとも聞く」
仮面屋は、真っ直ぐにイリスを見て、ぽつりと呟いた。
「君も、彼女も、あの赤子も……“こちら側”に留まりきれない目をしている」
イリスの胸の奥で、嫌な感覚が広がる。
双子。
亡命。
聞きたいことは山ほどある。
それに気づいたのか、仮面屋はくすりと笑った。
「とにかく、この仮面は君を守るためのものだ。そして君が“選ぶ側”になるための鍵でもある」
「……選ぶ?」
「王の娘として生きるか、それとも……」
画面屋はそれ以上言うことをやめた。
「これ以上、話すことはないよ」
「なぜだ。私はまだ聞きたいことが」
画面屋はくすりと笑う。
「ここの住人にしては、ワタシは約束は守るんだよ。いくら金を積まれても、これ以上は話せない」
「お母様との約束ってことか?」
「そうだね。まあ、あと1つ言えるとするなら……王宮は嘘をつく。だけど場所は嘘をつかないよ」
イリスは、仮面を強く握りしめた。
「……次に来る時は、全て話してもらうぞ」
「……生きていればね」
仮面屋はそう言って、再び仮面の影へと溶けていった。




