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檻の記憶 - 5
セラの身体は、まるで糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
「セラ……っ!」
イリスは慌ててその身体を抱き留める。
呼吸はかなり浅く、汗が出ていた。
彼女は完全にスラム街に当てられていた。
闘技場の熱、歓声、血の匂い。
それら全てが、セラの過去を引きずり出してしまった。
周囲の視線が突き刺さる。
この街では、倒れた人間ですら“商品”になり得てしまう。
イリスはフードを深く被り直し、セラを抱えたまま闘技場を後にした。
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夜の境界に微かな揺れが走った。
それは音でも光でもない。
世界の裏側をなぞるような……歪み。
「……来たか」
ヴェイルのトップ・クロは森から王都の方角の空へ視線を向けた。
……鍵が反応した。
指先に懐かしい感覚が走る。
遠い昔……まだ自我を持たなかった頃に感じたものと同じだ。
「目を覚ましたのは……あっちか」
低く呟き、クロは腰に付けた仮面に手を伸ばす。
ひび割れた境界の仮面。
「……母上」
彼の脳裏に浮かぶのは、深い緑の髪と焦りに満ちた横顔。
黒は立ち上がり静かに告げる。
「迎えに行こうか」
それが、あの日俺が与えられた役目だから。




