檻の記憶 - 3
闘技場と呼ばれたそこは、建物というより、崩れかけた倉庫を無理やり改造したものだった。
入口の鉄扉が開いた瞬間、熱気と歓声が一気に押し寄せてくる。
「いけぇぇぇ!!」
「殺せ!!」
「次は右だ、右!!」
怒鳴り声。
笑い声。
罵声。
金属がぶつかる音。
円形に組まれた観客席の中央には、簡素な柵で囲われた闘技場があった。
その中では2人の人影が激しくぶつかり合っていた。
2人からは血が飛び、拳が当たるたびに鈍い音が響く。
観客はそれを娯楽として楽しんでいた。
「……賭けは成立だ!」
「次、能力者だぞ!」
「生き残った方に全額だ!」
観客の手には札束。
勝敗と同時に金が動き、人の命が数字に変わっていく。
「ひどい場所だな」
「ここでは、これが“日常”なんですよ」
案内役の男は平然と答えた。
「食べるために守るため……それだけで戦う者もいますし、売られる前の“見世物”という場合もあります」
その言葉に、セラの身体がぴくりと反応する。
彼女は闘技場を見つめたまま、呼吸が次第に浅くなっていく。
イリスは、そっとセラの肩に手を置いた。
「セラ、無理をするな。すぐ出る」
「……だ、大丈夫です……」
そう言いながらも、セラの表情は明らかに不安定だった。
その時、観客がざわめいた。
「次だ!!次は“商品候補”だ!!」
闘技場の中央へ、鎖をつけられた少年が引きずり出される。
明らかにセラよりも幼い少年だった。
「能力持ちか?」
「まだ子どもだぞ?」
「値がつくな」
その光景を見た瞬間、イリスの胸に込み上げたのは、怒りとは似ても似つかない感情だった。
これは闘技場じゃない。
人を壊して売る場所だ。
ここを壊してしまおうか。
そう思い、腰に仕込んだ銃に手をかけた。
その瞬間だった。
「……っ……」
「セラ!!!!」
セラの膝が、がくりと折れ、彼女の意識は完全に途切れた。




