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王の子は世界と世界のあいだで鍵となる  作者: 浅 眠瑠
エピソード6:檻の記憶
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檻の記憶 - 2

王都の外壁を抜けたあたりから、空気がはっきりと変わった。

舗装されていた道はいつの間にかヒビが入り、隙間には黒ずんだ水が溜まっている。

酒と汗と何か腐ったような匂いが混ざり合ったものが鼻についた。


「……ここが、スラム街の入口か」


イリスが低く呟く。

彼女にとってスラム街は初めて訪れる場所だった。


並ぶ建物は壁と屋根があるだけのようなものばかりで、それを家と呼んでいいのか分からない。

路地の奥では、怒鳴り声と笑い声が入り混じり、何かが壊れる音が響いていた。


「……同じ国とは、思えないな」


イリスはフードを深く被る。

通りには露店が並び、正体の分からない薬や用途不明の部品、そして明らかに“表”では扱われない品々が無造作に並べられていた。

突然、セラの足がぴたりと止まった。


「……セラ?」

「だ、大丈夫です……」


強く握りしめる指先は、震えていた。


「音が……」

「音?」


イリスが耳を澄ますと、遠くから歓声が響いてくる。

怒号とも歓喜ともつかない、獣じみた声。


「闘技場ですよ、お嬢さん方」


突然、2人の前に気配もなく男が現れた。

スラム街の人間にしては、妙に身なりが整っている。


「突然すみません。自分、格闘場の関係者でして」


男は芝居がかった調子で続ける。


「こうして、興味のありそうな方に声をかけているんです」

「誘い?」

「ええ……お嬢さん方、ここの人じゃないでしょう?」


その鋭い言葉に、イリスは内心で舌打ちする。

男は口元を歪め、笑った。


「まあ、賭けるかどうかは別として、一度、ご覧になってはいかがです?もしかしたら……通うようになるかもしれませんよ」


そう言うと、男は2人に背中を見せて歩き出す。

イリスとセラはその背中に導かれるまま、闘技場へと足を向けた。

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