祈りの傍で - 8
暗い地下。
どこにあるのかも分からないその空間は、最低限の灯りだけが置かれていた。
静寂の中、アルベルトが淡々と報告する。
その先には、黒衣に身を包み、深くフードを被った人物がいた。
顔には、アルベルトがかつて付けていたものとは異なる仮面。
「王の娘と、保安組織副隊長が予想以上に早く到達しました。そのため、計画は失敗に終わりました」
「……なるほど。それで、仮面が割れたと?」
「少し、顔を見られました」
「そうか……まあ、顔を見られても問題はない」
それだけだった。
アルベルトは、わずかに眉を寄せる。
玉座に腰掛けていたその人物はヴェイルのトップ・クロ。
彼がゆっくりと立ち上がると、黒衣が音もなく揺れる。
「イリスが感情を切り捨てた。それが確認できたのは収穫だ」
「……あの裏切ったシスターを、敵と認識したことか?」
「あぁ」
クロは、どこか楽しげに息を吐いた。
その時、部屋の扉がギギギ、と軋む音を立てて開き、姿を現したのはフィオだった。
「やあ。この間ぶりだね。君は来てくれると思っていたよ」
フィオは一瞬、言葉を躊躇ったが、やがて口を開く。
「自由になりたい。だから……約束、守って」
「自由、か」
クロは一歩、フィオの前に立つ。
「それは、与えられるものでも、許されるものでもない」
伸ばされた手が、伏せられていたフィオの顎を静かに持ち上げる。
「君は囚われていない。最初から、自由だ。
だが――ここにいる限り、“王の側”には戻れない」
2人の視線が、まっすぐに交わる。
フィオは何も言わなかった。
しかしその瞳には、揺るがない覚悟が宿っていた。
それを見て、クロはわずかに微笑んだ。
「ヴェイルへようこそ」




