祈りの傍で - 5
森を抜ける頃には、夜が完全に明けていた。
冷たい朝霧が立ち込める中、イリスは一度も振り返らずに歩き続けていた。
背後では、リオが黙ったままついてくる。
誰も、言葉を発しなかった。
「……」
イリスは唇を噛み、歩調を早めた。
礼拝堂が見えた時、ようやく彼女は足を止める。
イリスたちを迎えるように祈りの鐘が鳴っていた。
変わらない音。
変わらない景色。
だが確実に失われていた。
入口の前で礼拝堂のトップ――エリシアの姿があった。
「セラ……良かった……」
エリシアはイリスの隣にいたセラの元へ駆け寄り、抱きしめる。
その姿は本当の親子のようだ。
「フィオは……?」
エリシアの問いにセラの目からは涙が浮かぶ
「ごめんなさい……フィオ……どっかに行っちゃった」
「謝らないで。セラのせいじゃない」
セラの目から溢れる涙を拭き取るエリシア。
「当面、礼拝堂の警備を強化する。王命だ」
イリスがエリシアに冷たく告げる。
エリシアは、イリスを見ると静かに頷いた。
「……承知しました」
「リオ」
礼拝堂を離れながら、イリスはリオの名を呼ぶ。
「はい」
「森で見た男。あれは、誰だ」
リオの足が、止まった。
僅かに震える。
「……彼は、アルベルトです」
「アルベルト……名は聞いた事あるな」
「自分を育ててくれて、剣を教え、組織のために生きろと教えてくれた……人です」
リオは、言葉を詰まらせながら続ける。
「……死んだと、聞いていました」
「……そうか」
死んだはずの男が、反政府組織ヴェイルの一員として現れた。
これは偶然なはずがない。
「報告書を書いたらすぐにお父様のところへ行く」
イリスはリオへそう告げた。




