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羽ばたけない小鳥は崖から落ちる

ここは、かつて人々で賑わい、笑い声が絶えなかった商店街。

アーケードの天井から吊るされた古びた看板には、かつての繁栄の名残がわずかに残っている。だが今では、ほとんどの店がシャッターを閉ざし、錆びついた鎖が音もなく風に揺れている。


そんな通りの片隅に、一人の青年が立っていた。

彼の名は――天野昊あまのそら

今はただ寂れた街に生きる若者にすぎない。

だが、いずれ彼は「塔の頂き」に辿り着き、世界から「ゴールデンキング」と呼ばれ恐れられる存在になるのだ。


……だが、それはまだ遠い未来の話。



――――――――――――――――――――――


俺は、この商店街で電化製品を扱う店を細々と続けている。父から受け継いだ店だ。

俺にも夢があった。

「絶対にこの店を大きくしてやる。そして、商店街を日本一の電気街にしてみせる」

そう息巻いていたのは子供の頃であった。

今では夢の欠片を胸に押し潰し、ただどう生き残るかを考える日々。

テレビや冷蔵庫の修理によって、なんとか食いつないでいるものの、収入はカツカツで先の見通しはない。


なぜこうなってしまったのか。思い返せば原因は明白であった。


この商店街のすぐ近くに、巨大なショッピングモールが建設されたのだ。

品揃えも豊富で価格も安く、駐車場まで完備されている。人々は流れるようにそちらへ足を運び、気がつけば商店街の通りから人影が消えていた。にぎわいは奪われ、今や「シャッター街」と呼ばれるまでに落ちぶれてしまった。


俺はどうすればよかったのだろうか。

父の背中を追い、中学を卒業してすぐにこの店に入り、独学で経営の本を読み漁りながらも、毎日汗まみれになって商品の運び込みや修理を覚えた。

いつしか電化製品を見ただけで「どこが壊れているか」直感でわかるようになった。努力が無駄だったとは思いたくない。だが、この街では、その経験も才能も錆びついて腐っていくばかりだった。


狭苦しい店先を抜け、二階の住まいへ上がる。

軋む階段を踏みしめると、油の匂いと埃が鼻をつく。部屋に入ってすぐテレビのリモコンを押した。画面が点き、蛍光灯の白い光よりも冷たい青白い輝きが部屋を満たす。


その時――画面が切り替わった。

「緊急速報」の赤い文字が点滅し、アナウンサーの切迫した声が響く。


(……何が起きたんだ?)


「世界中に、塔が発生しました。半径五キロ圏内の住民は直ちに避難し、救急隊員の指示に従ってください。

この塔という存在は、世界各地に同時に出現しました。出現の原因や原理は現在も不明です。中へ立ち入った人間は、誰一人として帰還しておりません。住民の皆様は、この塔に決して近づかないようお願いいたします――」


アナウンサーの声が微かに震えている。映し出される映像には、街の真ん中に突如そびえ立つ巨大な黒い塔。雲を突き抜けるほどの高さで、その表面は金属とも石ともつかぬ不気味な質感を放っていた。


「そんな、ばかな……。今日はエイプリルフールじゃなかったか?」

思わず呟く。だが、日付を確認してみても、そんな日ではない。これは現実なのだ。


心臓が高鳴る。胸の奥からざわつくような感覚が広がる。


その時だった――

テレビ画面が突然、歪んだように揺れ、見慣れぬ文字が浮かび上がる。


「金の塔からの招待状」


続いて現れたのは、無機質な選択肢だった。


▶︎ 受け入れる

▷ 拒否する


……画面から目を逸らすことができなかった。



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