14.オオミネの山
道? あれを道と呼んで良いのか? とりあえず道と称する何かを走り抜けると、ドロ辻という交差点に出た。
尾根である。変形の四つ辻となっていて、尾根道は上と下に続いていた。
超強行軍でござったので、日はまだ西の空にかかっている。暮れるまでは、もうしばし余裕がござる。晩ご飯をたらふく食う時間を割いて、この時間でござる。早い。
「思ってたより早く着いたでござるな。途中、一泊くらいすると思っていたでござるよ」
『イオタよ、直線距離を走ってきたのだ。理屈上、左右に曲がりくねった街道より早いはずだぞ』
「たしかに!」
『上下に曲がりくねってましたが、上空から見れば平坦な道ですしね』
オオミネ奥駈道は、森の中の高速街道でござったか!
『順調に洗脳されてますなぁ』
話を戻して――。
『ここを登っていくとサンジョウヶ岳の山頂に行ける。山頂には小さな神社兼、宿泊小屋がある。オオミネ山神社と呼ばれているところだ』
オオミネ山神社……大峯山寺でござるか!
江戸にいた頃、耳にした、あの有名な! 大峯山山上ヶ岳の天辺にわざわざ立つ? 役行者がなんかしたという修験者の総本山! あと女人禁制!
それがこの世界ではオオミネ山神社と呼ばれておるのか……仏教も阿弥陀様も存在しない世界でござるから、こっちに御仏の教えは伝わってきてないのでござるな。……存在しとらぬか?
先ほど足を怪我しておった者も、山伏ではなく修練者とか申しておったな? 仏様ではなく神獣様をナンカする宗教でござると聞いた。ヤマトのヌシから。
『……でもって、こっちの道はこのまま北のヨシノ山まで通じている。そこの脇道は、サンジョウヶ岳の麓にあるドロガワという集落に通じている。今日は、オオミネ山神社に泊まろうと思うが、良いな?』
「面白そうでござる! 是非ともお願いいたしたく存ずる! ……されど、女人禁制とか、そんなのは大丈夫でござろうか?」
『女人禁制? そんなん無いわ! イオタは何言ってるかなー! 体格や体力的に男でないとキツイ現場だ。だから、この辺に到達した女は、歴史上イオタが初めてだぞ』
『女性処女地! 不遜で罰当たりな響きが至高です!』
……ミウラも元は女の子ではなかったか?
『ふふふ。ここから先は道も踏み固められている。気楽に行こうか』
して、足は速いが、気持はのんびりと観光気分で山を登っていった。
ほぼ、尾根道でござった。少々の岩場もござったが、奥駈けに比べれば、石畳の街道の様でござる。
尾根を越え、山肌に添って進む道がしばし。足元が岩ばかりになってきた。
そして行き止まり。いや、あれが道というのなら道でござるが?
『あそこを登る。さほど酷くない道だろう?』
『ははぁ……45度ほどの傾斜を持つ岩場ですな。昼過ぎに通った垂直の岩場に比べれば、平坦な道でございますなぁ』
「うむ、あそことかあそこに比べれば、町中の道と大差なかろう」
酷道に慣れると、壁のような岩肌も、道に見えてくるから不思議でござる。
『神経がイイ感じにおかしくなってますな』
岩場の道をタタタと駆け上がると、急な岩場の道が待っていた。
『今来たところより、さらに急な岩場だ。垂直とも言う。しかし、右横になだらかな道がある。そこを通っても、すぐそこで合流する。どうする?』
「先ほどの坂道は手応えが今ひとつでござった。急な坂道、垂直? を進もうではござらぬか」
『イオタはそう言うと思った』
『順調に狂っていってますね』
『ちなみに、鐘掛岩という。さ、歩こうか』
今度のはさすがにヒョイヒョイとは歩けぬ『歩くですか?』。ホイホイと歩いた。
して、鐘掛岩とやらの頂きでござる。回りに遮る山がないので絶景でござる!
『イオタよ、あそこ見えるか? あの集落っぽいのの先がドロガワの集落だ。近いだろう?』
「見えるって事は、近いのでござるな!」
『神経……』
しばし景色を堪能して、また歩き始めた。
基本、尾根でござるが、たまに山肌を縫うように歩く場所もある。足の裏を一面ベタリと地に付けられるところは整備された道と同義語でござる。これまで、爪先だけを取っかかりに乗っけた歩き方しか出来んかったからのう。
『順調ですよイオタさん。順調です!』
また岩場を過ぎ『ほほう、これが有名な亀石ですか、柵なしで大丈夫かな? 尾根を過ぎて岩場を過ぎ『西の覗きですね。あらゆる男の子を高所恐怖症にしたという悪名高い修行の場』、また尾根を歩く。
不揃いな階段のような形状をした岩場を登っていくと、途中に鳥居が立てられていた。
『その先が山頂だ』
「競争でござる。お先に!」
『あ、狡い、旦那!』
階段状の岩場を駆け上がる。ミウラが出遅れた。
急に視界が開ける。山頂へ飛び出したのでござる!
『あー、負けたー!』
『くっそ、イオタとミウラの主にまで負けた!』
ヤマトの主も子供でござるかな?
山頂で……もうちょっと小山のように高くなっておるところもござるが……山頂の広場に、古い神社が建っていた。
これが山頂神社の本殿でござる。
三間かける四間の広さ『およそ5×7メートルですね』の本殿。小さいでござる。
『そっちの隅に、小屋がある。ここに到達した修練者が一夜の宿に――』
ヤマトの主の説明が終わらぬうちに、ガランゴロンと桶をひっくり返したような音が聞こえた。
振り返ると、近くの水場から汲んできたのだろう、男が手桶をひっくり返しておった。
して――、音に気付いたか、宿舎から複数の男が三人ばかり飛び出してきた。修練者と呼ばれる男達でござるな。
そこにいるのは巨大な鹿と、おっきなネコ。
「し、神獣様!」
「ヤマトの主ッ!」
「ただならぬ気に驚いて外へ出てみれば! なんと、なんと!」
跪き、頭を垂れる。
「その耳、その尻尾! よもや、あなたは、あなた様は神獣の巫女、イオタ?」
中年の髭面男でござる。……なんか、某を見る目がキツイでござる。
「神獣様をたぶらかし、あくどく権勢を振るっている!」
「え? なんでござるかな?」
「アシムラ様が言っておったわ! ここで会ったが百年目!」
「神獣様に仇成すくせ者!」
「成敗してくれる!」
三人が、腰から刀や山刀を抜いた。某を扇状に取り囲む。
某の刀は、山歩きに邪魔になったから収納へ入れておる!
「ちょっとまたれよ! 某の話しも――」
「問答無用!」
「覚悟!」
見事な連携で飛びかかってきた!




