12.クマノ本宮
本宮へ向かう道中。なかなかに見事な滝に出会う。筏師達の休憩小屋も側に作られておった。とても涼しい場所でござる。
滝からタキちゃんを連想してしまう。あの子を不幸にさせてなるものか! と決意も新たに、山道を進む。
して――
なんだかんだ言っても神獣とネコ耳獣人の足でござる。常人の早駆けが、某らの歩く速度でござる。
昼前に本宮大社へ到着した。
『結構な酷道でございました』
「ふー……。して、本宮とやらは何処でござるかな?」
ここだと言われても、それらしき建屋は見あたらない。
クマノ川の中州に大きな鳥居ならござるが。
『その中州が本宮だぞイオタ』
「え?」
対岸が霞むほどの川幅を誇るクマノ川。そのグネーっと曲がった場所にあるいくつかの中州。その中でももっとも大きな中州に、大きな鳥居とイセに似た神社様式の建屋が幾つか。あと、背の高い木がたくさん生えておる。
『これは! 洪水が来たら一発では?』
『大丈夫だミウラの主。いままで増水しても流されたことがない』
『いや、しかし!』
「イセとクマノのナガシマと呼ばれる土地の小さいのでござるか?」
見た目を例えろと言われたら、ナガシマのちっこいのと答えるであろう。
『知らせは無事に入っていたようだな。お迎えが来たぞ』
「無事でないときもござるのかな?」
『たまに熊に狩られる』
「無事でよかったでござる!」
『あいつ(熊)ら、神獣様相手に平気で喧嘩売ってくる獣だぞ』
「無事でよかったでござる!」
して――
お迎えの方々とおきまりの挨拶を交わし、橋を渡って中州へ、もとい、本宮へ向かったのでござる。
ハヤタマ大社からのお手紙が効を成し、準備万端のお出迎えにござる。宮司様始め、皆様お綺麗なお召し物にござる。
まずは、旅の埃を落とし、別室でお着替えにござる。
『ではお着替え。はい終了』
服が裂けて飛び散ることも、光の帯に締め付けられることもなく、瞬き一つで旅の装束が神獣の巫女装束へ変わったでござる。
「あれ?」
『誰も見てませんから、変身シークエンスをかける意味がないので』
「できるならいつもやれよ!」
してて――
本殿にて。ヤマトの主とミウラを背景に、本宮大社の宮司様および上級管理職の方々と、神無月の寄り合い談合のお話しに入る。
イズモが燃えたときに、前もって手紙でお伝えいたしたし、本宮の方から問い合わせと確認の手紙も来た。何度か書簡のやりとりはしようとしたものの、肝心の手紙を運ぶものが極端に少なかった。
東海道はどうとでもなるのでござるが、ヨシノの山々を渡れる者との繋ぎが難しい。仮称、山々の方は滅多に人里へ降りてくることがないので、ここで連絡が途切れるのでござる。
船を使って海から行けばって? 近づけば、クマノ水軍に手当たり次第沈められるのでござる。
でもって、本旅行の建前上の目的である、本案件について直接の打ち合わせなのでござる。
開催日、開催期間、開催規模、その他必要とされる様々な事柄を、ある時はヤマトの主に聞き、ある時はミウラのおふざけに付き合い、話に関係なくおっぱい見せろと詰め寄る神獣をいなしながら、話を詰めていくのでござる。
思った以上に重労働でござる! 特におっぱい見せろのところ!
あと、仕事終わりのお風呂の覗き!
『だから! 一緒にお風呂に入ったり、致すのと、覗きは違うんですって! 別ものなんですって! イオタさんも、減るもんじゃなし、知らぬ顔して覗かれてくださいよ!』
『黙って覗かれよ。覗かれていることを知らぬ顔で覗かれよ。これは神獣の命令である!』
「某、覗くのは好きでござるが、覗かれるのは嫌でござる!」
『なんで! いっしょじゃん!』
『そうだぞ、イオタ! ここは一つ、このヤマトの主の顔を立てると思って!』
「では聞くが、各々方、性的目標を抱いたオスに裸を覗かれるのって、いかが思われる? 己の裸を見ながら、下手すればその場で致される事を想像してござれ!』
『え? 普通に嫌だけど?』
『儂も趣味じゃない。赤の他人なら何も言わないが』
納得しておらぬご様子でござる。
「ならば、本宮の巫女様の入浴を覗かれるがよかろう! 言い含めれば、覗かしてくれようぞ!」
『違う違う違う! 覗いてくださいとの了承の元、覗くのは違うんです!』
『分からぬかイオタ。それは外道というもの!』
分からぬでござる! 某なら、覗かせてくれるならわざとであっても商売であっても喜んで覗くでござるよ!
『まあ、それも、裸には違いないし?』
『うん、まあ……銭払って覗かせてくれるなら払うけどね』
「おっと、そうこうしている間に、巫女様方の入浴が終わったでござる」
二柱の神獣様は酷く落ち込まれた。
歓待を受けた日の翌日。
今日も今日とて、昨日の続きでござる。ミウラとヤマトの主は代わる代わる相談相手として顔を出してもらった。某はぶっ通しで談合しておったがな!
いい加減、嫌になってきたところで『旦那! トウトウミで魔獣出現です』ヨシ参ろう! と息抜きをした。
魔獣退治は息抜きにもなるのでござる。
「して、ヤマトの主の縄張りで魔獣は発生しておらぬのかな?」
『五日ほど前にタワラモトで戦った。魔獣が出てくるのは人の住む場所か、その近くだ。ヤマトの国はほとんどが山だ。ヤマトは魔獣の出現が少ないところなのだよ』
そういうモノでござるか?
してて――
神無月の行程、および内容が決まった。
本宮の方にとって名誉なことであるそうで、張り切りようが半端ない。捻り鉢巻きで鼻血を出しながら準備に入られた。まだ日にちがたくさんあるというのに。
『やる気に溢れてますから、放っておきましょう』
「是非もなし」
頑張れと応援する次第でござる。
『でもってイオタの旦那。明日ここを出発して帰路につきます。帰路って言って良いのかな? まだ旅行の途中ですし、本宮が目的地ではありませんからね』
「そうでござる。予定の日時で半分あたりでござるか? 帰路は用事も仕事もござらぬ。本格的に物見遊山でござる」
見聞を広げる。目的はこれに変わる。
楽勝でござる。
……と、この時は考えておった。
まさか、これからこの旅の本命となる事件が待っているとは、この時、思いもしなかったのでござる。




